みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみぢはよるの にしきなりけり
見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり
紀貫之
見る人もないまま散ってしまう奥山の紅葉は、夜に錦を着ているのと同じで、せっかくの美しさの甲斐もないことであるよ。
詞書には「北山にもみぢ折らむとてまかれりける時によめる」とあり、山に深く入り込んだ場所で実際に散っていく美しい紅葉を見ての歌ですね。「衣繡夜行(いしゅうやこう)」という四字熟語がありますが、これのもととなった中国の故事を踏まえての作歌でしょう。
『史記』
曰 富貴不歸故郷 如衣繍夜行
誰知之者
曰く 富貴にして故郷に帰らざるは 繍を衣て夜行くが如し
誰か之を知る者ぞ