私の和裁のお稽古は 今から5年前の1月最後の週の木曜日にスタートしました。(ノートの記録です)
前日の夜、反物、裁縫道具 筆記用具 などを 準備し、当日の朝は、弁当作り。
新しいことにトライすることが めったにない 私にとっては、久しぶりのお稽古です。
朝十時から始まるお稽古ですが、自転車で 5分とかからぬ距離なのに、9時半前には家を出ました。
少し早めに行き、準備したりしなければならないと思っていたからです。
ところが、その家に着き、玄関のベルを鳴らしても シーンとして 応答がないのです。
? 先生は ご高齢です。 何かあったかしら? と 急に不安になりました。
家の前で、15分ほど、待ちました。 ほかのお稽古する生徒さんもいらっしゃいません!
もう一度ベルを鳴らしました、数回。
すると ようやく 返事があり、先生ご本人が出てくださいました。
お稽古場所に 二階の和室二間を続けて使うことは、あいさつに伺ったときに説明を受けていました。
二階に上がり、和裁台を出したりしていると、もう一人の方がお見えになりました。(ほっと安心!)
二人でお話しながら、雨戸をあけ、ヘラ台や座布団 コテ(ミニアイロン)や物差しを人数分準備し始めました。
10時過ぎたころ、もう一人 さらにいらっしゃいました。
でも 先生は 二階には あがっていらっしゃいません。
お二人は 銘々ご自分の着物を出して 準備を始めたり 針を持ったりしてます。
お二人とも 袷を仕立てているところでした。
私が、
「一年に何枚ほど 仕立てられるのですが?」 と 尋ねると、二人で顔を見合せて、ほぼ同時に
「何枚って、やっと一枚ですよ」 と。
これには かなりびっくりしました。
お二人ともその教室に通い始めて十年以上ということだったからです。
先生のお歳は八十が近いと伺っていました。
お二人の話から
『私が袷を仕立てられるようになるまで このお教室は 続くのかしら?』 とか
『まあ、お月謝×12か月>お仕立て代 で とても不経済な世界だわ』 とか、
『先生のお話では プロの仕立て師になれる知識と技術を指導しますとの説明だったけど、
ほんとは 趣味のお教室かしら?』 とか
まぁ 私の心の中で いろんなことがぐるぐる回ってしまいました。
10時半ぐらいに 先生が二階に上がっていらっしゃいました。
そして お二人の生徒さんと おしゃべりがしばらく続くのです。
やっと私の方をむいて、
「反物は持ってきましたか」 と声をかけてくださいました。
「はい 古いものですが、持ってきました。」 とお答えすると、
「では、反物を広げてみなさい」 と言われました。
浴衣の生地を荷物の中から出すと 反物の裏表を確かめられた後、黄色い三角チャコを出して、
「この浴衣は 藍染だから、裏表がわかりにくいです。
後から、困らないように、裏側の片方の耳のきわにチョークで1尺ぐらいの間隔で このように印をつけなさい」 と
2回ぐらいチョークで印をつけられた後、私に手渡しです。
一反分の片方とは言え、1尺ごとに印をつけていくのは 大変な作業でした。
裏の印を付け終わると、また 反物を手にとられ、長い物差しで持って 長さを改め始められました。
その時から 急に先生の態度というか、姿勢が変わりました。
プロのオーラが出たのです。(と 私にはそのように見えました)
反物を2尺ものさしで 検められた後、私にむかって
「着丈はいくらですか?」 と言われました。
(この時でさえ、私は 先生が使い始めたものさしが2尺さしとは気づいていませんでした)
私は
「今までは 身長が165㎝なので、そのぐらいになるように していました」 と答えました。
すると、先生
「センチで言われてもわからないよ! 尺で言わなきゃ。」 とおっしゃるのです。
ところが 私は、和裁の寸法の表し方というか 仕立て方について、
鯨尺を使いたいとか 使っていたとかいうことに関しては
大学卒業後にクロワッサンという雑誌などで数回読んだ程度の知識しかありませんでした。
そこで
「私は尺で着物の寸法を計算したりしたことがありません」 と答えるしかありません。
すると先生は 165㎝を鯨尺に換算し始められました。
その後、
「この浴衣地は最近のものでないから、あなたのように身長のある人にはちょっと足りないよ。
でも 柄合わせの必要がないから、一杯一杯とっていこうかね」 と言いながら、
ヘラ台に反物を まず袖から、次に身頃2枚 最後に衽と衿分をびょうぶ畳みに置いて行かれました。
そして
「ノートに書きなさい」と言われ、その言われた寸法を書きとめることが、
私の先生から習った初めての裁ち方でした。
袖丈:1尺2寸
袖幅:9寸
肩幅:8寸5分
後ろ幅:8寸
総丈:4尺3寸6分
裁ち切身丈:4尺3寸6分
上がり:4尺2寸6分
ヘラ台に置かれた浴衣は 残り布が私を広げたおおきさの幅ほども残っていません。
「先生、居敷あてはとらなくてもいいのですか」 とふと思って尋ねてみました。
すると先生
「居敷当ては最近は付けません。居敷当てを付けると、くけ跡が表にひびいて見苦しいだろ。
それに 昔ほど、頻繁に浴衣を着て、洗ったりすることもなくなったから、
背縫いを二度したら、十分なんです 」と説明されました。
確かに、あの居敷当てのくけ跡は 現代の美意識からずれています。 『なるほど』と思いました。
寸法を書きとめると、先生が裁ちばさみで身頃と衽分と袖を切り離してくださいました。
「おや もうお昼だよ。お腹すいたね。ごはんにしようか。あなた、お昼持ってきましたか?」
『えーっ そんな まだ大したことしてないのに…… ちっとも進んでいないのに』
とお腹の中で嘆きつつ、
「ハイ お弁当を作ってきました」 とにっこりとお返事して、午前中のお稽古終わりとなりました。