今はもう無くなってしまったけど、
昔、JALの寮が品川の海岸通り沿いにあって
私の部屋は8Fの日当たりの良い南側の角部屋でした。
北側の部屋はちょっと困ったことがありました。
北側の部屋の同期がお昼前に起きて来て
2Fにある食堂で一緒にご飯を食べた時のこと。
同期が疲れたようにいう。
「昨夜は眠れんかった。隣のあの場所でブヒーって・・・聞こえるねん」
隣のあの場所。。。
通り一つ向かい側にある場(とさつじょう)のことです。
風向きが変わると窓は開けられないらしく、
そして時々聞こえるらしい。
私は最後まで聞いたことがなかった。
私はお昼からトンカツを食べていて、
同期から「信じられん、その図太さ」といわれながらも
食べる。
同期の話は延々ぶーちゃんの話。
だいたいこんな場所に寮が建っていて
なんでこの食堂でトンカツを出しているかということが悲しくなる。
というものだった。
彼女にはアニマルウェルフェア―(動物福祉)の精神があったのだろうか。
私にとって最高に美味しくないトンカツだった。
いえいえ、同期の小言が原因ではなく、
寮の食事のイケてなさよ。
寮の食堂には太ったおばちゃんがいて、
家庭的なご飯を何種類か作ってくれて、
その中から自由に選べて組み合わせられるカフェテリア形式。
トンカツひとつとっても、その切り方というか
幅が揃っていないというか、ガサツな感じで、
トンカツと衣の間にとてつもない空洞ができているタイプ。
他のメニューの味付けはもうそれは安定感がなく、
しょっぱかったり、甘かったり。
だから味付けはほとんどなく
揚げただけのトンカツにソースをかけるのがいちばん無難なコースだった。
ご馳走さまと言って食器を返すと
必ず、奥の方から元気に「お粗末さ~ん」と返ってくる。
この瞬間、私はいつも笑ってしまう。
北側の部屋に当たった同期は早々と寮を出て一人暮らしを始め、
私は結局、同期のなかでも一番長く寮にいました。
疲れてぐったりしている日は
おばちゃんの食事しかなかった。
いつしか私の身体の細胞はもうおばちゃんの食事で支配されていたのです。
不思議なもので食堂のレイアウトとかテーブルの質感とか
全く覚えていないのに
おばちゃんのいる食堂の中とか、カウンターとか、
おばちゃんが着ていた変な黄色いユニフォーム、
そしてあのガサツなトンカツは時々夢に出て来てうなされます。
寮のお風呂は共同の大浴場で広かったです。
ある日、お風呂に入っていったら、
お湯にすでにつかっている先輩が一人いるだけでした。
とても美しい方で、
すぐに週刊誌で有名人と騒がれている渦中の人だとわかった。
私は週刊誌は買わないし見ることもしませんが、
さすがに社内で噂になっており、機内の週刊誌でチェックしたわけです。
お湯に浸かっている様子が私の鏡に映っていたので
シャンプーをしながらいやらしくもチラチラと見てしまった。
いや、じーっと視たが正しい。
もうきゅってくびれてて、
ボインボイン。
お湯にご一緒させていただいたけれど
まだご結婚が決まっていた時じゃなかったので
おめでとうございます・・っていうのも違うし、
結局遠く離れた場所に浸かったまましーんとしたお風呂だった。
こういう方とご一緒の湯はもしかしたら
私、人生ラッキーがあるかも、
なんてそんなことでワクワクするただのアホだった。
でもさすが週刊誌で騒がれる女性はスペシャルなんだと。
なんかオーラがあるんですよ。
それに何を食べたらあんなダイナマイトバディになれるのか。
その夜、食堂でその美しい先輩を見かけたら
おばちゃんのトンカツを召し上がっていた。
美しい人が食べていると
ダメダメなトンカツもワンランクアップして見えた日でした。
美女とトンカツか・・・
やっぱり「美」にはすごい力があるのです。
おかげで
あのトンカツが発するネガティブが消えました。
ちょっと懐かしくもある。
フードには良くも悪くもやっぱりそんなストーリーが必要なんだと思います。
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