徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

【新型コロナ対策】結局、マスクは誰のために必要?

2020年05月06日 06時47分10秒 | 小児科診療
新型コロナウイルスが社会問題になった当初から、ずっと「マスクは有効・無効?必要・不必要?」と論議されてきました。

日本人はふだんから使用しているので違和感はありませんが、欧米人は「マスクは重病人がするもの」「顔を隠す行為は犯罪者」という認識があるらしく(「覆面禁止法」という法律まである)、逆に使用しないのがふつうということも判明しました。

けんけんガクガクだったマスク議論も、
「咳をしている人もしていない人もマスクが必要」
「マスクは自分ではなく他人を守るためにする」
との結論に収束してきました。

医師の視点で少し解説を試みてみます。

医学分野では、マスクは「標準予防策」(スタンダード・プレコーション)に入っています。
標準予防策とは、「すべての人は伝播する病原体を保有していると考え、患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露するおそれのあるときは個人防護具を用いること」。
あくまでも「自分を守るため」の措置です。

では病原体は何に含まれているか?

より具体的には以下の通り;
・血液
・汗以外の体液(唾液、鼻汁、喀痰、尿、便、腹水、胸水、涙、母乳など)
・傷のある皮膚
・粘膜
このうち、触れることにより感染するもの(接触感染)を除くと、咳・くしゃみで飛び散る、つまり「飛沫」となる「唾液、鼻汁、喀痰」が残ります(飛沫感染)。

20年以上前、スタンダード・プレコーションという言葉が出てきた頃の感染対策の教科書には「血液・体液にはHIVが、鼻汁・喀痰には結核菌が含まれていると思え」と書いてあったことを記憶しています。

ですから診療中、常に感染リスクにさらされている医療スタッフは「自分を守るために」日常的にマスクをしています。
ただし、医療スタッフが使用しているのは「医療用マスク」であり、市販の(あるいはアベノマスクのような)布製マスクではありません。
一般には「サージカルマスク」、完璧は空気感染対策が求められる状況では「N95」マスク。

ここまで読んで、賢明な読者は、
1.マスクは感染症から自分を守るために必要か?
2.マスクは感染症から他人を守るために必要か?
という二つの視点があることに気づかれたと思います。
そう、この二つを区別して考えないと混乱して結論が出ません。

1については結論は出ています。前述の標準予防策の文脈通り、
・自分を守るためには布製マスクでは不十分
・自分を守るためには医療用マスク(サージカルマスク、N95マスク)が必要
となります。


問題は2です。
従来、
・咳の出る人は飛沫を飛ばさない目的でマスクが必要
とされ、
・咳の出ない人はマスクは不要
でした。

しかし、新型コロナはこれだけでは済まないことがわかってきたのです。
それは「無症状感染者」がたくさん存在し、かつ「無症状感染者も感染力がある」ことが判明。

無症状感染者、すなわち感染しているけど症状がない患者も、会話や呼吸で唾液・気道分泌物由来のマイクロ飛沫を出しているため感染力があるという事実。

このため、
・咳をしていない人も会話や呼吸で飛沫を飛ばさない目的でマスクを装着すべし
と認識を替えざるを得ず、
2020年4月にとうとうアメリカのCDC(疾病管理センター)が「マスク着用を推奨」と方針を変えるに至りました。

この根拠はあくまでも「マスクとは他人を保護するのに役立つもの」です。
繰り返しますが、ウイルス粒子をブロックする医療用のN95マスク(装着していると苦しくなるくらい密閉される)なら自分を守ることができますが、ふつうの布製マスクでは自分を守るのは無理(あるいは不完全)です。
誤解なきよう。

しかし、WHO(世界保健機構)は現時点でもかたくなに「症状のない人はマスクをする必要がない」との方針を変えていません。
私が思うに、アメリカ国民相手のCDCと世界に情報を発信するWHOの立場の違いも見え隠れしてくるような・・・。
もしWHOが「健康な人もマスク着用」と宣言し、世界中の人がそれに従うことになれば、毎日世界人口分のマスクが必要ということになります。
これではいくら増産しても間に合わず、現実的に無理で意味がありません。

以上、「他人を感染症から守るためのマスク」という事実が明らかになってきました。
ただし、
・科学的根拠によるCDC「症状のない人もマスクが必要」
・社会的判断をしているWHO「症状のない人はマスクは必要ない」
とで、まだ方針が統一されていないのが現状、といったところでしょうか。

<参考>
・「症状がない人もマスクをつけるべきか?」(忽那賢志)2020.4.26
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