徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

HPV(子宮頸がん)ワクチンに副作用は伴うか、世界で進む検証作業

2015年01月16日 06時52分34秒 | 小児科診療
 日本では結論のでない「HPV副反応問題」の関係論文を紹介します。
 デンマークとスウェーデンにおいて400万人を対象に接種者と非接種者を比較調査した結果、多発性硬化症などの脱髄性疾患の発生頻度に差はなかったという報告;

ヒトパピローマウイルスワクチンに副作用は伴うか、世界で進む検証作業 
2015.1.12 Medエッジ
◇ ワクチンと神経の病気に関係があるか
 今回紹介する論文は、子宮がん予防のために世界的に接種が行われているヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンと多発性硬化症との関連を調べるために行われたデンマークとスウェーデンの疫学調査だ。
 2015年1月6日号の米国医師会雑誌に掲載されている。
 タイトルは「ヒトパピローマウィルス4種混合ワクチンと多発性硬化症や他の脱髄性神経疾患のリスク(Quadrivalent HPV vaccination and risk of multiple scleraosis and other demyelinating diseases of the central nervous system)」だ。
 このワクチンをめぐってはわが国でも全身性の痛みをはじめ、さまざまな副作用が問題にされている。
 同じように、欧米ではこのワクチンと多発性硬化症をはじめとする、神経の病気である「脱髄性疾患」との関連を示唆する症例報告が続いていた。
 しかしこの問題に対しては、結局疫学調査と、症状のメカニズム解明しか答えを出すことはできない
 これに対して、2006年~2013年にワクチンを受けた女性と、受けなかった女性を2年間追跡して、多発性硬化症の発症を調べたのがこの研究だ。
◇ 400万人の調査で関係なし
 研究では約400万人の女性が調べられ、そのうち80万人がワクチンを決まった方法通りに接種されている。
 結論はこの疫学調査ではワクチン接種と脱髄性疾患の関連は認められなかったという結果だ。
 ただ、免疫反応には多くの遺伝的要因が関わる。
 わが国でも、このような調査を重ねて、受けるリスクと受けないリスクを正確に出す努力が必要だろう。
 論争が科学の範囲を越え出すときこそ、科学者は「象牙の塔」にこもる努力が必要な気がする。

文献情報
Scheller NM et al. Quadrivalent HPV vaccination and risk of multiple sclerosis and other demyelinating diseases of the central nervous system. JAMA. 2015;313:54-61.


 日本でも科学的、疫学的検討による結論を出していただきたいと思います。

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2016年、とうとうB型肝炎ワクチンが定期接種になるらしい・・・

2015年01月11日 08時21分15秒 | 小児科診療
 小児科医が切望してきた「B型肝炎ワクチンの定期接種化」がようやく現実のものとなりそうです。
 まず、B型肝炎の自然経過を紹介したイラストを;



(2014.9.2 東京新聞の記事より)


 従来、日本では「母子感染」を重視し、母親がキャリアの場合のみに感染対策をしてきたので、一般の方には「他人事」に聞こえるかもしれません。
 しかし近年、それだけでは済まないことがわかってきて、「水平感染」も視野に入れた下記方針へ変更されるに至りました;

B型肝炎ワクチン、厚労省が定期接種化提案- 早ければ2016年度にも実施へ
(2015.1.9:CB News)
 厚生労働省は9日、B型肝炎ワクチンの接種対象年齢などの案を厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会に示した。同省は「国民に広く接種機会を提供するためには、副反応を含めた予防接種施策に対する国民の理解が必要」などと説明。同部会もこの提案を支持したことから、早ければ2016年度から公費による定期接種を実施したい考えだ。
 この日の部会では、厚生労働科学研究の研究班が小児におけるB型肝炎ウイルス感染の疫学調査について報告。母子感染の予防だけでは防げない集団感染や家族内感染といった「水平感染」が小児の日常生活の中で起きている可能性を挙げた。


 水平感染例のひとつに、佐賀県の保育所での集団感染(10年以上前!)があげられます。この例では、感染経路として皮膚疾患の滲出液が疑われています;

保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について
(佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会、2004年)

 B型肝炎ウイルスは血液のみでなく体液(唾液、汗、涙)も感染源になる可能性があります。下記スライドの13と14をご覧ください;

小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握と ワクチン戦略の再構築に関する研究」結果概要
(第12回 予防接種基本方針部会 平成27年1月9日)

 さらに近年話題になっているのは「がん化学療法の際のHB肝炎ウイルス再活性化」です。
 HB肝炎ウイルス感染の既往がある方、キャリアの方は、既に症状が沈静化していても肝臓に残っているウイルスががん化学療法による免疫不全状態になると再活性化して劇症肝炎を起こし命に関わることがわかってきました。がんの治療は成功しても、昔感染したB型肝炎ウイルスにより命を落とすことがあるということ。
 HB肝炎ウイルスに感染すると、一生悩ませられるのです。
 高齢化に伴いガンに罹患する日本人が増える昨今、今後大きな問題になると思われます。

B型肝炎ウイルス 成人感染、慢性化拡大の恐れ(2014.9.2 東京新聞)
B型肝炎、変わる常識 母子対策だけでは防げず 怖い再活性化(2014.06.17 共同通信)
がん化学療法中のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策(国立国際医療研究センター病院、2012年)

 このような問題が明らかになっているのに、なぜ他のワクチンの定期接種化が優先されたのか、厚労省の見識を疑います。
 まあ、国の立場として「国民の危機感がないと対応しにくい」という事情もあるのでしょうが・・・皆さん、認識を新たにしてください。

<追記>
 B型肝炎ワクチンに関して、中国は日本より進んでいます。

ワクチンにより肝臓がん激減、赤ちゃんB型肝炎ワクチン、30年間の調査 中国の研究グループが報告
2015.1.14 Medエッジ
 赤ちゃんにB型肝炎ウイルスの予防接種をすると、若い人が肝臓がんにかかるリスクが低下するという結果が分かった。
 中国科学アカデミーのがん研究グループが、オンライン科学誌プロスワン(PLoS One)で2014年12月30日に発表した。
◇ 30年間の効果を検証
 中国ではB型肝炎の感染者が世界的にも高いと分かっている。
 中国江蘇省啓東では1983年から1990年の間にB型肝炎ウイルス予防接種を推進してきた。
 ワクチンの接種を進めてきた地域では、B型肝炎ウイルスに関連する肝臓癌などの肝臓病の発生率が高い農村地帯である。
 このたび研究グループは30年間にわたる長期結果を報告した。
◇ 8割減った
 ワクチン接種の予防効果は、肝臓がん発生率の減少率が84%、肝臓病による死亡率低下の割合が70%、子どもの劇症肝炎発生率の減少率が69%となった。
 幼少期にワクチンを打つとB型肝炎に対抗するための免疫が7割近くで出ていたのに対して、10歳から14歳の間に成長してからワクチンを打った場合には2割程度に落ちた。赤ちゃんの時期にワクチンを打つのが大切と言えそうだ
 今回は若い時期での肝臓がんを調査しているが、その後にわたっても効果は続く可能性はある。
 日本でも中国ほどではないがB型肝炎は問題になる。自費接種で保険は利かないもののワクチンの接種を検討してもよいかもしれない。

文献情報
Qu C et al.Efficacy of Neonatal HBV Vaccination on Liver Cancer and Other Liver Diseases over 30-Year Follow-up of the Qidong Hepatitis B Intervention Study: A Cluster Randomized Controlled Trial. PLoS Med. 2014;11:e1001774.
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「今年のインフルエンザ、流行はA香港型が中心」

2015年01月09日 18時30分00秒 | 小児科診療
 明けましておめでとうございます。
 今年の初ブログはインフルエンザの話題を。

 件名の記事が日経メディカルに掲載されました(2015.1.9)。
 情報提供者は以下の方々;

 河合直樹 河合内科医院(岐阜市)院長、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長
 池松秀之 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 リサーチディレクター
 柏木征三郎 国立病院機構九州医療センター名誉院長


 有用な情報満載。
 私がポイントと感じた箇所を引用させていただきます。

 まずは近年のインフルエンザ流行状況を;



図1 インフルエンザの型・亜型別の流行状況
13/14シーズン、B型は例年よりも早期から流行し(上)、
かつ2年間消えていたAH1pdm09も再流行した(下)。


 今シーズン(14/15)の流行株はA香港型(AH3亜型)が中心です。昨シーズン(13/14)はこのタイプはあまり流行しなかったので、免疫を持っていない人が蓄積されて今季罹患しているというカラクリが見て取れます。

 次は年代別罹患者数



図2 最近の年代別罹患者数
13/14シーズンでは、小児はB型に多く罹患した(上)。
09/10シーズンに小児で流行したAH1pdm09の13/14シーズンにおける罹患者の大半は成人・高齢者だった(下)。


 0~9歳のところを見ると、昨シーズン(13/14)はB型が圧倒的多数です。
 すると今シーズンはB型の流行が小さいと思われ、春先のインフルエンザ罹患者は少ないことが予想できます。

 次は昨シーズンのワクチン有効率(A型);



図3 AH1pdm09罹患者の急性期・回復期におけるHI抗体価と、ワクチン接種の有無別の罹患率
罹患者の多くでは血清抗体価が急性期に低く、回復期に上昇した(左)。
9歳以下のA型でワクチンの有効性が確認された(右)。


 右側の棒グラフを見ますと、非接種群の13.5%に対して接種群は4.4%と罹患者を67%減らしています(つまり有効率67%)。
 他のワクチンと比較すると低い数字ですが、小児におけるインフルエンザワクチンとしてはよい数字です。

 次に、各抗インフルエンザ薬使用後解熱までの時間




図4  13/14シーズンにおける各ノイラミニダーゼ阻害薬による解熱時間分布
(Box Plot図)

 各ノイラミニダーゼ阻害薬の解熱時間の中央値は、AH1pdm09で21~25時間、AH3亜型では21~23時間、B型では25.5~42時間だった。AH1pdm09とAH3亜型の間に大差はなく、B型はA亜型よりも長い傾向にあった。なお薬剤による差は、いずれの亜型でも比較的小さいと考えられた。昨シーズンにおける培養法によるウイルス残存率(投与開始5±1日目/投与開始前)も、各ノイラミニダーゼ阻害薬とも、B型よりもA亜型、15歳以下よりも16歳以上の方が低いという従来とほぼ同じ傾向だった。


 抗インフルエンザ薬の種類により、解熱までの時間に差はなさそうとのこと。
 年齢や好みで選んでよし、ということになりますか。

 最後に、日本で使用可能な抗インフルエンザ薬一覧を;



 この表、わかりやすいですね。
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