福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

善根宿の話

2016-08-29 | 講員の活動等ご紹介
善根宿の遍路達

「二〇〇二年は、私たちにとって忘れられない年になりました。近年で一番うれしい出来事がありましたから」
 善根宿まんだら(多度津町葛原)を開いている十川満さん(52)、まり子さん(52)夫妻は声をそろえる。
 巡拝の度にまんだらを常宿にしていた「伝説のお遍路さん」が卒業、安住の地を得たからだ。夫妻が奔走し、県内の福祉施設への入所にこぎ着けた。

 竹島キヨノさん=仮名=、七十四歳。お四国百巡以上という伝説の主だ。十四年間、乳母車に布団など家財一式を積み、八十八カ所を歩き続けて生きてきた。・・  結婚もした。子供も産んだ。幸せだったが、夫の両親とうまくいかず十年で離婚。六十歳まで一人で生き、病を得た。死に場所に選んだのが四国だった。持ち金を使い果たした時、宿のおかみに「これを持って門に立ちなさい」と椀(わん)を差し出された。長い巡礼の始まりだった。

 善根宿まんだらは、オープンから三年足らずで約千人が利用した。遍路がつづった宿泊ノートには「温かいふとんで眠れ、幸せ」「三日ぶりに食事をしました」など感謝の言葉が並ぶ。
 「大変ね。家に見ず知らずの他人を上げるなんて。信じられない」。まり子さんは、友人らから驚きとともに、時には奇異の目で見られることもある。
 「自分のできることを、できる範囲でするだけ。何も功徳を積もうなんて考えたこともないんです」と笑うまり子さん。満さんは傍らでうなずく。
 「お金の苦労は随分した。でも幸せはお金じゃないことを、この宿を利用するお遍路さんたちから学びました。お金は貸せないけど知恵と心は貸せます」。すっかりたくましくなったまり子さんに、満さんも応じる。
 「十数年前に倒産を体験した。運命に逆らう考え方が原因だったのかな。今は、あるものを、あるがままに受け入れることが、少しはできるようになった。善根宿のおかげです」。会社は少しずつながら軌道に乗り始めた。
 「お四国は、いわば異次元の世界。大自然の中で人と人とが癒やし癒やされる。この伝統ある空間を守ることが、今の時代に求められていると思う。うちのような善根宿が、ほかでも増えてくれればいい」
 夫妻は、さまざまな人生を見てきた。うそで固めた過去も知った。他人の暗部に触れても、ようやくわだかまりなく話ができるようになった。夫婦で話し合う機会も随分増えたと、顔を見合わせる。
 「ここは、夫婦二人でつくっていく自分たちの成長の場なんです。そして何より幸せを実感できる場所なんです」
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