現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは「皮下・不活化ワクチン」というタイプです。
ご存じのように、有効率は他のワクチンほど高くありません。
例えば、MR(麻疹/風疹)ワクチンでは1回で95%、2回で99%の有効率ですが、インフルワクチンでは2回接種しても70%程度にとどまります。
加えて、その年流行したインフルエンザのサブタイプと一致しなければ、さらに有効率が低下してしまう始末。
他に予防する方法がないので接種を勧めていますが、「罹らないというより、軽く済ませるために接種しましょう」と苦し紛れの説明を余儀なくされています(^^;)。
天然痘ウイルスを撲滅した現代医学ですが、ことインフルエンザに関してはいまだ負け戦(いくさ)、と言わざるを得ません。
その劣勢を跳ね返すべく、他のインフルエンザワクチンもいろいろ開発されています。
2003年にアメリカで登場して注目を浴びてきたのが「経鼻生ワクチン」。
注射ではなく、鼻の穴に弱毒化したウイルスを噴霧するタイプで、軽く感染させるため不活化ワクチンより有効率が高く、当初は90%(!)といわれました。
しかしその経鼻生ワクチン、最近有効率が落ちてきたという噂がチラホラ。
そのタイミングで、日経メディカルに以下のような記事が掲載されました;
■ インフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
(2016/9/15:日経メディカル)より
2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。米国のみならず、フルミストの承認申請が出されたばかりの日本でも衝撃が走った。
CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。
ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
う〜ん、効きが悪いどころか、効果ゼロ!?
「有効率90%」を誇ったことがウソのようです。
フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。
◇ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
◇ 明確にならない、効かなかった理由
不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに暴露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
既に免疫があったので、ワクチンで免疫を上乗せしても差が出なかったという推測ですね。
さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。
◇ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
一方で第一三共は、皮内投与型のインフルエンザワクチンについても承認申請済みだ。濃縮することで少量化したウイルス抗原を、専用デバイスで深さ約1.2mmの皮内に接種するというもので、ワクチン成分は皮下接種のそれと全く変わらない。ただし、効き目は皮下接種よりも高いとされる。皮膚の上層部には樹状細胞やランゲルハンス細胞などが豊富で、免疫応答がより早く誘導されると考えられるからだ。
こうした皮内接種の優位性は、狂犬病やB型肝炎などのワクチンですでに実証済みだ。いずれも、痛みは皮下よりも軽く、腫れや発赤は同程度とされる。「将来的には小児への皮内接種も可能になると期待している」と齋藤氏。
「皮下不活化ワクチン」「経鼻生ワクチン」に引き続き、「皮内不活化ワクチン」「経鼻不活化ワクチン(↓)」を開発中、近い未来に認可されるようです。
長谷川氏は、自身が開発中の経鼻噴霧型不活化ワクチンに期待をかける。これまで経鼻の不活化ワクチンでは、効き目を高めるためにアジュバントが欠かせないとされてきた。アジュバントとは、抗原性を補強する物質のことで、抗原と一緒に投与されてより抗体誘導能を高める。しかし長谷川氏はウイルス抗原を全粒子のまま使えば、内部のゲノム(1本鎖RNA)がアジュバント機能を果たすことを見出したという。「特別なアジュバントを加えなくても抗体価が十分上がることをすでに確認済みで、第I相臨床試験を終了するところまで進んでいる」。
さらに、この経鼻不活性化ワクチンを投与して誘導される分泌型IgAには2量体だけでなく、3量体や4量体のIgAが含まれることも突き止めた。「花びらのような形をした多量体は、同じ亜型のウイルスが多少変異しても中和能を維持できる。この点も大きなアドバンテージといえる」と長谷川氏は紹介する。
未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。
人類 vs インフルエンザウイルスの闘いは、まだまだ続きそうです。
<追記>
同様の内容のニュースがケアケットで取り上げられました。
■ 鼻スプレー型インフルエンザワクチンは避けるべきとの勧告―米AAP
(HealthDay News:2016/09/28)
間もなくインフルエンザシーズンが到来するが、鼻スプレー型のインフルエンザワクチンは効果が低いため使用すべきではないとの見解を、米国小児科学会(AAP)が発表した。AAPの最新の方針声明によると、2016~17年のインフルエンザシーズンには、生後6カ月以上の小児はもれなく季節性インフルエンザの予防接種を受ける必要があるという。
今回の声明は、今シーズンは鼻スプレー型ワクチンを使用すべきでないとする米国保健当局の勧告を支持するものだ。声明の共著者の1人であるHenry Bernstein氏は、「新たな研究で、近年のインフルエンザシーズンでは鼻スプレー型ワクチンに比べ、注射のほうが有意に優れた予防効果が得られることが示されている」と述べている。
米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)によると、2015~16年、鼻スプレー型ワクチンの2~17歳の小児における有効性はわずか3%であったのに対し、注射型ワクチンは63%であったという。「われわれは小児にできる限り最善のインフルエンザ予防を提供したいと考えている。最近の研究から、注射型ワクチンのほうが高い保護効果を得られる可能性が高いことが示されている」と、Bernstein氏は付け加えている。
AAPはさらに声明のなかで、特定集団へのワクチン接種に特に力を入れるよう勧告している。たとえば、全ての医療従事者、インフルエンザによる合併症リスクを上昇させる疾患をもつ小児~10代、米国先住民の小児、5歳未満(特に2歳未満)の小児を含むハイリスク児に接触する家族や保育者などが対象となる。
妊娠中および授乳中の女性もワクチンを接種する必要があるという。インフルエンザの予防接種は妊娠中のどの時期に受けても安全とされている。また、妊婦はインフルエンザによる合併症のリスクが高いため、予防接種が重要である。妊婦がワクチンを受けることで、生まれる児にも生後6カ月まで予防効果が得られる。また、授乳でも新生児の予防効果を高めることができると、米シアトル小児病院のWendy Sue Swanson氏は述べている。
医療機関は遅くとも10月からインフルエンザ予防接種の提供を開始し、6月30日まで継続する必要があるという。この声明は「Pediatrics」オンライン版に9月6日掲載された。
[2016年9月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2016 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
<原著論文>
・Byington CL, et al. Pediatrics. 2016 Sep 6.
ご存じのように、有効率は他のワクチンほど高くありません。
例えば、MR(麻疹/風疹)ワクチンでは1回で95%、2回で99%の有効率ですが、インフルワクチンでは2回接種しても70%程度にとどまります。
加えて、その年流行したインフルエンザのサブタイプと一致しなければ、さらに有効率が低下してしまう始末。
他に予防する方法がないので接種を勧めていますが、「罹らないというより、軽く済ませるために接種しましょう」と苦し紛れの説明を余儀なくされています(^^;)。
天然痘ウイルスを撲滅した現代医学ですが、ことインフルエンザに関してはいまだ負け戦(いくさ)、と言わざるを得ません。
その劣勢を跳ね返すべく、他のインフルエンザワクチンもいろいろ開発されています。
2003年にアメリカで登場して注目を浴びてきたのが「経鼻生ワクチン」。
注射ではなく、鼻の穴に弱毒化したウイルスを噴霧するタイプで、軽く感染させるため不活化ワクチンより有効率が高く、当初は90%(!)といわれました。
しかしその経鼻生ワクチン、最近有効率が落ちてきたという噂がチラホラ。
そのタイミングで、日経メディカルに以下のような記事が掲載されました;
■ インフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
(2016/9/15:日経メディカル)より
2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。米国のみならず、フルミストの承認申請が出されたばかりの日本でも衝撃が走った。
CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。
ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
う〜ん、効きが悪いどころか、効果ゼロ!?
「有効率90%」を誇ったことがウソのようです。
フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。
◇ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
◇ 明確にならない、効かなかった理由
不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに暴露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
既に免疫があったので、ワクチンで免疫を上乗せしても差が出なかったという推測ですね。
さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。
◇ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
一方で第一三共は、皮内投与型のインフルエンザワクチンについても承認申請済みだ。濃縮することで少量化したウイルス抗原を、専用デバイスで深さ約1.2mmの皮内に接種するというもので、ワクチン成分は皮下接種のそれと全く変わらない。ただし、効き目は皮下接種よりも高いとされる。皮膚の上層部には樹状細胞やランゲルハンス細胞などが豊富で、免疫応答がより早く誘導されると考えられるからだ。
こうした皮内接種の優位性は、狂犬病やB型肝炎などのワクチンですでに実証済みだ。いずれも、痛みは皮下よりも軽く、腫れや発赤は同程度とされる。「将来的には小児への皮内接種も可能になると期待している」と齋藤氏。
「皮下不活化ワクチン」「経鼻生ワクチン」に引き続き、「皮内不活化ワクチン」「経鼻不活化ワクチン(↓)」を開発中、近い未来に認可されるようです。
長谷川氏は、自身が開発中の経鼻噴霧型不活化ワクチンに期待をかける。これまで経鼻の不活化ワクチンでは、効き目を高めるためにアジュバントが欠かせないとされてきた。アジュバントとは、抗原性を補強する物質のことで、抗原と一緒に投与されてより抗体誘導能を高める。しかし長谷川氏はウイルス抗原を全粒子のまま使えば、内部のゲノム(1本鎖RNA)がアジュバント機能を果たすことを見出したという。「特別なアジュバントを加えなくても抗体価が十分上がることをすでに確認済みで、第I相臨床試験を終了するところまで進んでいる」。
さらに、この経鼻不活性化ワクチンを投与して誘導される分泌型IgAには2量体だけでなく、3量体や4量体のIgAが含まれることも突き止めた。「花びらのような形をした多量体は、同じ亜型のウイルスが多少変異しても中和能を維持できる。この点も大きなアドバンテージといえる」と長谷川氏は紹介する。
未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。
人類 vs インフルエンザウイルスの闘いは、まだまだ続きそうです。
<追記>
同様の内容のニュースがケアケットで取り上げられました。
■ 鼻スプレー型インフルエンザワクチンは避けるべきとの勧告―米AAP
(HealthDay News:2016/09/28)
間もなくインフルエンザシーズンが到来するが、鼻スプレー型のインフルエンザワクチンは効果が低いため使用すべきではないとの見解を、米国小児科学会(AAP)が発表した。AAPの最新の方針声明によると、2016~17年のインフルエンザシーズンには、生後6カ月以上の小児はもれなく季節性インフルエンザの予防接種を受ける必要があるという。
今回の声明は、今シーズンは鼻スプレー型ワクチンを使用すべきでないとする米国保健当局の勧告を支持するものだ。声明の共著者の1人であるHenry Bernstein氏は、「新たな研究で、近年のインフルエンザシーズンでは鼻スプレー型ワクチンに比べ、注射のほうが有意に優れた予防効果が得られることが示されている」と述べている。
米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)によると、2015~16年、鼻スプレー型ワクチンの2~17歳の小児における有効性はわずか3%であったのに対し、注射型ワクチンは63%であったという。「われわれは小児にできる限り最善のインフルエンザ予防を提供したいと考えている。最近の研究から、注射型ワクチンのほうが高い保護効果を得られる可能性が高いことが示されている」と、Bernstein氏は付け加えている。
AAPはさらに声明のなかで、特定集団へのワクチン接種に特に力を入れるよう勧告している。たとえば、全ての医療従事者、インフルエンザによる合併症リスクを上昇させる疾患をもつ小児~10代、米国先住民の小児、5歳未満(特に2歳未満)の小児を含むハイリスク児に接触する家族や保育者などが対象となる。
妊娠中および授乳中の女性もワクチンを接種する必要があるという。インフルエンザの予防接種は妊娠中のどの時期に受けても安全とされている。また、妊婦はインフルエンザによる合併症のリスクが高いため、予防接種が重要である。妊婦がワクチンを受けることで、生まれる児にも生後6カ月まで予防効果が得られる。また、授乳でも新生児の予防効果を高めることができると、米シアトル小児病院のWendy Sue Swanson氏は述べている。
医療機関は遅くとも10月からインフルエンザ予防接種の提供を開始し、6月30日まで継続する必要があるという。この声明は「Pediatrics」オンライン版に9月6日掲載された。
[2016年9月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2016 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
<原著論文>
・Byington CL, et al. Pediatrics. 2016 Sep 6.