(大智度論釋初品中戒相義第二十二之一)
(不偸盗戒)
不與取とは他の物と知りて盗心を生じ、物を取去り、本処を離れて物を我れに属さしむ、是れを盗と名づけ、若し作さざれば是れを不盗と名づく。其の餘の方便、計挍乃至手に捉るも、未だ地を離れざるは、助盗法と名づく。財物に二種有り、有るは他に属し、有るは他に属せず。他に属す物を取らば是れ盗罪と為す。他に属す物に亦た二種有り。一は聚落中、二は空地なり。此の二処の物を盗心をもて取らば盗罪を得。若し物、空地に在らば、当に検挍すべし。是の物は誰が国に近きかと。是の物、応当に属有るべきを知らば、応に取るべからず。毘尼(律のこと。毘奈耶)中に、種種の不盗を説くが如し。是れを不盗の相と名づく。
問曰「不盜には何等の利あるや」。答曰「人命に二種あり。一は内。二は外。若し財物を奪わば是れを奪外命となす。何以故。命は飮食・衣被等に依っての故に活くるをもってなり。若しは劫、若しは奪、是を奪外命と名く。偈に説くがごとし。
一切諸衆生は 衣食を以って自活す
若しくは奪ひ、若しくは劫取せば、 是を劫奪命と名く。
是事をもっての故に有智之人は應に劫奪すべからず。復次に當に自ら思惟すべし。劫奪して得物し以って自らを供養せば身は充足すといえども會ず亦た當に死すべく、死して地獄に入る。家室親屬は共に受樂すといえども、獨り自ら罪を受け、亦た救ふこと能はず」。已に此の觀を得ば應當に盜むべからず。
復次に是の不與取に二種あり。一は偸。二は劫(強奪)。此の二は共に不與取と名く。不與取中において盜を最重となす。何以故。一切の人は財をもって自活す。而して或は穿踰して盜取らば是れ最も不淨なり。何以故。力の勝れたる人は死を畏るるなくして盜取するが故なり。劫奪之中盜を罪重となす。偈に説くがごとし。
飢餓して身は羸痩し 罪を大苦に受くとも、
他物には不可觸なること 譬ば大火聚のごとし。
若し他物を盜取せば 其の主は泣懊惱す。
假使、天王等も 猶亦た以て苦となす。
殺生の人の罪は重しといえども、然も殺さる者においては是れ賊なり。偸盜の人は一切の有物人中の賊なり。若し餘の戒を犯すも異國中においては以って罪となさざるものあり。しかし偸盗の人は一切諸國において罪を治せざるなし。
問曰。「劫奪の人は今世に人あり、其の健を讃美す。
此の劫奪においては何を以ってか不作なるや。」
答曰。「與へざるを而も盜となすは是れ不善の相なり。劫盜のなか差ありといえども倶に不善となす。譬へば
美食に毒をまじへ、惡食に毒を雜へるに、美惡は殊なりといえども毒をまじふることは異らず。亦た明・闇に火を蹈んに晝夜異なるといえども足を燒くことは一也。今世の愚人は罪福二世の果報を知らず。仁慈の心無くして、人の能く力を以て相侵し他財を強奪するを見て讃じて以って強となす。諸佛賢聖は一切を慈愍し、三世の殃禍不朽を了達して、稱譽したまはざるところなり。是を以ての故に劫盜之罪は倶に不善となし善人行者の爲さざるところなりと知る。佛説の如くんば、不與取に十罪あり。何等爲十。一は物主常に瞋る。二は重く疑ふ(丹注云わく、罪人の疑を重ぬ)。三には行時に非ざれば籌量(計画)せず。四には、悪人と朋党し、賢善を遠離す。五には善相を破る。六には、罪を官に得る。七には、財物没入す。八には、貧窮の業因縁を種う。九には、死して地獄に入る。十には、若し出でて、人と為り、勤苦して財を求むるも、五家の共にする所、若しは王、若しは賊、若しは火、若しは水、若しは愛せざる子が用ひ、乃至埋蔵するも、亦た失ふ。
(不偸盗戒)
不與取とは他の物と知りて盗心を生じ、物を取去り、本処を離れて物を我れに属さしむ、是れを盗と名づけ、若し作さざれば是れを不盗と名づく。其の餘の方便、計挍乃至手に捉るも、未だ地を離れざるは、助盗法と名づく。財物に二種有り、有るは他に属し、有るは他に属せず。他に属す物を取らば是れ盗罪と為す。他に属す物に亦た二種有り。一は聚落中、二は空地なり。此の二処の物を盗心をもて取らば盗罪を得。若し物、空地に在らば、当に検挍すべし。是の物は誰が国に近きかと。是の物、応当に属有るべきを知らば、応に取るべからず。毘尼(律のこと。毘奈耶)中に、種種の不盗を説くが如し。是れを不盗の相と名づく。
問曰「不盜には何等の利あるや」。答曰「人命に二種あり。一は内。二は外。若し財物を奪わば是れを奪外命となす。何以故。命は飮食・衣被等に依っての故に活くるをもってなり。若しは劫、若しは奪、是を奪外命と名く。偈に説くがごとし。
一切諸衆生は 衣食を以って自活す
若しくは奪ひ、若しくは劫取せば、 是を劫奪命と名く。
是事をもっての故に有智之人は應に劫奪すべからず。復次に當に自ら思惟すべし。劫奪して得物し以って自らを供養せば身は充足すといえども會ず亦た當に死すべく、死して地獄に入る。家室親屬は共に受樂すといえども、獨り自ら罪を受け、亦た救ふこと能はず」。已に此の觀を得ば應當に盜むべからず。
復次に是の不與取に二種あり。一は偸。二は劫(強奪)。此の二は共に不與取と名く。不與取中において盜を最重となす。何以故。一切の人は財をもって自活す。而して或は穿踰して盜取らば是れ最も不淨なり。何以故。力の勝れたる人は死を畏るるなくして盜取するが故なり。劫奪之中盜を罪重となす。偈に説くがごとし。
飢餓して身は羸痩し 罪を大苦に受くとも、
他物には不可觸なること 譬ば大火聚のごとし。
若し他物を盜取せば 其の主は泣懊惱す。
假使、天王等も 猶亦た以て苦となす。
殺生の人の罪は重しといえども、然も殺さる者においては是れ賊なり。偸盜の人は一切の有物人中の賊なり。若し餘の戒を犯すも異國中においては以って罪となさざるものあり。しかし偸盗の人は一切諸國において罪を治せざるなし。
問曰。「劫奪の人は今世に人あり、其の健を讃美す。
此の劫奪においては何を以ってか不作なるや。」
答曰。「與へざるを而も盜となすは是れ不善の相なり。劫盜のなか差ありといえども倶に不善となす。譬へば
美食に毒をまじへ、惡食に毒を雜へるに、美惡は殊なりといえども毒をまじふることは異らず。亦た明・闇に火を蹈んに晝夜異なるといえども足を燒くことは一也。今世の愚人は罪福二世の果報を知らず。仁慈の心無くして、人の能く力を以て相侵し他財を強奪するを見て讃じて以って強となす。諸佛賢聖は一切を慈愍し、三世の殃禍不朽を了達して、稱譽したまはざるところなり。是を以ての故に劫盜之罪は倶に不善となし善人行者の爲さざるところなりと知る。佛説の如くんば、不與取に十罪あり。何等爲十。一は物主常に瞋る。二は重く疑ふ(丹注云わく、罪人の疑を重ぬ)。三には行時に非ざれば籌量(計画)せず。四には、悪人と朋党し、賢善を遠離す。五には善相を破る。六には、罪を官に得る。七には、財物没入す。八には、貧窮の業因縁を種う。九には、死して地獄に入る。十には、若し出でて、人と為り、勤苦して財を求むるも、五家の共にする所、若しは王、若しは賊、若しは火、若しは水、若しは愛せざる子が用ひ、乃至埋蔵するも、亦た失ふ。