いとによる ものならなくに わかれぢの こころぼそくも おもほゆるかな
糸による ものならなくに 別れ路の 心細くも 思ほゆるかな
紀貫之
糸に縒ることができるわけでもないのに、別れ路がまるで糸のように心細く思えることよ。
別れの心細さを細い糸にたとえつつそれを否定(「糸でもないのに」)する手法。この歌について、吉田兼好は徒然草第十四段で
貫之が、「絲による物ならなくに」といへるは、古今集の中の歌屑とかや言ひ傳へたれど、今の世の人の詠みぬべきことがらとは見えず。
と言っています。古来この歌が「古今集の歌屑」と酷評されたこと、そしてそれに対して兼好が反論していることがわかります。