漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0647

2021-08-07 19:21:32 | 古今和歌集

むばたまの やみのうつつは さだかなる ゆめにいくらも まさらざりけり

むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり

 

よみ人知らず

 

 闇の中での現実の逢瀬は、はっきりとした夢の中での逢瀬と比べて、さして勝ることのないものであるよ。

 「むばたまの」は「闇」「夜」などにかかる枕詞。「闇の中での逢瀬」は、物理的に暗い場所ということではなく、人目を忍んだつかの間の逢瀬を余儀なくされるはかない恋を、象徴的に表現したものでしょう。「闇のうつつ」という印象的な表現は、「人よりはことなりしけはひ容貌の面影につと添ひて思さるるにも闇のうつつにはなほ劣りけり」と、源氏物語(桐壺)にも引かれています。

 


古今和歌集 0646

2021-08-06 19:55:29 | 古今和歌集

かきくらす こころのやみに まどひにき ゆめうつつとは よひとさだめよ

かきくらす 心の闇に まどひにき 夢うつつとは 世人定めよ

 

在原業平

 

 まっくらな心の闇に閉ざされて判断がつきません。夢なのか現実なのかは、世の人が定めてください。

 0645 への返し。第五句は伊勢物語(第69段)では「こよひさだめよ」となっています。「今夜決めてくれ」ということは今夜もまた逢おうと言う意味にもなりますので、「平安のプレイボーイ」業平の歌とするならばそちらの方がフィットするような気がしますね。

 


古今和歌集 0645

2021-08-05 19:08:22 | 古今和歌集

きみやこし われやゆきけむ おもほえず ゆめかうつつか ねてかさめてか

君や来し 我や行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか

 

よみ人知らず

 

 あなたが来たのか私が出かけて行ったのかも、夢だったのか現実だったのかも、寝ていたのか起きていたのかもわかりません。

 次の 0646 とともに伊勢物語第69段に載る歌。詞書には、「業平が伊勢の国に行った時、斎宮(伊勢神宮に奉仕する女性)であった人に密かに逢い、次の朝に人を使って連絡をとる手段もなく思い悩んでいる間に、相手から寄せられた」とあります。

 


古今和歌集 0644

2021-08-04 19:55:12 | 古今和歌集

ねぬるよの ゆめをはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな

寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな

 

在原業平

 

 共寝をした夜の夢のようなひと時が儚いものだったので、帰って来てからうとうとと眠ると、いよいよ儚い夢心地になってしまうことよ。

 「人にあいひて、あしたによみてつかはしける」と、業平の歌にしては短い詞書がついています。


古今和歌集 0643

2021-08-03 19:55:03 | 古今和歌集

けさはしも おきけむかたも しらざりつ おもひいづるぞ きえてかなしき

けさはしも おきけむかたも 知らざりつ 思ひいづるぞ 消えてかなしき

 

大江千里

 

 今朝はどこに霜が降りたのかも、自分がどのように起きたかもわからない。昨夜のことを思い出すと、心が消え入るように切ないことよ。

 「しも」は強調の助詞「しも」と「霜」、「おき」は「(霜が)置き」と「(私が)起き」の掛詞になっています。心ときめく逢瀬の夜が終わってしまい、別れの時間が来てしまったことの切なさ・悲しさを詠んだ歌が続きます。