RSウイルスは乳幼児が罹ると気管支炎になりやすいことで小児科医の間では有名です。一度罹っただけでは終生免疫は得られず、繰り返し感染することによりだんだん軽症化し、学童以降は咳の頑固な風邪、程度で済むようになります。
しかし大人になっても罹るかどうかは、小児科の教科書には書いてありません。近年、生まれたお祝いに会いに来た祖父母から風邪をもらって重症化し、それがRSVだった、という話をたまに耳にします。すると、
「大人もRSVに罹るんだろうか?」
という素朴な疑問が生まれます。
その答えとなるWEB配信レクチャーを見つけました。
「成人RSウイルス感染症」(坂総合病院 高橋洋Dr.)
(ラジオNIKKEI 感染症TODAY)
<ポイント>
・成人もRSVに罹患し、高齢者(とくに基礎疾患のある例)はこじれやすい。
・インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが、全身症状(高熱、倦怠感、筋肉痛など)は軽度。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱と低いため、診断には抗体価の評価が必要。
・高齢者肺炎の中でもRSV陽性肺炎例は重症化しやすい。
・RSV陽性肺炎のうち、健常成人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
以上、健康成人では問題にはなりませんが、高齢者(とくに基礎疾患保有者)では重症化しやすい注意すべき病原体と言えそうです。しかし迅速検査が役に立たないのはやっかいですね。
<メモ>
□ RSV感染症の概要
・接触/飛沫感染
・家族内感染が50%
・潜伏期:3〜5日間
・顕性感染90%以上(不顕性感染<10%)・・・ただし乳幼児のデータ
・流行時期は従来冬季であったが、近年は夏から秋にかけての流行も見られる。
・診断方法:
(小児)抗原迅速検査、
(成人)ペア血清で抗体価測定・・・成人では出現するウイルス量が乳幼児の千分の一と非常に少なく、陽性持続期間も数日間のみであるため、迅速検査の陽性率が非常に低い(分権的には20〜30%)。
※ 血清抗体価は乳幼児では上昇が不良な場合も少なくないが、成人では有意に上昇する例がほとんど。
□ 成人でのRSウイルス感染症の疫学
・年間に健常高齢者の5%弱、基礎疾患保有者の6%強が罹患する。
・基礎疾患保有者が感染すると15%で入院が必要になる。
・入院率・死亡率はインフルエンザとほぼ同等である。
・高齢者施設では年間に入居者の5〜10%が罹患し、発症例のうち10〜20%が肺炎を併発する。
・成人肺炎の原因としては1〜10%と報告に幅がある(検査法/流行状況に影響されるためか)。
□ 坂総合病院のデータ
・1年間約300例の成人肺炎例を対象とし抗原迅速検査、PCR、抗体価(ペア血清)を検討。
・流行期間(11月〜4月)のRSV陽性率10%強。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱(PCR陽性例では40%弱)
→ 診断には迅速検査では不十分であり抗体価の評価が必要。
・RSウイルス関連肺炎例:18例(約6%)
□ 坂総合病院における成人RSウイルス肺炎186例の臨床像
・ほぼ通年で陽性例が確認されている。
・病型:市中肺炎(CAP)が2/3、医療・介護関連肺炎(NHCAP)が1/3。
・入院治療例が80%、外来治療例が20%。
・平均年齢77.6歳で他のウイルス関連肺炎例と比較して最も高齢で、大部分が60歳以上に分布している。
→ 高齢者が罹患しやすいということではなく、若年者では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈すべき。
・予後:死亡退院率は6.1%(ただし70歳未満の死亡例はゼロ、70歳代では3.4%、80歳代では6.9%、90歳代では15%と年齢と共に死亡率が上昇)。
・合併感染例は約50%で肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。冬季では肺炎球菌肺炎のうち20%以上がRSウイルスとの合併感染だったシーズンもある。
・RSV単独感染例と混合感染例の予後を比較すると、単独感染例の方が生命予後は明らかに不良だった。
・臨床像:最高体温は平均37.9℃、呼吸器症状(喀痰、咳嗽、喘鳴)は高頻度で、72%で急性期に酸素投与を必要とした。全身症状(食思不振、倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛など)を呈する例は比較的少数にとどまった。
→ インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが高熱はきたしにくく全身症状は軽度。
・胸部画像所見:多発性、両側性の分布を示す例が過半数を占めるが、陰影自体は通常の浸潤影を呈するケースが多く、スリガラス陰影が主体の例は全体の1/4。
・感染源不明が70%。
・施設入所例が20%であるが施設内流行ではなく散発例。
→ RSウイルスは流行期間においてはごく軽症の上気道炎症状で市中を広く循環しているものと推測される。
・健常人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
・大部分の例で抗菌薬が併用されていた。
□ ウイルス関連肺炎の病像比較
・初期診断は「誤嚥性肺炎」が37.5%と多い。
・RSV陽性肺炎例と陰性肺炎例を比較すると、陽性例の方が重症になりやすい。
・インフルエンザ陽性肺炎例と比較すると、RSウイルス陽性例の方が死亡率が高く、入院期間も長期化していた。
しかし大人になっても罹るかどうかは、小児科の教科書には書いてありません。近年、生まれたお祝いに会いに来た祖父母から風邪をもらって重症化し、それがRSVだった、という話をたまに耳にします。すると、
「大人もRSVに罹るんだろうか?」
という素朴な疑問が生まれます。
その答えとなるWEB配信レクチャーを見つけました。
「成人RSウイルス感染症」(坂総合病院 高橋洋Dr.)
(ラジオNIKKEI 感染症TODAY)
<ポイント>
・成人もRSVに罹患し、高齢者(とくに基礎疾患のある例)はこじれやすい。
・インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが、全身症状(高熱、倦怠感、筋肉痛など)は軽度。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱と低いため、診断には抗体価の評価が必要。
・高齢者肺炎の中でもRSV陽性肺炎例は重症化しやすい。
・RSV陽性肺炎のうち、健常成人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
以上、健康成人では問題にはなりませんが、高齢者(とくに基礎疾患保有者)では重症化しやすい注意すべき病原体と言えそうです。しかし迅速検査が役に立たないのはやっかいですね。
<メモ>
□ RSV感染症の概要
・接触/飛沫感染
・家族内感染が50%
・潜伏期:3〜5日間
・顕性感染90%以上(不顕性感染<10%)・・・ただし乳幼児のデータ
・流行時期は従来冬季であったが、近年は夏から秋にかけての流行も見られる。
・診断方法:
(小児)抗原迅速検査、
(成人)ペア血清で抗体価測定・・・成人では出現するウイルス量が乳幼児の千分の一と非常に少なく、陽性持続期間も数日間のみであるため、迅速検査の陽性率が非常に低い(分権的には20〜30%)。
※ 血清抗体価は乳幼児では上昇が不良な場合も少なくないが、成人では有意に上昇する例がほとんど。
□ 成人でのRSウイルス感染症の疫学
・年間に健常高齢者の5%弱、基礎疾患保有者の6%強が罹患する。
・基礎疾患保有者が感染すると15%で入院が必要になる。
・入院率・死亡率はインフルエンザとほぼ同等である。
・高齢者施設では年間に入居者の5〜10%が罹患し、発症例のうち10〜20%が肺炎を併発する。
・成人肺炎の原因としては1〜10%と報告に幅がある(検査法/流行状況に影響されるためか)。
□ 坂総合病院のデータ
・1年間約300例の成人肺炎例を対象とし抗原迅速検査、PCR、抗体価(ペア血清)を検討。
・流行期間(11月〜4月)のRSV陽性率10%強。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱(PCR陽性例では40%弱)
→ 診断には迅速検査では不十分であり抗体価の評価が必要。
・RSウイルス関連肺炎例:18例(約6%)
□ 坂総合病院における成人RSウイルス肺炎186例の臨床像
・ほぼ通年で陽性例が確認されている。
・病型:市中肺炎(CAP)が2/3、医療・介護関連肺炎(NHCAP)が1/3。
・入院治療例が80%、外来治療例が20%。
・平均年齢77.6歳で他のウイルス関連肺炎例と比較して最も高齢で、大部分が60歳以上に分布している。
→ 高齢者が罹患しやすいということではなく、若年者では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈すべき。
・予後:死亡退院率は6.1%(ただし70歳未満の死亡例はゼロ、70歳代では3.4%、80歳代では6.9%、90歳代では15%と年齢と共に死亡率が上昇)。
・合併感染例は約50%で肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。冬季では肺炎球菌肺炎のうち20%以上がRSウイルスとの合併感染だったシーズンもある。
・RSV単独感染例と混合感染例の予後を比較すると、単独感染例の方が生命予後は明らかに不良だった。
・臨床像:最高体温は平均37.9℃、呼吸器症状(喀痰、咳嗽、喘鳴)は高頻度で、72%で急性期に酸素投与を必要とした。全身症状(食思不振、倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛など)を呈する例は比較的少数にとどまった。
→ インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが高熱はきたしにくく全身症状は軽度。
・胸部画像所見:多発性、両側性の分布を示す例が過半数を占めるが、陰影自体は通常の浸潤影を呈するケースが多く、スリガラス陰影が主体の例は全体の1/4。
・感染源不明が70%。
・施設入所例が20%であるが施設内流行ではなく散発例。
→ RSウイルスは流行期間においてはごく軽症の上気道炎症状で市中を広く循環しているものと推測される。
・健常人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
・大部分の例で抗菌薬が併用されていた。
□ ウイルス関連肺炎の病像比較
・初期診断は「誤嚥性肺炎」が37.5%と多い。
・RSV陽性肺炎例と陰性肺炎例を比較すると、陽性例の方が重症になりやすい。
・インフルエンザ陽性肺炎例と比較すると、RSウイルス陽性例の方が死亡率が高く、入院期間も長期化していた。