漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0392

2020-11-25 19:30:55 | 古今和歌集

ゆふぐれの まがきはやまと みえななむ よるはこえじと やどりとるべく

夕暮れの 籬は山と 見えななむ 夜は越えじと 宿りとるべく

 

僧正遍昭

 

 夕暮れ時の籬は山に見えてほしい。夜には山は越えられないと、人が泊まってくれるように。

 訪れてくれた人が帰って行ってしまうのを名残惜しく思い、その人の目に垣根が山に見えてくれれば良いのにと、およそありそうにないことまでも願い夢想しての詠歌です。


古今和歌集 0391

2020-11-24 19:04:54 | 古今和歌集

きみがゆく こしのしらやま しらねども ゆきのまにまに あとはたづねむ

君が行く 越の白山 知らねども 雪のまにまに あとはたづねむ

 

藤原兼輔

 

 あなたが旅立つ越の国の白山を私は知らないですが、そこの雪がどのようであったとしても、後をついて尋ねて行きましょう。

 「まにまに」は漢字では「随に」で、「~に任せて」「~のままに」の意。「雪」は「行き」の掛詞になっていますので、ここではあなた様が行かれるそのままに、といった意味でしょうか。
 作者の藤原兼輔(ふじわら の かねすけ)は、藤原北家に属する公家・歌人で三十六歌仙の一人。古今集の四首を含め、56首が勅撰和歌集に入集している大家で、新古今和歌集採録の次の歌は百人一首(第27番)にも選ばれています。

 

みかのはら わきてながるる いずみがわ いつみきとてか こひしかるらむ

みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ


古今和歌集 0390

2020-11-23 19:16:06 | 古今和歌集

かつこえて わかれもゆくか あふさかは ひとだのめなる なにこそありけれ

かつ越えて 別れもゆくか 逢坂は 人だのめなる 名にこそありけれ

 

紀貫之

 

 出会うことの一方で越えて別れて行く地でもあるのだな、逢坂は。「逢う場所」と人があてにする名前の地であるのに。

 「ひとだのめ」は「人頼め」で、人にあてにさせること。0374 と同じく、「逢坂」が地名の語感とはうらはらに別れの場所であることに恨み言を言うことで、惜別の情を表現しています。

 

 

 


古今和歌集 0389

2020-11-22 19:41:07 | 古今和歌集

したはれて きにしこころの みにしあれば かへるさまには みちもしられず

したはれて 来にし心の 身にしあれば 帰るさまには 道も知られず

 

藤原兼茂

 

 おのずと恋い慕ってしまう気持ちからここまでやって来たけれど、あなたと別れて帰る道々はあなたと共にい続ける心と帰る身体が離れてしまうので、帰り道もわからなくなってしまうのでしょう。

 歌意を不足なく表すには言葉がたくさん必要で、解釈文が長くなってしまいました。これまでもいくつか出てきた、別れによる心と身体の分離を詠んだ歌ですね。


古今和歌集 0388

2020-11-21 19:37:58 | 古今和歌集

ひとやりの みちならなくに おほかたは いきうしといひて いざかへりなむ

人やりの 道ならなくに おほかたは 行き憂しといひて いざ帰りなむ

 

源実

 

 人に遣わされての旅ではないのだから、普通であれば行くのが嫌だと言ってさあ帰ろうとなるのだけれど。

 一つ前の 0387 で別れの対象となったのがこの歌の作者源実(みなもと の さね)。別れに際しての男と遊女との歌のやりとりというシチュエーションですね。
 作者の源実は平安時代前期の貴族にして歌人。古今集への入集は、こちらもこの一首のみとなってます。