徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

スギ花粉飛散開始、Xデーは2月10日

2018年02月06日 06時33分08秒 | 小児科診療
 昨日(2/5)の診療はインフルエンザ診断者<インフルエンザ治癒確認者で、そろそろ流行のピークは越えつつある印象でした。

 インフルエンザ流行が一段落すると、次はスギ花粉症の出番です。
 今年の花粉飛散数は、多いとか少ないとかいろいろ言われてきましたが、結局は「少し多い」程度に落ち着きそう・・・ただ、細かく地域を分けると随分差があるようです。

 多く飛散する期間は2月中旬から3月一杯の約1ヶ月半。
 でも4月にはヒノキ花粉が飛びますけどね。

■ 「花粉飛散」東京では早くも10日スタート!昨春の2倍
2018年02月05日:Hazard Lab
 東京都内では今月10日から14日ごろにかけて早くも花粉の飛散がスタートすると、都の花粉症対策検討委員会が発表した。過去10年に比べてやや早く、飛散量は昨春の2倍程度と多くなる見通しだ。
 委員会では、1月の平均気温やスギの花粉が休眠時期に入ったあとの11月の気温の推移などから、飛散開始日の予測を立てている。
 飛散開始を宣言するのは、観測装置のスライドグラス1平方センチあたりに、花粉が1個以上キャッチされる日が二日以上続いた場合だが、今年は週末10日から14日ごろに、飛散が始まるという。過去10年間のデータでは、平均して2月16日ごろあたりだが、今年は若干早まる見通しだ。
 飛散量は昨春と比べると、23区では1.1〜1.5倍、多摩地方では2.2〜3.0倍と多く、それに伴って飛散数が「多い」と予測される日は、23区で39日、多摩地方で42日と過去10年間の平均を上回ると予測される。
 スギの花粉は前の年の夏の気象条件に大きく影響を受け、夏の日照時間が長く気温が高い場合は、雄花が増えて花粉の量が多くなる。また花粉の飛散量が少ない年の翌年も雄花が増える傾向があり、東京都内では昨春の飛散数が比較的少なかった。だが、過去10年の平均値でみると1994年以降、飛散数は2倍以上に増えている。早めの治療や予防対策が重要だ。



<図1:東京都の花粉飛散数の経年変化>


<図2:過去10年平均で見た花粉飛散数の経年変化・・・右肩上がり!>
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どんなときにインフルエンザ性脳症を疑うか?

2018年02月04日 09時01分54秒 | 小児科診療
 インフルエンザが大流行中です。
 それとともに、最重症の合併症であるインフルエンザ性脳症の報告数も増えてきています。

「インフルエンザ脳症、新たに17例、死亡は3例に」(2018年1月29日)

 ではどんなときに脳症を疑い医療機関を受診すべきでしょうか。
 ポイントはやはり「意識障害」の有無。
 しかし、軽度の意識障害は判断が難しい。
 そんな際、私はお母さんに「ふだんと比べてどうですか?変な感じはありますか?」としつこく確認します。
 検査所見では判断できず、親の第六感に助けられたことは、小児科医であればベテランであるほど経験しているはず。

 悩ましいのが熱性けいれん後の意識レベルの評価。
 ボーッとした状態が続くことを希ならず経験します。
 それからけいれん後に眠ってしまった場合は、意識レベルの判断ができません。
 改訂された「インフルエンザ性脳症ガイドライン」では「病院で約1時間様子を見て目覚めないようなら意識障害遷延疑いとして二次/三次病院へ紹介すべきである」と記載されています。

 その「インフルエンザ脳症ガイドライン2018年版案」の解説記事を紹介します。
 登場する森島先生は長らくインフルエンザ性脳症に関わってきた専門家です。
 今は昔の約20年前、インフルエンザ性脳症多発が社会問題になった際に剖検例を集めた検討会が招集され、私も参加した経験があります。そのときの仕切り役も森島先生でした。

※ 下線は私が引きました。

■ インフルエンザ脳症を疑う3つのポイント 〜家族の「普段と違う」は危険信号
2018/2/2:日経メディカル
 インフルエンザの流行拡大に伴い重症例の報告が目立ってきた。中でもインフルエンザ脳症は年末から増加しはじめ、1月半ばで既に55例に上る。今後も増加が懸念されるが、インフルエンザ様疾患の患者が受診した場合に、インフルエンザ脳症を疑うポイントは何なのか――。日本医療研究開発機構(AMED)の研究班で、インフルエンザ脳症ガイドライン2018年版案をまとめた愛知医科大学の森島恒雄氏と奥村彰久氏に聞いた。

―― 感染症法で全数把握疾患となっている急性脳症のうち、原因がインフルエンザであるインフルエンザ脳症の報告が増えています。年末の50週に6件、51週に7件、52週には10件と急増、年明けの1週は9件でしたが、2週には17件と跳ね上がりました。死亡例も3例出ています。

森島 今シーズンは例年にない大流行となっていますから、インフルエンザ脳症のような重症例も増えることが懸念されます。

―― インフルエンザ様疾患の患者が受診した際、どのような症状があったらインフルエンザ脳症を疑うべきなのでしょうか。

森島 今回、小児神経外科医を中心メンバーに、9年ぶりに改訂したインフルエンザ脳症ガイドライン2018年版の案では、これまで同様、インフルエンザ罹患時に何らかの神経症状を伴って一次医療機関を受診した症例を想定して、どのような場合に「二次・三次医療機関への紹介」の適応となるのかを示しています。2018年版案では、症候群分類、特殊治療、リハビリテーションの3項目を中心に内容を拡充しました。脳症を疑った場合の初期対応など、基本的なところは前のガイドライン(2009年版)と変わっていません。

―― 疑い例はインフルエンザの診断が前提となるということですか。

森島 ガイドラインでは、インフルエンザの診断は「インフルエンザ抗原検査(いわゆる迅速診断キット)陽性」を基本としています。もちろん、インフルエンザ発症初期には抗原検査がしばしば陰性を示すことがありますから、周囲の流行状況や急な高熱などの臨床症状をもとに暫定的に診断することもあり得ます。その場合は、「抗原検査の再検査やPCR法ウイルス分離などにより、診断を確定することが望ましい」としています。

―― 何らかの神経症状とは、具体的にどのようなものでしょうか。

森島 インフルエンザ関連脳症の主な初発神経症状として、意識障害、けいれん、異常言動・行動が挙げられます。インフルエンザにこれらの神経症状を合併して一次医療機関を受診した場合の初期対応については、図1にまとめています。

図1 インフルエンザ脳症が疑われる症例の初期対応(インフルエンザ脳症ガイドライン2018年版案から。図2、3、表1~3も)


◇ 家族の「普段と違う」は危険信号

―― 意識障害がある場合は、「二次または三次医療機関へ紹介する」というフローになっています。

森島 意識障害は、インフルエンザ脳症の神経症状の中で最も重要なものです。「インフルエンザ罹患時に明らかな意識障害が見られる場合は、速やかに二次または三次医療機関へ紹介する」というのが基本です。例えば軽度の意識障害は、診断が容易でない場合があり得ます。その場合も含めて、意識が清明であるという確信が持てない場合は二次または三次医療機関へ紹介することを考慮する、となっています。軽度の意識障害でも、家族が「普段と違う」と話すことがあります。これを重要な危険信号と捉えて、脳症を疑ってみることが必要です。
 意識レベルの判定法を表1~3に示しました。わが国では Japan Coma Scale が広く用いられています。Japan Coma Scaleは多くの医療従事者が知っており、理解もしやすいのです。一方、近年は Glasgow Coma Scale が用いられることが多くなっています。その乳幼児用改訂版も知られています。実際には、使い慣れているものを使用すればよいと思います。

表1 Japan Coma Scale


表2 乳幼児の意識レベル判定法


表3 Glasgow Coma Scale


◇ けいれんも初発神経症状の1つ

―― けいれんも初発神経症状の1つに挙がっています。

森島 インフルエンザ罹患時にけいれんを認めた場合、熱性けいれんの分類に準じて単純型・複雑型(複合型)に分けて、それぞれについて対応を示しました。

―― 単純型けいれんにはどういう特徴がありますか。

森島 単純型とは、
(1)持続時間が15分以内
(2)繰り返しがない
(3)左右対称のけいれん
――を指します。単純型の場合、来院時に意識障害がなければ経過観察でよいのですが、しばしばpostictal sleep(発作後の睡眠)の状態で来院することがあります。この場合は、意識の回復が確認できるまで病院内で様子を観察することが必要です。患児が覚醒し意識障害がないことが確認されれば経過観察としてよいのですが、概ね1時間以上覚醒が見られなければ、二次または三次医療機関へ紹介します。なお「1時間」はあくまで目安であり、紹介の判断は担当医に委ねられています。

 経過観察の途中で明らかな意識障害が認められた場合や意識障害の増悪が見られた時は、速やかに二次または三次医療機関に紹介するのが基本です。

 また、けいれんに異常言動・行動が合併する場合には、単純型であっても「二次または三次医療機関に紹介する」の適応となります。

―― 複雑型の場合はどうなりますか。

森島 複雑型とは、持続時間の長いけいれん、繰り返すけいれん、左右非対称のけいれんなど、単純型以外のけいれんを指します。インフルエンザに伴って複雑型けいれんを認めた場合は、脳症との鑑別が困難なことがあるため、意識障害の有無に関わらず、二次または三次医療機関へ紹介することになります。また、インフルエンザ罹患時には、年長児でも熱性けいれんをおこしやすくなるため、ガイドラインでは「患児の年齢」を複雑型けいれんの判断項目としていません

 なお、インフルエンザ脳症に伴うけいれんでは、最も注意すべきはけいれん後の意識障害です。本質的には熱性けいれんとは異なる点に留意すべきです。

―― 異常言動・行動が伴う場合も脳症を疑うのでしょうか。

森島 インフルエンザ脳症の初期には、異常言動・行動がしばしば認められます。このため、熱せん妄、脳症へ進展しない異常言動・行動との鑑別が必要となります。

 図1では、インフルエンザに伴い異常言動・行動が認められた場合、
(1)連続ないし断続的に概ね1時間以上続くもの
(2)意識状態が明らかに悪いか悪化するもの
―を二次または三次医療機関へ紹介する適応としています。一方で、異常言動の間歇期には意識障害を認めないもの、または異常言動・行動が短時間で消失する場合は、経過観察の適応としました。「1時間」もあくまで目安であり、紹介の判断は担当医に委ねられます。
 また、けいれんで指摘した通り、異常言動・行動とけいれんが合併した場合は、二次または三次医療機関に紹介する適応となります。ガイドラインに異常言動・行動の例を示していますので参考にしてください(インフルエンザ脳症ガイドライン2009年版、この部分は2018年版案でも踏襲している)。
 ここまで見てきた一次医療機関の初期対応では、オーバートリアージになることがあり得ます。しかし、インフルエンザ脳症の重症度と、早期診断・早期治療により予後を改善できる可能性から、やむを得ないと考えます。この点をご理解いただければと思います。

―― 奥村先生にうかがいます。インフルエンザ脳症の疑いとして紹介を受けた医療機関での対応はどうなりますか。

奥村  インフルエンザ脳症の診断指針(図2)としてまとめています。

図2 インフルエンザ脳症の診断指針


 図2は、来院時から診断・治療開始に至るまでの流れを示したものです。森島先生が指摘していたように、インフルエンザ脳症では、意識障害が診断において最も重要です。頭部CTや頭部MRIも診断に有用であり、可能であれば速やかに施行されることが望ましい検査です。脳波については、時間外(夜間)に施行できる施設に限られますから、別項(その他の検査)で扱っています。また、血液・尿検査の異常はインフルエンザ脳症ではしばしば認められるものです。ただし、神経所見・頭部CT・MRI所見と併せた評価が必要であるため、これらの検査も別項(その他の検査)としています。

―― 二次、三次の医療現場では、この指針をもとに診断するのですか。

奥村  このフローチャートによって、急性の経過をたどる脳症を早期に診断できます。しかし、二相性経過をたどる脳症(けいれん重積型[二相性]急性脳症[AESD])では、第1~3病日に意識レベルがいったん回復することが多いため、この指針による早期診断はしばしば困難です。

―― 他の疾患と鑑別することが明記されています。

奥村  意識障害を来たす他の疾患と鑑別することが重要です。特に、中枢神経系感染症(細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎など)、代謝異常症(糖尿病性昏睡、低Ca血症、尿素回路異常、有機酸・脂肪酸代謝異常)など、小児期に好発する疾患には注意が必要となります。インフルエンザ脳症の鑑別診断については、ガイドラインにリストを掲載しています(インフルエンザ脳症ガイドライン2009年版、この部分は2018年版案でも踏襲している)。
 なお、急性脳炎(感染症が関与すると思われる急性脳症を含む)は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で、全数調査の対象(五類感染症)となっています。診断した医師は7日以内に地域の保健所長に届け出る義務があります。

―― インフルエンザ脳症の治療の実際について、ご解説ください。

奥村  ガイドラインではインフルエンザ脳症の治療指針も示しています。インフルエンザ脳症治療の概略は概念図(図3)の通りです。

図3 インフルエンザ脳症治療の概念図


 治療指針は、患者の治療を行う医療担当者をサポートし、治療の成功に資することを目的として作成したものです。最終的に患者の予後を改善することが目標です。しかし、実際の医療現場では、この指針の内容が実施困難な場合もあるだろうし、一方では別のアプローチもあり得るでしょう。こうした現場の判断に方向性やヒントを与える意味で大きな助けとなることがこの指針の目的です。決して、実際に患者の治療を行う医療者の選択肢を縛るものではないのです。

―― 指針が示している治療法とは。

奥村  インフルエンザ脳症は、発症が急激で、症状の進行も早いのです。治療指針ではインフルエンザ脳症と診断される前の段階から十分な支持療法を行うことを、大きな柱としています。この中には PALS2015に基づいた 全身管理、けいれん重積状態への対処、体温管理、脳圧亢進の対処、搬送が含まれています。
 意識障害の遷延、脳波や画像検査の異常に基づいて脳症が確定、あるいは脳症の疑いと診断された段階で、特異的治療を考慮します。抗ウイルス薬には脳症自体への治療効果、ないし予防効果は証明されていないのですが、インフルエンザの病状が早期に改善することを介しての効果が期待されます。
 脳症は入院管理が原則であるので、異常行動が生じても対応が可能です。
 ガンマグロブリン大量療法は広く施行されており、川崎病などの診療で小児科医が習熟していますので、特異的治療として採用しています。
 メチルプレドニソロン大量療法(パルス療法)は比較的簡便に施行でき、早期に施行するほど有効性が期待できるとされています。副作用も限定的で小児科医の経験も少なくないため、疑い例で施行できる主要な特異的治療としました。
 特殊療法としては脳低体温療法、血漿交換療法、シクロスポリン療法、アンチトロンビンIII大量療法が初版で提示されました。これらの治療については、明らかなエビデンスを得ることは困難な状況です。施行にあたって経験や環境を要するのも事実です。また、必ずしも一律に推奨できるものではありませんが、フリーラジカル消去作用を期待したエダラボンも、採用しています。ガイドライン2018案では、これらに加え、脳平温療法、NMDA受容体拮抗薬、ミトコンドリアカクテル、トロンボモジュリンも記載しています。

―― 治療指針の概念図にはリハビリテーションも含まれています。

奥村  今回の改訂で拡充された部分です。インフルエンザ脳症の予後は、我々の研究初期には急性期死亡例が30%、後遺症例が25%でした。その後少しずつ予後が改善しています。身体障害を残さない例が多いですが、残した例では四肢麻痺が多いという特徴があります。また、精神障害としては、知的障害、てんかん、高次脳機能障害が多いのですが、症状の種類、程度はさまざまです。
 インフルエンザ脳症後遺症に対するリハビリテーションは、他の原因による急性脳症・脳炎後遺症のリハビリテーションと基本方針は同じです。また脳性麻痺などのリハビリテーションと共通する点が多いのです。
 インフルエンザ脳症におけるグリーフケアについても取り上げています。医療体制の整備にもかかわらず、不幸にしてインフルエンザ脳症で亡くなる子どもたちが、少なからず存在するからです。

―― 改訂されたインフルエンザ脳症ガイドライン2018は、いつごろ発行されますか。

奥村  パブリックコメントなどの手続きを経てからですので、今後1カ月ほどで発行できると思います。
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1回飲むだけのインフル新薬「ゾフルーザ®」が登場予定(2018年5月?)

2018年02月04日 08時43分56秒 | 小児科診療
 日本全国、インフルエンザ大流行中のさなかに、少し明るい話題です。
 1回のみ内服する抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ®」の登場。
 1回で終了、という点では吸入剤のイナビル®が現時点でもありますが、内服は朝晩5日間服用するタミフル®しかありませんでした。
 さらに、タミフル®/リレンザ®/イナビル®/ラピアクタ®はすべて作用機序が同じですが、ゾフルーザ®は作用機序が異なることが注目すべき新しい点です。
 未定ではあるものの、今まで考えられなかった“併用”も考慮されるかもしれませんね。

■ 1回飲むだけのインフル新薬、5月に発売へ
2018年02月02日: 朝日新聞
 1回飲むだけの新たなインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」が5月にも発売される見通しになった。ウイルスの増殖を抑えるこれまでになかったタイプ。塩野義製薬が開発した。従来の薬に耐性を持ち、効きにくくなった人にも効果が期待される。
 厚生労働省の部会が2日、製造販売を了承した。順調にいけば3月に承認され、5月にも薬価が決まり発売される。
 A型、B型のインフルエンザウイルス感染症が対象。年齢や体重によって異なる量の錠剤を1回飲む。成人の場合、1日2回、5日間飲み続けるタミフルなどと比べて使いやすいのが特徴だ。塩野義製薬によると、既存薬よりも他人にウイルスを感染させるリスクを減らせると期待される。
 国内でよく使われるタミフルなどの4種のインフル薬は、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に広がるのを抑える。このタイプの薬が効かない耐性ウイルスが流行した時に、ゾフルーザは効果を発揮しそうだ。
 10年前には、欧州でタミフルに耐性のあるウイルスが登場し世界中に広まった。4年前には、札幌市内の患者から、タミフルなどが効きにくいウイルスが検出された。国や自治体は、従来薬に耐性をもつウイルスの調査を続けている。
 ゾフルーザは、有望な薬を早く実用化するために優先的に審査する、先駆け審査指定制度の対象になっている。



 2017年の記事には、薬剤名はまだ出ていませんが、作用機序の説明が載っていました;


■ 来シーズンには新機序の抗インフル薬登場
2017/12/17:日経メディカル



 キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬として塩野義製薬が今年10月に販売承認を申請したS-033188は経口の単回投与で、インフルエンザウイルスのmRNAの合成開始を阻害しウイルス増殖に必要な蛋白産生を抑制する。第3相臨床試験(CAPSTONE-1)の結果として2017年9月14日に公表された成績(第6回欧州インフルエンザ科学ワーキンググループ会議)によると、
(1)インフルエンザ罹病期間はプラセボの80.2時間に対し、S-033188では53.7時間に有意に短縮(P<0.0001、オセルタミビルとほぼ同程度)
(2)インフルエンザウイルス力価やウイルス排出期間はプラセボ群やオセルタミビル群よりも有意に減少、短縮
(3)平熱に復するまでの時間はプラセボ群の42.0時間に対して24.5時間と有意に短縮
(4)薬剤関連が疑われる有害事象の発生頻度はオセルタミビルよりも有意に低かった。
 本剤は、厚生労働省が先駆け審査制度対象品目に指定しているため、日本では来シーズン前に実用化すると予想される。来シーズン以降、インフルエンザ治療に大きな変革が起きる可能性が高い。



■ 「ポスト・タミフル」のインフルエンザ新薬 塩野義製薬が開発
2017.11.15:産経新聞
 パンデミック(世界的大流行)や、場合によって人の命を脅かすこともあるリスクのあるインフルエンザを1回の服用で治療できる、画期的な薬の承認申請が先月末、行われた。クスリの街、大阪・道修町に本社を置く塩野義製薬が研究開発を続けてきた新薬だ。順調に審査が進めば、来春にも厚生労働省に承認され、来シーズンの流行には販売が間に合う見通しで、その後、世界展開も視野に入れる。日本で生み出された新薬が、世界を代表するインフルエンザ治療薬になる可能性もある。(安田奈緒美)

◇ 治療を変える
 「現在、ハイリスク患者さんへの治験(臨床試験)も実施中で、今、治療薬を使っていない患者さんにも使用が拡大していく可能性がある」
 10月末に行われた塩野義製薬の平成29年9月連結中間決算発表で、手代木功社長は、新薬が発売されれば、その利便性や効果、安全性からインフルエンザ治療自体が変わる可能性を、手応えを持って指摘した。
 インフルエンザの治療薬といえば経口で1日2回5日間投与する「タミフル」が有名。ほかにも国内では、吸入型の「イナビル」や「リレンザ」、点滴の「ラピアクタ」の販売が承認されている。
 これらに共通する薬のメカニズムは、体内の細胞で増殖したインフルエンザウイルスが細胞外に放出されるのを阻害して、感染の拡大を防ぐというもの。ウイルスの増殖自体は抑えられないため、感染防止のために5日ほど外出は控える必要がある。



 これに対し、塩野義の新薬は全く異なる仕組みを持つ。細胞内でのウイルス増殖そのものを抑えてしまおうという仕組みで、これが1回の服用で治療できるという特徴の要因。ウイルス量が早く減るので、他人へ感染する可能性も低くなることが期待されている。

◇ パンデミックの懸念
 もともと、塩野義製薬は平成22年から、「ラピアクタ」を販売している。米製薬会社が開発した、このラピアクタの日本国内での販売承認を取得する過程で、「より効果の強い抗インフルエンザ薬が必要」と感じたのが、新薬開発のきっかけだったと振り返るのは医薬研究本部の山野佳則氏。医療現場では、インフルエンザのパンデミックや、タミフル耐性菌の蔓延(まんえん)への懸念が広まっていることを実感したからだ。
 そこでイメージしたのは、「短期間で患者の体内からウイルスを消失させること」。新しいメカニズムの薬の実現のために数十万もの化合物を調べ、開発の開始から承認申請まで10年以上を必要とした。

◇ 新しい基幹商品
 「グローバルで1ビリオンになれば」。手代木社長は、現在承認申請中の新インフルエンザ薬の将来的な売り上げ規模について世界で10億ドル(約1140億円)との見通しを示した。
 実は塩野義は昨年から今年にかけて、これまで成長を支えてきた高脂血症治療薬「クレストール」の特許切れを国内外で迎えている。その中で、新しいインフルエンザ薬は、売り上げ面で、クレストールの特許切れによる減少分を補うのには「十分すぎる」(手代木社長)と期待され、同社の新しい基幹商品にしていくもくろみだ。
 一方、世界での展開については、日本と台湾を除く全世界での開発で提携するスイスのロシュと、報酬額や支払時期など契約内容について、このほど見直しが行われた。臨床試験の良好な結果により、製品化の実現も見えてきたことを受けての前向きな契約変更だ。
 ロシュは「タミフル」を製造販売する世界的製薬企業。この契約変更はロシュ側の「やる気」を感じさせるものとして、塩野義がこれから進めるインフルエンザ新治療薬の世界展開への大きな弾みになる。
 インフルエンザは、人の命を明日、奪ってしまうかもしれないリスクのある感染症だ。日本発の新薬が、その脅威に敢然と立ち向かう日が近づいている。
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大人がインフルエンザに罹ったら、会社を休むべし。

2018年02月02日 13時31分59秒 | 小児科診療
 子どもには「学校保健安全法」という法律により、インフルエンザに罹ったら「隔離期間( 出席停止期間)」を守って休むルールが決められています。
★ 「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」

 しかし大人にはこのようなルールは存在せず、各会社で対応がバラバラです。
 どう考えるべきなのか・・・弁護士さんの意見を紹介します。

■ 「同期に遅れたくない」インフルなのに黙って出社、バレたら処分を受ける?
2018/2/2:弁護士ドットコム
 インフルエンザと診断されたけど、同期に差をつけられたくないから出社したいーー。インターネット上のQ&Aサイトにこのような相談がありました。
 相談者は新卒社員。インフルエンザと診断されてしまいましたが、「同期に遅れをとりたくない」と出社を考えています。
 「休んだ後出社したら、同期がバリバリ働いていた、なんてことになっていたら悔しい」、「マスクとかで隠したら、インフルエンザだってバレないのでは?」とこっそり出勤しようとしています。
 インフルエンザだと診断され、医師に出勤しないように言われたにも関わらず、勝手に出社したことが発覚した場合、会社から処分を受ける可能性はあるのでしょうか。近藤暁弁護士に聞きました。

●懲戒処分が有効となる3つの要件
 そもそも、会社の懲戒処分はどのような場合に有効になるのでしょうか。

(1)『使用者が労働者を懲戒することができる場合』で、
(2)その懲戒処分に『客観的に合理的な理由』があり、
(3)『社会通念上相当』と認められること
ーが必要です(労働契約法15条)。
 そして、(1)『使用者が労働者を懲戒することができる場合』という要件との関係では、懲戒事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則で明記されていることが必要です。今回のケースとの関係では、懲戒事由として、就業規則にどのような根拠規定が設けられているのかを確認する必要があります」

●就業規則に規定されている場合が多い
 実際は、どのような規定が設けられている場合が一般的なのでしょうか。
「就業規則には、病者の就業禁止や報告義務等が規定されている場合が多いでしょう。例えば、
『会社は、病毒伝播のおそれのある伝染性の疾病(新型インフルエンザおよびその疑いを含む。)に感染した従業員については、就業を禁止する』、
『従業員は、伝染病の疾病(新型インフルエンザおよびその疑いを含む。)に感染した場合またはその疑いがある場合、直ちに所属長に報告しなければならない』
ーといった規定です。
 また、懲戒事由として『就業規則に違反する行為があったとき』などと定められていることでしょう」

●インフルエンザで出勤すると懲戒処分を受ける可能性も
 では、インフルエンザで出勤すると、処分が有効になるのでしょうか。
「先ほど説明したような懲戒事由が定められている場合、今回のケースは、就業規則に定められた懲戒事由に該当することになり、(2)懲戒処分に『客観的に合理的な理由』があるといえるでしょう。
 ただ、懲戒処分は、(3)『社会通念上相当』であることも求められます。そのため、懲戒処分の種類・程度が重すぎるような場合には、懲戒処分が無効となることもあります」
 インフルエンザでの出勤が発覚すると、「同期に遅れをとる」どころではない話になってしまう可能性があるだけに、医師の診断にしたがって、しっかり休養すべきでしょうね。


 わかったような、わからないような・・・。
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“痛い”インフルエンザ検査はやり方が悪い?

2018年02月01日 20時16分29秒 | 小児科診療
 冬は、熱が出る度にインフルエンザ迅速検査を受けることになる、子どもにとっては「魔の季節」。
 「鼻グリグリ」がトラウマになり診察中ずっと泣いている子どもや、逃げ回って暴れる子どもも見かけます。
 インフルエンザ迅速検査には“コツ”があると思われ、私なりの工夫を紹介してみます。

 まず、当院では迅速検査キットを3種類用意しています。
スポットケムIL(アークレイ社)・・・6人分一度に検査できて、機械が自動判定してくれる優れもの
クリアビュー Influenza A/B(三和化学研究所)・・・「鼻腔ぬぐい液」だけではなく「咽頭ぬぐい液」や「鼻かみ液」も検体として使用可能。
イムノトラップ インフルエンザA・B(富士フイルム/和光純薬株式会社)・・・なんと1分で判定可能(!)でも検査結果の判定が見にくくて微妙。

 一番痛くない方法が「鼻かみ液」なので、これを優先的に使えばいい、という意見もありましたが、十分取れないこともありますし、同じ検査キットで上咽頭ぬぐい液と比較すると、陽性でもラインがうすく出る印象があり、やはり粘膜を擦る方がベターだと思います。

 2015年時点で販売されているインフルエンザ迅速診断キットの一覧表を見つけました。た、たくさんありますねえ。
 実際に小児科医が使用しているキットのランキングを見つけました。



 ムムッ、当院採用の検査キットは少数派ですね。
 メインで使用しているスポットケムに至っては、なんとゼロ。

 まあいいか。

 それから、綿棒も複数用意しています。
 小学生以上は木製の細くてまっすぐの綿棒、乳幼児には、プラスチック製でさらに細くしなるタイプの綿棒を使っています。
 これらを駆使して、その子に最適の方法を選択しています。
 「インフルエンザ迅速検査が痛いのはやり方が悪いからである」という気になる記事を見つけましたので紹介します。

■ インフルエンザは「診断必須」、感染防止の視点で
2017年11月30日:m3.com)より抜粋
◇ 鼻腔拭い液採取のコツは「鼻腔底をはわせる」
 インフルエンザの迅速診断検査が痛いのは、やり方に問題がある場合もあります。鼻腔拭い液の採り方を間違えている医師も多いのではないでしょうか。
 インフルエンザの迅速検査では、鼻腔の奥に長い綿棒を挿入し、鼻咽頭拭い液を採取します。粘膜に触るので、違和感やちょっとした痛みはあるかもしれませんが、コツを押さえれば「飛び上がるような激痛」とはなりません。


(廣津氏提供)

 鼻腔拭い液を採取するコツは、鼻腔底に沿って抵抗を避けながら時間をかけてゆっくりスワブを進めることです。スワブを軽く持ち、鼻腔開口部を少し押し上げるようにして、鼻腔底をはわせるようにゆっくり進めて、抵抗があれば一旦スワブを少し後退させ再び前進します。抵抗が強いようであれば、反対の鼻腔で試みるとうまくいく場合が多いようです。

◇ 「陽性が出ない」原因は心意気と粘り不足?
 もう一つ、インフルエンザの迅速検査には「発症すぐだと陽性が出ない」と誤解されているという問題があります。実際には検体がきちんと採れていないから偽陰性という場合があるのではないかと思っています。
 インフルエンザを疑って検査するのであれば、絶対に鼻腔の奥から鼻汁を採らなければなりません。
 確かに、インフルエンザの発症初期はまだ鼻汁が出ていない場合が多いのですが、その段階でも、スワブを奥まで入れた状態で数十秒置けば、その刺激で鼻汁が分泌されてきます。分泌されるまで待って、そっと抜きます。そして、スワブ全体に鼻汁が染みて、表面が粘液で十分潤っていることを確認します。スワブ全体に染み渡っていなければもう1回試みます。このしつこさ(粘り強さ)も大切です。



 記事の中で「スワブ(=綿棒)を奥まで入れた状態で数十秒置く」とありますが、これは小児科では無理ですね。

 綿棒を先に進める方向は、確かに大切です。
 TVで紹介される例では、たまに綿棒を上向きに進めていることが医師を見かけますが、あれはまずい。
 解剖学的には咽頭後壁をなぞる検査ですので、綿棒の先は水平に進めなければなりません。
 結構奥まで入り、中学生以上では10cmくらい入ることもあります。

 痛いのは、綿棒を進める途中で鼻粘膜を擦ってしまうため。
 人間の鼻中隔(右の鼻と左の鼻の間の仕切り)はたいてい曲がっていてどちらかに偏っています。
 そのために狭くなった方の鼻腔に無理矢理押し込むと、痛くてたまりません。
 ちょっとでも抵抗を感じたら、もう一方の鼻でトライするのが痛みを回避するコツだと思います。

 困るのが、通年性アレルギー性鼻炎で鼻粘膜がパンパンに腫れて狭くなっている患者さん。
 どちらの鼻を選択しても狭いため、痛みを避けることが出来ません。
 重症例では鼻の穴が閉塞して(いつも口呼吸)綿棒が入らない。
 このようなときは、喉から綿棒を入れて上咽頭壁をぬぐう方法を選択します。
 それから、アレルギー性鼻炎がらみで鼻血が出やすい患者さんも鼻を避けるようにしています。

 以上、当院での迅速検査の裏事情を紹介しました。
 参考になれば幸いです。
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インフルエンザで「早めの受診」は間違い?

2018年02月01日 08時17分20秒 | 小児科診療
 「インフルエンザが疑われたら早めに医療機関を受診して検査を受けましょう」とインフルエンザ専門家が発言したことが医師の間で話題になっています。

■ インフル対策、手洗いやマスクで徹底 症状あれば受診を
2018年01月26日:朝日新聞
 インフルエンザは、主にせきやくしゃみのしぶきを通して感染する。厚生労働省は、予防法として外出後の手洗いのほか、マスクの着用、人混みや繁華街への外出を控えるなどの対策を呼びかけている。
 高齢者や持病がある人は重症化しやすいので特に注意が必要だ。症状がある場合は、学校や職場に行かず、早めに医療機関を受診することが大事となる。
 今季はA型とB型がともに流行しているため、同時期に複数回、インフルエンザに感染する恐れもある。一度感染して快復しても、対策を怠らないようにしないといけない。
 大人の場合、B型はA型と比べると熱が低いため、インフルエンザと思わずに外出して感染を広げる恐れがあるという。けいゆう病院の菅谷憲夫医師は「微熱でも症状が出たら医療機関を受診して検査を受けてほしい」と話している。


 その主旨は「早めに受診しても診断できないので、感染拡大防止という視点では、重症者以外は自宅待機の方がよいのではないか?」という考えです。
 下記記事を読んで、皆さんはどう思われますか?
※ 下線は私が引きました。

■ インフルエンザで「早めの受診」は間違いです!
 つくば市 坂根Mクリニック 坂根みち子
医療ガバナンス学会 :2018年1月31日
 インフルエンザが猛威を振るっています。1月15日からの1週間で全国の医療機関を受診したインフルエンザの患者は過去最高の283万人だそうです。
 日本ではインフルエンザが疑われたらで早めの受診を呼びかけますが、これは間違いです。息が苦しいとか、意識がおかしいとかではない限り、基本は家で寝て自力で治してください。
 医療機関にフリーアクセスが出来る日本で、うつりやすい感染疾患の軽症者が医療機関に殺到したらどうなるか想像がつくでしょう。過去最高の患者が発生している中で、医療現場では、その心配が現実のものとなっています。
 考えてみてください。生きるか死ぬかの疾患で救急搬送してもらうとき、大抵の医療機関も救急搬送自体も軽症のインフルエンザ患者に人手と時間が取られ、重症者への対応の障害となっているのです。また自己免疫疾患やがん患者等、インフルエンザを恐れながら暮らしている人達が、通常の治療ために医療機関に行くことで感染のリスクにさらされるのです。自分や家族がそんな状態だったら、どうでしょうか?
 私たちがどちらを優先すべきか明らかでしょう。

 国の方針がまず間違っています。
 厚労省と首相官邸のホームページには次のように記載されています。

(厚労省) 
Q.インフルエンザにかかったらどうすればよいのですか?
(1) 具合が悪ければ早めに医療機関を受診しましょう。
(首相官邸ホームページ)
 発症から48時間以内に抗インフルエンザウイルス薬の服用を開始すれば、発熱期間の短縮などの効果が期待できます。早めに医療機関を受診し、処方された薬は医師の指示に従って服用しましょう。


 厚労省も首相官邸も医療資源には限りがあるということをご存知ないのでしょうか。このような広報の仕方でどうやって国全体としての感染拡大を防げるというのでしょうか?
 インフルエンザの大流行を受けて、1月26日には、なんと加藤勝信厚労大臣が「早めの受診」を呼びかけていました。厚労省担当者はいったいどのようなブリーフィングを大臣にしているのでしょうか?
 インフルエンザが疑われるとき、国やメディアがすることは、早めの受診を促すのではなく、基本は自宅療養だと伝えることです。

 そもそも、熱が出たり節々が痛かったりしているということは、体内に何かしらのウイルスが入って戦っているということです。でもそのウイルスがインフルエンザなのか、ただの風邪なのかは私たち医療者でもわかりません。(他に細菌感染のこともあります)
 軽症者はいずれにせよ特別な治療が必要なわけではないので、診断を確定させる必要もないのです。医療機関はこの時期、診断を付けてほしい人や軽症の受診者の対応に追われます。
 昨日からのどが痛いけれどインフルエンザではないか検査してほしいと来院されることも多いのですが、迅速検査の診断は陽性の時はインフルエンザであると確定出来ますが、陰性の時は、インフルエンザではないとは言えないのです。インフルエンザは軽い感染で済むことや熱の出ないこともよくあります。その人達に迅速検査しても陽性になることは希です会社や学校は、病院へ行ってインフルエンザかどうか検査してくるように、というのは止めましょう。迅速検査で診断出来る頻度はそう高くないですし、検査が受けられる条件があります。検査を繰り返す人もいますが、迅速検査で陽性になるのを待っているうちにどんどん周囲の人にうつしてしまいます。(どうしても検査したい人のためには、迅速検査はもっと簡便なキットで市販されるのを期待します。)
 医療機関は、本来は諸外国のように肺炎や脳症等合併症が疑われる人に絞り込んで対応させていただきたいのです。

 医療機関のスタッフがインフルエンザをうつされてしまう例も後を絶ちません。現場は更に少ない人数で対応しなければならなくなっています。当院でもある人数までは、受付でトリアージし、感染症の人は隔離し対応出来ますが、キャパシティを越えて患者が殺到した時は、感染症の人も感染しやすい持病のある人も待合室で一緒に待って頂くしかなくなります。さらに問診も診察も説明も不十分となり、見落としのリスクも上がります。これはどこの医療機関でも同じです。千葉のある診療所では、休日の来院患者数が半日で200人を超え、これを医師一人で対応していました。限界を越えた診療は、患者にとってデメリットが大きいだけでなく確実に前線の医療者を疲弊させます。後方支援(広報支援でもありますね)なく、このような状況が続けばどうなるか、厚労省の担当者や大臣には是非一度現場を見て頂くことをお勧めします。

 医療機関がパンクしないよう、重い疾患で通院中の患者さんが安全に治療を受けられるよう、軽い症状の人は自宅待機で治してください。基本は保湿と休養、熱や頭痛が辛ければ、市販の小児用バファリンやタイレノール(アセトアミノフェン)を使ってください。麻黄湯や葛根湯もいいようです。抗ウイルス薬は、発症後48時間以内の人は使えますが、軽症者には必要ありません抗ウイルス薬を使っても回復までの時間は半日ほどしか短縮しないと言われています。家は加湿し、他の人に感染させないようにマスクをして、人とのやり取りはアルコール消毒した手でしてください。熱が出た人は、解熱後48時間まで登校や出社は避けてください。(解熱剤は飲んで結構ですが、解熱剤を飲んで下がったのは解熱した時間に含めないでください) 熱が出ず体調が悪いだけの人は症状が回復するまで自宅療養してください。最近の研究では、インフルエンザが空気感染する可能性に言及していますが(1)、そこでも、自宅待機(stay home)とワクチンを打っておくことを勧めています。実際、よりたくさんの人がワクチン接種を受けていれば「集団免疫」で助かる命も多いのです(2)。

 今後感染症との闘いは、更に過酷なものになっていきます。
 これが致死性の高い新型インフルエンザウイルスならどういうことになるか、想像してみてください。まず「疑わしい人は自宅待機」を徹底させないと、今のように「早めの受診」を勧めていては会社でも学校でも医療機関でもあっという間に感染が広がります。各組織は誰かのお墨付きを待つのはなく自らの判断で休むという体勢を整えないと、今後予想されるパンデミックで壊滅的な被害が出るでしょう。
 それは取りも直さず、組織として不可欠なリスク管理でもあります。

 日本の医療システムは「お互い様」と言う意識で支え合わないとこれ以上持ちません。しわ寄せは本当に医療が必要な人に医療が届かない、という形で現れます。
 今こそ、メディアは本当の専門家の声を聞き、諸外国の例もしっかり取材して、早めの医療機関受診は方針として間違っていると、その中でどういった人が病院に行く必要があるのか(喘息持ちの人、免疫が落ちる持病のある人、妊婦、呼吸困難や意識障害のある人など)を正しく伝えてください。国民の受診行動を変えるためにメディアが果たす役割は大きいのです。

<参考>
厚労省HP
首相官邸HP

(1)Flu study: ‘We found that flu cases contaminated the air around them with infectious virus just by breathing, without coughing or sneezing’
(2)インフルエンザ大流行。日本から失われた「集団免疫」とは?



 「インフルエンザウイルス vs. 人類」の闘いは、今のところインフルエンザに軍配が上がり、人類は負けっ放しと認めざるを得ません。
 上記記事の提案は「医療機関に殺到することにより医療機関の疲弊・麻痺状態を回避する」のが目的です。
 学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖の目的も流行阻止ですが、究極には医療機関の麻痺を回避すること。
 これは2009年の新型インフルエンザ流行時に痛感しました。
 学級閉鎖でいったん流行が収まっても、まだ感染していない生徒が残っていると、第二波・第三波の流行が襲ってきて全員が感染するまで終わらないのです。

 では流行を征圧するために、人類にできるベストのことは何か?
 それはワクチンによる予防です。
 ご存じの通り、インフルエンザワクチンの効果は他のワクチンに比べると低いことは否めません。
 しかし、繰り返し繰り返し取り上げてきましたが、間接予防効果(集団免疫)というメリットがあります。
 これは個人の努力に依存するのではなく、コミュニティとして、国単位で取り組むべき対象です。

 小児科医同士の議論で気になっていることがあります。
 「早めに受診しても意味がない」
 「治癒証明証には意味がない」
 とつぶやく医師には、ワクチン消極派が多い印象があるのです。

 インフルエンザについては、医師の間でも混乱があります。
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