宇宙の中の命(大峰顕、NHK心の時間)・・から
・・関東の方で、内科医をしていらっしゃる方です。浄土真宗の信者なんですね。これは珍しいですね。お医者さんで信仰を持っているという人は非常に少ないわけです。その方は女医さんですけれども、浄土真宗の教えを前から聞いていらっしゃる。その病院で出しておるパンフレットがあるんですよ。その中に書かれてある、ある重症患者との対話のことなんですね。その重症患者は八十四歳の、胃ガンが肺へ転移して、もう末期ですね。その方に、その内科医の女医さんが話をするところを書いてあるんです。一週間前は、その患者さんに、「Tさん、今度はダメかも知れないね」と。そういう具合にお医者さんが言ったんですね。そうしたら、「そう」と言って、寂しげな表情をして、「ああ、やっぱり」というふうな表情をして、悲しそうな顔をしたと。ところがその先生が言うんですね。「ところがTさんね、説法を聞いているとね、あなたも聞かれたように、仮にTさんこれで死んでもね、それでTさんがお終いになるんじゃないよ」と。「お浄土に必ず如来様に迎え取られて、仏様にして頂くんだからね。何にも心配することないんですよ」と、そういう具合に言ったそうです。その時はあんまり患者さんは返事をしなくて、まあそれはその時に終わったと。一週間前の話しね。ところが一週間後容態が急変したと。もうナースが飛んで来て、重症室に入って行ったら、もう全て末期的な症状になっておって、もうダメだという。そういう時に、宮崎さんというお医者さんですけれども、この間の法話の続きをしたと言うんですね。一応処置をしておいてね。「この前も言ったようにね、Tさん、南無阿弥陀仏ということはね、如来様に『助けて下さい』と言っているあなたの言葉じゃないんですよ」と。「そうじゃなくて、阿弥陀様の方が、あなたに向かって、心配することはないよ。あなたを必ずお浄土に迎え取って仏にするよと言っている、仏様の呼んでいる言葉なんですよ」と。そういう具合に言って、それで、「Tさん、だからね、あなたはいまここでね、仏様に抱っこされているんですよ」と。「何も心配ないのよ。お浄土があって良かったね、Tさん」「私も必ず行きますからね」「お念仏しましょう」と。そういうふうに患者さんに言った。そうしたら、患者さんが、今まで眉間に深い縦皺を寄せて苦痛に堪えておったその方が、突然何とも言えない平和な顔になって、「先生、有り難う」そういう具合に言った。そうしたら、そこで驚くべきことが起こった。今まで患者さんの世話をしておったナースが、思わず飛んで来て、「Tさん、良かったね。ほんとにお浄土があって良かったよね」。今までそんなことを言わなかった看護婦さんが喜んで涙を流して、患者さんに言ったと。そういうことを書いてあるんですね。その先生はその次にコメントをして、「人間の限界、科学の限界がある。その時に、私と看護婦さんと患者さんは大きな如来のお慈悲の中に包まれておる。三人は裸のいのちを三つそこに並べておった」と書いてあります。これは決してフィクションでも何でもないんであって、私はそういうお医者さんがもっと出て来たらいいと思うんですねよ。
(死ぬということを日ごろから自分のことと捉えて悩んでいないとイザというとき迷います。自分もやっとこのごろ70を過ぎて死んだらどうなるか・・を自分のこととして考えることができつつあります。)
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