起立性調節障害は現代日本の思春期に巣くう病気であり、なかなか一筋縄ではいかず、患者さんも医療側も悩んでいる病態です。
近年は田中英高Dr.一派の診療が主流となり、
診断には持続血圧測定器が必要なため開業医レベルでは扱えなくなり、
正確に診断するためには病院での診療が必要になりました。
また診断後も「1日に水分2リットル、塩分12g摂取が必要」など、
医師として「?」と感じる治療内容など、
臨床経験30年以上の私には今ひとつピンときません。
先日(2024年8月)開催された日本思春期学会でも起立性調節障害の講演がありました。
オンデマンド配信で聴講した兵庫こども病院の小川貞治Dr.の講演内容が腑に落ちましたので、紹介します。
彼の起立性調節障害外来が抱える患者数は1200名!、日本有数の症例数です。
そのうち6-7割が起立性調節障害で、他の3-4割はそれ以外。
起立性調節障害の中ではPOTS(体位性頻脈症候群)と呼ばれる病態が最多、
小川Dr.はPOTSをさらに3つに再分類し、
その病態に合う生活指導と薬物療法を行い、
高い有効率を実績として出しています。
多量の水分と塩分が必要な脱水タイプは約半分で、全員ではないと説明され、
ここが一番納得できました。
▢ 起立性調節障害(OD、orthostatic dysregulation)のサブタイプ
1.POTS:postural tachycardia syndrome、体位性頻脈症候群
2.OH:orthostatic hypotention、起立性低血圧
3.VVS:vasovagal syncope、血管迷走神経性失神
※ ODは欧米ではOI(orthostatic intolerance、起立不耐症)と呼ばれることが多い。
・・・POTSが圧倒的に多く、不登校の原因になるのは主にPOTS。
▢ POTSの診断基準
1.立位時に、有意な血圧低下を伴わずに、心拍数が過度に上昇する(120/分以上、または臥位時よりも30-40回/分 以上上昇)。
2.頻脈に由来すると思われる症状(動悸、呼吸困難感、ふらつき、無力感、brain fog、運動耐容能低下、易疲労、頭痛、胸部違和感、胸痛、腹部膨満感、腹痛など)が持続(2-6ヶ月以上など)。
▢ POTSのサブタイプ
① Neuropathic POTS・・・Partial autonomic neuropathy:足(やお腹)の血管のしまりが悪い
② Hypovolemic POTS・・・Hypovalemia:全身の血液量が少ない
③ Hyperadrenergic POTS・・・Hyperadrenergic state:全身でノルアドレナリンが出過ぎる
・・・3つはまったく無関係で、バラバラなもの。でもゴールは一つ、「頻脈とそれに由来する症状」
▢ POTSサブタイプの比率
① Neuropathic POTS → 37%(単独は15%)
② Hypovolemic POTS → 46%(単独は25%)
③ Hyperadrenergic POTS → 39%(単独は20%)
▢ POTSサブタイプの特徴
ー起立試験ー
(BMI)(飲水量)(CTR)(心拍数・血圧・下肢の色)(血中NA)
① Neuropathic POTS: ー ー ー 高い・低め・強い発赤 低値傾向(バラツキあり)
② Hypovolemic POTS:低い 少ない 小さい 高い・低め・白 普通 or 高い
③ Hyperadrenergic POTS:ー ー 普通 とても高い・低くない・白 高い
※ 例外もたくさんある。
▢ POTSサブタイプ別治療(非薬物療法)
(水分摂取・塩分摂取・有酸素運動) (下肢腹部圧迫・下肢筋力強化)
① Neuropathic POTS: 〇 〇
② Hypovolemic POTS: 〇 ー
③ Hyperadrenergic POTS: 〇 ー
▢ POTSサブタイプ別治療(薬物療法)
㋐ 心拍数を下げる:ビソプロロール「メインテート®」、プロプラノロール「インデラル®」、イバブラジン「コララン®」
㋑ 血管の締まりをよくする:ミドドリン「メトリジン®」、アメジニウム「リズミック®」、(フルドロコルチゾン「フロリネフ®」)、(輸液)
㋒ 血漿(と赤血球)を増やす:輸液、フルドロコルチゾン「フロリネフ®」、デスモプレシン「ミニリンメルト®」
㋓ 心拍数をしっかり抑える:メインテート/インデラル/コラランを十分量かつ長めの期間使う、(輸液)
① Neuropathic POTS: ㋐+㋑
② Hypovolemic POTS: ㋐+㋒
③ Hyperadrenergic POTS:㋐+㋓
▢ 治療目標〜不登校の解消
・毎日、3時限目・4時限目登校ができているならOK(つまり1時限目・2時限目は放棄してもよい)。
・しんどいならば、昼食前に帰宅してもよい。もちろん、体調的に化膿なら6時限目や部活まで滞在可。
↓
・いろいろな効果あり:
① 昼夜逆転を防ぐ
② 家にこもらせない
③ 勉強時間確保
④ 人と接することでメンタル面への影響
・3・4時限目登校ができていれば、いざというとき(定期試験、入学試験、新学期、新学年、新入学などのリセット時)にあっさり1時限目登校ができることがとても多い。
・・・西洋医学では起立性調節障害の治療薬はメトリジンが定番ですが、小川先生の分析ではこの薬剤が必要な患者は37%と半分以下にとどまることがわかり、臨床現場の実感と一致します。