猛暑の中、庭のクマゼミの大合唱が聞こえます。蝉の声は一瞬のうちに,生まれた山寺の裏庭に連れ戻します。そこは庭一面の苔に松の緑が映り、腐葉土から立ち上る山の香に裏山からの蝉の声だけがいつまでも聞こえてくる甘美な世界でした。時間も無く、人間もいない不思議な空間でした。蝉の声はあっという間に60年間の時空を消す力を持っています。三島由紀夫の「豊饒の海」の最後の「この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまつたと本多は思つた。 庭は夏の日ざかりの日を浴びてしんとしてゐる…… 」という描写はまさに自分の為のものかと思いました。
「いそのかみ ふるきみやこのせみしぐれ 声ばかりこそ 昔なりけれ」とでもいうところでしょうか。
「いそのかみ ふるきみやこのせみしぐれ 声ばかりこそ 昔なりけれ」とでもいうところでしょうか。