むばたまの やみのうつつは さだかなる ゆめにいくらも まさらざりけり
むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり
よみ人知らず
闇の中での現実の逢瀬は、はっきりとした夢の中での逢瀬と比べて、さして勝ることのないものであるよ。
「むばたまの」は「闇」「夜」などにかかる枕詞。「闇の中での逢瀬」は、物理的に暗い場所ということではなく、人目を忍んだつかの間の逢瀬を余儀なくされるはかない恋を、象徴的に表現したものでしょう。「闇のうつつ」という印象的な表現は、「人よりはことなりしけはひ容貌の面影につと添ひて思さるるにも闇のうつつにはなほ劣りけり」と、源氏物語(桐壺)にも引かれています。