光明真言鈔序 頼慶阿闍梨
娑婆世界処広して常住のところなし。衆生は形多けれども永く存するの質なし。苦界波高し。いずれの日にか浄土の彼岸にいたらんや。生死の里はるかなり。誰人か涅槃の心部にみちびかん。二鼠の我を引くこと日夜不休なり。百年三万六千日も瞬目の中に迫り、獨羊の人を追うこと常時に覚ること無し。一期千秋の万歳の時も弾指の間にすなわち尽きぬ。退いて往因を思へば一善の種子無し。進んで来報を案ずれば三毒の根本あり。白髪は貴人の頭上にゆるされず。青瘀は王者の身相をもかまうことなし。草堂楽しみなしといえども、老少散じて白骨を曝す。土室暗く迮(たつ)るといえども貴賎争って魂魄を宿す。妻子珍宝はすべて他に属す。従類眷属は悉く己を離れ、冥より冥に入るに誰か明灯を與へん。焔より焔に堕ちるに何ぞ消水を得ん。仙丸服せざれば命葉持しがたし。宿通いまだ得ざれば来土知ること無し。日に善をなさざらぬ者は死する時、獄の薪と成らん。前世に植種無んは後世に楽果をむすばんか。しかず五種不浄のこの身を捨てて、三輪清浄の彼の果を願はんには。それ真言陀羅尼の教法は一切如来秘奥の深旨なるがゆえに、いずれの呪も顕の余法に超過せり。これをもって六度経に云う。あるいは復、有情、諸の悪業四重八重五無間罪謗方等経闡提等の種々の重罪を造らんに、消滅することを得て速疾の解脱し、頓悟涅槃せしめんには、しかも彼がために諸の陀羅尼蔵を説く云々(大乘理趣六波羅蜜多經に「或復有情造諸惡業四重八重五無間罪謗方等經一闡提等種種重罪。使得銷滅速疾解脱頓悟涅槃。而爲彼説諸陀羅尼藏。)なかんずく、光明真言とは大日如来の心肝の陀羅尼、弥勒善逝の心中の秘密呪なり。祖師先徳みなこれを信じ、自宗他宗の同じくこれを貴ぶ。華厳の元暁は一代の聖経を披いて、他作自受の大要には独りこの神呪を捧げ、(新羅・元暁撰「遊心安楽道」で光明真言で加持した土砂を遺体や墓上に撒布すれば亡者の業障が除かれて極楽に往生するという亡者の極楽往生について説かれている)
天台の恵心は往生要集を撰じて往生浄土の本文にはこの真言を出せり(往生要集 の大文第 三の
極楽証拠と、大文第 九 の往 生諸行 に、光明呪が挙げ られている。)他家すでにこの真言を専にす。密宗なんぞ之を疎かにせんや。本式に(中川進上人実範記に云)如来五智の光明を放って衆生九識の長夜を照らす。これを光明となずく。毘盧遮那法身の説如義真実にして不妄不誑なれば、これを真実という云々。仁海僧正には亡者きたりて親りこれを稟け、明恵上人には文殊直にこれを授けたまう。大御室の性信はことあるごとにの重病を治し、宮の僧正覚源には特に御霊の託宣を作す。本伝にみえたり。効験の大神呪ただこの真言にあり。得名つとに故あるをや。いま本経本軌の説文を集めて句義効能の大綱を顕し、先徳師伝の口决をたずねて、宗義内証の一毛を示す。ねがわくは博覧の闍梨深義を加えよ。
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