漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0362

2020-10-26 19:35:15 | 古今和歌集

あきくれど いろもかはらぬ ときはやま よそのもみぢを かぜぞかしける

秋来れど 色もかはらぬ 常盤山 よその紅葉を 風ぞ貸しける

 

坂上是則

 

 秋が来ても色が変わらないはずの常盤山の木々が紅葉しているのは、他の地の紅葉を風が運んできたのだな。

 その名前から、色が変わらない(=紅葉しない)というイメージのある常盤山。その常盤山が実際には紅葉しているのは、他所の紅葉を風が運んできたのだろうと雅な想像をして見せる機智。

 作者坂上是則の歌はここまでで計五首。

 

佐保山の ははその色は うすけれど 秋は深くも なりにけるかな 0267

もみぢ葉の 流れざりせば 竜田川 水の秋をば 誰か知らまし 0302

み吉野の 山の白雪 積もるらし ふるさと寒く なりまさるなり 0325

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 0332

 

 こうして並べて改めて鑑賞すると、ははその黄色、紅葉の赤、雪の白など、「色」のイメージの強い歌が一つの特徴(歌風)のように思えますね。^^

 


古今和歌集 0361

2020-10-25 19:23:30 | 古今和歌集

ちどりなく さほのかはぎり たちぬらし やまのこのはも いろまさりゆく

千鳥鳴く 佐保の川霧 立ちぬらし 山の木の葉も 色まさりゆく

 

壬生忠岑

 

 千鳥が鳴く佐保川の霧が立ったのだろう。山の木の葉も一層鮮やかに色づいているのだから。

 佐保山を詠み込んだ歌群(0265026602670281)に続いて、こちらは佐保川。万葉集にも作例があり、古くから多く歌に詠まれた場所です。


古今和歌集 0360

2020-10-24 19:06:28 | 古今和歌集

すみのえの まつをあきかぜ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ

住の江の 松を秋風 吹くからに 声うちそふる 沖つ白波

 

凡河内躬恒

 

 住の江の松に秋風が吹きつけるやいなや、それに合わせて音を響かせて寄せる白波であるよ。

 初めてこの歌に接したときは「それがどうしたの?」と言いたくなりました(汗)が、情景を思い描きながら繰り返し読んでみると、松に吹き付ける風の音と打ち寄せる波の音、松の緑と波の白、二重のシンクロが詠み込まれた、味わい深い歌であることがわかってきます。


古今和歌集 0359

2020-10-23 19:39:29 | 古今和歌集

めづらしき こゑならなくに ほととぎす ここらのとしを あかずもあるかな

めづらしき 声ならなくに ほととぎす ここらの年を あかずもあるかな

 

紀友則

 

 珍しい声でもないのに、ほととぎすの鳴く声を毎年飽きずに聞いていることだ。

 毎年変わることのないほととぎすの鳴く声を詠んだ歌は、01440159 にも。ほととぎすに限りませんが、ある時期に決まって見聞きできるからこそ、「またこの季節がやってきた」という感慨を人に抱かせますね。季節の風物詩というところでしょうか。

 


古今和歌集 0358

2020-10-22 19:19:48 | 古今和歌集

やまたかみ くもゐにみゆる さくらばな こころのゆきて をらぬひぞなき

山高み 雲居に見ゆる 桜花 心の行きて 折らぬ日ぞなき

 

凡河内躬恒

 

 山が高いので雲のあたりに見える桜花。そこまで行くことはできないけれども、心だけはそこに行って枝を折らない日はないのだよ。

 0357 の詞書にある通り、長寿祝賀の宴の席で屏風に書きつけられた歌とのことですが、「四季の絵」が描かれた屏風とありますので、ここで描写されているような絵が描かれていたのでしょう。祝賀の宴席での歌ということで「賀歌」に収められていますが、この歌自体には祝賀の表現は特に盛り込まれていないように見えます。あるいは、祝賀の主人公を山頂近くに咲き誇る桜に喩えてのものでしょうか。