徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

発熱児に水風呂?

2013年03月09日 06時14分39秒 | 小児科診療
 現在の日本での子どもの発熱時の対処法は、
・悪寒が走る時(ブルブル震えて寒がっている時)は温める
・熱が上がりきって体がほてる時には冷やす、つらそうな時はこのタイミングで解熱剤を使用

 というのが標準的だと思います。
 まあ、「解熱剤は絶対使ってはいけない」という少数派もいらっしゃいますが。

 その昔「発熱時に水風呂に入れる」という習慣が南米であることを彼の地に住んだ経験のある看護師さんから聞いたことがあり、その時は「ところ変われば発熱の対処法も変わるもんなんだ」くらいに感じたことを記憶しています。

 でもこの方法、結構数多くの国での習慣らしい。
 以下は先日読んだ読売新聞の記事(ブログです)から;
 
子どもが高熱 「水風呂に入れろ」(2013.3.6:読売新聞のネットブログより)
 「昨日ね、子供が熱を出して近くの小児科に行ったら、『水風呂に入れろ』と言うのよ、ねえ本当なの? 熱のある時に水風呂なんて考えられないわ」
 友人が心配そうに電話をかけてきた。確かにフランスの小児科では、急な高熱で、熱が下がらない時の対処療法として、部屋の温度を下げる、服を脱がせる、そして水風呂に入れる、といわれる。
 ただし、この場合の水風呂は文字通りに受け取ってはいけない。もし子供や乳児が39℃の熱を出して下がらない場合、お風呂の温度を子供の熱よりも2℃くらい低い温度にしてゆっくりと入れる。まったくの水風呂ではないし、勢いよく入れろというわけではない。時間は約10分程度。高くなりすぎた熱を、冷たい風呂で少し下げてあげるのだ。
 発熱は免疫力を上げ、ウイルスや細菌が増殖しにくい体温にするための防御機能のひとつと考えられているため、解熱剤はあまり使われない。また脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給をこころがける。水風呂(本当はぬるま湯)は、もちろんすべての症状に適しているわけではない。まずは小児科にかかり、医師の判断を仰ぐことが欠かせない。
 そういえば、たくさんの人が亡くなった2003年のカニキュール(猛暑)の時も、新聞やテレビなどで、こまめな水分補給とともに水風呂が盛んに勧められていた。冷房が完備されていないフランスの住宅では、独り暮らしの老人などが脱水症状でずいぶんと亡くなった。この時は霊安室が一杯となったため、遺体収容のために冷凍トラックまで使われてニュースになった。
 イギリスに住む友人に聞いてみたところ、やはりフランス同様、子どもが高熱を出した場合は、ぬるま湯に入れるらしい。


 というわけでヨーロッパでも同様の習慣がある様子。

 ただし、小児科医である私の立場から一つ云わせていただくと、上記ブログでは風邪の発熱と熱中症の発熱を同列に扱っていますが、これは間違いです。
 風邪の発熱は体の防御反応(免疫反応)として自ら作り出す熱、一方熱中症は熱の放散ができなくて体に熱がたまる状態。
 ですから対処法も異なります。
 基本的に風邪の発熱は「つらかったら免疫反応を低下させない程度に少し下げる」ことがよく、一方の熱中症は「強制的に下げて脳を守る」必要があるのです。

 さて、世界各国で行われているらしい「発熱時の水風呂」。
 以下にネットで検索し得た範囲で列挙してみます:

<アメリカ大陸>
アメリカ
・アメリカに住む友人にも聞いたことがあります。友人の話では、かなりの高熱が続くようなら、室温程度の水風呂に入れるようにと病院で言われたそうです。ただし「子供が震え始めたら素早く水風呂から出して。」との事。
・以前アメリカに留学中に何度か目にしたのですが、あちらの人は風邪で高熱を出したりするとバスに氷水をはってその中にしばらく身を沈めるんです。ブルブル震えながら・・・
・5歳になる息子が1歳半くらいのときだったでしょうか、すごい高熱(確か40度くらい)を出し、アメリカ人のだんなが「よし水風呂に入れよう」と言ったときには「この人は一体ナニを考えてるの?」と心の底から思いましたが、あとでいろいろ調べたらそれは正しい対処法と分かりました。特にアスピリン系(だったと思う)の解熱剤を子供に与えると脳炎などにつながる恐れもあるので絶対に与えるなと記憶してます。
・大草原の小さな家で、ネリーが熱を出したときに、氷水のお風呂に浸かってて、すっごくびっくりしたのを思い出しました。
・氷をいれるお風呂は聞いた事がありません。アメリカの家の御風呂場は,一般に暖房が行き届いている為他の部屋とそれほど温度差がありません。熱があり,腰湯にはいり,出てくるという作業は日本の御風呂場の状況で想像するよりも,はるかに簡単でスムーズにできます。本格的高熱の場合ですが。ぬるいお湯の腰湯につかり,肩からスポンジ等でぬるま湯をゆっくりかけること5分くらいでしょうか。熱も下がりますが,なにはともあれ気分がさっぱりします。子供達の高熱の対処は小児科医の電話の指導でこれでした。

<ヨーロッパ>
ドイツ】「39度以上のときは、 裸にしてパンツ一丁(おむつ一丁)で、部屋ですごすように。また、ぬるい(冷たい30度位)お風呂にいれるのも効果的。」
イギリス】子供が熱を出したとき医者に行くと「水風呂に入れなさい」と言われるという話をイギリスで聞いたことがあります。
複数の方から聞いた話ですから、本当だと思います。日本ほど湿度が高くないので(すぐ乾く)水にぬれることをあまり嫌がらないことも、感覚の違いの理由かもしれません。
フランス】フランス出身の主人は子供が熱を出すとぬるめのシャワーを浴びさせると熱が下がりやすくなり、回復も早いといいます。
ギリシャ】友人(ご主人はギリシャ人)夫婦がギリシャに住んでいた時、娘さん(当時5歳位)が高熱を出し何をしても下がらない為、医者が氷風呂に娘さんを入れたそうです。

<ユーラシア>
ロシア】ロシア人の友人はやはり冷たいお風呂で冷やすといってましたが、水道数では充分冷たくないとぶつぶつ言っていました。
トルコ】「39.7度に上がった時に、K(熱冷ましの薬)を飲ませましたが、吐いてしま・・・」終わりまで聞かずに、この医師は、「あなたのやったことは間違いではない。しかし、Kはそんな場合あまり役に立たない。一番良いのは、ぬるい水風呂に入れること」「まず、帰ったら薬を飲ませ、ぬるい水を張ったお風呂に身体を漬けること」

<オセアニア>
オーストラリア】オーストラリアに住んでいますが、こちらでも同じです。例えば子供が熱を出すと、日本では温めて寝かせますよね、こちらでは、水風呂にいれたり、スポンジで体をふいたりして、その後は完全に乾かさずに、蒸発させます。つまり、熱を蒸発する水と一緒に吹き飛ばすと言う意味です。それから、どんどん冷やして、肺炎になったとしても肺炎なら治療できるが、熱が上がって、脳に異常をきたしたら、治療はできないと言う考えもあります。

<アフリカ>
コスタリカ】コスタリカ人の友人は熱いお風呂に入って汗を出して寝るといっていました。

<アジア>
日本】意外なことに、日本でも「発熱に水風呂」という習慣があることを発見しました;
風邪で熱がある時に水風呂を入れと 昔から父親に言われてたのを思い出しましたが ...

 ・・・調べてみて「発熱に水風呂」にも2つの理由があることに気づきました;
1.薬のない時代からの習慣
2.解熱剤が怖いから(アスピリン系解熱剤によるインフルエンザ性脳症のリスク上昇)
 1は世界各国で行われており、2は欧米系の考え方ですね。
 
 まあ、最初に記した「解熱剤を使うタイミング」でふだんの体温程度のぬるま湯につかるのは問題ないと思います。
 でも「悪寒が走るタイミング」で水風呂に入れると・・・もっとブルブル寒がることになりそう。

 視点を変えて、漢方医学の考え方を紹介します。
 発熱の初期、悪寒が走る時は「熱を上げて発散させて治りをよくする」薬を使います。
 発熱という免疫反応を促進してゴールを近づける方法ですね。
 「冷やす」とは真逆の「温める」考え方もあるということ・・・東洋医学のみの特徴と思い込んでいましたが、上記コスタリカにも同じ考え方があると知りました。

 発熱時に体を温める・冷やすのは、やはり発熱相(phase)を見極め適切なタイミングで行うことが必要であることは共通認識と思われます。
 ネットからの情報では、以上の知識がゴッチャになり一般の方は消化不良を起こしそうですね。
 当院HP「風邪のお話」の「子どもの発熱と対処法」もご参照ください。
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