このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに
このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
菅原朝臣
今回の旅は、幣を用意することもできませんでした。代わりに手向山の紅葉を幣として手向けますので、神の御心のままにお納めください。
「たび」は「度」と「旅」の掛詞で、この一節だけで「この度の旅」という意味になります。「とりあへず」は現代語の感覚でさらっと読んでしまうと「一旦、仮に」の意味かと思ってしまいますが、ここは「取る」+「あふ」+「ず(否定)」で、「完全に捧げることができない」の意。「手向山」は神に手向けをする山の意で固有名詞ではありません。
・・・などと長々と書く必要もないほど知られた歌ですね。0272 でも紹介した通り、百人一首(第24番)にも採録された、歌人道真を代表する名歌です。