問曰く。虚空無邊なるが故に世界無邊なり。世界無邊なるが故に衆生無邊なり。衆生無邊なるが故に心行の差別もまた無辺なり。是のごとく境界は不可分齊にして難知難解なり。若し無明にして斷ぜば心想もあること無きに、云何が能く了するを名ずけて一切種智とするや。
答曰。一切境界は本來一心にして想念を離れたり。衆生は妄に境界を見るをもっての故に、心に分齊あり。妄に想念を起こして法性に稱わざるがゆえに決了すること能わざるも、諸佛如來は見・想を離れたれば無所不遍にして心眞實なるが故に、即ち是れ諸法の性なり。自體顯れて一切妄法を照らし、大智用あり、無量の方便もて諸衆生の應に解することを得べきところに随って、皆能く開示種種の法義を開示すれば、是故に一切種智と名ずけることを得るなり。(問う、虚空無邊なるが故に世界無邊なり。世界無邊なるが故に衆生も無邊なり。衆生無邊なるが故に衆生の作り出す働き(心行の差別)もまた無辺なり。是のごとく心の対象は知ることができなくて難知難解である。若し無明が斷ぜられると心の働き(心想)もあること無いはずだが、どうして覚ることを名ずけて一切種智とするのか。答える。一切の対象は只一つの心であり、あらゆる思いや心の働きを離れている。ただ衆生は対象を見て実在すると思うので心に種種の区別が生じる。このように誤って対象を見て妄念を生じそのため法性にふさわしくないため正しい判断を持ちえないのである。それに対し諸仏は見・想を超越されているから智慧は遍く働きその心は真実そのものであるからそれがそのまま法性にほかならない。そのためおのずからその法性があらわれて一切の現象に光を当てて大智の働きを示す。そして無量の方便をもって衆生の理解できるように種々の法の意味を開示する。その意味で覚りの智慧をあらゆることを知る智慧(一切種智)とする。)
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