学問空間

「『増鏡』を読む会」、第10回は3月1日(土)、テーマは「二条天皇とは何者か」です。

橋本芳和氏と『政治経済史学』

2017-07-26 | 渡辺浩『東アジアの王権と思想』

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 7月26日(水)11時21分42秒

ちょっと投稿に間が空いてしまいました。
苅部直氏の『歴史という皮膚』、少し真面目に検討しようかなと思って、ところどころ拾い読みしてみたのですが、どうにも相性が良くない感じがして、暫く離れることにしました。
気分転換のため、筆綾丸さんも話題にされた亀田俊和氏の新刊『観応の擾乱─室町幕府を二つに割いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』(中公新書)を読んでみたところ、これは非常に面白い本でした。

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観応の擾乱は、征夷大将軍・足利尊氏と、幕政を主導していた弟の直義との対立から起きた全国規模の内乱である。室町幕府中枢が分裂したため、諸将の立場も真っ二つに分かれた。さらに権力奪取を目論む南朝も蠢き、情勢は二転三転する。本書は、戦乱前夜の動きも踏まえて一三五〇年から五二年にかけての内乱を読み解く。一族、執事をも巻き込んだ争いは、日本の中世に何をもたらしたのか。その全貌を描き出す。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/07/102443.html

『南北朝の動乱』(中央公論社、1965)で一世を風靡し、半世紀の間、それなりに権威を保持していた佐藤進一説も歴史的な役割を終えたようですね。
亀田氏は「あとがき」で、

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 同じ時期を扱っているため、内容的には今までの拙著と重複する部分も多く、その点は御容赦いただきたい。ただし、筆者の見解を変更した点もいくつか存在する。
 そしてもちろん、今までの本では言及しなかった事柄も新たに大量に紹介した。その際、参考にしたのが、主要参考文献にも掲げた橋本芳和「南北朝和睦交渉の先駆者、足利直義(Ⅰ)~(Ⅵ)」(『政治経済史学』五九二~五九七、二〇一六年)である。
 しかし、本論文は学術雑誌に掲載された学術論文であり、一般の読者にはなじみが薄いものである。また題名からあきらかなとおりに直義による南朝との講和交渉を主題とする論文であり、観応の擾乱そのものは論点ではない。史料解釈に関しても、筆者の見解とは異なる部分が多い。何より、基本的には従来の定説に依拠している。以上の理由から、観応の擾乱に関しては、やはり本書が今後の必読文献になることができればと考えている。
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と書かれていますが(p251以下)、失礼ながら橋本芳和氏は、専門研究者の間でもそれほど有名ではない人かもしれないですね。
私は鎌倉後期の貴族社会を調べていたとき、橋本芳和氏が『政治経済史学』に載せた論文をいくつか読んでいて、特に「遊義門院姈子内親王の一考察─東二条院所生の後深草法皇皇女と後宇多上皇の後宮」(『政治経済史学』283号、1989)は、自分が追求していた課題に直接関係するタイトルだったので、苦労して入手した後、むさぼるように読みました。
しかし、率直に言って、橋本氏の推論の過程はあまり丁寧ではなく、貴族社会に対する洞察力にも欠けている感じがして、結果的にはあくまで資料集として参考にさせてもらった論文でした。
また、『政治経済史学』も「学術雑誌」というには若干微妙な雰囲気があり、きちんとした査読がなされているとは思えず、執筆者が固定された同人誌みたいだなあ、という印象を受けました。
国会図書館サイトで検索してみたら、橋本芳和氏には45本の論文があり、その全てを『政治経済史学』に載せているようで、ちょっと珍しい人ですね。

>ザゲィムプレィアさん
いえいえ。
私も棚田を環境破壊の観点から考えたことはなかったので、ご投稿は大変参考になりました。

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5 コメント

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Unknown (中原)
2022-07-24 14:19:44
鈴木小太郎 様
突然失礼致します。
学生時代より古代史等を勉強しており、記事中にもある『政治経済史学』にも投稿経験がある者です。記事を拝読させていただき、その上で思うところがあましたので、不躾かと思いましたがコメントさせていただきます。

まず、亀田氏のあとがきを引用してまで、橋本氏を貶めるようなことを書くのは、一体どういった意図からでしょうか。
鈴木様は橋本氏の論について、推論の過程はあまり丁寧ではない、貴族社会に対する洞察力が欠けていると指摘されていますが、具体的にどのような点が不十分だったのでしょうか。あるいは、どのような点に貴族社会に対する洞察力が欠けていると感じられたのでしょうか(そもそも、そういった洞察力が存在するのか)。一読した上で具体的な根拠が示されていないよう思われました。
失礼ながら、インターネットという匿名の空間でこういった批判をされるのはいかがなものかと存じます。無粋なことをいうようですが、学問であれば、批判するならば匿名のブログではなく論文として発表するのが道理です。

また、鈴木様は併せて『政治経済史学』誌についてもご批判されておりますが、同誌は著名な研究者の方も投稿されておりますし、中世史を中心に概説書や新書などにも参考文献として登場する雑誌です。この点も雑誌の歴史を学んでいる側として、聊か納得が出来ませんでした。
返信する
こんにちは。 (鈴木小太郎)
2022-07-26 21:49:06
遊義門院に特別な関心を持っていた私にとって、橋本氏の論文のタイトルは極めて刺激的だったので大いに期待したのですが、私の問題意識とは基本的な部分で齟齬があったので、私にとっては役立つ論文ではありませんでした。
「具体的にどのような点が不十分だったか」と問われても、それを説明するのは面倒ですし、あまり愉快でもないので控えます。
そもそも私は別に橋本氏と論争をしたい訳でもないので、単に感想を言っただけですが、それがいけないのでしょうか。
貴兄が「学問であれば、批判するならば匿名のブログではなく論文として発表するのが道理」という独自の信念を持つのは勝手ですが、そんなことを他人に要求する根拠、換言すれば、そのようなことを他人に要求する貴兄の資格はいったい何なのでしょうか。
私には貴兄の見解は「学問の自由」を狭めるものとしか思えませんし、自分がそのような拘束を甘受しなければならない理由も見出せません。
要するに、大きなお世話、以外の感想を持てません。
そもそも私は歴史学界に何の影響力もないので、私が少し否定的なことを書いたからといって橋本氏や『政治経済史学』の評判に影響を与えることなどないはずです。
ま、少しくらい悪口を言われても気にしないのが一番かと思います。
返信する
Re:こんにちは。 (中原)
2022-07-27 23:40:20
コメントありがとうございます。
資料や文献が集まらず、苦心されている点について、心中お察し致します。愚痴を言いたくなるのも分かる気がします。
しかし鈴木様は、私の言葉を誤解されているかと思いましたので、しつこいようですがご返信致します。ご迷惑でなければおつきあい下さい。

さて鈴木様は、
「貴兄が「学問であれば、批判するならば匿名のブログではなく論文として発表するのが道理」という独自の信念を持つのは勝手ですが、そんなことを他人に要求する根拠、換言すれば、そのようなことを他人に要求する貴兄の資格はいったい何なのでしょうか。」
とおっしゃいますが、私が言いたかったことは、学問であるならば、発言の責任が明確であるべきだということです。つまり、匿名で発言の責任が定かでないまま発言を発信するということは、学問上、問題があると思います。そのため、本名での論文執筆を行う必要があるということです。(もっとも、この記事が「学問」でなく鈴木様個人の「悪口」をはき出したものであるとおっしゃられるのであれば、私の指摘は当てはまらないものと思います)。

また、「私には貴兄の見解は「学問の自由」を狭めるものとしか思えませんし、自分がそのような拘束を甘受しなければならない理由も見出せません。」
とおっしゃいますが、私に「学問の自由」を狭める意図はありませんし、ここは鈴木様のブログでありますので、鈴木様に私の考えを押しつける気は毛頭もございません。ただ反論を「論文で書く」ということは、研究者として至極真っ当な意見を申し上げたものと信じております。仮に論文であるならば、査読がない論文より、厳しい査読を経た論文の方が信頼がおけると考えています。その点は鈴木様も当該記事中で書いてらっしゃいますよね?鈴木様が私の考え(すなわち、論文重視の考え)が「学問の自由」を狭めるとお考えならば、解釈によっては、鈴木様のダブルスタンダートにも感じられます。
また、当該記事が橋本氏や『政治経済史学』誌に対し、いささか一方的な内容に思われましたので、読者として少々、異なった意見を書き込んだつもりでおります。この点について、もし、私が書いたことでご気分を害せられましたら誤解でありますのでご容赦頂けたらと思います。
返信する
Unknown (鈴木小太郎)
2022-07-29 13:57:51
中原さん
長文を書いていただいて恐縮ですが、私も多くの課題を抱えていてそれなりに忙しいので、返答は控えます。
なお、貴兄は「匿名」を強調されますが、私も四半世紀以上「鈴木小太郎」を使っていて、「匿名」という意識は全くないですね。
他のサイトでは実名も使っていて、特に隠す意図もなく、知っている人は知っています。
返信する
Unknown (中原)
2022-07-31 22:24:51
鈴木様

ご多用中にも関わらずお時間を割いて頂きありがとうございます。十分なお話ができず残念ではありますが、致し方ありませんね。
同じ研究者として、ぜひ次回は論文で鈴木様のご高説を賜りたく存じます。
今後のご研究の成功をお祈り致しております。
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