漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0411

2020-12-14 19:30:13 | 古今和歌集

なにしおはば いざこととはむ みやこどり わがおもふひとは ありやなしやと

名にしおはば いざこととはむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと

 

在原業平

 

 「都鳥」という名であるならば問うてみよう、都鳥よ。私の思う人は都で元気にしているだろうかと。
 歌意はわかりやすいですね。この歌に関して特筆すべきは、古今和歌集でもっとも長い詞書が付されていることでしょう。そのまま引用してみます。

 

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 武蔵の国と下総の国との中にある墨田川のほとりにいたりて、都のいと恋しうおぼえければ、しばし川のほとりに下りゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなと思ひわびてながめをるに、渡し守、「はや舟に乗れ、日暮れぬ」といひければ、舟に乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なくしもあらず。さる折に、白き鳥のはしと足と赤き、川のほとりにあそびけり。京には見えぬ鳥なりければ、みな人見知らず。渡し守に、「これは何鳥ぞ」と問ひければ、「これなむ都鳥」といひけるをききてよめる。
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 こうなると、和歌集というよりもはや歌物語の体裁ですね。この歌に限らず、業平の歌には他に比して長い詞書が付されているものが多いです。業平の著作とされる伊勢物語のことが自然に連想されますね。