あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
安倍仲麿
大空をふり仰いで見ると、そこに見える月は、かつて春日の三笠の山に出ていたのと同じ月なのだなあ。
古今和歌集巻第九「羇旅歌」の冒頭は、百人一首(第七番)にも採録され、ほぼ説明を要しないほどに著名な歌です。詞書には「もろこしにて月を見てよみける」とあり、遣唐使に随行して留学生として大陸に渡った仲麿が帰国の途につくに際して、あふれ出る望郷の念を詠んだ名歌ですね。乗った船が難破して帰国かなわず、唐に戻ることを余儀なくされ、唐でその生涯を終えることとなった運命もこの歌を読む者に一層強い感慨を与えています。
作者は若くして学才を謳われた8世紀の人物。今の満年齢で言えば19歳で遣唐留学生として唐に渡り、唐朝の所官を歴任。770年に没するまで、50年以上に渡って唐で暮らしました。