武井明「思春期外来の窓から」
子どもたちには、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのでしょうか。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、「世代の段差」に橋をかけます。
子どもたちは当たり前のように、毎日、学校に通っていますが、学校生活ではうまくいかないことがたくさんあるに違いありません。そんなことを一つ一つ心配していたら、悩みが尽きなくなってしまいます。
今回は、心配性の女子高生がそのような悩みを乗り越えるコツを教えてくれました。
遥香さん(仮名)は、幼い頃から音に過敏で、小さな物音ですぐに目を覚ます子でした。幼稚園では一人でお絵描きや折り紙に夢中で、他の園児と一緒になって遊ぶことはありませんでした。 小学校ではおとなしく、とても几帳面な子で、勉強にも熱心に取り組んでいました。放課後は友達と遊ぶことはなく、すぐに帰宅し、お絵描きをしたりアニメを見たりしていました。
中学校では、休み時間に一人で本を読んで過ごしていました。学校の規則をよく守り、忘れ物をしたこともありません。学業成績は常にトップクラスでした。
高校は全日制の進学校に入学しました。どの教科も毎日のようにたくさん宿題を出す学校で、遥香さんは、宿題と翌日の予習のため、夜遅くまで勉強していました。一方、学校では友達をなかなか作ることができませんでした。
高校1年の5月の連休明けから、朝になると頭痛や吐き気、めまいが起きて学校を休むようになりました。内科では異常がないということで、高校1年の夏休み明けにお母さん同伴で思春期外来を受診しました。
遥香さんは主治医と視線をあまり合わせない子で、主治医からの質問にもほとんど答えませんでした。そのため、お母さんがこれまでの経過を話してくれました。 「とてもまじめで、勉強をよくする子でした。悩みごとを話してくることがなかったので、学校ではうまくいっているものだと思っていました」 遥香さんには、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向が軽度ですが認められました。2週間に1度の頻度で、お母さん同伴で通院することになったのです。
アニメ関係の専門学校に入学…好きなことしている時が一番楽しい
2回目以降の診察から、遥香さんは、スマートフォンのメモ帳に悩みごとを書き、それを主治医に見せるという診察を繰り返しました。 通院して2か月後のメモには次のようにつづられていました。
「登校する前日の夜になると、明日、学校で同級生と話ができるだろうか、無視されないだろうか、宿題は忘れていないだろうか、授業で当てられて答えられないことはないだろうかといったことが次々と頭に浮かび、不安でしかたありません。それで、夜も眠れなくなり、一睡もできないまま朝になることもありました」
通院4か月後の診察では、相変わらず携帯電話のメモを主治医に見せてきましたが、話をしてくれることも多くなりました。進級が難しいと学校から言われたため、通信制高校に移ることにしたことも伝えてくれました。
通院6か月後。通信制高校の週2回の登校日には休まず登校しています。この頃の遥香さんは、診察室でメモを使わず、うれしそうに、次のように話してくれました。 「通信制高校は、根を詰めて勉強しなくてもいいので、とても楽です。そのせいか、この頃の私は、登校前日にあれこれ心配することをやめています。明日の心配ごとは、明日の自分が解決してくれると考えるようになったのです。だから、今日は今日の心配ごとだけを考えるようにしています。明日になってみないとわからないことがたくさんありますよね。今度の学校ではアニメが好きな友達もできました」
その後の遥香さんは、アニメ関係の専門学校に入学しました。細かなことにこだわるところが少しあり、大勢の人の前は苦手ですが、好きなことをしている時が一番楽しいということで、通学を続けています。
明日のことは明日の自分が解決してくれる
遥香さんは細かなことが心配になりやすい傾向があり、全日制高校に通うことが難しくなりました。
通信制高校に移ってからの遥香さんは、登校前日の心配ごとに対して、「明日のことは明日の自分が解決してくれる」と考えるようになり、前日に必要以上に心配することをやめ、高校も無事に卒業しました。
明日は現在の延長線上にあるのではなく、いろいろな可能性があり、良いことが思いがけず起きることもあります。精神的に追い詰められた際に考えてしまう明日とは、過去の複製でしかなく、不安に満ちたものになりやすいのではないでしょうか。 遥香さんが、明日の自分に任せようと考えることができたのは、通信制高校に移って勉強の負担が軽くなったことが深く関係しています。精神的な余裕が生まれることで、今まで思いつかなかった見方ができるようになったわけです。 私たち大人も、寝る前に明日の仕事のことをあれこれ考えず、遥香さんのように生きていきたいものです。人は今日がダメなら明日もダメと考えてしまいがちです。明日は明日に任せて生きるという生き方があることを忘れないようにしたいと思います。
武井 明(たけい・あきら)
1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。
感想;
セロトニン不足がASDと関係があるとのことを初めて知りました。
調べたらASDの人の一部にセロトニン不足が関係しているとのことでした。
「今日はもう辛いから明日考えよう」
有名なラストの言葉です。
聖書にも「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は,その日だけで十分である」 の言葉があります。
生きていると悩みはつきません。それが生きるということなのかもしれません。
明日のことをあれこれ考えても解決しません。
神様に預けてしまえば良いのです。
遥香さんは「幼い頃から音に過敏で、小さな物音ですぐに目を覚ます子」との説明からASDというより、HSPの傾向があるのではないかと思いました。
遥香さんは認知の歪みも持っていたかもしれません。
「学校では友達をなかなか作ることができませんでした」
友達出来なくてもよいのです。爆笑問題の太田光さんは高校まで友達いなかったそうです。大学で田中さんが初めての友達だったそうです。それが独特の笑いにつながっているように思います。
また、勉強できなくてもよいのです。先生に当てられて答えられなくてもよいのです。
ドラえもんののび太、ちびまる子ちゃんのまる子ちゃんは勉強出来なくても元気です。
一人ひとり違います。
人と決して比較しないことではないでしょうか。
元々が違うのですから比較しても意味がないし、何のメリットもなく、デメリットなだけだと思います。
自分の身体と心を先ずは知り、上手く運転することなのでしょう。
そして自分がやりたいことを見つけてそれをやることなのでしょう。