学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

あなたの「国家」はどこから?─山田康弘氏の場合(その4)

2021-11-09 | 新田一郎『中世に国家はあったか』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2021年11月 9日(火)09時21分54秒

吉川弘文館の「歴史文化ライブラリー」シリーズは明確な章立てがないので本当に不便ですね。
山田康弘氏はしっかり全体の構成を考えておられるのに、それが全然反映されていなくて、エッセイ風の印象を与える結果になってしまっています。
ま、そんな文句を言っていても仕方ないので、実質的な第四章第二節「<天下>をめぐる三つの視点」に入ると、山田氏は、

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リアリズム的視点
コスモポリタニズム的視点
リベラリズム的視点は可能か?
「徳川の平和」のバックグラウンド
トライアドをなす<天下>
将軍研究の意義
<天下>と<国>の融合
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という順番で議論を進められます。
最初の「リアリズム的視点」は常識的で分かりやすいのですが、「コスモポリタニズム的視点」は違和感がありますね。(p177以下)

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コスモポリタニズム的視点
 このような、戦国時代の<天下>を大名たちの闘争の場としてとらえるリアリズム的視点は、おそらく今日の戦国時代研究のもっとも一般的かつもっとも強力な視点であるといえよう。戦国時代といえば多くの人が、こうしたリアリズム的視点によってイメージしているといっても過言ではあるまい。
 しかし、戦国時代研究ではもう一つ、これとは別の視点も提示されている。それは、大名を基本単位とする見方に対して再考を促し、個々の人びとすなわち「百姓」たちを基軸にすえながら戦国時代をイメージしていこう、という思潮である。
 すなわち、<天下>といっても、結局は個々の百姓たちの集合体であり、大名といってもその「公権(下からの公権)」は究極的には個々の百姓たちの支持によって、つまり、百姓たちが自らが本源的にもっている権力を委ねることによって形成されている。したがって、大名たちの挙動や<天下>の次元全体の歴史をも動かし、その主役になるのは、一見すると弱い被抑圧者にみえる個々の百姓たちや「惣村」と称される百姓たちの集団にほかならず、大名領国という枠にとらわれない彼ら百姓たちの幅広い相互連帯や活動こそが主として<天下>をつくりかえていくのだ。それゆえに、戦国時代の<天下>を考える際にも、大名を基軸にすえて分析するのではなく、むしろ百姓たちや惣村の動き、彼らの幅広い地域の相互連帯といった諸項目にこそ注意を払うべきである─このように考えていく見方であり、これは、先に紹介した国際社会の次元を理解する三つの視点のうちの一つ、コスモポリタニズム的視点と共通する部分が多いといってよかろう。
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うーむ。
ずいぶん美辞麗句が並んでいますが、これは「コスモポリタニズム的視点」というよりは、古臭い「人民闘争史観」という表現が似合う立場ですね。
1950年代の「国民的歴史学」などという亡霊もキョンシー風に踊りながら登場しそうです。
「大名領国という枠にとらわれない彼ら百姓たちの幅広い相互連帯や活動」といっても、実際には大名領国より更に狭い土地の桎梏の中に生き、せいぜい一揆の際に近隣の村と一緒に行動する程度の「百姓たち」が「コスモポリタン」と言われても、何だかなあ、という感じしかしません。
ま、あまり文句を言わずに、もう少し続きを見て行くことにします。(p178以下)

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リベラリズム的視点は可能か?
 以上のように、戦国時代をめぐる今日の議論では、<天下>の次元を大名と大名との闘争の場ととらえるリアリズム的視点と、個々の百姓や、百姓たちによって形成された惣村などの在地の幅広い動きにこそ注目すべきだとするコスモポリタニズム的視点とが提示されている。では、リベラリズム的な視点、すなわち、<天下>は単に大名たちの対立・闘争の場だけではなく、大名たちによる「まとまり(共同体)」的側面も形成されている場なのだととらえる視点はないのだろうか。
 結論からいえば、そのような視点は今のところ皆無に等しい。その理由の一つは、リアリズム的視点があまりにも強烈に支持されてきたからにほかならない。戦国時代といえば大名間の闘争(群雄割拠)と列島の「分裂」こそが真なる姿であるとされてきたことから、<天下>の次元を大名同士の「まとまり」的側面の形成された場などと考える視点はこれまであまりなかった。しかし、はたしてこのようなリベラリズム的視点の可能性は全くないのだろうか。
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うーむ。
現代の国際社会を分析するに際しては「リベラリズム的視点」は重要ですが、戦国時代に「リベラリズム」と言われても、言葉だけが浮いている感じは否めないですね。
コメント
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