小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

成人のRSウイルス感染症

2018年11月20日 10時02分04秒 | 感染症
 RSウイルスは乳幼児が罹ると気管支炎になりやすいことで小児科医の間では有名です。一度罹っただけでは終生免疫は得られず、繰り返し感染することによりだんだん軽症化し、学童以降は咳の頑固な風邪、程度で済むようになります。
 しかし大人になっても罹るかどうかは、小児科の教科書には書いてありません。近年、生まれたお祝いに会いに来た祖父母から風邪をもらって重症化し、それがRSVだった、という話をたまに耳にします。すると、

 「大人もRSVに罹るんだろうか?」

 という素朴な疑問が生まれます。
 その答えとなるWEB配信レクチャーを見つけました。

成人RSウイルス感染症」(坂総合病院 高橋洋Dr.)
ラジオNIKKEI 感染症TODAY

<ポイント>
・成人もRSVに罹患し、高齢者(とくに基礎疾患のある例)はこじれやすい。
・インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが、全身症状(高熱、倦怠感、筋肉痛など)は軽度。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱と低いため、診断には抗体価の評価が必要。
・高齢者肺炎の中でもRSV陽性肺炎例は重症化しやすい。
・RSV陽性肺炎のうち、健常成人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。


 以上、健康成人では問題にはなりませんが、高齢者(とくに基礎疾患保有者)では重症化しやすい注意すべき病原体と言えそうです。しかし迅速検査が役に立たないのはやっかいですね。


<メモ>

RSV感染症の概要
・接触/飛沫感染
・家族内感染が50%
・潜伏期:3〜5日間
・顕性感染90%以上(不顕性感染<10%)・・・ただし乳幼児のデータ
・流行時期は従来冬季であったが、近年は夏から秋にかけての流行も見られる。
・診断方法:
(小児)抗原迅速検査、
(成人)ペア血清で抗体価測定・・・成人では出現するウイルス量が乳幼児の千分の一と非常に少なく、陽性持続期間も数日間のみであるため、迅速検査の陽性率が非常に低い(分権的には20〜30%)。
※ 血清抗体価は乳幼児では上昇が不良な場合も少なくないが、成人では有意に上昇する例がほとんど。

成人でのRSウイルス感染症の疫学
・年間に健常高齢者の5%弱、基礎疾患保有者の6%強が罹患する。
・基礎疾患保有者が感染すると15%で入院が必要になる。
・入院率・死亡率はインフルエンザとほぼ同等である。
・高齢者施設では年間に入居者の5〜10%が罹患し、発症例のうち10〜20%が肺炎を併発する。
・成人肺炎の原因としては1〜10%と報告に幅がある(検査法/流行状況に影響されるためか)。

坂総合病院のデータ
・1年間約300例の成人肺炎例を対象とし抗原迅速検査、PCR、抗体価(ペア血清)を検討。
・流行期間(11月〜4月)のRSV陽性率10%強。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱(PCR陽性例では40%弱)
診断には迅速検査では不十分であり抗体価の評価が必要
・RSウイルス関連肺炎例:18例(約6%)

坂総合病院における成人RSウイルス肺炎186例の臨床像
・ほぼ通年で陽性例が確認されている。
・病型:市中肺炎(CAP)が2/3、医療・介護関連肺炎(NHCAP)が1/3。
・入院治療例が80%、外来治療例が20%。
・平均年齢77.6歳で他のウイルス関連肺炎例と比較して最も高齢で、大部分が60歳以上に分布している。
→ 高齢者が罹患しやすいということではなく、若年者では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈すべき。
・予後:死亡退院率は6.1%(ただし70歳未満の死亡例はゼロ、70歳代では3.4%、80歳代では6.9%、90歳代では15%と年齢と共に死亡率が上昇)。
・合併感染例は約50%で肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。冬季では肺炎球菌肺炎のうち20%以上がRSウイルスとの合併感染だったシーズンもある。
・RSV単独感染例と混合感染例の予後を比較すると、単独感染例の方が生命予後は明らかに不良だった。
・臨床像:最高体温は平均37.9℃、呼吸器症状(喀痰、咳嗽、喘鳴)は高頻度で、72%で急性期に酸素投与を必要とした。全身症状(食思不振、倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛など)を呈する例は比較的少数にとどまった。
インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが高熱はきたしにくく全身症状は軽度
・胸部画像所見:多発性、両側性の分布を示す例が過半数を占めるが、陰影自体は通常の浸潤影を呈するケースが多く、スリガラス陰影が主体の例は全体の1/4。
・感染源不明が70%。
・施設入所例が20%であるが施設内流行ではなく散発例。
→ RSウイルスは流行期間においてはごく軽症の上気道炎症状で市中を広く循環しているものと推測される。
・健常人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
・大部分の例で抗菌薬が併用されていた。

ウイルス関連肺炎の病像比較
・初期診断は「誤嚥性肺炎」が37.5%と多い。
・RSV陽性肺炎例と陰性肺炎例を比較すると、陽性例の方が重症になりやすい。
・インフルエンザ陽性肺炎例と比較すると、RSウイルス陽性例の方が死亡率が高く、入院期間も長期化していた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマーではインフルエンザが夏(7〜9月)に流行する。

2018年09月24日 15時29分53秒 | 感染症
 日本では毎年、12月〜翌年3月中心にインフルエンザが流行します。
 一方、南半球では日本とは逆の季節になるので、インフルエンザ流行も日本の夏に当たる5〜8月に流行します。

 では、熱帯・亜熱帯ではどうでしょうか?
 インフルエンザの迅速診断キットが普及してから、小児科医の間では「沖縄では1年中インフルエンザが小流行している」ことが常識になっています。
 しかしそれがなぜなのか、という問いに対する答えは、まだわかっていないようです。

 そんな折、ラジオNIKKEIで以下の放送をしているのを知りました;

「東南アジアにおけるインフルエンザの流行」2018年8月29放送
 新潟大学大学院 国際保健学分野教授 齋藤 玲子


 やはり疑問は解けてはいないものの、インフルエンザ流行を解析する際のキーワードがいくつか出てきて参考になりました。

 そのキーワードは「湿度」と「感染様式」。
 湿度が異なると、インフルエンザの感染様式が異なってくるというのです。

 高湿度の時は、接触感染が中心。
 中湿度の時は、飛沫感染が中心。
 低湿度の時は、飛沫感染+空気感染もありえる?

 
 そして広がりやすさは、接触<飛沫<空気感染です。
 湿度が高いと水分を含んだウイルス粒子が重くなるので遠くに飛びにくいというイメージですね。 
 この解説は画期的です。
 
 四季のある北半球の日本、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは寒くて低湿度の季節に爆発的に流行する理由になります。
 中湿度のミャンマーなどの亜熱帯地方では、飛沫感染が中心なので、日本ほど大きな流行になにくい。
 高湿度の熱帯地方では接触感染が中心であり、さらに感染拡大しにくく小流行にとどまる、という説明でした。

 なるほど。
 今までの疑問が、一部解決した感じ。

 さて、熱帯・亜熱帯地方の季節は「雨季」と「乾季」の二つだけだそうです。
 そしてインフルエンザが流行るのは「雨季」。
 高温で湿度の高い雨季に流行する・・・日本人の感覚ではピンときませんね。
 推察として、雨が降ると室内で過ごすことが多くなり、ヒトとヒトとの接触も密になるから、接触感染のリスクが上がるのではないか、とのことでした。
 ただし、接触感染は空気感染より広がりにくいので、流行も小さく患者数も少ない。

 フムフム。
 ここまで読んできてもピンとこない方に、例示してみます。

 代表的な接触感染は、伝染性膿痂疹や水いぼですね。
 仲のいいお友達間でうつるくらいの印象。
 まあ「うつるけれど流行るほどではない」イメージでしょうか。

 代表的な飛沫感染は、いわゆる“かぜ”です。
 患者さんの口や鼻から出た唾液や鼻水に含まれる病原体(ウイルスや細菌)が飛び散って、他のヒトの口や鼻や目にくっつくと感染が成立します。
 鼻風邪、RSウイルス、インフルエンザ、マイコプラズマ等々。
 それなりに流行します。

 代表的な空気感染は、水ぼうそうと麻疹(=はしか)と結核です。
 というか、この3つしかありません。

 皆さんご存じのように、小児科医院ではたいてい「隔離室」が用意されていますね。
 これは「空気感染対策」に外なりません。
 当院でもそうですが「水ぼうそう、はしかが疑われる患者さんは待合室に直接入らないで隔離室のインターホンを押してください」と掲示しています。
 空気感染は同じ空間にしばらくいるだけでももらってしまう、こわい感染症なのです。

 インフルエンザは従来、「接触&飛沫感染」と説明されてきました。
 しかし「空気感染もするのではないか?」という意見もチラホラありましたが、まだ教科書に載るほどのエビデンスはないようです。
 今回のこの番組で「インフルエンザは空気感染もあり得る」と述べているのは、じつは新しいことなのです。

 いかがでしょう。
 イメージできましたか。

 さて、9月に入りインフルエンザ流行による学級閉鎖のニュースが流れる季節になりました。
 まあ、例年のことです。
 このように小流行が散発し、そして12月に入ると本格的に流行します。

 ただ、湿度が異様に低くなる環境では、流行が早まるかもしれません。
 日本では「エアコン」が普及しているので、室内湿度は簡単に20%位まで下がってしまい、インフルエンザ・ウイルスを喜ばすことになりますね。
 ぜひ、加湿器を併用しましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エボラ出血熱 2018

2018年09月20日 15時26分50秒 | 感染症
 5年前は「日本も他人事ではなく危ないのではないか」と危機感を募らせたエボラ出血熱。
 その後制圧され、現在は「喉元過ぎれば・・・」のパターンで忘れられつつあります。
 そんなタイミングで、録画してあったエボラ出血熱のドキュメンタリーを2つ見てみました。

BS世界のドキュメンタリー「エボラ出血熱 その謎に迫る」2014.11.28:NHK-BS



<番組紹介>
2013年末から西アフリカを中心に過去最大の猛威をふるうエボラ出血熱。そのウィルスはどこからきたのか、そして、どうやって広がっていったのか。さまざまな角度から取材し、その正体に迫る。
西アフリカ各地で感染患者の治療に当たる医療関係者が現状を報告。また、現地で感染し、未承認薬によって回復した医師や看護師がその体験を語る。
今回の流行が確認されたのは、患者第一号となったギニア共和国の少年が死亡してから14週間も経った後だった。なぜ防止対策が遅れ、患者数が急増してしまったのか。
エボラ出血熱のウィルスは、1970年代、中央アフリカからベルギーの熱帯医学研究所に届いた血液サンプルから検出された。研究者は、見たこともない紐状のウィルスの出所へと急遽向かい、恐ろしい感染症の症状と感染経路を明らかにする。エボラ熱の治療が困難な理由は、ウィルスが体内で繁殖するしくみにあった・・・。
実は15年前ウガンダでエボラ熱が流行した際、自力で治癒した免疫力の強い人々がいた。いま彼らの血液から採取した抗体を使って治療薬の開発が進められている。

原題:Ebola - The Search for a Cure
制作:BBC(イギリス:2014年)


 番組を見ながらメモした内容です;

最初の患者は2013年12月に西アフリカのギニアで発生した。
感染源はアフリカオオコウモリと考えられる。ギニアには野生動物の肉を食べる習慣がある。
ウイルスは村に持ち込まれる。最初の患者の葬儀に参加した人々に感染したのだ。
流行を認識したのが最初の犠牲者発生から3ヵ月後、初動が遅れたため、拡大阻止が困難となった。
感染者の半分が命を落とした。多くは発症から12日以内である。
エボラウイルスは遺体からも感染する。

エボラウイルスが発見されたのは40年前。1976年にイギリスで分離された。
検体はザイールのキンシャサからの血液サンプルでキリスト教伝道施設の修道女のものだった。
謎のウイルスは、近くの川の名前から「エボラ」と名付けられた。
その施設では医療機器が不足し、注射器を使い回していた。
感染拡大の一因として、遺体を参列者が洗う習慣が指摘された。
エボラウイルスは空気感染ではなく体液を介する感染である。

2014年4月にはギニアの隣国のギニアとリベリアに感染が拡大した。
2013-14年の流行以前のエボラウイルスによる死者は1700人だったが、この流行だけでその数を上回った。
以前はアフリカの地方・奥地に限定されていたが、2014年7月にナイジェリアの都市ラゴスに持ち込まれた。
エボラウイルスの潜伏期間は最大21日間あり、感染拡大防止は困難である。
当時エボラウイルスに有効な薬はなく、医師にできることは痛みを和らげることだけだった。

エボラウイルスに対する治療の研究は世界中で行われている。

ウガンダではエボラ感染の克服者の追跡調査を行っている。
免疫機能と抗体である。

カナダのコビンジャー博士が開発した薬(ウイルスが細胞に侵入する際に使う突起に対する抗体)が、リベリアでエボラを発症したアメリカ人ブラントリー医師に投与された。
その後患者はアメリカに移送され一命を取り留めた。
コビンジャー博士が使用した薬は3種類の抗体を混ぜた“カクテル”だった。
その次の段階、薬の増産が課題である。


まだ、西アフリカにおける流行が制圧できていない段階で制作された番組です。
生存者から血液を採取して、有効な抗体を見つける作業は、映画「アウトブレイク」の一場面を想起させました。

もう一つのドキュメンタリーはシエラレオネを舞台にエボラウイルスと格闘したカーン医師の闘いに焦点を当てたものです。


NHKスペシャル「史上最悪の感染拡大 エボラ 闘いの記録」2016.2.12:NHK



<番組紹介>
史上最悪となった今回のエボラウイルスの感染拡大。感染者28637人、死者11315人(12月20日現在)にのぼり、間もなく終息宣言が出される見込みだ。最も多くの感染者がでたシエラレオネで、世界から注目を集めているのが「ケネマ国立病院」だ。当時、二次感染につながるとして避けられていた定期的な点滴や検診を実施、多くの患者を救っていたのだ。さらに、感染拡大を未然に防ぐ可能性があった“警告”を発していた。しかし、国際社会から見過ごされ、資材や人材の支援が不足する中、スタッフは二次感染によって次々と死亡、病院は崩壊してしまう。国際社会や政府の無関心、住民の偏見、そしてスタッフの間に生まれる恐怖・・・・・・。命をかけて闘い続けた医師たちの知られざる日々を、膨大な現地映像や生存者の証言によって描き、グローバル化によって様々な感染症のリスクが世界に広がる中、いま何が求められているのか探る。



以下は視聴中のメモです。

2016年1月にWHOが感染終息を宣言したエボラ出血熱。
今回のアフリカ西部の感染爆発の連鎖を遡っていくと、シエラレオネのクポンドゥ村にたどり着く。
その村で感染対策に奔走したのはケマネ国立病院で働いていたウマル・カーン医師。しかし彼の訴えが国際社会に届かないうちに彼自身が感染し孤独の中で命を落とした。

ケマネ病院での最初の患者は19歳の妊婦、ヴィクトリア・イラー。点滴を刺したところからの出血が止まらなくなった。
それまではギニアとリベリアで散発し、治まりつつあったタイミング。
リベリアに向かった調査隊は、患者全員が女性であることを不思議に思い、調査を進めると発症者は皆3週間前にクポンドゥ村の祈祷師の葬儀に参加していたことが判明した。
この地域の葬儀は、遺体を素手で洗う習慣がある。その作業・儀式中に血液・体液に触れて感染したと考えられた。

カーン医師は感染者が十数人のときに、道路を閉鎖して村を隔離するよう政府に進言したが、政府は腰が重かった。

患者は約10日間で死亡していった。
2週間しのげば、回復する可能性が高くなった。
カーン医師は点滴で粘り、イラーさんは回復して退院できた。

カーン医師は患者から採取したエボラウイルスのサンプルをアメリカのハーバード大学に送り続けた。
エボラウイルスは感染中に変化するという特徴がある。

最初の患者発生から17日で、クポンドゥ村から道路沿いに感染が拡大していった。
感染を封じ込めるために患者をケネマ病院に集めようとしたが、「病院に連れて行かれると生きて帰って来れない」と搬送を拒否されることもあった。
ケネマ市でも患者が増え隔離病棟はあふれ、首都フリータウンに感染が拡大しつつあった。
このタイミングで、WHOがケネマ病院に医師を派遣した(現・豊島病院の足立拓也医師もその一人)。
それまでの流行は交通が発達していない地域であったが、シエラレオネは交通網が発達しており、致命的な感染拡大の要素を持っていた。
それをカーン医師は国際社会に訴えたが、「それはアフリカの問題でしょ」と深刻に受け止めてもらえず、支援の手は差し伸べられなかった。
その頃の人々の関心は、サッカーのワールドカップとISのテロに向けられていた。

最初の感染確認から1ヵ月。
3人の看護師が感染し、亡くなった。
これをきっかけに、看護師が職場放棄をするようになった。
患者の増加と看護師の不足。
点滴を行う優先順位をつけざるを得なくなった。
シエラレオネの各地でも患者が発生し「病院スタッフがウイルスをばらまいている」と石を投げられることもあった。

最初の感染確認から50日。
カーン医師は看護師を説得し鼓舞したが、残った看護師は12人だけだった。
その時のTVインタビューの質問「怖くないですか?」に対するカーン医師のコメント;
「もちろん私も命を失うことは怖いです。しかし闘うことを恐れてはいません」

最初の感染確認から59日目。感染爆発(アウトブレイク)。
カーン医師がエボラウイルスに感染し隔離され、1週間後に亡くなった。
ケネマ病院の機能は麻痺した。
そして首都フリータウンにウイルスは達し、はじめてエボラは大都市を襲い、周囲に感染が爆発的に拡大していった。
以降、終息宣言まで1年半を要した。

ウイルスの遺伝子変異の分析により、シエラレオネのクポンドゥ村がすべての患者の起点になっていることが判明した。
カーン医師の感染対策に従っていれば、ここまで広がらなかった可能性があった。
カーン医師がハーバード大学に送ってエボラウイルスの解析データはすべて公開され、ワクチン開発に役立っている。

ケネマ病院スタッフの犠牲者は41人。
命を取り留めた患者は211人。


2018.10.20付けの厚労省からのメール配信にエボラ出血熱の項目がありました。
2018年8月1日にコンゴで患者が発生したとのこと。
しかしそのコンゴでは約1週間前(2018/7/25)にエボラの終息宣言を出したばかり(先ごろ終息宣言が出されたエボラは1976年以降で9度目となる流行)でした。
終わりなき闘いが続きます。
記事を読むと、現時点では「国際的な脅威とならずアフリカだけの問題である」との判断ですが、シエラレオネの悲劇を繰り返さないようにしていただきたい。

◆コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しています
 2018年8月1日(現地時間)、世界保健機関(WHO)及びコンゴ民主共和国(旧ザイール)保健省は、同国北東部の北キブ州において、エボラ出血熱が発生したことを発表しました。10月15日までに139名の死亡例を含む、216例の患者(確定181例、疑い35例)が報告されています。8月8日に高リスク群に対してのワクチン接種が始まり、10月16日までに、17,976名がワクチンの接種を受けました。
 10月17日、今回のエボラ出血熱の流行に関する緊急委員会がWHOで開催されました。現段階では「国際的に懸念される公衆衛生上の危機(PHEIC)」ではない、との見解が示されましたが、今後も対策をさらに強化する必要があるとの提言がなされました。
 今回の発生地域では、反政府勢力による非人道的行為が行われており、以前より外務省から退避勧告が出されています。
 厚生労働省では、検疫や国内での対応強化のため注意喚起を行っています。発生地域であるコンゴ民主共和国(北キブ州)から帰国された方は、検疫官に申告するようにしてください。


 現在の流行状況を報告する資料をもう一つ紹介します;

厚生労働省の発表資料「コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の発生状況について

上記記事の中に治療についての項目がありました;

・現地では、5月の流行時に富山化学工業株式会社から提供したファビピラビル(アビガン錠)に ついて、既に12,000錠を首都キンシャサの国立生物医学研究所(INRB)で、2,000錠を国境なき 医師団で保持している。
・9月8日までに、治療薬であるmAb114、Zmapp、Remdesivirが26名に投与されており、そのうち 15人が治癒して退院している。


日本で富山化学が開発したアビガン®が活躍しているようですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

入園してからずっと風邪を引いているんです・・・。

2018年09月01日 15時15分22秒 | 感染症
 新しい年度が始まる4月。
 保育園に入園する乳幼児の中には、登園開始後、風邪をもらって治ってを繰り返し、登園日数より休んだ日数の方が多いお子さんも散見します。
 すると、ご両親は心配になり、「うちの子、どこか悪いんでしょうか?」と相談に来られます。

 たいてい、風邪の反復です。
 私はずいぶん前から「入園症候群」とネーミングして説明してきました。

2012年04月28日)「入園症候群」が気になる頃
2013年04月28日)今年も「入園症候群」の季節
2017年08月18日)多くの働くママを悩ます「保育園症候群」


 「ずっと風邪を引いている」状態をよく観察してみて下さい。
 特に鼻の症状に注目。

 風邪の初期は、くしゃみ・鼻水で透明な水っぱな。
 何日か経つと、鼻水が白っぽくなってきます。
 更に長引くと、青っ洟になります。

 なかなか治らないなあ、と思っていると、またくしゃみと透明な水っぱな。

 ここ、このタイミングです。
 新たな風邪を引きなおした瞬間です。

 咳も、風邪の引き始めはコンコンという渇いた感じの咳ですが、
 後半になると痰がらみになるのがふつうです。

 一般に風邪を引くと、子どもは治るまでに1〜2週間かかります。
 治り際、治りきらないうちに次の風邪をもらうので、ずっと続いているように見えるのです。

 では、小児科医はどんなときに「ムムム、この患者さんは風邪だけではないかもしれない」と疑うのでしょう。
 そのポイントは、

・衰弱していく(体重が増えない)
・重症化
・治療抵抗性

 等々。
 回数(頻回)も頭の隅にはありますが、軽い症状で繰り返すだけなら、問題ありません。

 ではでは、「風邪だけではないかもしれない」病気とは?
 それは「免疫不全症」です。
 免疫能力が不十分なため、病原体を排除できない病態です。
 その目安として、「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」が公表されています。

 ま、このような内容はこれまでも度々触れてきました。
 なお、「“ずっと風邪を引いている”状態は、風邪が長引いているのか、あるいは繰り返しているのか?」という疑問に対しては、医師の間でも意見の相違があります。
 先日、日経メディカルでこの病態をわかりやすく上手に説明している記事を見つけましたので引用させていただきます(図表は省略、下線は私が引きました)。

□ 治らない子どものかぜは遷延性か?反復性か?
日経メディカル:2018/8/29
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

 子どもは大人と比べて頻繁にかぜ(ここではかぜを、急性のウイルス性気道感染症と定義)を引く。その頻度は特に2歳未満で高く、年に8~10回かぜを引くといわれている 1)。ヒトは一度ウイルスに感染すると、そのウイルスに対する抗体を産生できるようになるため、普通は同じウイルス感染症に再び罹患することはない。しかし、ライノウイルスやアデノウイルスなど型がたくさんあるウイルスもあれば、RSウイルスのように免疫が長く続かないウイルスもあるため、ヒトは繰り返し繰り返しかぜを引くのである。
 そんなわけで、子どもが頻繁にかぜを引くのは仕方のないことなのだが、一方で、異常なのではないかという頻度でかぜを引き続ける乳幼児も少なからず存在する。子どもによっては、途切れることなく1年中ずっと感冒症状が持続しているような児もいるので、保護者は不安になり、「うちの子は免疫がどこかおかしいのではないか」と医療機関に相談するわけである。
 成人で「免疫不全」といえば、HIV感染症や担癌状態をまず思い浮かべるだろうが、子どもの場合はそれらの罹患頻度が低い。そのため、反射的にChediak-Higashi症候群や慢性肉芽腫症などに代表される「原発性免疫不全症」を思い浮かべる医師も多いのではないだろうか。これらの疾患は小児特有のものが多く、その種類も多岐にわたるため、原発性免疫不全症の診断に慣れていない者にとっては難しい。
 しかし、原発性免疫不全症は比較的まれな病気であり、小児科医でも一生に一度出会うかどうかという疾患群である。つまり、上記のような相談を持ちかけられる児のほとんどは、原発性免疫不全症ではないのだ。ここでは、かぜの罹患が非常に多い児について、その原因にはどのようなものがあり、どうアプローチすればよいかを述べていきたい。

◇ヒトにおける免疫システムの発達
 ヒトの一生の中で、新生児期は最も自己の免疫機能が未熟な時期であるにもかかわらず、かぜの罹患頻度が乳幼児期に比べて低い。これは、体液性免疫の中で中心的な働きを担うIgGが胎盤を通過するため、正期産の新生児は母からIgGをプレゼントされた状態で生まれてくるからである。
 しかし、IgGの半減期はおよそ1カ月であるため、生後3~4カ月くらいには母由来のIgGはかなり低い値まで低下し、その主役は自身のIgGへと移行する 2)。よって、この時期からは母から獲得した免疫の効果は期待できなくなり、ウイルス感染症が増加することになる。

◇子どものかぜの自然経過
 子どものかぜが治ったかどうかを見極めるためには、かぜの自然経過を知る必要がある。というのも、大人のかぜと子どものかぜでは経過がだいぶ異なるためである 3)。表1に大人のかぜと子どものかぜの違いをまとめたが、注目すべきは罹患期間の違いである。成人が5~7日間であるのに対し、子どもでは約14日間と長い。つまり、「1週間経過しても治っていないかぜ」というのは、小児では自然経過の範囲内なのである。
 両親の訴える「治らないかぜ」が、このような自然経過で説明がつかないほど遷延しているものなのか、それとも、自然経過の範囲内で治っているが、反復しているものなのかを見極めることは、その原因を考える上で重要である。どちらの場合にも、保護者は「かぜが治らない」と訴えるが、上記2つはそれぞれ、感染症の「遷延化」と「反復」という異なった病歴である。数カ月間にわたってかぜが治らないという訴えのほとんどが後者であり、よく聞くと、感染と感染の間の切れ目がある。

◇乳幼児の「喘鳴」への対処
 かぜが自然経過で説明がつかないほど遷延してしまう場合には、そのほとんどに「喘鳴」が認められる。乳幼児期の喘鳴は、かぜの遷延化、重症化に寄与している 4)。注意すべきは、これらの「喘鳴」の全てが「喘息」ではない点である。乳幼児は気道内径が狭い、肺弾性収縮力が乏しい、気管支平滑筋が少ない、分泌物が多いなどの理由から、喘息児でなくても喘鳴を来しやすい 5)。乳幼児喘鳴の表現型(phenotype)については様々な分類が提唱されているが、Tucson Children’s Respiratory Studyによる分類 6)が有名である。
 本分類では乳幼児喘鳴を、

(1)乳幼児に発症し3歳までに改善するもの(transient early wheezers)、
(2)成長とともに徐々に増悪するが6歳以降に改善傾向となるもの(non-atopic wheezers)、
(3)6歳以降に喘鳴が目立つようになるもの(IgE-associated wheezers)

――の3つに分類しており、この中でいわゆる「喘息」は、IgE-associated wheezersを指す。
 ウイルス感染症の遷延化、重症化はこれらの表現型全てに認められるため、乳幼児喘鳴の鑑別は小児科医でも困難であり、必要に応じて診断的治療としてロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入副腎皮質ステロイド薬を開始することもある。β2刺激薬などの気管支拡張薬はtransient early wheezersやnon-atopic wheezersには効果が得られにくい 7)。喘鳴を伴いながら自然経過をで説明できないほどかぜ症状が続くような症例は、小児科医への紹介が望ましいといえるだろう。
 自然経過で説明のつく範囲のかぜを反復している場合、その多くは、保育園や兄弟の存在などの外的要因が原因である。特に低年齢(3歳未満)で保育園を利用する場合はひっきりなしにかぜを引く児も多い。そのため、保育園に通う児の保護者には、保育園に通っているとかぜを反復すること、かぜを反復しながら免疫が徐々に強化されていくことを事前に説明しておくとよい。中には、乳幼児喘鳴という内的な要因と、保育園という外的な要因が混在してかぜの遷延、反復につながっている児も多く、どちらが原因であるといえないケースも多い。

◇原発性免疫不全を疑う10の徴候
 頻度は少ないながらも、乳幼児ではかぜを繰り返す原発性免疫不全症も存在する。乳幼児期に一般的なウイルス感染症を反復する場合には、免疫の中でも細胞性免疫が障害されている可能性が高い。乳幼児期に細胞性免疫不全がみられる代表的な原発性免疫不全症は、「重症型複合型免疫不全(Severe Combined Immunodeficiency: SCID)」、「Wiskott-Ardlich症候群 (WAS)」、「DiGeorge症候群 (DGS)」である。
 SCIDであれば発育不良や難治性下痢が、WASであれは出血傾向や難治性湿疹が、DGSであれば顔貌や口蓋形成の異常が見られることが多く、併存症がこれらの疾患を疑う鍵となる。すなわち、「かぜが治らない」に加えて何らかの慢性的な異常所見を認める場合、原発性免疫不全症も考慮に入れて専門医への紹介を考えるべきである。
 ここまでは「かぜが治らない」症例の対応について述べてきたが、原発性免疫不全症を疑うサインは「かぜが治らない」だけではないので、重要なサインを察知して原発性免疫不全症を見逃さない姿勢も大切である。
 原発性免疫不全症の症状は、感染症の「遷延化」、「反復」以外にも、「重症化(一般的な感染症が重症化する)」、「難治化(一般的な感染症が治らない)」、「日和見感染症(弱毒菌に感染する)」などがあり、疾患によって症状の出現の仕方が異なる。そのため、前述の通り、慣れない医師が原発性免疫不全症を診断することはなかなか難しい。厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班が、「原発性免疫不全を疑う10の徴候」という分かりやすいイラストを作成しており 8)(表3)、このようなツールを利用して、幅広く原発性免疫不全症のスクリーニングをかけていくのがよいと思われる。原発性免疫不全症を疑った段階で、専門医への紹介を考慮すべきであろう。

表2 原発性免疫不全症を疑う10の徴候(厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班による)
1つ以上当てはまる場合、原発性免疫不全症がないか専門の医師に相談すること。この中で乳児期早期に発症することの多い、重症複合免疫不全症は緊急に治療が必要。

1. 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し体重増加不良や発育不良が見られる
2. 1年に2回以上肺炎にかかる
3. 気管支拡張症を発症する
4. 2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる
5. 抗菌薬を服用しても2カ月以上感染症が治癒しない
6. 重症副鼻腔炎を繰り返す
7. 1年に4回以上中耳炎にかかる
8. 1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる
9. BCGによる重症副反応(髄膜炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貧食症群に罹患したことがある
10. 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

【参考資料】
1) Colds in children. Paediatr Child Health. 2005;10:493-5.
2) Dalal I, Roifman CM. Immunity of the newborn. TePas E, ed. UpToDate. Waltham, MA: . UpToDate Inc.(Accessed on Aug 25, 2018.).
3) Long SS, Pickering LK, Prober CG.Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases 4th Ed.. Elsevier, Philadelphia, 2012.
4) Corne JM, Marshall C, Smith S, et al. Lancet. 2002;359:831-4.
5) 日本小児アレルギー学会. 乳幼児期の特殊性とその対応. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン. 協和企画, 東京, 2017.
6)  Taussig LM, Wright AL, Holberg CJ et al.J Allergy Clin Immunol. 2003;111:661-75.
7) Depner M, Fuchs O, Genuneit J, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2014;189:129-38.
8) 厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班(2010年改訂)「原発性免疫不全を疑う10の徴候」
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝日新聞記事「おたふくワクチンの葛藤」を読んで気になったこと

2018年08月06日 07時01分40秒 | 感染症
 2018.8.3の朝日新聞に「おたふく風邪の葛藤」(科学・医療社説担当、行方史郎氏)という囲み記事が掲載されていました。
 しかし、小児科医の私から見ると、調べが足りない印象が無きにしも非ず。
 一部抜粋しながらコメントさせていただきます(以下、茶色い字が記事です);

(社説余滴)おたふくワクチンの葛藤 行方史郎
 2015~16年に300人余りの患者を調べた日本ログイン前の続き耳鼻咽喉(いんこう)科学会の調査では、15人(4・5%)が両耳の聴力を失っていた。「1千人に1人」と言われてきた難聴の頻度については「300人に1人」との結果が今年発表された。
 おたふく風邪はいまだ流行を繰り返し、難聴になれば有効な治療法はない。筆者が子どものころには「小さいときにかかっておいた方がいい」などと言われたものだが、甘くみていい病気ではない。


 その通りです。

 有効なワクチンがあるにはある。ただ、副作用で発熱などを伴う髄膜炎が起きることがある。先進国では公費で受ける定期接種が当たり前だが、日本は自費で受ける任意接種だ。
 接種率は4割程度にとどまり、関連学会などが5月、定期接種化を求めて厚生労働省に要望書を出した。


 定期接種の要望はずっと以前からされています。
 HPVワクチン(子宮頚癌ワクチン)が定期接種化した際、小児科医は「おたふくかぜワクチンの方が昔から要望してきたのに、なぜ?」と疑問を抱きました。


 現在おたふく風邪ワクチンの製造に使われるウイルスは、89~93年に、はしかや風疹と組み合わせた3種混合ワクチンとして定期接種で使われたことがあり、髄膜炎の発生が社会問題化した。


 この原因は、ワクチンを製造する製薬会社が勝手にワクチン株を変更して造ったため起こったトラブルです。
 近年も化血研でトラブルがありましたが、昔からの体質が残っていたということです。
 認可されたワクチン株を使用していれば、「MMRワクチンは世界的に見ても優秀なワクチン」という歴史的評価になったと思います。

 定期接種化しても髄膜炎の発生は当時ほど高くならないとの見方もあるが、一定の割合で起きることは避けられない。一方、髄膜炎の起きにくい新しいワクチンが登場する見通しは当面なく、現状放置がいいとも思えない。

 現在予定されているワクチン株は、欧米で使用されている「副反応は少ないけれど効果も低い」ウイルス株です。ある資料では、1回接種で80%、2回接種で92%の有効率にとどまります。
 米国の一部でおたふく風邪が流行した際、2回接種済みの子どもも罹患してしまい、ダメ押しに3回目の接種をしてやっと流行が終息した、という事例があります。

 過去からくみ取るべき教訓は何か。予防効果と副作用と、どの程度なら国民に受け入れられるのか。まずはそこから議論する必要がある。

 まずは執筆した記者さん、もっと調べ尽くしてから記事を書いていただきたいですね。

 さて、予防接種は医療行為です。
 効果のある薬は、副作用もあるのが普通です。
 残念ながら「副反応のないワクチンはない」のが真実です。

 その感染症が流行した際・罹った際の負担と、ワクチンの効果と副反応を天秤にかけて「接種する価値がある」と判断されたものが市場に出回っているものです。
 しかし、国任せにしないで、ワクチンを受ける人自身が判断できる知識が必要です。
 それには感染症とワクチンの啓蒙・教育から見直さないと、先に進めません。

 私はHPVワクチンのように「希望者には無料で接種可能、ただし国は推奨しない」というスタンスでもよいと思っています。
 そのワクチンを接種すべきかどうか、他人任せにしないで各個人で情報収集し考えるようになるから。
 そうしないと、いつまで経っても「やれと言われたからやったのに・・・」という被害者意識が消えません。

 イギリスではHPVワクチンを接種する(本人談)。対置に教育・啓蒙しているそうです。
 そして接種率は8割を維持しています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

致死率75%の「ニパウイルス」

2018年07月08日 06時49分41秒 | 感染症
 聞き慣れない「ニパウイルス」という病原体。
 インドでこの感染症発生し、なんと致死率75%と報告されているため、取り上げました。
 昨今のグローバル化で、遠い世界の感染症がいつ空輸されるかわからない時代になりましたので。

■ 致死率75%、ワクチン未開発の「ニパウイルス」、インドで感染拡大の可能性(2018.5.23 YAHOO!JAPANニュース)より
■ 「ニパウイルスで3人死亡、40人以上に検査 インド」(CNN 2018.5.22


□ どんなウイルス?
 1997〜1999年にマレーシアの養豚場労働者の間で急性脳炎が流行した際に、病原体として初めて確認された新種のウイルス(発生当初は日本脳炎と誤診された)。名前の由来は、ウイルスが分離された患者が住んでいた村(ニパ村)の名を取った。
 21世紀になってからもアジアで散発的に流行している。
 WHOの統計によると、2001〜2012年の間にインドとバングラデシュで計280件の感染例が確認され、211人が死亡(致死率75%)。

□ 感染経路
 人間、コウモリ、ブタとの接触を介して感染する。
※ ヒトがコウモリの生息地に分け入って養豚場を作ったため、コウモリの体内で眠っていたウイルスがブタ、そしてヒトへと飛び火して新興感染症となった。
※ ブタでは多くの場合不顕性感染となり、死亡率は5%程度。

□ 症状
 始まりは発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、
 次第に急性脳症の症状(めまい、嘔吐、意識障害/昏睡、けいれんなど)

□ 治療
 特効薬はない。対症療法のみ。

□ 予防
 ワクチンはない。
※ 現在、ペット用コウモリの輸入は禁止されている。

<参考>
ニパウイルス感染症とは(NIID 国立感染症研究所)
ニパウイルス感染症(厚生労働省 関西空港検疫所)
 ・・・こちらでは「死亡率40%」と記載されていますね。
ニパウイルス感染症(厚生労働省)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「小児抗菌薬適正使用支援加算」を複雑な思いで見ています。

2018年04月08日 09時33分53秒 | 感染症
 はじめにお断りしておきますが、抗菌薬とは抗生物質のことです。
 この話の基本として「抗菌薬は細菌を退治する薬物であり、ウイルスには効かない」ことをまずご理解ください。
 近年、「抗菌薬適正使用」が叫ばれ、国の施策として実施しています。
 メインの目標は「耐性菌対策」であり、これは世界規模で行われています。

 さて、2018年4月から件名の「小児抗菌薬適正使用支援加算」が発効しました。
 これは、開業医院の小児科担当医が「上気道感染症、急性下痢症には抗菌薬が必要ないことを文書をもって説明」すると計上できる加算です。
 薬を処方して治療すると報酬があるという従来のシステムの真逆で、薬を処方しないことで報酬が得られるという特殊な加算です。

 この話を始めて聞いたとき、私は複雑な思いでした。

 小児科専門医の中では、ずいぶん前から「抗菌薬適正使用」が叫ばれてきました。
 当院でも長らく「かぜの90%はウイルス感染なので抗菌薬が必要なかぜは10%、あなたはこれに該当しない」という説明を重ねてきたので、最近は「抗生物質をください」という患者さんはまれです。
 だからかかりつけ患者でこの加算対象となる患者さんはほとんどいません。
 近隣の小児科専門医も、かぜに抗菌薬をむやみに処方しない方ばかり。

 では、どんな場合に必要なのか?

 それは「今まで抗菌薬を乱用してきた小児科担当医が、適正使用を心がけるようになった」事例でしょう。
 でもそんな小児科専門医は少ないと思います。

 実際に子どもに抗生物質をたくさん処方しているのは、近隣地域では「小児科標榜医」と「耳鼻科専門医」です。
 例えば、元々の専門が小児科以外の医師が当番医を担当すると、たいていかぜの患者さんに抗菌薬が処方されています。
 また、小児の中耳炎や副鼻腔炎を診療する耳鼻科医は、かぜの段階でも予防的に抗菌薬を処方する傾向があると感じています。

 しかし、このような医師には加算できないようなシステムになっており、有効な施策とは思えません。
 条件として「小児かかりつけ診療料」「小児科外来診療料」を採用している必要があるからです。

 当院でも先日、加算第一号が発生しました。
 鼻水が出て耳鼻科を受診し、抗菌薬を含む薬を処方されましたが(中耳炎、副鼻腔炎とは言われていないそうです)、数日後に発熱したので小児科である当院を受診されました。
 診察の結果、特にこじれた所見は認めませんでした。
 治療方針は「かぜ」として対症療法で回復を待ち、現時点では抗菌薬は必要ないことを自作のプリントを渡して説明しました。
 もちろん、経過により今後抗菌薬が必要になる可能性は残っています。

 この加算が抗菌薬適正使用にどれだけの効果があるのか、今後注視していきたいと思います。



 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キノコが原因になる病態はアレルギー?感染症?

2018年03月25日 09時09分03秒 | 感染症
 「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」(ABPA)という長い病名があります。
 今から四半世紀前にアレルギー学会専門医試験の勉強をしているときに、「アレルギー疾患なのに熱が出る病気があるんだ」と驚いたことがあります。

 一般的に、病原微生物が体内で増殖して体に悪影響を及ぼす病態を「感染症」。
 病原性がない異物が体内に侵入してそれを排除しようとする免疫反応が体に悪影響を及ぼす病態を「アレルギー」と呼びます。
 この「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」はどっちつかずの病態のように感じていました。
 基本的に成人発症で、小児では診たことがありません。

 それから、咳嗽の研究で有名な金沢大学の藤村政樹先生の講演をむかし聞いていたとき、「今までどんな検査をしても原因がわからなかった慢性咳嗽患者は、カビ(真菌類)が原因ではないかというしっぽをつかんだ」とつぶやかれたことが妙に耳に残っています。

 そしてカビ(真菌類)の検査技術が発達した恩恵で、新たな病態が明らかになってきました。
 空気中に浮遊しているカビ類の中で一番多いのはキノコ類で、この中に病原性を示すものがあるらしいのです。
 しかも、その“病原性”はアレルギーの要素と感染症の要素を兼ね備えているような・・・。
 目からウロコですね。

■ 空中浮遊菌はキノコが多い!? 〜気道アレルギーと関連する真菌の特性 
2018年02月11日:メディカル・トリビューン)より抜粋;

 大気中には多数の真菌が浮遊しており、これらを吸入することで喘息やアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)をはじめアレルギー性呼吸器疾患を来すことはよく知られている。近年、真菌の同定技術の進歩などに伴い、従来は病原真菌として重視されていなかった菌種、特に真正担子菌(キノコ類)によって生じるABPMの報告が散見されるようになった。
 一般的に、ABPMやアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の原因菌としてはAspergillus spp.が最も多く、次いでSchizophyllum commune(スエヒロタケ)、さらにCurvularia spp.などの黒色真菌がしばしば報告されている。

 ABPMやABPAの原因菌として必要な能力は、
① 飛散・浮遊しやすい
② 既にある程度の数が浮遊している
③ 環境中で長期間生存・安定、乾燥に強い、疎水性
④ 吸入されやすいサイズ、形状
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
⑦ 組織侵入能力が弱い(強過ぎず弱過ぎず適度の病原性)
−などが挙げられるが、中でも気道定着に必要な能力は⑥と⑦であると思われる。

 ABPMの原因菌種は大部分がアスペルギルス属であるが、それを除くとCandida albicansが最も多く、その他に黒色真菌(いわゆる黒カビ)が複数見られ、真正担子菌であるスエヒロタケも多い。実際に大気中(室内)に飛散している真菌は黒色真菌とPenicillium spp.が主体で、アスペルギルス属はわずか1.6%とする国内の報告がある。
 東海大学呼吸器内科学教授の浅野浩一郎氏らの研究班によるABPMと真菌感作喘息の原因菌調査では、アスペルギルス属が半数であったが、約3分の1の症例では喀痰や気道洗浄液から真正担子菌が分離され、菌種は多彩でスエヒロタケ以外の真正担子菌による症例も多かった。一方、一般医療機関からの依頼により亀井氏らが行った最近の原因菌調査では、真正担子菌の70%がスエヒロタケであったという。
・・・
 Aspergillus fumigatusの病原因子は有害分子(toxic molecule)や酵素などである。有害分子としては非常に毒性が強いマイコトキシン(真菌の二次代謝産物)が知られており、アスペルギルス属ではグリオトキシンが最もよく知られている。グリオトキシンは気道線毛運動の抑制や気道線毛上皮の破壊など、さまざまな作用を有しており、気道線毛上皮に対するマイコトキシンの影響はかなり大きいことが分かっている。
・・・
 ABPMの原因菌の多くはアスペルギルス属で真正担子菌は少ない。環境内に多数分布する菌種がABPMの好発菌種となるわけではなく、大きなずれがある。しかし、実際には真正担子菌が環境内に大量に存在していることが分かってきた。亀井氏は「われわれはカビを吸って生きているといわれてきたが、実は"キノコ"を吸って生きているのかもしれない。これまでの認識を改める必要がある」と述べている。
・・・
 さらに同氏は「真正担子菌の潜在能力は高いと思われ、一部の菌種ではマイコトキシン産生能が知られており、今後の検討が必要」とし、「マイコトキシン産生遺伝子は解明されているため、関連遺伝子の制御ができれば、初期であればABPMの予防やコントロールが可能になるかもしれない」と展望している。


 カビ類の名前がたくさん羅列され、わかったようなわからないような内容ですが・・・
 私が注目した点は、ABPA/ABPMの原因菌として必要な能力の、
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
 ーです。
 ⑤はアレルギーの要素、⑥は感染症の要素、と両方の特徴を兼ね備えていなければABPA/ABPMは発症しない、ということです。
 やはり不思議な病態ですね。

 今後の研究動向に注目したいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノロウイルス集団感染と対策

2018年02月17日 13時59分27秒 | 感染症
 ノロウイルスの集団感染がニュースにならない年はありません。
 各施設、対策は取っているのに、なかなか征圧できない感染症の一つです。

 朝日新聞からの事例報告と、読売新聞の感染対策の解説記事を紹介します。

■ 病院でノロウイルス集団感染 患者ら18人 福岡
2018年02月15日:朝日新聞
 福岡市は14日、南区の病院で18人が下痢や吐き気などの症状を訴え、うち5人からノロウイルスが検出されたと発表した。市はノロウイルスが原因の感染性胃腸炎の集団感染とみている。保健予防課によると、症状を訴えたのは60~90代の入院患者11人と、20代と40代の職員7人。重症者はいないという。


※ 下線は私が引きました。

■ ノロウイルス感染予防…嘔吐物は新聞で覆い、次亜塩素酸ナトリウムで消毒を
2018年2月13日:読売新聞
 下痢などの症状が出る「ノロウイルス感染症」は、秋から冬にかけて流行します。ウイルスは感染力が強く、人にうつさないように注意することも大切です。感染者が出たら、汚染物の管理など対策を徹底しましょう。(冨山優介)

◇ なぜ起きる?
 ノロウイルスは直径30~40ナノ・メートル(ナノは10億分の1)で、インフルエンザウイルスの3分の1程度の大きさです。小腸の上皮細胞(表面の細胞)に感染して、増殖します。
 感染の経路はウイルスが口から入る「経口感染」が中心です。感染者の便や 嘔吐おうと 物に触ったり、感染者が触ってウイルスが付着した食品を食べたりして感染します。二枚貝などウイルスに汚染された食品を食べることでも感染します。

◇ どんな症状?
 ウイルスに感染してもすぐに症状は出ませんが、小腸の上皮細胞はやがて大量にはがれ落ち、1、2日後に下痢が起きます。嘔吐も主な症状の一つです。いずれも2、3日続きます。
 ほかにも38度程度の発熱や腹痛、頭痛、悪寒、筋肉の痛み、のどの痛み、 倦怠けんたい 感など、様々な症状を伴うこともあります。
 健康な人が感染した場合は、下痢や嘔吐は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りでは重症化する危険があります。お年寄りが吐いたものを詰まらせて窒息し、死亡することもあります。

◇ どう治すの?
 本村 和嗣 ・大阪健康安全基盤研究所総括研究員(ウイルス感染症)は、「ウイルスの活動を抑え込む抗ウイルス薬や、感染を防ぐワクチンはいずれもありません。症状に合わせて対応する『対症療法』が中心になります」と説明します。
 下痢で脱水症状が起きやすくなるため、必要な水分を点滴などで補給し、胃の調子が悪い状態が続けば整腸剤を服用します。痛みがひどければ鎮痛剤も使います。
 症状が治まるまでは、安静にして過ごします。食欲も減退していることが多いので、おかゆなど消化に良いものを食べて、しっかり栄養を取ることが大事です。

◇ 予防には?
 感染力が強いため、人にうつさないようにするのがポイントです。嘔吐物などを片付ける際には、まず新聞紙などで上から覆い、ウイルスを含んだほこりなどが舞い散らないようにした上で、殺菌力の強い次亜塩素酸ナトリウムを使ってしっかり消毒しましょう。漂白剤として使われることも多く、50~100倍に薄めて代用できます。
 床や便座、ドアノブなど、感染者が触れたところも消毒が必要です。マスクやゴム手袋をつけて作業しましょう。感染者が使ったタオルは避け、食品はしっかり加熱することも大事です。体力が落ちていると感染しやすいので、体調が悪ければ不要な外出を控え、人混みを避けることが賢明です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジフテリアは過去の感染症ではない。

2018年02月10日 20時17分47秒 | 感染症
 日本では過去の病気と考えられているジフテリア。
 喉の強い炎症で窒息死する怖い感染症です。
 3種混合の予防接種開始後に激減し、現在の四種混合に引き継がれてその状態が維持されています。

 思い起こせばソ連崩壊後、予防接種率低下に伴いロシアで流行したことを記憶しています。
 さらに近年、迫害されている民族「ロヒンギャ」の間で発生しているという記事が目に止まりました。

■ バングラデシュでジフテリアが急速に蔓延
2017年12月08日:メディカル・トリビューン
 世界保健機関(WHO)は12月6日、バングラデシュ南東部コックスバザール周辺の仮設キャンプに収容されたロヒンギャ難民の間でジフテリアが急速に広がっていると警告を発した。国境なき医師団(MSF)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)などにより、110例超がジフテリアと診断、うち6例が死亡したと報告されている。

◇ ジフテリア診断例は氷山の一角
 WHOバングラデュ担当のNavaratnasamy Paranietharan氏は「これらは氷山の一角にすぎない可能性がある。ロヒンギャ難民はワクチン接種率が低い感染症に対して極めて脆弱な集団であり、ジフテリア以外にもコレラ、麻疹、風疹など、感染症の温床となる環境下にある」と警告している。
 WHOでは先日まで、ロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの35万人超に麻疹・風疹混合ワクチンを投与、70万人超に経口コレラワクチンを投与するという、難民とコミュニティを感染症から守るキャンペーンを行っていたが、同氏は「今やジフテリアについても同様の措置を講じる必要がある」と指摘している。
 今年(2017年)8月以降、ミャンマーからバングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民は62万4,000人を超え、飲料水、衛生的な環境、公共医療サービスなどへのアクセスが制限された環境で密集して生活しており、さらに人数は増え続けている。
 WHOはバングラデシュ保健家族福祉省および国連児童基金(UNICEF)と協力して、非常に感染性が強い呼吸器疾患の流行を防ぐために効果的な治療と適切な防止法を提供している。3団体は患者の診断と治療、薬剤の適正な供給の確保をサポートし、6年以内に5種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、B型肝炎ウイルス、インフルエンザ菌b型)ワクチンと肺炎球菌ワクチンをロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの全ての小児に接種するキャンペーンを準備中であるという。
 既に、WHOでは今週末までにバングラデシュに届く予定の最初の1,000バイアルのジフテリア抗毒素(抗生物質と混合済み)を調達したという。これによってジフテリア毒素を中和し、ジフテリア感染者の命を救うことができる。
 同氏は「われわれは普段、協力団体とともに健康な労働者が容易に医療にアクセスでき、病気の人に十分なベッドと薬剤を確保するために活動している。しかし、今回のような感染症の流行をコントロールする唯一の方法は、ワクチン接種により感染症から小児を保護することである」と述べている。



 このようなニュースを見聞きして、ワクチン反対派の方々はどう考えるのでしょう。
 「ワクチンは危険だから自然感染の方がよい」と主張し続けるのでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする