（大智度論釋初品中戒相義第二十二之一）
（優婆塞戒）
是の如き四罪（殺害、不与取、邪婬、飲酒）を作さざる是れ身の善律儀なり。妄語を作さざる是れ口の善律儀なり。名けて優婆塞の五戒律儀と為す。
問曰「若し八種律儀（四種の身律儀、即ち不殺、不盗、不邪婬、不飲酒、及び四種の口律儀、即ち妄語、両舌、悪口、綺語）及び淨命（清浄生活）を是れ名て戒となさば何以故に優婆塞（在家信者）は口律儀中において三律儀（不悪口、不両舌、不綺語）及び淨命なきや」。答て曰く、白衣の居家（俗世の人）は世間の楽を受け、兼ねて福徳を修むれば尽くは戒法を行ずる能わず。是の故に仏は、五戒（不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、 不飲酒）を持たしめたまえり。
復次に四種の口業中に妄語は最重なり。復次に妄語は心に故作（故意）を生ず。餘は或は故作、或は不故作なり。復次に但だ妄語を説けば已に三事（悪口・両舌・綺語）を摂す。復次に諸善法中に實を最大となす。若し實語を説けば四種の正語は皆な已に攝するを得。復次に白衣は世に処すれば、官に当りて理務し、家業し、使と作る、是の故に不悪口の法は持し難し。妄語は故に作し、事の重きが故に、応に作すべからず
是の五戒に五種の受あり。五種の優婆塞と名く。一には一分行の優婆塞、二には少分行の優婆塞、三には多分行の優婆塞、四には満行の優婆塞、五には断婬の優婆塞なり。一分行とは、五戒中に一戒を受けて、四戒を受持する能わず。少分を行ずる者は、若しは二戒を受け、若しは三戒を受く。多分を行ずる者は、四戒を受く。満を行ずる者は、尽く五戒を持す。断婬の者は、五戒を受け已りて、師の前に、更に自ら誓言を作さく、『我れは自婦に於いて、復た婬を行ぜず』、と。是れを五戒と名づく。
佛の偈を説きたまふ如し
不殺亦不盜 亦邪婬あることなし
實語・不飮酒・正命は淨心をもってす。
若し能く此を行ずる者は 二世の憂畏を除き
戒福恒に身に隨ひ 常に天人と倶なり。
世間六時の華は 榮曜の色相發す
此一歳の華を以て 天上に一日具ふ
天樹自然に生じ 花鬘及瓔珞あり。
丹葩（紅華）は燈照のごとく 衆色相間錯す
天衣は無央數 其色若干種なり
鮮白にして天日に映じ 輕く密にして間壟無し。
金色は繍文を映し 斐亹（ひび・彩）として雲氣のごとし
如是の上妙の服は 悉く天樹より出ず
明珠天の耳璫（にとう・耳飾） 寶磲（ほうこ・シャコガイの殻）手足を曜し
心の好愛するところにしたがって 亦た天樹より出ず。
金華・琉璃莖・金剛を華鬚となし
柔軟香は芬熏として 悉く寶池より出ず
琴瑟・箏・箜篌は七寶を挍飾となし
器妙なるが故に音清なり 皆亦た樹より出ず
波利質妒樹（はりしっとじゅ・忉利天にあるという香木）は天上樹中の王なり。
彼の歡喜園にあって 一切比することあることなし
持戒を耕田となし 天樹は中より出ず
天廚の甘露味は 飮食すれば飢渇を除く
天女に監礙（監督者の障礙）なく 亦た妊身の難なし
嬉怡して縱いままに逸樂す 食すれども便利の患なし。
持戒して常に攝心し 生を自恣の地に得て
無事亦無難。 常に樂志をほしいままにすることを得る。
諸天は自在を得て、憂苦復た生ぜず、
欲する所は念に応じて至り、身光は幽冥を照らす。
是の如き種種の楽は、皆な施と戒とに由る、
若し此の報を得んと欲せば、當に勤めて自ら勉勵すべし。
問曰「今尸羅波羅蜜を説けば當に以って成佛すべし。何以故に乃ち天福を讃するや」。答曰「佛の言はく、『三事（布施・持戒・修定）は必ず報果を得ること虚しからず。布施は大富を得、持戒は好處に生じ、修定は解脱を得る。若し單に尸羅を行ぜば好處に生まれることを得、若し修定し智慧・慈悲・和合すれば三乘道を得』と。今は但だ持戒を讃ず。現世の功徳は名聞安
樂なり。後世の得報は偈の讃するところの如し。譬ば小兒は蜜を苦藥に塗りて然後に能く服すがごとし。今先ず戒福を讃じ然後に人能く持戒す。持戒し已って大誓願を立て佛道に到ることを得る。是を尸羅は尸羅波羅蜜を生ずとなす。又一切人は皆な樂に著するを以て世間の樂は天上を最となす。若し天上の種種の快樂を聞いては便ち能く尸羅を受行し、後に天上無常を聞いて厭患心を生じ能く解脱を求む。更に佛無量功徳を聞いて若し慈悲心生ずれば尸羅波羅蜜に依って佛道に至る事を得る。是を以っての故に尸羅の報を説くといえども咎無し」。
（優婆塞戒）
是の如き四罪（殺害、不与取、邪婬、飲酒）を作さざる是れ身の善律儀なり。妄語を作さざる是れ口の善律儀なり。名けて優婆塞の五戒律儀と為す。
問曰「若し八種律儀（四種の身律儀、即ち不殺、不盗、不邪婬、不飲酒、及び四種の口律儀、即ち妄語、両舌、悪口、綺語）及び淨命（清浄生活）を是れ名て戒となさば何以故に優婆塞（在家信者）は口律儀中において三律儀（不悪口、不両舌、不綺語）及び淨命なきや」。答て曰く、白衣の居家（俗世の人）は世間の楽を受け、兼ねて福徳を修むれば尽くは戒法を行ずる能わず。是の故に仏は、五戒（不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、 不飲酒）を持たしめたまえり。
復次に四種の口業中に妄語は最重なり。復次に妄語は心に故作（故意）を生ず。餘は或は故作、或は不故作なり。復次に但だ妄語を説けば已に三事（悪口・両舌・綺語）を摂す。復次に諸善法中に實を最大となす。若し實語を説けば四種の正語は皆な已に攝するを得。復次に白衣は世に処すれば、官に当りて理務し、家業し、使と作る、是の故に不悪口の法は持し難し。妄語は故に作し、事の重きが故に、応に作すべからず
是の五戒に五種の受あり。五種の優婆塞と名く。一には一分行の優婆塞、二には少分行の優婆塞、三には多分行の優婆塞、四には満行の優婆塞、五には断婬の優婆塞なり。一分行とは、五戒中に一戒を受けて、四戒を受持する能わず。少分を行ずる者は、若しは二戒を受け、若しは三戒を受く。多分を行ずる者は、四戒を受く。満を行ずる者は、尽く五戒を持す。断婬の者は、五戒を受け已りて、師の前に、更に自ら誓言を作さく、『我れは自婦に於いて、復た婬を行ぜず』、と。是れを五戒と名づく。
佛の偈を説きたまふ如し
不殺亦不盜 亦邪婬あることなし
實語・不飮酒・正命は淨心をもってす。
若し能く此を行ずる者は 二世の憂畏を除き
戒福恒に身に隨ひ 常に天人と倶なり。
世間六時の華は 榮曜の色相發す
此一歳の華を以て 天上に一日具ふ
天樹自然に生じ 花鬘及瓔珞あり。
丹葩（紅華）は燈照のごとく 衆色相間錯す
天衣は無央數 其色若干種なり
鮮白にして天日に映じ 輕く密にして間壟無し。
金色は繍文を映し 斐亹（ひび・彩）として雲氣のごとし
如是の上妙の服は 悉く天樹より出ず
明珠天の耳璫（にとう・耳飾） 寶磲（ほうこ・シャコガイの殻）手足を曜し
心の好愛するところにしたがって 亦た天樹より出ず。
金華・琉璃莖・金剛を華鬚となし
柔軟香は芬熏として 悉く寶池より出ず
琴瑟・箏・箜篌は七寶を挍飾となし
器妙なるが故に音清なり 皆亦た樹より出ず
波利質妒樹（はりしっとじゅ・忉利天にあるという香木）は天上樹中の王なり。
彼の歡喜園にあって 一切比することあることなし
持戒を耕田となし 天樹は中より出ず
天廚の甘露味は 飮食すれば飢渇を除く
天女に監礙（監督者の障礙）なく 亦た妊身の難なし
嬉怡して縱いままに逸樂す 食すれども便利の患なし。
持戒して常に攝心し 生を自恣の地に得て
無事亦無難。 常に樂志をほしいままにすることを得る。
諸天は自在を得て、憂苦復た生ぜず、
欲する所は念に応じて至り、身光は幽冥を照らす。
是の如き種種の楽は、皆な施と戒とに由る、
若し此の報を得んと欲せば、當に勤めて自ら勉勵すべし。
問曰「今尸羅波羅蜜を説けば當に以って成佛すべし。何以故に乃ち天福を讃するや」。答曰「佛の言はく、『三事（布施・持戒・修定）は必ず報果を得ること虚しからず。布施は大富を得、持戒は好處に生じ、修定は解脱を得る。若し單に尸羅を行ぜば好處に生まれることを得、若し修定し智慧・慈悲・和合すれば三乘道を得』と。今は但だ持戒を讃ず。現世の功徳は名聞安
樂なり。後世の得報は偈の讃するところの如し。譬ば小兒は蜜を苦藥に塗りて然後に能く服すがごとし。今先ず戒福を讃じ然後に人能く持戒す。持戒し已って大誓願を立て佛道に到ることを得る。是を尸羅は尸羅波羅蜜を生ずとなす。又一切人は皆な樂に著するを以て世間の樂は天上を最となす。若し天上の種種の快樂を聞いては便ち能く尸羅を受行し、後に天上無常を聞いて厭患心を生じ能く解脱を求む。更に佛無量功徳を聞いて若し慈悲心生ずれば尸羅波羅蜜に依って佛道に至る事を得る。是を以っての故に尸羅の報を説くといえども咎無し」。
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