こころから はなのしづくに そほちつつ うくひずとのみ とりのなくらむ
心から 花のしづくに そほちつつ 憂く干ずとのみ 鳥のなくらむ
藤原敏行
自分から好んで花の雫に濡れているのに、どうしてあの鳥はつらい、乾かないと鳴いているのだろうか。
ここから 0468 までの47首で、巻第十「物名」が構成されています。デジタル大辞泉によれば、物名歌とは
「和歌・連歌・俳諧で、歌や句の意味とは関係なく物の名を詠み込んだもの。古今集の「心から花のしづくにそぼちつつうくひずとのみ鳥のなくらむ」にみえる「うくひず(憂(う)く干(ひ)ず)」に「うぐいす」を詠み込んだ類。隠し題。」
とあり、この歌が例として記載されています。本歌では第四句に「うくひす」がそのまま出てきていますが、物名歌としては隠し題がわかりづらい方が良いとされ、複数の句にまたがって詠み込まれた歌が多いです。歌そのものの情趣や込められた心情等とは関係がなく、また物名を入れ込むために多少無理な表現をとっているものもあって、戯れの言葉遊びの色彩が強いですが、日本語という柔軟性の高い言語ならではの技法でしょう。歌の表題を見ずに読んで、隠し題を探すのも面白いですよ。 ^^