徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ようやく整いつつある『RSウイルス』に対する予防医療

2024年07月19日 07時10分26秒 | 小児科診療
私が小児科勤務医をしていた20年前、
冬になると病棟に「ロタ部屋」と「RS部屋」ができるのが年中行事でした。

ご存知のように、
ロタウイルスは嘔吐下痢(急性胃腸炎)で脱水になり入院、
RSウイルスは赤ちゃんがゼーゼー(気管支炎)して呼吸困難になり入院、
する感染症です。

しかし特効薬はなく、対症療法で回復を待つしかありませんでした。

その後、ロタウイルスワクチンが開発され、
ロタ胃腸炎が激減し、入院する赤ちゃんも激減、
外来でも点滴する患者さんも減りました。

ロタ胃腸炎の予防に成功したのです。
ワクチンの威力ってすごい!と実感。

そして残された問題はRSウイルス。
近年ようやく、RSウイルスに対抗できる体制が整いつつあります。
それを解説した記事を紹介します。

従来からハイリスク児(RSウイルス感染で重症化しやすい背景のある赤ちゃん)にはシナジス®という予防薬がありました。
ただ、一般の健康乳児には適応がなく、
しかし、一般乳児も入院例が後を絶たないというジレンマがありました。

そして2024年、一般乳児をターゲットとした予防薬が2つ認可・発売されました。
抗体製剤のベイフォータス(ニルセビマブ)と母子免疫ワクチンのアブリスボ(組換えRSウイルスワクチン)です。
ベイフォータスは非常に高価な薬剤なので一般使用には向きません。
現実的にはアブリスボの使用を検討することになりそうです。

現時点でのラインナップから考えられる方針は、
「基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ
 ハイリスク児のためのシナジスベイフォータス
と考えられます。

■ 登場相次ぐRSウイルス感染症の予防戦略、専門家に聞く位置付け
2024/07/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 RSウイルス(RSV)感染症の予防戦略が、母子免疫ワクチン、新生児および乳児に対する抗体製剤、高齢者向けワクチン──と次々登場している。・・・
 2024年に入り、RSV感染症に対するワクチンや抗体製剤が相次いで発売された(表1)。これら以外にも、小児を対象とした経鼻ワクチンや、小児、妊婦を含む成人に対するmRNAワクチン、小児への新たな抗体製剤などの開発が進んでいる。現在60歳以上を対象としているアレックスビーは50~59歳への対象拡大について承認申請を行っているほか、60歳以上に対するmRNAワクチンも製造販売承認申請がなされている。


表1 RSV感染症に対するワクチン・抗体製剤(2024年7月時点)

 乳児の細気管支炎や肺炎の主要原因の一つであるRSVには、ほぼ全ての乳幼児が2歳までに感染するといわれる。かぜ症状のみで回復することも多いが、一部の患児では重症化して入院や人工呼吸管理を要するケースもある。
 そうしたRSV感染による重篤な下気道疾患の発症抑制に用いられてきたのが、抗体製剤のシナジス(一般名パリビズマブ)だ。2002年の登場時には対象が早産児と気管支肺異形成症の児に限られていたが、現在では先天性心疾患や免疫不全などを有するハイリスク児に適応を拡大している。

▶ 母子免疫ワクチンの登場で健康な子も守れるように
 シナジスによってハイリスク児が守られるようになった結果、課題となっているのが「基礎疾患のない正期産児の入院をどう防ぐか」だ。2018年に東京周辺の12医療機関でRSV感染症のために入院した3歳未満の患児900人のうち、878人(97.6%)がシナジスの適応がない児だったという報告もある(Seimiya A,et al. Pediatr Int.2021;63[2]:219-21.)。
 こうした基礎疾患のない正期産児におけるRSV感染症予防の選択肢として2024年5月に登場したのが、抗体製剤のベイフォータス(ニルセビマブ)と母子免疫ワクチンのアブリスボ(組換えRSウイルスワクチン)だ。この2つのうち、費用面や現在の医療制度を考えると「今の日本で、健康な新生児や乳児を守る手段はアブリスボが選択肢になるだろう」と、日本大学医学部小児科学系小児科学分野主任教授の森岡一朗氏は語る。 
 ベイフォータスの薬価は、体重5kg未満の新生児および乳児の1回投与用量である50mgで約46万円と高価であり、早産児やハイリスク児への投与は保険が適用されるものの、基礎疾患のない児に対する予防のための投与は全額自己負担となるためだ。
 アブリスボも接種にかかる費用は全額自己負担だが、約3万円とベイフォータスに比べると15分の1ほどになる。とはいえ、アブリスボの接種が広がるには時間がかかると森岡氏はみる。妊娠中のワクチン接種に抵抗感のある妊婦も少なくない上、母体自身の感染や重症化を抑制することが分かっているインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンとは異なり、アブリスボの接種は、将来生まれてくる子どもへの予防効果を目的としたものになる。
 「母子免疫ワクチンの接種に当たっては、抗体移行の媒体となる母体の安全が担保されないといけない」と森岡氏。アブリスボの第3相試験では副反応として注射部位疼痛(40.6%)、頭痛(31.0%)、筋肉痛(26.5%)などが接種した母親に出現し、大部分は軽度から中等度で、発現から2~3日で消失したと報告されているが、同氏は今後、日本や海外のリアルワールドでのデータ収集を行い、効果と安全性のさらなる検証も重要になるとの考えだ。

▶ 適応や投与タイミングが異なる2つの抗体製剤は「共存」
「『基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ、ハイリスク児のためのシナジスとベイフォータス』と考えるべき」と話す、日本大の森岡一朗氏。
 では、ベイフォータスの立ち位置はどうなるのか。森岡氏は「ハイリスク児への選択肢として、ベイフォータスはシナジスと共存していくだろう」と語る。RSVの流行期に毎月投与する必要があるシナジスに対し、ベイフォータスは1回の投与で済むというメリットがある。一方、2024年7月時点で肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する新生児、乳児および幼児を対象としているのはシナジスだけだ。加えて、基礎疾患のない在胎期間28週以下の超早産児において、ベイフォータスは生後初回の流行期しか適応がなく、生後2シーズン目の選択肢はシナジスのみとなる。
 選択肢が増えた結果、「生後初回の流行期にはベイフォータスを1回投与し、2シーズン目にはシナジスを毎月投与する」といった組み合わせも可能となり、複雑になっていることも事実だ。
 こうした状況を受け、日本小児科学会は「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」や「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A」を公開。シナジスやアブリスボとの使い分けについて解説している。「現場の医師からの問い合わせも多いが、現状の日本では、『基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ、ハイリスク児のためのシナジスとベイフォータス』と考えるべき。学会などによる情報も参考にしてほしい」(森岡氏)。
 なお、RSVは従来、冬に小児感染者のピークが訪れていたが、この10年ほどは徐々に流行期が早まり、最近は夏にも流行のピークが訪れるなど、流行シーズンが読めない感染症となっている。流行の直前に投与することが求められるシナジスとベイフォータスの投与タイミングが取りにくくなっており、上記のコンセンサスガイドラインおよび「日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」には、「各都道府県内で周産期医療やパリビズマブ/ニルセビマブ投与に関わる小児科医などが中心となって審議し、投与開始月と投与終了月の検討を行うことが望ましい」と記載している。
 さらに、使用回数や組み合わせなどに応じてレセプトが査定を受けるかどうかのローカルルールも異なる可能性があるため、「社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険連合会の審査員などとの情報共有が有益である」ともしている。

▶ 疾病負荷のデータが待たれる、高齢者のRSV感染症
 子どもの病気と見なされることの多いRSV感染症だが、高齢者を対象とするワクチンも立て続けに2種類登場した。国内初のRSVワクチンとなったアレックスビー(2024年1月発売)と、先述の通り母子免疫ワクチンでもあるアブリスボ(2024年5月発売)だ。
 高齢者のRSV感染症に関して、医師からよく聞かれるのが、「そもそも疾病負荷はどれほどなのか」という声だ。2019年の流行期に国内の65歳以上の高齢者1000人を対象とした研究では、24人(2.4%)がRSVによる急性呼吸器疾患を、8人(0.8%)が下気道疾患を発症し、1人が入院した(Kurai D,et al. Influenza Other Respir Viruses.2022;16[2]:298-307.)。同研究を取りまとめた杏林大学医学部臨床感染症学教室臨床教授の倉井大輔氏は、「日本での成人や高齢者におけるRSV感染症の疾病負荷に関するデータは極めて限られており、予防のメリットを定量化する上でも今後集めていく必要がある」と語る。
 2024年4月には2700~5400人の組み入れを予定している長崎での疫学研究「Nagasaki ROAD study」が開始しているほか、日本感染症学会ではRSV感染症診療の手引き作成委員会が発足。国外の情報も含め、現時点でのデータを取りまとめて提示する予定だという。
 杏林大の倉井大輔氏は「ワクチン接種のメリットが大きいのは、RSVの感染により増悪するおそれが高い基礎疾患を有する患者」と語る。
 疾病負荷のデータが不足している状況にもかかわらずワクチンが相次いで登場していることから、「現場の医師から『かかりつけ患者に接種すべきだろうか』という質問を受けることも多い」と倉井氏。アレックスビーもアブリスボも、基礎疾患の有無によらず60歳以上であれば接種可能だが、同氏は「ワクチン接種のメリットが大きいのは、RSVの感染により増悪するおそれが高い基礎疾患を有する患者だ。60歳以上でも基礎疾患がなく、健康であればかぜ症状で済むことが多い」と話す。
 基礎疾患の中でも、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった呼吸器疾患と、心不全や冠動脈疾患といった心疾患は「RSV感染症により、基礎疾患が悪化する頻度が明らかに高いと実感している」(倉井氏)。一方、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)もRSV感染症による入院リスクが上昇するというデータはあるが、そうした患者に全員接種すべきなのかは「悩ましい」という。「呼吸器疾患や心疾患のある患者に加え、基礎疾患のコントロールが悪く『かぜをひいたら入院しそうな患者』『過去にかぜをひいて入院したことがある患者』には接種を検討する、というのが一つの線引きになる」と同氏。
 外来での迅速検査がしにくいことなどから、高齢者は小児と異なりRSV感染症と診断されることが少なく、感染による影響が見えにくい。それでも「高齢者が増加し、相対的に若い医療・介護従事者の不足が想定される社会では、医療体制を維持するためにも予防できる疾患は予防していく必要があるだろう」と倉井氏は語る。
 実際の疾病負荷や予防効果の持続期間など、不明瞭な部分も多い高齢者のRSV感染症予防。厚生労働省での定期接種化に向けた議論でも疾病負荷に関する情報不足が課題とされており、さらなるデータの蓄積が待たれる。

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新型コロナ検査の最適タイミングは発症後2日目以降?

2024年07月19日 06時18分36秒 | 小児科診療
インフルエンザの検査のタイミングは、
「発症当日より翌日の方が感度がいい」
ということは社会的な常識となっています。

ではコロナは?
…はっきりしないまま、今まで来ていますね。

でも私は知っていました。
発症当日より、翌日以降の方が感度がよいことを。
理由は、私自身が2022年に罹った際の経験からです。

発症当日、咽頭に違和感(痛みまでいかない) → PCR検査を行い陰性。
発症翌日、咽頭違和感悪化+微熱が出てきた → 抗原検査を行い陰性。
発症2日目、上記症状が続く → PCR検査を再検査して初めて陽性。

という経過でした。なので、
「発症日に検査陰性でも否定はできない」ことを患者さんにも説明してきました。

その後、こんな記事が目に留まりました。
約1年前(2023年)の記事です。

迅速検査はPCRより感度が劣るため、
コロナ感染を否定するには2回の検査が必要という内容。
私の経験、そのものですね。
では2回目はいつ?という疑問に関しては「2,3日以降」とはっきり述べていません。

■ 迅速抗原検査での新型コロナ感染の除外には2回以上の検査が必要
ケアネット:HealthDay News:2023/08/09)より抜粋(下線は私が引きました);  
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に、医師は患者に、自宅での迅速抗原検査で陰性の結果が出ても、48時間後に再検査するよう伝えてきたが、どうやらこの助言は正しかったようだ。新たな研究により、症状の有無にかかわらず、迅速抗原検査で新型コロナウイルス感染を除外するには、陰性判定から48時間後の再検査が必要であることが示された。米マサチューセッツ大学(UMass)チャン医科大学のCarly Herbert氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月4日掲載された。
 この研究は、有症状と無症状の新型コロナウイルス感染者における、新型コロナウイルスの迅速抗原検査であるAg-RDTの性能を検証するために実施された。試験参加者には、48時間の間隔を空けて自宅でAg-RDTを複数回実施してもらうとともに、RT-PCR検査用の鼻腔ぬぐい液も採取してもらった。鼻腔ぬぐい液は研究室に送られ、RT-PCR検査で感染の確認が行われた。試験に登録された7,361人のうち、試験1日目には症状がなく、検査結果も陰性だった2〜90歳の5,353人(平均年齢37.4歳)が解析対象とされた。このうちの154人は、試験期間中にRT-PCR検査で1回以上、新型コロナウイルス陽性と判定されたが、このうちの97人は無症状だった。
 RT-PCR検査で感染が確認された日にAg-RDTを行った場合の感度は、有症状の人で59.6%、無症状の人で9.3%であった。Ag-RDTの感度は48時間の間隔を空けて検査を繰り返すごとに向上し、2回目の検査では有症状の人で92.2%、無症状の人で39.3%、3回目の検査では同順で93.6%、56.4%であった。さらに、リアルワールドでは、感染が確認されたその日にAg-RDTで検査をするとは限らないため、RT-PCR検査での陽性確定から2、4、6、8、10日後にAg-RDTを行った場合の検査性能を割り出した。その結果、感染確認後0〜6日の間のいずれかの日に48時間の間隔を空けてAg-RDTを2回行った場合の感度は、有症状の人で93.4%、無症状の人で55.3%と推定された。無症状の人の中から1回目のテストで陽性が判明した人を除くと、この感度は62.7%に、Ag-RDTを3回行った場合には79.0%に向上した。なお、初回の検査で陽性と判定された場合は、偽陽性率が低かったため、再検査は必要なかったという。
 Herbert氏は、「迅速抗原検査の結果が陰性でも、体内のウイルス量が検査で検出される量に達していないだけの可能性があり、迅速抗原検査で検出されるまでには2、3日かかるかもしれない。この検査でのウイルス検出には、RT-PCR検査より多くのウイルス量が必要となる」と話す。
 COVID-19は今でも公衆衛生上の問題であり、1回の迅速抗原検査での陰性の結果だけに頼ると、深刻な事態を招きかねない。「もし、その結果が偽陰性だった場合、ただのアレルギーだったと思って仕事に復帰することで、ウイルスを他の人にうつしてしまう可能性がある」とHerbert氏は言う。・・・

さらに最近、以下の記事が目に留まりました。

こちらは「発症2日目以降の検査が望ましい」とはっきり述べています。
つまり、インフルエンザ同様、
「発症日に急いで検査しても偽陰性(罹っていても陽性に出ない)可能性がある」、
ということです。

しかし…陽性率が妙に低いことが引っかかります。
その説明として、
「新型コロナウイルスの抗原検査の場合疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、
抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたもの」
と言い訳(?)してます。

あれ、でもこの論文、
「インフルエンザは発症後すぐに検査をすべき」
と書いてありますね。
日本の常識と名違う…近年、迅速検査の感度が上がったということかな?

それからアメリカでは「オールインワン」検査、
つまりインフルエンザ+コロナ+RSウイルスが一度にわかる検査が存在している様子。
日本ではまだですね。

それからそれから、米疾病対策センター(CDC)が最近、
検査と予防のガイドラインを変更したことに言及しています。

以前の方針の『発症後5日間の隔離』
 ↓
・今回の改訂は「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」

 …発症後5日間はほとんどのケースで必要以上に長かった。
 今回の改訂で「より理にかなった内容になった」と。

さて、日本は変わりますかね…

■ 新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき
ケアネット:HealthDay News:2024/07/17)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。
 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。
 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。
 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。
 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。
 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。
 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

<原著論文>

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学校での熱中症対応、どれが正しい?

2024年07月05日 21時12分10秒 | 小児科診療
梅雨の合間に猛暑が到来・・・熱中症が発生する季節になりました。
さて、熱中症対策は万全でしょうか?

学校における“正しい熱中症対応”をクイズ形式で解説する記事が目に留まりましたので、
紹介します。

<ポイント>
【マスク】
・マスクは常に着用だが、飲食時以外にも、息苦しい、暑いときは外してもいい。体育の授業中のマスク着用がのぞましくない。
【飲水のタイミング】
・飲料は喉が渇いたら(授業時間を含め)いつでも飲んでいいという指導が正しい。飲水に関する誤った制限は、子どもたちを熱中症リスクにさらす。
【飲料の種類】
・飲料の種類では「水かお茶しか認めない」「氷は禁止」などの指導は間違い。3度の食事を健康的に摂れている場合は、こまめにお茶や麦茶、お水を飲むことで十分、しかし朝ごはんを抜いてしまった、食欲がなくあまり食事がすすまないなどといった日には塩分・ブドウ糖・カリウムの入った飲料を飲まないと熱中症になるリスクが高くなる。また、体育やクラブ活動などで大量に汗をかくことがわかっている日、非常に気温が高い日にはスポーツドリンクや経口補水液を持たせるなどの“使い分け”を意識すべし。
・小中学校の7割ほどの保健室に経口補水液が常備されているが、常備していない学校は万が一の応急処置としての効率のよい水分摂取をさせてあげられず、大変危険。
【熱中症が疑われたとき】
熱中症が疑われる症状が現れた段階で、経口補水液をすみやかに、飲みたいだけ飲ませる(養護教諭の仕事)。初期段階で経口補水液を飲ませて脱水を解消することで、熱中症の進行・重症化を食い止められる。


■ 【全国の保護者に調査】マスク着用・飲料摂取…学校・担任によりバラつき。正解は?
〜熱中症対策に医師が警鐘、飲水の制限・マスク常時着用など、危険な指導。“3トル”指導の徹底を
2020/7/9:教えて!「かくれ脱水」委員会)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 熱中症予防の啓発団体「教えて!『かくれ脱水』委員会」は、PTA適正化おしゃべり会の協力のもと、
小学生から高校生までの子どもを持つ全国の保護者106名を対象に、「学校におけるマスク着用指導や熱中症予防・対処に関する調査」を実施いたしました。
  調査を通して、子どもの通う学校における熱中症に関する指導状況、予防意識や実際に熱中症が発生した際の応急処置のための備えなどの現状を聞きましたが、学校や担任教師により、意識レベル、対策レベルにばらつきがあり、かつ、保護者が不安を覚える対策レベルの学校もあるようです。
 教育現場における熱中症対策の改善点に関して、熱中症に詳しい医師の谷口英喜先生に伺います。
 
【監修】済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長
 「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長 医師 谷口英喜

▶ 学校のマスク着用・熱中症予防の指導の現状 
 学校で行われているマスク着用・熱中症予防指導に関してきくと、下記のような結果となりました。
・「授業中のマスク常時着用指示」(全体の81%)
・「学校の登下校時のマスク着用義務」(57%)
・「授業中の水分補給の制限」「水筒の内容物の制限(スポーツドリンク禁止等)」がともに40%
 ・「体育の授業中のマスク着用指示」は9%
・・・体育の授業中のマスク着用がのぞましくないという認識は浸透してはきているようですが、いまだ約1割の学校においては体育中にマスク着用を指示するというリスクの高い指導がなされてしまっているともいえます。
 マスク着用の指示についてのみをみると、
・「マスクは常に着用だが、飲食時以外にも、息苦しい、暑いときは外してもいい」という正しい指導が最多で63%
・「マスクは常に着用し、飲食時以外常に外してはいけない」(29%)
・・・苦しいとき、暑いときにもマスクを我慢して着用してしまいかねない指示がなされているという回答が3割弱もありました。
・「喋らなければ外してよい」「室外ではマスクはしない」という指導がされている場合もある
・「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない、先生によっては授業中もOK」(中学2年生の保護者)と、同じ学校内でもクラスによって異なるという場合も。
 また、教壇に立つ先生がマスクを付けており、飲み物も飲まないので飲みにくい、と考える子どももいるといいます。

 マスク着用に関する学校での指導に対し、ほかにも下記のような意見がありました。
・「剣道部で、素振りや足さばきなど練習中にマスク着用の指導があり。さらに対人稽古では面とマスクとフェイスシールド着用指導あり。酸欠状態での過酷な練習で熱中症が心配。」(中学3年生の保護者)
・「元から集団登下校時はお喋り禁止なのにさらにマスク着用が義務。『熱中症になるから外していいよ、先生に何か言われたらおばさんのせいにしていいよ』、と言ってあげも、低学年の子たちは友達の親より先生の言うことを守るので外さない。高学年はアドバイスすると外す。集団登校でもないのに登下校時のマスク着用に関して、市のガイドラインに沿っているからと学校独自の見解は出せない等責任逃れの発言。市は文科省からのものだから…結局何も考えていないことが明らか。しかし保護者が意見すれば進路や成績含めて、子供が人質だというように感じてしまう…。」(中学2年生の保護者)
・「登校時はマスクを外しても良いことになっているが、これから暑くなって夏休みもほぼなくなるので、日傘がOKになってくれるとソーシャルディスタンスにもなり嬉しいです。」(小学校2年生の保護者)
 保護者や子どもが納得できる合理的で安全なマスク着用ルールを策定していく必要がありそうです。
 
▶ 「飲料は、飲みたい時にはいつでも飲ませる」が医学的には正しい飲水指導。しかし実情は…
 学校での水分補給が許可されている状況をきくと、
・「喉が渇いたら【授業時間以外は】いつでも飲んでいい」が56人(全体の50.9%)
・「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない」が30人(全体の27.3%)
となっています。その他、「体育のときはいつ飲んでもいい」、「授業中に飲みたい時には担任の許可を得られれば飲める」、「担任によっては授業中でも可」などの回答がありました。
 熱中症予防の観点では、「喉が渇いたら【授業時間を含め】いつでも飲んでいい」という指導を行うべきですが、残念ながらこのような指導がなされていると回答した保護者は14名(全体の12.7%)にとどまり、約9割の学校環境において熱中症予防としては理想的とはいえない飲水指導がなされているのが実状です。
 授業中をはじめ、自由な飲水を禁じられているという文化が一般的とであるのが実状のようで、これは大変危険です。「水筒は集めて保管されているので、休み時間に校庭に持ち出すなどできない」(小学校4年生の保護者)や、「教室での授業中 エアコンをつけながら窓全開で汗だくで授業を受けていて、水分補給は許されず、頭痛、鼻血が出てしまった。(小学4年生の保護者)」などのコメントもありました。
  また、暑い屋外での通学時の飲水制限も問題です。「通学路での飲水も禁止なので、通学に40分以上掛かるので帰宅すると熱中症の症状を毎日訴えている」(小学校2年生の保護者)というケースも。
 飲水に関する誤った制限は、子どもたちを熱中症リスクにさらすことになります。
 学校や先生個人の誤った判断での飲水ルールを策定することは非常に危険であり、熱中症を起こさないための正しい指導を全国的に浸透させる必要があります。

▶ 飲み物の種類に関する制限は正しい?
 水分補給のための飲料を水筒に入れて持参することになっている学校が多いようですが、学校によって持参することが許されている飲み物の種類が制限されていることが多いようです。
 3度の食事を健康的に摂れている場合は、こまめにお茶や麦茶、お水を飲むことで十分ですが、朝ごはんを抜いてしまった、食欲がなくあまり食事がすすまないなどといった日には塩分・ブドウ糖・カリウムの入った飲料を飲まないと熱中症になるリスクが高まります
 また、体育やクラブ活動などで大量に汗をかくことがわかっている日、非常に気温が高い日にはスポーツドリンクや経口補水液を持たせるなどの“使い分け”を意識するとよりよいでしょう。
 また、熱中症は脱水と高体温によっておこるので、冷えた飲料を飲んで体温を下げることも予防策になるので、氷を魔法瓶に入れて持たせるのも有効でしょう。
  教師や親が汗により塩分・糖分・カリウム・鉄などのミネラルが喪失してしまう仕組み、熱中症の仕組みをきちんと子どもに教え、汗をたくさんかいてしまって熱中症リスクのあるときには塩分・糖分・カリウムを含んだ飲料が有効なのだという基本的な知識を身につけさせてあげましょう
水かお茶しか認めない」、「氷は禁止」などの指導がなされていることは大きな問題です。
 
▶ 実際に子どもが熱中症に! その時学校は正しく対処できるのか?
 熱中症の初期症状を起こした時点で正しい応急処置ができるか否かが、重症化や、最悪の場合に起こる脳障害などの後遺症を防ぐことに直結します。・・・
 熱中症の症状が出た際に、「すぐさま涼しい場所に移す」、「すぐに塩分・糖分の入った飲料を飲ませ
る」というのは正しい対処ですが、飲ませる飲料がお茶・お水であるケースもあるようで、もちろん、何も水分を摂らせないよりはまだいいですが、これは汗により塩分などのミネラルを喪失しているときに血中の塩分濃度をさらに下げてしまい、最悪の場合低ナトリウム血症にもつながりかねない危険な判断です。症状を訴えても活動を続けさせるのは問題です。
 
▶ 応急処置の時点で速やかに経口補水液を飲ませるかで重症化するかしないかの分かれ道。
 最悪の場合は意識障害や死亡のリスクに。
「おそらく小・中学校の7割ほどの保健室に経口補水液が常備されていると考えられますが、常備していない学校は万が一の応急処置としての効率のよい水分摂取をさせてあげられず、大変危険です。
また、せっかく経口補水液が常備されていても、養護教諭が正しく使用できていないために熱中症が重症化し、救急搬送されたり、後遺症が残ってしまう場合もあります。とにかく、熱中症とおぼしき症状が現れた初期段階で、経口補水液をすみやかに、飲みたいだけ飲ませることです」(谷口先生)
 経口補水液が熱中症対策にどう有効かよく知っている養護教諭は全体の44.2%にとどまります。
 命に関わる判断をすることもあり得る教員の理解度の低さに不安を覚える保護者の声も。
「炎天下の体育大会練習中でも、水分補給は休み時間のみ。痙攣し、経口補水できなくなった重症生徒が出たが、すぐ救急車を呼ばない。親に電話してきて、『どうしますか?救急車呼びますか?』と養護教諭。養護教諭がこうだと心配」(中学校3年生の保護者)
 
▶ 経口補水液に関する教員の意識データ
一般社団法人「Save Our Kids」が2020年6月に保育園・幼稚園/小学校/中学校/高等学校/その他の養護教諭を中心とした教諭を対象に行ったアンケート結果。
 既に経口補水液をストックしている学校は72.1%。しかしまだ3割弱の学校では備えられていません。
 経口補水液が熱中症対策にどう有効かを「よく知っている」は44.2%と半数を切り、「なんとなく知っている」が51.5%と、経口補水液の使い方・効果をきちんと把握していない教諭が半数以上を占めています。
 
▶ ウィズコロナの学校生活、「3とる」を意識しましょう。

その1 距離を「とる」= 「Keep Distance」
新型コロナウイルスの感染を防ぐために、人との距離を十分 にとる。なるべく人ごみを避ける生活を。感染予防のためには、できるだけ距離を少なくとも2mとる。体育やクラブ活動などの運動中は呼吸が激しくなるために、2m以上の距離をとる。

その2 マスクを「とる」=「TAKE off Mask」
屋外で人との距離を2m以上とれている場合は、マスクをとる。通学時などで人ごみを避けた場所を歩ける場合は、マスクは外す。マスクをした状態での運動は避け、マスク着用での作業や運動の場合は、人との距離を十分にとりつつ、適宜マスクを外して休息するように指導する。
 
その3 水分を「とる」= 「 Drink water ( oral rehydration solution) 」
脱水状態は、身体の免疫機能を低下させます。
室内でも、屋外でも、意識して水分をとるよう指導し、授業中を含め、「喉が渇いたらいつでも水分を摂っていい」というルールにするのが望ましいでしょう。ただし、小学校低学年だと、水分摂取量の目安を自分で判断できず不足したり、逆におもらしをしてしまうなどの可能性もあるので、その子ごとの傾向を教師や親が気づかいアドバイスするようにしましょう。
マスク着用時は、喉の渇きに気づきにくくなることを自覚し、休み時間など外に出られるタイミングなどを決めてマスクを外して水分補給を摂ることを習慣づけるのもいいでしょう。
 1日に3回のバランスのとれた食事を心がけるのが基本ですが、当校前や体育前には必ず、水筒に適切な水分補給と、必要に応じて水分や塩分の補給をできる準備を。終了後の水分補給も忘れずに。
 
▶ 『経口補水療法』について教員が正しく理解することも重要
 軽い頭痛やめまいを感じたら、先生がすぐに『経口補水療法』を行えるよう、すべての学校において経口補水液の常備と正しい使用法の浸透がなされるべきです。
 経口補水液は塩分・ブドウ糖・カリウム等が小腸からもっとも効率よく吸収できる濃度で配合されている飲料で、熱中症の初期段階で経口補水液を飲ませて脱水を解消することで、熱中症を初期段階で食い止められます
 もしも熱中症の初期症状が出たら、まずしっかり経口補水液を飲ませ、あとは少しずつ摂って重症化を防ぎましょう。
 また、学校から帰ってきたら熱中症を起こしていた、というケースも少なくありません。家庭においても、いつ子どもが熱中症を起こして帰宅しても応急処置ができるように経口補水液を常備しましょう。
 
 学校においての「3とる」生活を教師が正しくリードしてあげることで、熱中症により後遺症が残ったり、死亡したりする悲しい事故を防ぐことができます。・・・

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高齢者の熱中症対策

2024年07月04日 07時58分45秒 | 小児科診療
梅雨本番となり、熱中症のニュースが聞かれるようになりました。
昔は熱中症=酷暑の中でのイベント・運動、というイメージでしたが、
近年問題になるのは“高齢者”、それも“室内“での発生です。

なぜ高齢者?
なぜ屋内?

という疑問の答えてくれる記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・熱中症で救急搬送される患者の過半数が高齢者である。
・高齢者が熱中症になりやすい理由;
 ✓ 水分をためる筋肉量が少ない。
 ✓ 喉の渇きを感じにくい。
 ✓ 暑さ・寒さを感じにくい。
 → 表示の大きな温度計を用意すべし。
・高齢者がエアコンをつけない理由;
 ✓ 電気代を節約したい。
 ✓ クーラーは体に悪いという思い込み。
 ✓ 昔からの価値観や習慣が変えられない。
・高齢者に正論で説得しても効果がない。
・対処法;ムチではなくアメを上手に使う
 ✓ 子供や孫と会う約束をする
 ✓ 褒めてモチベーションを上げる(お世辞でもいいからすぐに褒めることが大切)
 ✓ 自分で選んでそうしているという感覚を持ってもらう
 → 上記を効果的に使うにはふだんから“親とこのコミュニケーション”があることが必要。


■ 「熱中症の怖さを伝えても微動だにしない」猛暑なのに冷房をつけない頑固な老親が素直になる必殺フレーズ
〜エアコン拒否は「電気代が高いから」だけではなかった
井上 智介(産業医・精神科医)
2024.6.17:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 老親の熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか。精神科医の井上智介さんは「高齢者は、体が熱中症になりやすいことに加え、暑くてもエアコンをつけない人も多い。しかし、熱中症の危険を訴えて理屈で説得しようとしても難しい。親にとって、『アメとムチ』のうちの『アメ』は何かを考えて、伝え方を工夫する必要がある」という――。

▶ 高齢者は熱中症になりやすい
 今年の夏も、全国的に猛暑になりそうです。
 なぜ高齢者は熱中症になりやすいのでしょうか。
まず、高齢者の体は、もともと熱中症になりやすくなっています。筋肉は、体の熱をつくるほか、体の水分をためておくタンクとしての役割もあるのですが、人の体は加齢にともなって筋肉が落ちます。さらに、のどの渇きも感じにくくなるので、水分補給を怠りやすくなります。このため、筋肉の少ない高齢者は、体内の水分を保持できず、体温の調節をする機能が落ちて、熱中症になりやすいのです。
 さらに、年をとると、暑さや寒さを感じ取る感覚も鈍くなります。このため、暑さや寒さに応じて着るものを変えたり、空調で気温を調節する力も低下するのです。
 自分の体で暑さや寒さを感じることが難しいので、まずは、表示が大きくて見えやすい、温度計を設置してあげるといいでしょう。体感に頼れない分、室温調節が必要かどうかを温度計の数字ではっきりと「見える化」できるようにしてあげてください。

▶ なかなかエアコンをつけないのはなぜか
 しかし、温度計で、気温が上昇しているのがわかっていても、なかなかエアコンをつけない高齢者は多いようです。理由は大きく3つあります。
 1つ目は「電気代を節約したいから」。高齢者は、年金暮らしの人が多く、収入が安定していない人もいます。ものの値段も上がっていますし、電気代も年々上がっており、今年は特に値上がりが大きくなっています。そのため、「多少暑くても、我慢すればいい」と、エアコンをなかなか使わないというわけです。
・・・
 2つ目は、「クーラーは体に悪い」という思い込みです。昔から「クーラー病」という言葉があるように、「クーラーは体が冷えるので体によくない」と刷り込まれている高齢者は少なくありません。実際、筋肉の少ない高齢者には、ちょっとした冷風も寒く感じてしまうことがあります。・・・
 3つ目は、「昔からの価値観や習慣が変えられない」。窓を開けて自然の風を入れる、庭先に打ち水をする、暑ければ扇風機を使う……。「夏の暑さは、そうやってしのぐべきもの」という価値観が根強く、これまでの習慣がなかなか変えられない高齢者も少なくありません。・・・
 これら3つが複雑にからまって、「周りがいくら言ってもなかなかエアコンを使わない」ということになってしまうのです。

▶ 正論で説得しようとしても効果はない
 こうした高齢者には、正論をぶつけて説得しようとしても、なかなかうまくいきません。・・・
 一般的に、人間の行動を変えるには「アメ」と「ムチ」を考える必要があります。「行動を変えると、こんなにいいことがある」という報酬(アメ)を渡すか、「行動を変えないと、こんなに悪いことが起きる」という罰則(ムチ)を課すか、ということです。
 たとえば「○○をしてはいけない」と、行動を禁止するときには、ムチが有効です。一方、行動を促すには、アメのほうが効果的です。
 高齢者のエアコンの問題は、行動を禁止するのではなく、行動を促すほうなので、アメのほうが効き目があると考えられます。「エアコンをつけないと熱中症になってしまうぞ」と脅かしても響かないのです。
 それよりも「エアコンをつけたら、こんなにいいことがあるよ」と、アメを渡すことを考えたほうがいい。
そのためには、自分の親にとって、何が「アメ」=「ご褒美」になるのかを考えてみるといいでしょう。何が「アメ」になるのかは一人ひとり異なりますが、例えば、こんなことが考えられるでしょう。

▶ 子供や孫と会う約束をする
 特に、離れて住んでいる高齢者にとっては、子供や孫と会うのは、楽しみなことではないでしょうか。「子供や孫と会う」ことを「エアコンを使って元気でいること」の報酬にすることで、行動を促す方法です。
「お盆に帰るときまで元気に過ごしてほしいから、部屋の温度計が28度以上になったらエアコンをつけて、体調に気を付けて」「○月○日に子供と会いに行くから、熱中症にならないように毎日エアコンをつけてね」
こういった「会う約束」をすることで、「じゃあ熱中症にならないように、エアコンをつけて元気に過ごそうか」といった行動につながりやすくなります。

▶ 褒めてモチベーションを上げる
 エアコンの利用も、一日つけるだけでは意味がありません。夏の気温が高い間、継続して利用して習慣化することが大事です。そのためには、「褒める」ことで、モチベーションを維持することが効果的です。
 エアコンではありませんが、「褒める」ことでモチベーションを維持することに成功した事例があるのでご紹介しましょう。
 ある男性が、医者から痩せるように言われて、渋々スポーツジムに通い始めました。イヤイヤながら通っていたのですが、ある時、この男性がスポーツジムから帰ってきたときに、その男性の妻が、「いい感じに筋肉がついて、かっこよくなってきたね」と、褒めたのだそうです。するとその男性は、嬉々としてスポーツジムを継続できました。・・・
 妻が褒めたのは、夫の「スポーツジムに行く」という行動そのものではなく、その行動によって生じた“変化”(筋肉がついてきた)です。それが夫に大きな報酬を与え、継続を促すことになったのです。

▶ 行動による“変化”を褒める
 これをエアコンにも応用してみましょう。エアコンを利用することのモチベーションを維持するためには、「エアコンをつける」という行動自体でなく、その行動で得られる結果を褒めるようにします。
 例えば、「エアコンをつけていると、汗まみれになっていなくて清潔感があるね」「やっぱりエアコンを使っていると、顔色がよくて若々しく見えるね」「家の中でキビキビ動けるようになっているね」といった声をかけてはどうでしょうか。会ったときに伝えてもいいですし、離れて暮らしているなら、テレビ電話を使って伝えてもいいでしょう。
 ポイントは2つあります。一つ目は、うそでもお世辞でもいいということ。大げさに褒めてあげてください。そして二つ目は、すぐに褒めることです。「即時性」といいますが、その行動を行ったすぐあとに褒めるのがベストです。先週、先月のことを褒められても、効果は薄れてしまいます。

▶ 「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらう
 人間は誰しも、強制されるのはいやなものです。特に親の場合は、子供から強制されて行動を変えることには抵抗感が強いでしょう。子供が「エアコンをつけろ」と言い続けるのは、溝が深まるばかりになります。
 ですから、親が「自分で選んでそうした」という感覚を持ってもらえるような伝え方をするといいでしょう。
 たとえば、「暑い時には、窓を開けるのもいいし、扇風機を使うのもいい。打ち水をしてもいいし、遮光カーテンやすだれを使うのもいい。公民館や図書館など、エアコンが効いたところに涼みに行くのもいい。ただし室温が28度超えたら、エアコンをつけよう」と伝えます。
 単に「室温が28度超えたら、エアコンをつけて」と言うだけだと、選択肢がなさそうですから、ほぼ強制になってしまいます。その前に、さまざまな暑さ対策の選択肢を提示することに重点をおいてください。こうして、本人が主体性を持って、「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらうようにしましょう。

 ここでは、「子供や孫と会う約束をする」「褒めてモチベーションを上げる」「自分で選んでそうしているという感覚を持ってもらう」の3つを挙げましたが、いずれも、親子のコミュニケーションがカギを握ります。親が普段、どんな行動をしているのか、どんなことで嬉しいと思うのか、どんな言い方をすると耳を傾けてくれるのかを知っておかないと、的外れな言い方になりかねません。
 1年のうち、エアコンが必要な期間は長くなっていますし、今後もこの傾向は変わりそうにありませんから、毎年夏になると親の熱中症を心配する必要は出てきます。親の考えや生活スタイルを尊重しながら、最適なやり方を探してほしいと思います。

▶ 認知症の兆候にも気を付ける
 冒頭でお伝えしたように、年をとると暑さに対する感受性が低下しますが、認知機能が衰えると、さらに感覚が鈍化します。自分の体調の変化にも気付きにくくなる可能性があります。
真夏なのに、コートを着込んで外出したり、厚い冬用の布団で寝たりする高齢者もいます。こうしたちぐはぐな行動の背景には、認知症が潜んでいる可能性があります。帰省の機会が限られている人は、こうした点も頭の片隅に置いておき、お盆など、夏の様子も見るようにするとよいでしょう。・・・
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小学校で集団アレルギー発生!〜原因はビワ?

2024年06月30日 05時20分36秒 | 小児科診療
2024年6月末に、山梨県の小学校で100人以上に同時にアレルギー症状が発生しました。
原因は学校給食に出されたビワと報道されました。

果物アレルギーと一口に言っても、
実は3種類あります。

1.いわゆる“果物アレルギー”
2.口腔アレルギー症候群、あるいは花粉-果物アレルギー症候群
3.仮性アレルゲン(あるいは生理活性物質)による症状

1は特定の果物を食べてから30分〜2時間後に皮膚症状(じんましん)が出るタイプ、中には消化器症状(嘔吐・腹痛・下痢)や呼吸器症状(声がれ、咳込み、喘鳴、息苦しい)などを伴う重症型もあります。

2が今回のエピソードに当てはまります。先行して花粉症を発症し、その花粉のアレルゲン構造と似た構造を持つ果物アレルゲンを食べた際、「あ、花粉が入ってきた」とカラダが誤って認識して誤爆するメカニズム。
ただ、この場合の果物アレルゲンは消化酵素で分解されてしまうので、吸収してから思い全身症状が出ることは稀です(例外あり)。
そしてビワはヒノキ花粉と関係があることが判明しています。
つまり、今回症状が出た生徒は、ヒノキ花粉症がもともとあって、ビワを食べたときにカラダが「ヒノキ花粉が入ってきた!」と反応してアレルギー症状が出た、というカラクリです。
ヒノキ花粉症?ってメジャーではありませんが、実はスギ花粉症の7〜8割にヒノキ花粉症が合併していますので、スギ花粉症患者さんはヒノキ花粉症も持っていると考えた方がよいでしょう。

3は省略します(詳しく知りたい方はこちらをご覧ください)。


<参考記事>

■ 学校給食「ビワ」で集団アレルギー!意外と 知らない「花粉症と果物アレルギー」の深〜い関係
アサ芸プラス)より抜粋(下線は私が引きました);
 2024年6月25日、山梨県富士吉田市の学校給食に「ビワ」が出された。これを食べた市内の小中 学校の児童生徒3500人のうち126人が、のどの違和感など口腔アレルギー反応を訴えた。 のどのかゆみや違和感、唇の腫れのほか、充血や腹痛、じんましんなどの全身症状が出た 子供もいたという。
 同じ給食メニューを食べた市内の保育園ではビワが提供されておらず、アレルギー症状を 起こす園児がいなかったため、早々にビワアレルギーと判明した。・・・
 ビワでアレルギーを起こしやすいのは、3月から4月にヒノキ(カバノキ科)の花粉で花 粉症を起こす人。カバノキ科の花粉とビワに含まれるタンパク質が似ており、ビワを口に すると、口の中や喉の粘膜がアレルギー反応を起こす。ヒノキ花粉症は最もメジャーなス ギ花粉症の時期と重なっているため、ヒノキ花粉症を自覚していない人は少なくない。ヒ ノキ花粉の人は豆乳に含まれるタンパク質でもアレルギー反応を起こすため、要注意だ。
・・・
スギ花粉より早く、1月からアレルギー症状が出る人は、ハンノキやシラカンバの花粉症 かもしれない。桃やリンゴのアレルギーを起こしやすいのだ。
・・・
ひと昔前は果物でアレルギーが出るなんて、思いもよらなかった。今回のビワ集団アレル ギーは、子供たちに美味しい国産フルーツを味わってほしいという食育の一環で、不幸な アクシデントというしかない。
口腔アレルギーが判明し、生食のフルーツは食べられなくなっても、ジャムやゼリーなど 加熱調理したものなら食べられることがある。

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子どもの便秘は「ウンチの呪い?」

2024年06月19日 08時41分10秒 | 小児科診療
小児科医の私の医院には、便秘で通院する子どもがたくさんいます。
毎日、5人くらいは来院されますね。

乳児期にはカマ、ラクツロース、
2歳以降はモビコールを中心に処方しています。

うまくコントロールできない患者さんには、
漢方薬の使用を提案します。
例えば、
お腹の痛みがメインだったり、
下痢と便秘を反復したり…
西洋医学では対応しきれない例ですね。

さて、いつものように医療情報を集めていたら、
「ウンチの呪い」といインパクトのある題名に出会いました。
どうやら子どもの便秘を扱っている様子…

読んでみると、「ウンチの呪い」は便塞栓による悪循環を指しているようです。
便塞栓(硬くて大きなウンチの塊)が肛門を塞いでいて、
便が出るのを邪魔しているという構図。

当院では便秘の相談で受診された患者さんのお腹に硬い便塊を触れた場合は、
浣腸もしくはテレミンソフト(浣腸と同じ効果のある坐薬)を処方し、
2日間連続で使用するよう指示します。

この方法はガイドラインにも書いてあります。

1回で十分便が出ても2日間連続?
・・・そうなのです。
1回でたくさん排便があっても、溜まった便塊が出切れていないことが多いのです。
消化器専門医は「3日連続浣腸」を指示すると聞いています。


■ 「うんちの呪い」を断ち切ることが治療の肝〜乳幼児期の便秘症

 便秘症は、小児科の日常診療において遭遇頻度が高い疾患である。大阪府立病院機構大阪母子医療センター消化器・内分泌科副部長の萩原真一郎氏は、第127回日本小児科学会(4月19〜21日)で乳幼児期の便秘症の診断と治療を解説。便秘症の連鎖を"うんちの呪い"に例え、原因となる便塊の貯留(便塞栓)を解除し、こうした負の連鎖を断ち切ることが治療の肝であると述べた。

▶ 診断はRoma Ⅳで、ただし該当しないケースも
 便秘症は、器質的異常による器質的便秘症と基礎疾患を除外した機能性便秘症に大別される。萩原氏によると、乳幼児便秘症は発症時期で分けると特徴が把握しやすいという。例えば、
・離乳食開始前の生後6カ月未満児の便秘症 → 器質的疾患が背景にある可能性を常に考慮する必要がある。
・離乳食の開始に伴い便が硬くなる → これを機に便秘を発症することもある。
・トイレトレーニング中に硬便による排便痛を経験する → 恐怖心から便秘症に至るケースもある。
 乳幼児の便秘症診断は、Roma Ⅳに基づいて行う。発症年齢が4歳未満では、1週間の排便回数が2回以下、過度の便貯留の既往があるなどの7項目中2項目以上が1カ月以上継続する場合は便秘症と診断する。ただしRoma Ⅳに該当しないケースもあり、同氏は「排便困難例の状況を見た上で診断すべき」と述べた。
 診断後は器質的疾患を除外するが、ここでは警告症状(red flags)の確認が極めて重要になる。警告症状は、日本小児栄養消化器肝臓学会の『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン2013』、英国の『NICE Clinical Guideline』、RomaⅣ(Gastroenterology 2016; 150: 1456-1468)で若干異なるものの、
・胎便排泄の遅延(生後24~48時間以降)
・生後2カ月以内の血便
・成長障害または体重減少などを伴う例
…では基礎疾患を除外するため、専門医への受診を勧める。

▶ 完全母乳栄養からの変更で生じる牛乳アレルギーによる便秘症
 生後9カ月未満の健康児に認められる乳児排便困難症は、腹圧の上昇と骨盤底筋群の弛緩が協調できないことで起こる。診断は、
① 少なくとも10分間、軟らかい便の排泄成功または失敗の前にいきみがある
② 他の健康上の問題がない
―場合となる。
綿棒による肛門刺激は条件付きとなりやすく、便自体が軟らかいため緩下剤による治療のいずれも推奨されていない
 牛乳アレルギーによる便秘症は、完全母乳栄養から混合栄養または粉ミルクに変更した際に発症することが多い。胃腸炎を来した後に摂取した牛乳の蛋白質に感作されて便秘を発症する。標準治療に反応がなければ牛乳の摂取制限を検討し、2~4週間の牛乳蛋白質除去により便秘の改善を図る。
 大阪母子医療センター消化器・内分泌科でも牛乳アレルギーによる便秘症が疑われた1歳6カ月児を診察しており、自身の乳製品摂取制限を解除した母親に再び摂取を制限してもらったところ児の便秘改善が得られている。
 前述の警告症状のうち、症状がない便秘症では便塞栓が重要となる。便塞栓の診断は、
① 身体所見上、下腹部に硬い便塊に触れる
② 肛門指診上、大量の便塊によって直腸の拡張が認められる
③ 腹部X線検査上、結腸内に大量の便が認められる
―の有無で行う。
ポータブルエコーは施行時に広いスペースが不要なため、便塞栓の判定に有益である。なお近年、直腸における便塊の判定を人工知能(AI)が支援する直腸観察ガイドプラスを搭載したエコーも登場し、乳幼児への施行時に利便性が期待される。

▶ 第一選択薬はグリセリン浣腸、浸透圧性下剤、刺激性下剤
 便秘症では便塞栓の存在によって負の連鎖が生じることから、治療では便塞栓に注意を要する。
 具体的には、便塞栓があると直腸が拡張するとともに便中の水分が吸収されることで便が硬くなるため、排便痛が出現。トイレトレーニングで排便に対する恐怖心を抱き、排便を我慢するようになり、便塞栓がさらに貯留する。この一連の流れについて、萩原氏は「まさに"呪い"のようであり、便塞栓を解除することが便秘症治療の肝である」と強調した。
 また日本における便塞栓治療として、軽症例やグリセリン浣腸に抵抗がある例では浸透圧性下剤または刺激性下剤が、抵抗がない例では浣腸が第一選択薬となる。さらに、漏便を伴う重症の便塞栓症例や浣腸がトラウマになっている例については、同科ではガストログラフィンを用いた注腸造影を施行し、酸化マグネシウムおよびピコスルファートによる治療を行っていると紹介した。

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ワクチン忌避への対策 → まずは医師への教育?

2024年06月19日 06時29分24秒 | 小児科診療
最近話題の「学校健診着衣脱衣問題」について考えてきましたが、
私が感じる大きな要因は「生徒・家族の知識・理解不足」です。
学校健診は学校医にとって「症状の出ない早期に病気を発見する繊細な医療行為」であり、
「疾患を見つけるためにこのような診察が必要」とマニュアルに記載されているため、
学校医はそれをシンプルに実行しているだけです。

ところが、
「思春期で恥ずかしいから」
「健診ごときで上半身裸になるのはおかしい」
と感情論で否定されがちです。

これは、学校・教育委員会が生徒への説明・啓蒙を怠ってきたツケです。
私が学校医を拝命した際、
生徒家族への説明と同意を提案しましたが、なしのつぶて。
ひたすらクレーム回避をする行動しか出てこないので呆れました。

病気の発見のために不十分な診察法しかできないのなら、
学校健診の意味はありませんから、
私は現場から立ち去る予定です。

さて、小児科医にとって昔から問題になっていることが他にもあります。
それは「ワクチン忌避」。

こちらも大きな理由の一つに「知識・理解不足」があると思います。
小学校で「感染症」の授業をして理解させ、
その対策として「ワクチン」が有効であることを客観的に示す必要があります。
家族ではなく本人に情報提供するのです。

子宮頚がんワクチン(HPVワクチン)もここでつまづきました。
日本では性教育が遅れており、
子宮頚がんがウイルス感染で発生すること、
その感染は性行為によること、
などを教えてきませんでした。

そこに突然、筋肉注射という痛い接種が始まり、
その痛みと恐怖だけが注目されてマスコミが騒ぎ立て、
いろんな問題につながりました。

イギリスでは子ども自身に上記のことを教えてきたので、
拒否する例は少なく、ずっと接種率8割以上を維持しています。

先日、ワクチン忌避に対する記事が目に留まりましたので紹介します。
読んでみると、
「接種される子どもへの教育の前に、接種する医師への教育不足」
という事実が明らかになってきました…唖然!

確かに言われてみると、心当たりがあります。
小児科医は予防接種を担当するため、必要に迫られて情報を集めます。
私は一時期、医師会会員向けのレクチャーを担当していたので、
その準備として随分ワクチン関連本を読みあさりました。

しかしワクチン接種を担当しない他科医師達は最低限の知識しかないと思われます(個人差あり)。
医学生時代の教育でもワクチンを学んでいるのか不明です(私には記憶がありません)。

この問題、根が深いですね…
医師はまず「己の襟を正せ!」ということ。


■ なぜ生じる?「ワクチン忌避」―必要な対策は
 → 医療者の正しい知識が要
※ 下線は私が引きました。

 ワクチン接種により発症または重症化を予防できる感染症(VPD)について、ワクチン接種が可能であるにもかかわらず接種を先延ばしまたは拒否すること(ワクチン忌避)は、個人の罹患リスクを高め、感染症の流行抑制を妨げるため、公衆衛生上の課題となっている。三重大学基礎医学系講座教授の神谷元氏に、日本においてワクチン忌避が生じる要因を聞いた。(関連記事「コロナワクチン忌避に陰謀論が関連」)

▶ 忌避を助長する土壌―ワクチンの効果は実感しにくい
――ワクチン忌避によってどのようなリスクが考えられるか
 ワクチンは主に、
①治療法が確立されていない
②重症化のリスクが高い
③後遺症や合併症が起こりやすい
−疾患を対象に開発が試みられている。VPDに対する予防接種を受けられる環境にあるにもかかわらず、ワクチン接種をしなかったり最も効果が高い時期に接種を受けず先延ばししたりすると、ワクチンによる予防効果が十分に発揮されない。
――なぜワクチン忌避が生じるのか
 ワクチンは感染症に罹患する前に接種し体に抵抗力をつけるため、接種により感染しなかった/重症化を予防したという人はワクチンの効果を実感しにくいが、ワクチン接種部位の腫脹や発熱などが起きた人は副反応だけを実感しやすいという特徴がある。これがワクチン忌避の土壌となっている可能性がある。

▶ ワクチン忌避を助長する要因 ①:SNSにおける情報の錯綜
――ワクチン接種について、Twitter(現X)などのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で論争が行われている
 SNSでは、個人の主観的な感想と、ワクチンの有効性・安全性の客観的評価に基づく情報が同じ土俵の中で錯綜している。しかし、不確定な情報はワクチン忌避のリスクを上昇させるので注意が必要だ。
 接種部位の痛みなど主観的な感想を個人がSNSで述べることは自由だが、それらと本来学会などの場で行われるべきワクチンの有効性・安全性についての科学的な議論は明確に区別される必要がある。SNSという公の場で両者が錯綜する状況は、ワクチンについての情報を混乱させ、ワクチン忌避のリスクとなりうる。
 また、医療者がそれぞれの主観に基づく意見を患者に伝えることもある。ワクチン接種について医療者の意見が統一されていない状況は、患者に過度な不安を与え、ワクチン忌避を誘引する。SNSにおける発信が一般の人々に与える影響について、医療者が正しい知識を得ることが重要だ。

▶ ワクチン忌避を助長する要因 ②:マスメディアの報道姿勢
――ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種のキャッチアップ接種が2025年3月に終了するが、接種率は必ずしも伸びていない
 ワクチン忌避の定義に照らすと、HPVワクチンのキャッチアップ接種率は半数以下と、ワクチン忌避が起きている状況といえる。
 HPVワクチン接種者においては副反応が出なかった例がほとんどである。しかし当時マスメディアはその事実を踏まえず、少数の副反応例に焦点を当てて報道した。ワクチン未接種で子宮頸がんによって亡くなった方、子宮頸がんで母親を亡くした小さな子供を含めた残された家族の気持ち、子供を残してこの世を去らなければならなかった母親の気持ちなどを考えれば、ワクチンの効果についても報道するべきである。物事の一側面だけを過剰に取り上げて報道する姿勢は公正とは言い難く、一般の人々に過度な不安を与えたことは問題である。

▶ ワクチン忌避を助長する要因 ③:国の対応
――かつてHPVワクチンの積極的勧奨を中止した国の対応をどう考えるか
 先進国では積極的勧奨を行う場合、副反応など追加調査が必要と考えられる報告があれば、調査は行いつつも、積極的勧奨自体は予防のメリットを副反応のデメリットが超えない限り中止しない。
 すぐに積極的勧奨を中止するという対応は、国民だけでなく海外に対してもHPVワクチン接種への強い不安を与えた。
 一方、国は積極的勧奨を差し控えている間も、定期接種としてHPVワクチンの無償化は続けていた。そのことを理由に、積極的勧奨が行われていなかった世代(キャッチアップ接種対象世代)が将来的に子宮頸がんを発症しても「定期接種で接種する選択肢はあった」とする可能性がある。そうした点を考えると、やはり接種対象者および保護者の正しい判断に寄与する情報提供が重要である。

▶ まず医療者が接種の必要性を学ぶことが重要
――ワクチン忌避を防ぐためにどのような対策が考えられるか
 米国では新しいワクチンが登場した場合、まずは接種を進めながらリアルワールドデータを解析し、集積された新たな有効性や安全性に関するデータに基づいて接種方法の改善を図る。しかし、日本では新たなエビデンスが出るごとに推奨を改訂するという柔軟なワクチン接種の運用姿勢が不足しており、改善が必要である。
――臨床現場で有用な方法は
 患者に対する動機付け面接がワクチン忌避対策として有用であるとの報告があり、米国小児科学会では臨床現場に取り入れる活動をしている。
 動機付け面接では、医療者は「その日に接種可能なワクチンを全て接種する」という立場を取り、患者に対してワクチン接種を行うと伝えた上で、患者の抱えた疑問や不安を話し合いながら解消していく。大前提として医療者がワクチン接種の必要性を十分に知っていることが重要である。
――日本では医療者に対するワクチンの情報提供は十分か
 米国では、研修医を対象に保健所で1週間程度のトレーニングプログラムが提供され、その後実際に接種を行うなど、教育環境が整っている。他方日本では、指導医などの手技を見学する時間が設けられている程度にとどまっているのが現状だ。
 日本の医学教育や研修医指導において、ワクチンについての知識や患者とのコミュニケーション方法のトレーニングなどの機会を拡充すべきである。
――ワクチン忌避について医療者ができることは
 小学校入学前に予防接種が義務付けられている米国などに比べると、日本はワクチン接種が強制されない仕組みになっており、接種の選択が一般の人々に委ねられている。だからこそ、医療者は十分な知識に基づいて患者の判断を手伝えるよう努めてほしい。




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学校健診で「しゃがみ込み」ができない生徒への対応

2024年06月18日 12時56分30秒 | 小児科診療
学校健診で行われる「運動器検診」。
これは整形外科医が導入し、
整形外科医以外が診察を担当する、
という不思議な健診です。

学校医の中で整形外科医が占める割合は、
全体の5%に過ぎません。
なので、整形外科疾患を普段扱わない医師(小児科医、内科医…)が、
わからないなりに勉強して診察に当たります。

しかし、マニュアルが不十分です。
チェック項目に問題点があると、
ふつう、フローチャートでどう対応すべきか記述がありますが、
運動器検診に関しては、それがはっきりしないのです。
そのため現場での混乱を招いています。

私が一昨年前に学校医を拝命された際、
運動器検診についても一通り調べてみました。
すると、知りたかった「しゃがみ込みができない生徒への対応」
が書かれているマニュアルを探し当てましたので、紹介します。


より抜粋;

(P19-20)「しゃがみこみができない」場合に想定される疾患
 発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
 ペルテス病
 大腿骨頭すべり症
 オスグッド病
 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
 分裂膝蓋骨
 膝半月(版)損傷
 足部の障害(外脛骨障害、扁平足、足根骨癒合症など)
 足関節障害(捻挫、骨折など)
 シーヴァー病(セヴァー病)など


…う〜ん、股関節脱臼と捻挫・骨折ぐらいしかイメージが沸きません。
 他の疾患名は、残念ながら小児科医には縁がありません。


・しゃがみ込みができないのは、疾患のためだけではなく、
 疼痛や極端な筋力低下・バランス低下による場合がある。

・股関節・膝関節・足関節がかたい(可動域制限)、
 大腿の前の筋肉(大腿四頭筋)が硬いためだけではなく、
 肥満が原因であることもあり、原因により対処が異なる。

痛みがない場合
 → 経過観察・運動指導

1週間運動指導してもしゃがみ込みができない場合
 → 整形外科要受診

痛みが強くなっている場合
 → 整形外科要受診

痛みがある場合
 → 整形外科要受診

しゃがみ込みができない」とひとことで言っても、下記2パターンが有り、
注意が必要という記述もありました:



…まあ、「しゃがみ込み動作で痛みがあれば整形外科受診」とシンプルですが、
迷うのが「しゃがみ込みができないけど痛みがない場合どうするか?」
です。

上記フローでは、
「1週間運動指導して改善なければ整形外科受診」
とあり、さらに運動指導の内容もイラスト解説されていました。


(P24)運動・ストレッチの仕方
・足首のストレッチ
・ハムストリングスのストレッチ
・ジャックナイフ・ストレッチ
 



上記の経過措置(特に運動指導の内容)を、
担当の養護教諭に情報提供しておきました。
これで、学校医の責任は果たせたでしょうか…。


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新しい抗RSV薬「ベイフォータス」、登場!

2024年06月18日 06時49分09秒 | 小児科診療
前項で、RSVワクチンを紹介しましたが、
実は最近、新しい治療薬(抗RSV薬)も登場しました。
といっても、「モノクローナル抗体製剤」といって、治療というより予防薬ですね。

ハイリスクの赤ちゃんに使用する場合は保険適応となり、
健康な赤ちゃんに使用する場合は自由診療(自費)?
ちょっと設定が複雑です。
臨床現場でどう扱われるようになるのか、注視していく必要があります。

でも、これまで特効薬がなかったRSV感染症に、
強い味方が登場したことには変わりありません。

■ 基礎疾患のない乳幼児に接種可能な抗RSウイルス薬
 2024年5月22日、抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体ニルセビマブ(遺伝子組換え)(商品名ベイフォータス筋注50mgシリンジ、同筋注100mgシリンジ)が薬価収載と同時に発売された。同薬は3月26日に製造販売が承認されていた。適応は
(1)生後初回または2回目のRSウイルス感染流行期の重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児および幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制。
(2)生後初回のRSウイルス感染流行期の(1)以外の全ての新生児および乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防」、
用法用量は
「生後初回のRSウイルス感染流行期には、
 体重5kg未満の新生児および乳児に50mg、
 5kg以上の新生児および乳児に100mgを1回、筋肉内注射する。
 生後2回目のRSウイルス感染流行期には、200mgを1回、筋肉内注射する」
となっている。
・・・
 RSVはほぼ全ての乳幼児が2歳までに感染することが報告されており、乳幼児の入院は基礎疾患を持たない場合も多い。月齢別の入院発生は生後1~2カ月時点でピークとなるため、生後早期からの予防策が必要とされている。
 現在、RSV感染症に対しては、重症化抑制薬として抗RSVヒト化モノクローナル抗体パリビズマブ(遺伝子組換え)(商品名シナジス)が、「基礎疾患を有する児や早産児」に使用されている。さらに、組換えRSVワクチン(アレックスビーアブリスボ)は対象を60歳以上の高齢者(アブリスボは妊婦も接種対象)に限定されている。しかし、パリビズマブでは基礎疾患を持たない正期産児および乳児に使用できないことが課題となっていた。
 ニルセビマブは、既存のパリビズマブと同様にRSVを中和するモノクローナル抗体で、血清中の消失半減期を延長するように改良されている。RSVが有するF蛋白質の膜融合前構造に対する、長時間作用型の遺伝子組換えヒト免疫グロブリンG1κ(IgG1κ)モノクローナル抗体製剤である。また、パリビズマブの対象患者のみならず、健康な新生児、乳児のRSV感染症による下気道疾患も抑制することが可能となっており、また用量が体重に応じて固定されているため、調整を必要としない。
・・・海外では、2024年1月現在、欧米など世界30カ国で販売されている。
 副反応として、主なものに発疹、注射部位反応、発熱(各0.1~1%未満)がある。重大なものとして、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症反応、血小板減少を生じる可能性があるので、十分注意する必要がある。
 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●重篤なRSV感染症のリスクを有する新生児、乳児および幼児に使用する場合の基準に関しては、添付文書の「効能又は効果に関連する注意」を確認すること
●心肺バイパスを用いた心臓手術により血中濃度が低下するため、術後安定した時点で速やかに補充投与すること(具体的な用法用量に関しては添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の項を参照)
●保険給付は、「生後初回または2回目のRSV感染流行期の重篤なRSV感染症のリスクを有する新生児、乳児および幼児における、RSV感染による下気道疾患の発症抑制」に使用した場合に限る
●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「重篤な過敏症反応」「血小板減少」が挙げられている

この記事を読んで、ちょっと違和感を感じたこと。
それは「RSV感染症の流行期」というワードです。

昔はRSV感染症は冬に流行するのが定番でした。
しかし近年、冬以外にも流行する事象が増えてきて、
その常識が通用しなくなってきました。
私は小児科医ですが、実際に6月に入ってもRSV陽性患者に遭遇します。

はて、どう設定するんだろう?

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RSVワクチン、登場!

2024年06月18日 06時27分19秒 | 小児科診療
小児科医を長くやっていると、
ワクチンが開発される度に、
赤ちゃんの病気が減り、命が守られていることを実感します。

ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンで乳児の命を脅かす細菌性髄膜炎が激減しました。
勤務医時代(20年以上前)、冬になると入院病棟に、
「ロタウイルス部屋」と「RSウイルス部屋」ができたものですが、
ロタウイルスワクチンの登場により脱水症で入院する乳幼児が激減し、
ロタウイルス部屋は今はなくなっているはず。

そして最後に残ったのが「RSウイルス」です。
今でも赤ちゃんが風邪を引いてゼーゼーするとRSウイルスが陽性になることが多く、
ヒヤヒヤ物です。

そしてようやく、RSVワクチンが登場しました。
特徴は、
「生まれてくる赤ちゃんのために、お母さん(妊婦さん)がワクチンを接種する」
こと。具体的には、
「妊娠24~36週の妊婦に、1回0.5mLを筋肉内に接種」
つまり、お母さんに免疫をつくって、
それを胎盤を通して胎児に移行するのを期待するワクチン。

画期的ですね。
RSV気管支炎で入院するのは、生後3か月未満の赤ちゃんがほとんどで、
生まれてから接種するのでは遅いのです。

いち小児科医として、ぜひ普及して欲しいワクチンです。


■ RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ」接種開始
 妊婦にワクチンを接種することで、生まれてくる子を出生時から守る──。2024年5月31日、国内初の母子免疫を利用したRSウイルスワクチン「アブリスボ筋注用」が発売された。同日に接種を開始した、福田病院(熊本市中央区)病院長の河上祥一氏は「母子免疫ワクチンは、母親から子への最初のプレゼント。これから周知を進めていきたい」と語る。
 アブリスボは2024年1月18日に「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」を効能・効果として国内製造販売承認を取得した(関連記事:RSウイルスの母子免疫ワクチン、国内初の製造販売承認を取得)※。妊娠24~36週の妊婦に、1回0.5mLを筋肉内に接種する。これを受け、日本小児科学会は「RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方」を発表。「基礎疾患のない乳児に対するRSウイルス感染症の予防に寄与することが期待される」としている。製造販売元のファイザーによれば、接種を希望する施設に順次供給予定。

※3月26日には「60歳以上の者におけるRSウイルスによる感染症の予防」に対する適応追加の承認を取得(関連記事:60歳以上へのRSVワクチンに新たな選択肢
・・・
 アブリスボの接種にかかる費用は全額自己負担であり、福田病院の場合は約3万円と決して安価ではない。河上氏は「接種率を上げるには、自治体などによる補助が必要だろう。費用対効果に関するデータの蓄積も待たれる」と話す。
 「赤ちゃんが生まれたときから守られていることが、母子免疫ワクチンの最大の特長」(河上氏)。・・・

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