前回のつづきです。
それで、ドラマの冒頭で、殺された旦那の奥さんで、看護師の柏木冬子(木村多江)が患者の熊谷章枝(吉行和子)から云われた、
『彼はあなたの人生を狂わせた。でも、彼に会えばあなたの人生はもう一度変わる。人って面白いのよ。ある人をとんでもない悪だって云う人もいれば、その同じ人を優しい人だって云う人もいる。あなたも私も。殺されてしまったあなたの旦那さんも、触れあう相手によって変わる。その彼、ホントはどんな人なんだろうね』
と云うことを考えます。
「優しい人だったり、悪だったり、触れあう相手によって変わる」でも、「ホントはどんな人」と云うことを、考えてみます。
まあ、「優しい人」と「悪い人」では対立する尺度が異なります。まあ、ここは、「優しい人=良い人・善人と悪い人」として話をすすめます。
善人と悪人、ホント!その境目は、とても、とても、難しいのです。古今東西、世の中、そんなに簡単には線引きできません。善人と悪人の間はグラデーションです。
そして、また、「ホントはどんな人」の「ホントは」が、これも、とても、とても、難しいのです。ホントのところは、ホン人にも、解らないのです。
人は、それぞれ、いろいろと好き嫌いがあります。人間関係においても好き嫌いがあり、嫌いな人に対する接し方と、好きな人に対する接し方は、それなりに異なるのです。「触れあう相手によって変わる」のは、このあたりのこと?
でも、それでは軽すぎてドラマにならない。
それで、このドラマでは、人を殺してしまった男と、殺された夫の妻との関係がドラマの主要なテーマですから、悪人とは「殺人を犯した人間」で、善人とは? ふつうに、最低限、殺さない、盗まない、騙さない、と云ったところ?
でも、ホントに、ホントに、境目は難しいのです。
相手によって変わるのは、好き嫌いと、私的な場面と、公的な場面での、変わり方です。
殺された冬子の旦那は高利貸しでした。取り立てで見せる顔と、冬子に見せる顔は当然違っていたのです。
でも、しかし、冬子の旦那は、自分が取り立てて死に追いやった男の奥さんに、身体で返せ!と手込めにしようとした男です。「触れあう相手によって変わる」レベルを踏み越えています。相当なワル!です。
冬子に見せていた顔は、偽りの顔で、相手によって「変わる」のではなく、相手によって、意識して、「変えて」いたのです。騙していたのです。
冬子のような、木村多江さんのような女性を騙してはいけません!許せません!かなり個人的好みが・・・。
それで、和菓子屋の主人を自殺に追い込んだ高利貸しは、かつての旦那の仲間でした。和菓子屋の店先で彼と出会った冬子は、
『まだ、あの頃と同じような事を?・・・また、同じ事を繰り返すの?・・・そうやって何人の人を追い詰めれば気が済むの?』
『そういう仕事ですから』
『わたし知らなかった。主人があなた達と何をしていたか、知っていたら何としてもやめさせたのに、そうしたら、今頃、あの人、生きていたのに・・・、生きていてくれたらと、どれだけ思ったことか・・・』
このとき、かつての仲間の男は、それなりに、神妙に、同情的に冬子に接し、去って行く冬子の後ろ姿に、深く頭を下げるのです。
この男は、仕事として金を貸し、仕事として厳しく取り立てる。それは、それで、仕方の無い事して、家族を養う事として、生きる事として、自分を納得させる。これぞ大人の世渡り?
仕事ですからと、公文書を改竄したり、破棄したり、答弁を拒否したり、はぐらかしたり、惚けたり、優秀な成績で官僚になった方々も、仕事だから、家族を養っているからと、自分を納得させているのでしょう。
彼らも、家に帰れば、良い旦那で、良いお父さんなのでしょう、きっと。でも、ホント、家族にはお父さんの仕事は見られたくない? いゃ、あれは、ほんの一面と説明、弁解、している。
話をドラマに戻します。
それで、看護師の冬子ですが、とても優しい看護師さんに見えます。彼女にも別な面があるのか?
あるとすれば、年齢的に見て、ヒラの看護師ではなく、それなりに、主任とか、師長とか、管理職かもしれません。
管理者として、若い部下の看護師の間違いには、厳しく叱責すると思います。そんなとき、叱責された看護師は、人によっては、冬子を恨んだりするかも知れません。
「変わる」と云う事は、「変わって見える」と云う事で、受け取り方の問題にも関係してきます。ホントに難しい。
ホント!人間は、人間関係は、多面的です、複雑です、ややこしいのです。でも、それだから面白い、とも、云えます。
和菓子屋の娘に、淡い恋心を抱き、優しく接する後輩の高校生。家では母親に暴力的で、殺したいとまで口走る。でも、どちらも、ホントの姿なのです。
人間は、とても、とても、多面的で、複雑怪奇。
さて、次回の「コーヒー屋の人々」は如何に?
本日、22時からです。私は録画して後日。
それでは、また。