漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0657

2021-08-17 19:07:32 | 古今和歌集

かぎりなき おもひのままに よるもこむ ゆめぢをさへに ひとはとがめじ

限りなき 思ひのままに 夜も来む 夢路をさへに 人はとがめじ

 

小野小町

 

 限りのない思いのままに夜もやって来よう。夢の中の通い路までは人も咎めないだろうから。

 「夢路」は夢の中で行き交う路。「夜も来む」の主語が小町なのか、あるいは小町のところに通ってくる異性なのか両説あるようです。


古今和歌集 0656

2021-08-16 19:58:04 | 古今和歌集

うつつには さもこそあらめ ゆみにさへ ひとめをよくと みるがわびしさ

うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 人目をよくと 見るがわびしさ

 

小野小町

 

 現実の世界はそうでしょうけれど、夢の中でまであなたに人目を避けようとされるのが何とも悲しいことです。

 第四句の「よく」は「避く」で避ける意。本によってはここは「もる(守る)」とされているようです。ここから小野小町の歌が三首続きます。


古今和歌集 0655

2021-08-15 19:07:25 | 古今和歌集

なきこふる なみだにそでの そほちなば ぬぎかえがてら よるこそはきめ

泣き恋ふる 涙に袖の そほちなば ぬぎかへがてら 夜こそは着め

 

橘清樹

 

 亡き人を泣いて恋い慕う涙で袖が濡れてしまったら、脱いで着替えるついでに夜に喪服を着ましょう。

 0654 への返し。人目を忍ぶ恋中のどちらかが死んでしまったら、どんな理由をつけて喪装を纏ったら良いのかとの問いかけに対して、愛しい人が死んだ悲しさで袖がびしょ濡れになるだろうから、それを着替えるというということにして喪服を着ます、との返歌。秀逸な返しだと思います。
 作者の橘清樹(たちばな の きよき)は平安時代前期の貴族にして歌人。陽成天皇~宇多天皇の時代に地方官を歴任した人物で、勅撰集への入集は古今集のこの一首のみのようです。


古今和歌集 0654

2021-08-14 19:27:53 | 古今和歌集

おもふどち ひとりひとりが こひしなば たれによそへて ふぢごろもきむ

思ふどち 一人一人が 恋ひ死なば 誰によそへて 藤衣着む

 

よみ人知らず

 

 人知れず思いを寄せあう私たちのどちらか一人が恋死にをしたら、誰のためということにして喪服を着たら良いのでしょう。

 「一人一人」は現代語と異なり、複数いる人のうちの誰か一人の意。「藤衣」は、0307 では粗末な衣服の意味でしたが、ここでは喪服の意。こちらの意味で用いられることの方が多いようです。詞書には橘清樹(たちばな の きよき)と人知れぬ恋仲になっている女性から清樹にあてて贈られた歌とあり、清樹からの返しが次の 0655 に出てきます。

 


古今和歌集 0653

2021-08-13 19:00:28 | 古今和歌集

はなすすき ほにいでてこひば なををしみ したゆふひもの むすぼほれつつ

花すすき 穂に出でて恋ひば 名を惜しみ 下結ふ紐の 結ぼほれつつ

 

小野春風

 

 花ススキが穂を出すように思いを表に出して恋をすると噂になってしまうので、結ばれている下紐のように私の恋情も固く結んで塞いでいることよ。

 「花すすき」は「穂」に掛かる枕詞。「結ぼほる」は「しっかりと固く結ばれる」意に加えて「気持ちがふさぐ」の意があり、ここではその両方の意味で使われていますね。
 作者の小野春風(おの の はるかぜ)は平安時代前期の貴族にして歌人。古今集には本歌と 0963 の二首が入集しています。勅撰集への入集はこの二首のみのようですね。