徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

英国の大胆さと慎重さ〜子どもへの新型コロナワクチン接種に関して〜

2021年08月05日 14時59分33秒 | 小児科診療
前項目で「英国はハイリスク・ハイリターンを選択した」と、その大胆さについて書きました。

しかし一方で、本日その慎重さがうかがわれる記事を目にしました。
それは「16-17歳対象に新型コロナワクチン接種開始、ただし1回目のみ
というニュース。

成人の7割に2回接種を済ませている英国ですが、実はまだ小児には認可されたものの実施はされていなかったのです。
この辺は、アメリカの方針に“右に習え”をしている日本とは違います。

ファイザーのワクチンを使用するのですが、現時点ではまだ1回しか許可しません。
2回目の安全性が未確認だから、という根拠です。

さらに驚いたのは「接種に際し親の同意は不要」ということ。
16〜17歳ですよ。
日本ではあり得ないことです。

HPVワクチンについて以前調べた際も、
「英国では本人に説明して同意を得て接種している」
と知り驚いた経験があります。

キチンと性教育をして、
性交渉感染症であるHPVのリスクを知り、
それがガン化するリスクを理解し、
自分で納得してHPVワクチンを受けているのです。

ですから、日本のように、
「やれと言われたから痛い注射をされてひどい目に遭った」
という被害者意識はありません。

今回の新型コロナワクチンもHPVワクチン同様、筋肉注射です。
現時点の情報では、親の同意が必要ですが、本人の同意はあやふやです。
これでいいのでしょうか?


英国、16~17歳へのワクチン接種開始へ
産経新聞:2021/8/5)より抜粋
 英政府の諮問機関「ワクチン・予防接種合同委員会(JCVI)」は4日、全ての16~17歳への新型コロナウイルスワクチンの接種を認めるよう勧告した。英政府はこれまで原則として18歳以上の接種を認めていたが、JCVIの勧告を受け、月内にも接種対象を16歳以上に引き上げる。 
 JCVIが今回、政府に勧めたのは米製薬大手ファイザー製ワクチンの1回目の接種。2回目を認めるかどうかについては今後、改めて通知するとした。英メディアによると、接種に際し親の同意は不要という。 
 若年層への臨床試験(治験)などを経て、ファイザー製の1回目の接種は16~17歳にも安全面で問題がないと判断した。 極めてまれなものの、2回目の接種後に若者の間で心筋炎などの副反応が多くみられるとの報告を受け、2回目の接種についての結論は見送った。 
 英政府によると、3日時点で英国の18歳以上の73・2%が2回の接種を完了した。政府はこれまで重症化リスクの高い家族らと同居している場合などに限り、12~17歳にファイザー製の接種を特別に許可していたが、安全性の検証が十分ではなかったため、成人以外への接種を正式に承認していなかった。 
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英国はハイリスク・ハイリターンを決断、日本はゼロリスク・ハイリターンにこだわる?

2021年08月05日 08時37分59秒 | 小児科診療
インフルエンザワクチン接種が進み、重症者数が低く抑えられていることを根拠にしました。

しかし感染者数は増えており、
「本当に解除しても大丈夫なのか?」という意見も無視できないレベルであります。

私はこう感じました。
「イギリス人はハイリスク・ハイリターンを選択した」
「さすが大航海時代を築いた民族、命を落とすリスクを背負いながらも未知の世界へ旅立つことを選択した祖先の血を引いている」

この方針、日本人には今ひとつ理解できません。
日本人はワクチンに関しては「ゼロリスク・ハイリターン」を求める風潮があります。

「副反応ゼロでないワクチンは許せない!」
とワクチン反対派は声高に叫びます。

ワクチンは医薬品の一つです。
副作用のない医薬品は存在しませんから、ゼロリスクを求めると「使用しない」ことしか選択肢がありません。

新型コロナワクチンでよく話題になるアナフィラキシー(激しいアレルギー反応)、
その頻度は、
(新型コロナワクチン)100万人あたり5人(ファイザー社)、100万人あたり2.8人(モデルナ社)
であり、
(季節性インフルエンザワクチン)100万人あたり1.3人
とインフルワクチンよりやや多いデータですが、確率は0.0005%と非常に希です。

一方、他の医薬品と比較すると、
(ペニシリン系抗菌薬)100万人あたり100〜500人
と一般臨床で使われている抗生物質の100分の1の頻度と低いことがわかります。

というわけで、医薬品の中では副作用が少ない優秀な製品と評価できます。

なお、学童期の食物アレルギーによるアナフィラキシーは1000人に1人と報告されていますから、
(食物アレルギー)100万人あたり1000人
と、新型コロナワクチンの200倍・・・とても多いことがわかります。
ある意味、新型コロナワクチンより食べ物の方がリスクが高いのです。
逆に言うと、食べ物より安全な薬という視点もあります。

さて、ワクチンに「ゼロリスク・ハイリターン」を求めている日本人、
忘れがちな視点があります。
それは「ワクチンを打たないリスク」です。

ワクチンを打たなければ、自然感染するリスクがずっと続きます。
自然感染すると、合併症や後遺症のリスクが発生します。

これらをひっくるめて、
自然感染するよりリスクを減らすことができるワクチンだけが認可される仕組みになっています。

つまり、日本政府が認可されたワクチンは、
「自然感染よりリスクが低い」
と国が保障している医薬品なのです。

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「ワクチン反対!」に垣間見える人間行動の本質

2021年08月01日 08時31分35秒 | 小児科診療
2021.8.1現在、新型コロナ感染拡大が止まらない世界各国では、ワクチンパスポートを導入し、ロックダウンを再度発効しはじめました。
そしてそれに反対するデモが頻発して混乱状態で収拾がつきません。

各国でワクチン未接種者への行動制限に抗議するデモ、10万人超参加
2021/7/25:AFPBB News)より抜粋
【AFP=時事】オーストラリアとフランス、イタリア、ギリシャで24日、新型コロナウイルス対策やワクチン未接種者への行動制限に抗議するデモが行われ、計10万人以上が参加した。警察と衝突も発生した。 
 フランス各地では、エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領が導入した「衛生パス」に抗議するデモが行われ、推定16万人が参加した。警察が一部のデモ参加者に催涙ガスや放水銃を使用する場面もあった。 
 衛生パスは、映画館や美術館、スポーツ施設などへの入場に際し、新型コロナウイルスのワクチン接種を完了しているか検査で陰性だったことを証明するもので、未接種者の行動は大きく制限される。 
 ギリシャの首都アテネでは約5000人がデモに参加し、「私たちの子どもに触れるな」などと書かれたプラカードを掲げていた。 
 イタリアの首都ローマでは、飲食店や映画館などの利用時に提示を義務付ける「グリーンパス」に抗議するデモが行われた。 
 オーストラリアのシドニーでは24日、当局が前日に自宅待機命令を10月まで延長すると示唆したことを受けて抗議デモが行われ、参加者が植木鉢や水入りのボトルを警官隊に投げつけた。

ワクチンを含む感染対策を怠れば、新型コロナ・パンデミックで人類は存亡の危機に立たされることは自明の理なのに、なぜこれほど人々は反対するのでしょう。

先日、「人がワクチンに反対する理由」というネット上の記事を読み、なるほどと思いました。
そこには「ワクチンを接種しても“何も起こらない”ことが成功、何か起こるかとすればそれは“副反応”であり実感できる。つまりワクチン接種には“ごほうび”がなく、一方で弊害が実感できるので、人の感情・行動は“ワクチン反対”に傾きやすい。」という内容の分析が書かれていました。

なるほど。
人は行動に対する報酬があると、その行動に誘導される」という原則。
この原則は、人を動かす管理者や子育てにも応用されています。

経営コンサルタントは、
「スタッフを褒めることにより望ましい行動を促しましょう、褒めることにコストはかかりません。」
と指導します。

育児心理学者は、
「子どもを叱るより、よいところを見つけて褒めましょう」
とアドバイスします。

今ひとつピンとこなかったこれらのコメント、
応用行動分析という分野を知り、私は頷くことができました。

発達障害児の療育を扱う応用行動分析の専門家は、
子どもが望ましい行動をした直後に“ごほうび”(好きなお菓子など)を与えます。
すると子どもは“ごほうび”ほしさに、同じ行動を繰り返します。
そしてそれを繰り返すことにより、
望ましい行動が習慣付いていくことを期待する手法。

「困った行動を消す」のは難しいですが、
「望ましい行動を増やす」ことにより、
「困った行動を減らす」ことは可能、
というスタンスです。

一見、動物の調教に見えてしまう面もありますが、
人間も動物ですから、行動原則は共通なのでしょう。

発達障害児でなくても、ふつうのお子さんの子育てにも応用可能です。
それは、
① 望ましくない行動を叱る
だけではなく、
② 望ましい行動をしたら褒める
ことをひたすら繰り返すこと。

どうですか、皆さん。
①ばかりに終始して、②を忘れがちではありませんか?
「よいことをするのは当たり前」
と云う感じで、褒める習慣はいつの間にか忘れがち。

そう、お子さんが生まれた頃を思い出してみてください。
生まれたばかりの子どもを日々見つめたあの頃、
「今日は初めて笑った」
「今日初めてお座りができた」
「今日初めて・・・」
と何か新しいことができる度に家族で喜んで褒めた時期が誰にもあったはずです。

保護者のスタンスが「叱る<褒める」にシフトすれば、子どもには親が望む行動が増え、いわゆる“いい子”になれるかもしれません。

話を“ワクチン反対”の話題に戻します。

応用行動分析をワクチン反対市民に適用すると、
ワクチンを接種することによる“ごほうび”をたくさん用意すればよいことになります。
「ワクチンパスポート」もそのひとつですね。
アメリカではいろんな景品や、優遇措置を用意している州もあるようです。

しかし、これは小手先のことで、みんなが言うことを聞くとは思えません。

ワクチン接種により得られる最大の“ごほうび”は、新型コロナ流行終息に他ならないと思います。
それを科学的データで示し、粘り強く説明・説得していくことが王道なのでしょう。

ただ、トランプを支持する共和党系のアメリカ国民は科学的データを信じませんから、たちが悪い。また、トランプ支持者は「バイデンのやることにはすべて反対」という子どもが駄々をこねるレベルの人たちもいて、これはもう・・・。
それから、フランス国民は「ワクチンに反対」なのではなく「ワクチン“強制”に反対」している要素が大きく、
自由を制限されることに拒否反応を示しているという国民性が顕著なようです(マクロン大統領に同情します)。

人間って、むずかしい・・・。

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