漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0467

2021-02-08 19:41:23 | 古今和歌集

のちまきの おくれておふる なへなれど あだにはならぬ たのみとぞきく

のちまきの 遅れて生ふる 苗なれど あだにはならぬ たのみとぞ聞く

 

大江千里

 

 後から蒔いて、遅れて育つ苗だけれども、無駄にはならず田の実をつける、頼りになるものときいているよ。

 何の苗なのかも言及がなくてわらかず、何やら深い含意がありそうな気がしますがそれもわからない、なんともすっきりしない歌のような後味がしてしまうのは、まだ私が浅学のためでしょう。ただ手持ちの文献もネットで調べて見てもそのあたりのことは書かれていないので、多くの鑑賞者にとってよくわからない歌であるのかもしれません。隠し題は「のちまきの」に詠み込まれた「ちまき(粽)」。大江千里(おおえ の ちさと)の歌は 0271 以来久々の登場です。


古今和歌集 0466

2021-02-07 19:46:39 | 古今和歌集

ながれいづる かただにみえぬ なみだがは おきひむときや そこはしられむ

流れ出づる 方だに見えぬ 涙川 沖ひむ時や そこは知られむ

 

都良香

 

 流れ出る方向さえも見えない涙の川。流れゆく先の海の沖が干上がることがあったら、その時は涙の川の底も流れ出る場所もわかるだろうか。

 歌意が取りづらいので、かなり言葉を足した解釈にしてみました。「涙川」は、次から次へとあふれ出る涙を川に喩えたもので、このあと 051106170618 でも出てきます。「ひむ」は「干む」で干上がる意、「そこ」は「底」と「其処」の掛詞になっています。隠し題は「おきひむときや」に詠み込まれた「おきび(熾火)」で、赤く熾った炭火のことですね。一見、隠し題と歌意に関連はなさそうですが、あるいはあふれ出る涙の理由は赤い炭火のごとく内面で燃え盛る恋であるのかもしれません。
 作者の都良香(みやこ の よしか)は平安時代前期の貴族で、文章博士にも任ぜられた文人。勅撰集への入集は古今集のこの一首のみですが、漢詩が「和漢朗詠集」や「新撰朗詠集」などに採録されており、「都氏文集(としぶんしゅう)」という家集も現在に伝わっています。


古今和歌集 0465

2021-02-06 19:03:30 | 古今和歌集

はるがすみ なかしかよひぢ なかりせば あきくるかりは かへらざらまし

春霞 中し通ひ路 なかりせば 秋来る雁は 帰らざらまし

 

在原滋春

 

 春霞の中に通り道がなければ、秋にやって来る雁は春が来ても帰ることはないだろうになあ。

 秋にやって来る雁が春には帰って行ってしまうことを惜しむ気持ちでしょうか。その雁が帰るための道が春霞の中にあるのだという想像ですね。隠し題は「はるがすみ なかしかよひぢ」に詠み込まれた「すみながし(墨流し)」。墨流しとは、水面に墨や染料で描いた繊細な模様を和紙に写し取る技法で、染色法の一つとのこと。ちょっとイメージがわかなかったので、ウィキペディアから画像を拝借しました。

 ああ、何か見たことあるな、という感じですね。^^


古今和歌集 0464

2021-02-05 19:26:29 | 古今和歌集

はなごとに あかずちらしし かぜなれば いくそばくわが うしとかはおもふ

花ごとに あかず散らしし 風なれば いくそばくわが 憂しとかは思ふ

よみ人知らず

 どの花も満足に見ないうちに散らしてしまった風に、どれほど私が辛いと思ったことか。

 「いくそばく」は漢字では「幾十許」と書き、「どれぐらい数多く。どれほど。」の意。隠し題は大変わかりづらいですが、「いくそばくわが うしとかはおもふ」に詠み込まれた「はくわかう(百和香)」。デジタル大辞泉によると、百和香とは「練り香の一種。陰暦5月5日に百草を合わせて作ったという。ひゃくわこう。」とのこと。実際どんな香りなのか分かりませんが、言葉の響きが素敵ですね。 ^^


古今和歌集 0463

2021-02-04 19:38:20 | 古今和歌集

あきくれど つきのかつらの みやはなる ひかりをはなと ちらすばかりを

秋来れど 月の桂の 実やはなる 光を花と 散らすばかりを

 

源忠

 

 秋が来たからといって、どうして月の桂の木に実がなることがあろうか。光を花のように散らしているばかりなのだから。

 「月の桂」とは、月にはえているという伝説上の桂の木。その花を月の光として散らしてばかりいるのだから実がなることはない、との歌意ですね。隠し題は「つきのかつらの みやはなる」に詠み込まれた「かつらのみや(桂宮)」。桂宮様がおられる御所ということでしょう。0456 から続いた場所・地名を詠み込んだ物名歌は一旦ここまでとなります。
 作者の源忠(みなもと の ほどこす)は平安時代前期の貴族にして歌人。名前の「忠」は「恵」とも表記されます。古今集への入集はこの一首のみで、勅撰集全体で見ても他に入集歌はないようです。