説法明眼論
優婆塞 童 圓通 述
・著衣品第一
柔和忍辱心ヲ著如来衣ト名ク。和忍ハ障幣ノ用ナリ。
譬エヘハ法服ヲ著ルガ如シ
・人道場品第二
如来ノ室二人ルトハ、大悲ヲ名けテ室卜為ス、能ク大悲心ヲ発スヲ如来ノ室ニ人ルト為ス。
・礼三宝晶第三
本妙心、報化ト住持仏、一切ノ法宝ノ蔵、聖几和合憎二帰命シ上ル。
・焼香品第四
至心二香木ヲ焼ケバ天魔及ヒ波旬、香ヲ聞テ失心シテ退クコ
ト楢シ死門二入ルガ如シ、讐ヘバ蜣蜋虫(リョウキョウチュウ)ノ天ノ甘露ノ美二酔ヒ、
蚪蟢(トウキ)苦辛ヲ好テ、其ノ昧最モ美ナリト為ルガ如ク、魔民モ亦是の如シ。香ヲ聞テハ臭悪ト嫌フ、若し悪臭ノ気ヲ聞テハ、カヲ増テ功徳ヲ防ク、若し入美香ヲ焼ケハ魔倫ハ他方二趣キ、仏神ハ歓喜シテ守り、修善は必ス成就ス。
・坐高座品第五
空慧ヲ高座ト名テ、有智高座二坐ス、若シ北ノ高座ヲ得レハ能ク仏法ヲ説クニ堪タリ。
・梵唄品第六
勝鬘至心二如来ノ微妙の色身ヲ讃嘆シ下フ、口業ノ讃嘆、是ヲ内事卜名ク、此ノ供養ヲ致セバ十号ノ世尊相好具足シ、語根悦慄シテ供養ノ因縁ヲ哀愁摂受シ下フ、夫人即ち大功徳ヲ成スルコトヲ得、是ノ故二至心二形像ヲ讃嘆スレハ、生身ヲ供養スルト等フシテ差別無シ、是の故二至誠二梵唄ヲ唱フ可シ。
・散華品第七
草清浄ノ妙色ヲ開ケハ妙香ハ語ノ仏刹二散ス、若シ草間クコト有レハ諸仏東り坐ス。是ノ故二下唇ノ中ニハ、草ヲ以テ浄土ト為ス。色ヲ見、香ヲ聞クニ諸鬼神等之ヲ嫌フコト猫シ糞穢ノ色香ノ如シ、讐ハ牛羊之眼ノ華色二驚キ犬玃ノ心ノ琴韻ヲ厭フカ如シ、若シ臭肉穢昧有ルノ之時ハ悪神便ヲ得テ修善ノ家二来テ其ノ善願ヲ防クコト讐ハ駿馬ノ平路二こつ鯆之湯水二先ツカ如シ。所以二華ヲ散シテ悪神之障擬ヲ宥メント欲セバ須ク仏ヲ請ジテ供養之志願ヲ成スペシ。
・梵音品第八
如来ノ梵音ハ響キ十方二聞フ、其ノ音ヲ聞ク者ノハ皆道果ヲ得ル。是ノ故二至誠二清浄ノ音ヲ以テ諸仏乃至法僧ヲ供養ス。
若シ此供養ヲ延レハ自然二八音功徳ヲ具足ス。
・錫杖品第九
宝塔ノ高妙、タトエバ須弥山王ノ如シ、今北ノ錫杖ハ即是宝塔ナリ。功徳ノ高顕モ亦須弥ノ如シ。此ノ錫杖ヲ見ルハココ二須弥法界塔婆ヲ見ルナリ。一見ノ人天ハ現世安楽後生浄刹、悉ク仏果ヲ成ス。語参地蔵ノ此ノ錫杖ヲ持スルコトハ将二一見ノ人天ノ功徳ヲ成センカ為メナリ。是ノ故二至心二徳ヲ唱テ三種ノ三宝ヲ供養ス。モシ此供養ヲ法界塔婆ニ致せば道場に来入し、大願を成ず。
・開眼品第十
若し佛菩薩ノ像乃至人天ノ絵像、木像ヲ讃嘆センニハ必ズスベカラク五種ノ開眼ヲモチフベシ。ソノ五種トハ、
一ニハ入理開眼なり。此ハ三乗ノ権教門二約ス。マサニ知ルベシ、彼ノ教ハ理体ニ約スルニアラズ、仏性ヲ見ルコトヲ得ズ、コノ故二諸ノ経論二在在所所二
真如ヲ明ラカニセント欲セバ如来ノ蔵ノ性は凝然トシテ常住ナリ。理事ハ格別ナリ。事の諸法ヲ破シテ理ノ佛性ニ入レバ無明煩悩一時に断破ス。此ノ道理ヲ以テ仏像ヲ供養スレバ、佛眼ハ即チ開ケヌ。猶蓮華ノ水ヲ出テ開キ、妙香ノ風ニ散ズルガ如シ。未ダ深理を得ズ、一向着相ノ愚人諸仏諸菩薩ノ絵像、木像ヲ讃嘆ス。功徳ヲ成熟シテ佛眼開クルコトヲ得ルコト、是ノ所ヨリ有ル事ナシ。唯是レ天魔外道ノ流類ナリ。佛菩薩ノ像モ即チ魔道ニ堕ス。
ニニハ平等開眼なり。此レハ仏性に約ス。妙体ハ常住ニシテ不生不滅ナリ。理事性相ハ法界ニ周辺ス。故に曰ク衆生ニ皆仏性アリト。若シ衆生ノ体仏性アリトイハバ十界ノ衆生皆二仏性アラン。此ノ開眼ノ時、始覚、本覚、平等ニシテ別ナシ。
問イテイワク、若シ衆生ニ仏性アルノ道理ニ依ラバ、泥像、木像ハ皆是非情ナリ。イカニシテカ名テ平等ノ仏性トセン。コノ故ニマサニ知ルベシ、意願満ザルコトヲ答エテ曰、衆生ノ寿命ハ風火所蔵地水ノ和合ヲ強テ名ズケテ體
トス、イズレノ生カアニ四大ヲ離レテ形アランヤ、四大和合スルヲ名ズケテ有情トナシ、四大離散スルヲ即チ非情トナス。此ヲ以テ検知スルニ泥像木像若シ仏性平等の道理ニ約シテ佛菩薩像ヲ供養シ、讃嘆スレバ猶生身ニ大功徳ヲ成スガゴトシ。シカモ迷ヘル人アリテ仏性ヲ知ラズ、タダ欲心著相ノミアリテ仏像ヲ供養セシメ聖霊ニ廻向セバ仏像塔堂ニ天魔入リ住セン。聖霊モ必ズ無間地獄ニ堕シ、七世ノ孝子モ七難ノ家ニ来ラン。コノ故ニ経ニイワク、文ノ如ク義存スルハ此ハ是三世ノ如来ノ怨ミナリト、乃至聴聞ノ諸道俗衆モ家ニ七難来タッテ仏神ニステラレ、マサニ悪道ニ堕シテ出期アルコトナシ。
開眼論
三二ハ絶想開眼ナリ。此レハ頓悟ニ約ス。南天ノ祖師ハ心ヲ以テ心ヲ伝フ。若シ念想ヲ断ズレバ更ニ煩悩ナシ。若シ本心ヲ見レバ純ラ是レ菩提ナリ。本無明無ク本煩悩ナシ。唯是一心ナリ。唯是菩提ナリ。心外ニ法無ク、法外ニ物ナシ。萬法ハ唯心ナリ。萬法ハ菩提ナリ。南天ノ相樹ハ本、仏性ナシ。煩悩ハ菩提ナリ。悉ク是レ相樹ナリ。若シ有智ノ人、此ノ開眼ヲ用レバ眼目ノ朗ラカナルコト日月ノ天ニ明ラカナルガ如シ。若シ人此ノ如キノ道理ヲ得ズシテ仏像ヲ供養スルコトハコノ処ニアルコトナシ。
四ニハ円通開眼ナリ。コレハ一乗ニ約ス。煩悩、菩提、一時ニ頓現シテ理事、惣別、同時ニ具足シ、成壊始終一時ニ円通ス。煩悩ヲ断ゼズシテ菩提ノ果ヲ得、生住異滅ハ皆是一乗ナリ。若シ一法ヲ得レバ随ッテ多法ヲ得。一法多法コトゴトク是佛眼ナリ。
五ニハ、種子開眼ナリ。此レハ秘蔵ニ約ス。身印・口誦・意三摩地。種子現形。互生互用。法界一体ハ如来ノ秘蔵ナリ。泥像木像、堂塔支援、人形馬形。皆如来像ナリ。四悪四州、六欲梵王、四禅無色、無想那含、世智弁聡、闡提、仏前仏後、五逆誹法、妄語破誓、不浄説法、貪瞋愚癡、皆是曼荼羅ナリ。此レハ五智四身ニ通ズ。若シ経律論等ヲ供養セバ必ズマサニ大意釈名科文有ルベシ。有相無相ナラビニ其ノ説相ニ依りテ釈ヲモチフベシ。乃至小乗俗書等此ノ作法ニ順ジテ、是ヲ讃嘆スベシ。若シ佛菩薩ノ像ヲ供養セバ開眼ヲ以ッテ始メトシ、若シ法宝ヲ讃嘆セバ神分ヲ以テ初メト為ス。
神分品第十一
此について五種の別あるべし。
一、勧請神分 必ず須く権実の諸神を勧請し奉るべきが故なり。
二、除障神分 守護神の念力によって天魔の障碍を除くべきが故なり。
三、顕本神分 修善の力によって本地を顕し威光を倍増するが故なり。
四、和合神分 本跡の和合に依って二世の悉地を満足すべきが故なり。
五、供養神分 以前の四種によって諸天竜神等をして喜ばしめて供養礼拝讃嘆するがゆえなり。
問うて曰く、五種の神分何が故にか般若心経をもちふるや。
答えて曰く、設ひ何の経をもちふとも別して一経を指さば、この難定んで来るべし。中について般若の妙理を用ふるにその深心あり。その深意とは、六天の魔王、三界の衆生の数を減ることを、歎じて種種の方便をめぐらせて衆生をして六道を輪廻せしめんと擬す。故に人にして善心を発し仏事を修するものは、必ず三界を出つべし。三界を出ては必ずその数減ずべし。是を以って仏事を修するのところにおいてその障碍を成ず。如来このことを悲しみて方便して無眼耳鼻舌身意と説き無色声香味触法と説きたまふ。魔民この説を聞きて深く禁忌をなして自ら念言す。仏すでに六根六識六境無しとときたまふ。仏は是三達の大聖、不妄語の真人なり。如来十八界無しと説きたまふ。吾何者か障碍せんと。この念をなすとき、魔王三業柔和にして本居の宮殿に退帰す。このとき善神、歓喜して法味を聴受し、三宝力を得て施主を守護したまふ。
問うていわく、般若心経のわずかに一紙に欠けるを猶もって功徳莫大にして、魔防を除く、なんぞいわんや諸部の般若を用いる功徳をや。
答えて曰く、諸部の般若をもちふることそのその理しかるべしといえども、読誦するにいとまあらず、いわんや又、此の経一紙の内に諸部の深義を含む。小巻のなかに萬蔵の奥義を含む。萬徳恒沙の功徳、一時に顕現し、三世の如来の本心、一字ににしてとり拉(ひしぐ)。このごときの功能此の経にしかず。
問うて曰く、心経をもって諸神に法楽することその理しかるべし。若ししからば不浄の身を以て、説法の人般若心経を法楽せば諸神必ず守護を加ふべきやいなや。
答えて曰く、この問最も至要なり。凡夫見前の不浄のごときは酒肉五辛を食して宿を歴ず妊欲を行じて浄水に浴せず。ここを以て不浄となす。これは是智者愚者通用の威儀なり。このごとくの不浄を以て法衣を着、佛室に入り説法することはこのことわりあることなし。聖知見の浄不浄はしからず、愚痴をもって不浄の中の大不浄となす。
是のゆえに愚痴に十種の不浄あり。
一者身不浄ナリ。上品清浄ノ仏性ノ律儀ヲ慣不。其ノ身生死ノ泥中二在リ。故二身不浄ナリ。
二者ロ不浄ナリ。上品ノ真如蔵性ノ誠言ヲ説カズシテ徒二煩悩戯論之雑言ヲ説ク。故二口不浄也。
三者意不浄なり。自性清浄ノ心体ヲ知ラズ。妄想不浄之諸念ヲ起ス。故二意不浄也。
四者行不浄なり。根本智ノ大地二遊行シ乍ラ六道輪廻之稿土二遊フト謂ヘリ。故二行不浄也。
五者住不浄なり。海印定之宝所二住シ乍ラ流転生死之闇宅二住スト謂ヘリ。故二住不浄也。
六者坐不浄なり。無障碍空之宝座二坐シ乍ラ、生死所泥之獄中二坐スト謂ヘリ。故二
坐不浄也。
七者臥不浄ナリ。法界大涅槃之宝誠二臥シ乍ラ無常受苦之旅宿二臥スト謂ヘリ。故二臥不浄也。
八者自行不浄なり。如来真伝之性戒ヲ行セ不シテ、徒二如来方便之浅戒ヲ持ス。故二自行不浄也。
九者化性不浄なり。機ヲシテ法性清浄之浄行ヲ行セシメズシテ、徒二小乗権門之善ヲ持セ
令ム。故二化性不浄也。
十者所期不浄なり。本浄清浄之仏果ヲ期セズシテ、徒二有漏不浄之疎果ヲ期ス。故二所期不浄也。随分持戒之愚者ニモ、此ノ如キノ広大ノ不浄有り。何ソ況ヤ破戒無戒ノ愚者ヲヤ。三世ノ諸仏、皆愚庭ヲ以テ名テ不浄卜為ス。然二一文ノ義理ヲ知ラ不。如来ノ本意ヲ覚セザル愚僧ワズカ二一食ヲ行ト為シ、酒肉五辛ヲ食セズ。婬欲ヲ犯セ不。是ヲ以テ足リト謂テ有智ノ人ノ仏性ノ大戒ヲ持スルヲ偏執シテ吾ハ年老成臘、彼二勝レリト謂テ、上高座ヲ望ム。更に如来ノ本意二背キ、衆聖ノ誓願ヲ壊スルナリ。唯是レ同倫ノ愚人二於テハ、此レ等ノ持戒ヲ以テモ最モ殊勝ト為ス。此の如ノ不浄ノ身ヲ以テ説法教化スル。其ノ科千劫ノ五逆二過タリ、全ク諸天善神ノ守護無ク更二仏法僧宝之念持無シ。戒ハ愚人
ノ死人ノ骸骼(かいかく)、堂舎ノ辺二置ケハ魔民、悪鬼の其ノ色ヲ見ルコトハ、天衆ノ華ヲ愛スルカ如ク。香ヲ聞テ悦フコトハ聖人ノ梅檀香ヲ薫スルカ如クト謂ヘリ。是ノ時、悪鬼使ヲ得テ、仏法ノ障碍ヲ作ス。茲二因テ七難諸国二起り、仏法タチドコロニ滅ス。此レ亦是は愚痴不浄ノ摂也。但し善人ノ骸骨を浄室二収テ之ヲ崇レハ必ス仏神ノ守護二在ルコト有リ。
几ソ愚癈不浄ノ失は、勝テ計フ可ラ不。重科ノ国賊、何物カ此二如カンヤ。
復次二智人二於テ十種ノ清浄有リ。已前ノ十種ノ不浄ヲ鍛シ
テ以テ知ル可シ。
は、身不浄なり。
・表白品第十二
三宝ノ境、同別住持ノ仏ヲ表白シ、先ツ修善ノ体ヲ讃シ、次二施主ノ意ヲ歎ス。聖霊は菩提ヲ成シ聴衆の願成就ス
法界ノ衆二廻向シ、諸天は威光ヲ増ス。
次二願文有り之ヲ読ム可シ。
・釈法身品第十三
此ノ品二付テ十文段有リ
ー者法ノ邪正ヲ辨ス
小乗外道ノ法ヲ倶二名テ邪法ト為。大乗了義ノ法、是ヲ名テ正法ト為。小乗外道ノ法ノ仏法二相似タルコト、讐ハ鑞鉛色ノ能ク銀屑二比シ、銅鐘形ノ少シク黄金二類スルカ如ク。亦猫姿ノ虎二似テ虎ノ威有ルコト無ク趾ノ空二翺(かけ)テ山雀ノ翠ヲモ備へ不ルカ如シ。
然ルニ吾レ入滅ノ後、七百余歳ノ時二戒ハ邪法ヲ以テ正法二混シ、或ハ邪義ヲ以テ正義ヲナブリ、或ハ三乗ノ事教ヲ以テ一乗ノ理法ヲ破リ、或ハ末代無戒之時二及フト称シテ、持戒之比丘比丘尼ヲ諦レリ、或ハ当世之作法卜号シテ先徳之法則ヲ猥リ、戒ハ私ノ新宗ヲ立テ、古賢之宗義ヲ壊リ、或ハ無智ノ男女有テ、法之和正ヲ判シ、或ハ世法二耽著シテ師匠之悪名ヲ高フシ、或ハ種種ノ妄語ヲ説テ、吾レ能ク法ヲ説ク之人ト謂テ、愚人ノ師ト成り、衣ハー法無シト計シテ虚無之見ニ堕シ、或ハ萬法常住ヲ求テ、刹那生滅之道理ヲ辨セ不。或ハ異形裸形之僧尼有テ、神社仏寺ヲ穢シ如来ノ正法ヲ滅セン。此ノ時二及テ王の法威軽ク、七難世二起ラン。南天ノ祖師、朕(聖徳太子)二示テ云く。速二生死ヲ出ント欲ハ煩ク根本一乗ヲ憤フベし。常ニ知ルベし。一乗ノ正義ハ仏心是ナリ。若し一乗ヲ学セ不
シテ生死ヲ出ル者ノ是ノ處り有ルコト無シ。然シテ朕ハ是レ法華ノ侍者ナリ。常二知ルベシ。法華ノ実義ハ正二華厳ニ有リ。
・二者時赦ノ不同ヲ鑒(かん)ス
根機は一順ナラ不。時教ハ各―不同ナリ。差別ハ輪廻ノ業、一に入レハ解脱ヲ得、今略シテ三、五ヲ示メシテ諸師ノ異解ヲ鑒(かん)ス。
一ニハ南天ノ祖師、仏法ヲ分テニト為ス。謂ク教内教外是ナリ。即ち如来ノ正法、口二望ルヲ教卜為シ、心二望ルヲ禅ト名ク。
二には南方ノ慧観師、一代聖教ヲ分ッテ五時となす。
三には光宅寺ノ雲法師、四教ヲ立テ聖教ヲ判ス。
四には斉朝ノ曇鸞法師、二教ヲ立テ仏教ヲ摂ス。
是の如ノ三師は本大聖文殊ノ門人、無相円宗ノ人、法華経ノ学者ナリ。然二赦ヲ判スルコト各々異ナリト雖モ、正に是二蔵赦、三法輪、此レ等ノ教相は大に好シ。
・三者法ノ縁起ヲ叙ス
萬法は本卜物無シ エ巧は形相ヲ造ス 縁二随ヒテ真俗二有り
還テ本一乗二帰ス 大海に本浪無シ 風動二依テ浪ヲ起ス
本、吹風ノ縁無レハ 劫ヲ歴テ水に浪無シ 五色ハ縁二随テ現ス
水に是の如ノ色無シ 萬像は縁二随テ起り諸像は縁二随テ滅ス
屋舎ハ匠二依テ立ス 巧匠無レハ舎無シ 一乗ハ巧縁ニ従ッテ真俗ノ諸法ヲ現ズ。
法二善悪ノ相無シ 縁二随テ善悪起り
今、智ノ匠縁二随テ ー乗ノ屋舎立ス
・四者三性ノ義ヲ談ス
一乗に三性ヲ分ツ 根二随ヒテ見不同ナリ
迷人八二性ヲ見、覚者ハ円成ヲ見ル
流転六道ノ苦は 即ち偏計ノ性二因ル
偏計に真実無シ 皆虚妄ノ見二依ル ーノ大海水二於テ
而モ浪ノ大小ヲ見テ 温水ノ体ヲ知らズ ー向に波浪ヲ見ル
ーノ仏性の理二於テ 而モ煩悩ノ事ヲ見テ自ら生死ノ苦ヲ受テ
皆偏計ノ縄二縛セラル ーノー乗ノ法二於テ縁二依テ生死ヲ見テ
生死は涅槃に及ヒ ニ見各々不同ナリ ーノ大海水二於テ
風二依テ起浪ヲ見テ ーノ湿性体二於テ 水波ノニ見ヲ成ス
生死ノ苦ヲ厭捨シテ 菩提ノ道ヲ得ンコトヲ求テ ー乗に二相ヲ見ル
皆是れ依他ノ性ナリ 清濁動静ノ相 悉く是れ一水ノ相ナリ
水二本是ノ相無シ 水二依テ諸相有り 此ノ相は水上二起り
是の相は水上二滅ス波生スレトモ水増セズ 波滅スレトモ水滅セズ
起滅は悉く是レ水なり 動寂は湿ヲ出でズ 生死は菩提ノ道なり
悉く是れ一乗ノ性ナリ 萬法二生滅ヲ見ル 皆是れ普賢門ナリ
諸法は本ヨリ寂滅にして 即ち是れ圓成ノ性ナリ
・五者無相ノ理ヲ義ス
相ハ即ち随縁ノ相なり 相ハ自性ノ相二非ス 是ノ故に理ハ無相ナリ
事二随ヒテ諸相ヲ成ス 有相は即ち無相なり 無相ノ外に相無し
波浪ヲ有相卜名ケ 水性ヲ無相卜為ス 煩悩は即ち菩提なり
菩提二煩悩無シ 性外二煩悩無シ 性上二煩悩ヲ起ス
心外に生死無シ 心上に生死ヲ見ル 仏界ハ衆生に及ヒ
大海は諸山に及ぶ 皆差別ノ法無シ 唯是レ相無ノ相ナリ
・六者無生ノ蔵ヲ疏ス
生前二即ち生ヲ成シ滅家二是れ滅ヲ唱フ 生ハ即ち無生ノ生なり
滅ハ是レ無滅ノ滅ナリ 水ヲ即ち無生卜名ケ 波浪ヲ亦生ト為ス
水は本浪ノ生スル無シ 風二依テ波浪生ス 法性ハ即ち無生なり
生二自性ノ生無シ 無生ノ外二生無シ 生ハ唯是れ無生なり
包含ヲ名テ蔵卜為す 水は波浪ヲ包含ス 仏性ハ生死ヲ包ヌ
是ノ故に性ヲ蔵卜為ス
・七者文殊ノ智ヲ註ス
理智は恒に周遍す 無性及び有性 妙智は縁に随ひテ起テ苦楽ノ事ヲ分別ス
有性は分に随ひテ悟ル悉く是れ文殊ノ智ナリ
智念ハ即ち風勢なり 風ハ是れ文殊ノ智ナリ
今将二文殊ノ妙体ヲ釈スルニ即ち其ノニ有リ。イチニハ惣、二
二八別、一惣ノ文殊参問テ曰く。 文殊ノ妙智は諸法二遍ク
シテ差別無シ。云何ソ有性ノ智は一順ナラ不や。或ハ塵妙
有リ。或ハ賢愚乃至四聖四生六道有ルヤ。
答へて曰く。此れハ是れ妙慧ノ差別有る二非ス。但是れ器二随ひテ差別有リ。
替ハ虚空ノ長短方圓之別有ルコト無レトモ或ハ竹筒ノ中、或ハ屋舎ノ内、或ハ鼻ロノ中、或八五蔵ノ内、各各不同テンテ皆差別有ルカ如ク、
亦風ノ諸器二従フ時、或ハ甲聾ヲ出シ、或ハ乙響ヲ出スカ如し。地獄ハ苦ヲ知り鬼ハ飲食ヲ念シ、畜生ハ水草ヲ念ス。乃至十界は麤(そ、あらいこと)ヲ知リ、妙ヲ知ル。皆是れ文殊なり。悉く是れ風性なり。
四大ノ体性は本是れ文殊なり。始覚、本覚元是れ風性なり。一切ノ覚知は是レ自寛二非ス。苦楽ノ諸念には私念有ルコト無シ。親ヲ知り子ヲ知ル。即ち是れ文殊なり。夫ヲ念ヒ妻ヲ想フ。文殊二非ト云コト無シ。故に仏、説テ三世ノ覚母ト為テ十方ヲ渡脱シ下フ。文殊ノ恩徳ナリ。
已上惣シテ文殊ノ妙慧ヲ釈シおわんヌ。
ニに別レテ文殊ノ徳ヲ釈スとは、或ハ浄瑠璃浄土二於テハ大菩薩ノ其ノート為テ、
行者を摂シテ極楽世界二送り、或ハ極楽世界二有テ衆智根本之智ヲ開発シ、或ハ霊山会上二於テ法華ノ瑞相ヲ告ケ、或ハ寂滅道場二有テ微塵説法ノ深義ヲ演へ、或ハー乗一実ノ妙義ヲ伝テ無相円宗ノ祖師ト成り、或ハ獅子上二乗テ妙智無畏之相ヲ顕シ、或ハ世尊ノ右辺二坐シテ無上ノ大智ヲ補助シ、或ハー行三昧ノ発起ト為テ、弥陀ノ願意ヲ顕シ、或は五台山二住シテ諸教ノ奥義ヲ説ク。已上別シテ文殊ノ徳ヲ釈シおわんヌ。
八者普賢ノ行ヲ記ス
器界に生滅有リ。有情能ク業ヲ作ス 理事諸行ヲ成ス、皆是
普賢ノ行なり。今将に普賢ノ行ヲ説ク。即ち其ノニ有リ。一には惣、ニには
別。一惣ノ普賢とは、一切ノ諸法に体相用有リ。体ハ即ち文
殊なり。相ハ是れ普賢なり。用ハ皆観音ナリ。経二云く、普
賢ノ身中に皆三世一切ノ境界ヲ見ル。四大ノ相現は是レ普賢
なり。萬像ノ差別は普賢二非ト云コト無シ。四聖ノ修行は、
自ノ作業二非ス。本は是れ普賢ノ行なり。十界ノ形相は亦、
私形二非ス、普賢ノ相ナリ。二二別シテ普賢ノ行ヲ記ストハ
或八十大願ヲ立テ、衆生ノ行ヲ成シ、或ハ極楽界二有テ、人
天之行願ヲ勧メ、極楽往生ニハ臨終之正念ヲ祈り、或ハ白象
二坐シテ、法身無色之止行ヲ明シ、或ハ大聖之左漫二侍シテ
世尊之大行ヲ成ス。
九者観音ノ慈悲ヲ述ス
観音大悲ノ用は、周遊シテ六道二満ツ。父母及び妻児互二慈
悲心ヲ生ス。私ノ慈心有ルコト無シ。皆是れ観音ノ悲ナリ。
鬼畜其ノ子ヲ念フ。観世音二非ト云コト無シ。
今将二観音慈悲之相ヲ述ス。即ち其ノニ有り。
一には理なり。二には事なり。
一に理ノ観音とは九界之衆生、他ヲ慈シ、自ヲ悲ス。皆是れ観音大悲之相ナリ。有情随分之慈悲は菩薩内薫之縁二非ずト云コト無シ。眼に其ノ色ヲ見、耳に其ノ音ヲ聞き、鼻に其ノ香ヲ聞キ、舌に其ノ昧ヲ賞メ、身に其ノ境二触レ、意に其ノ法二縁ス。六根各々慈ヲ生じ、六識互二悲ヲ起ス。
妻子ヲ親しミ、父母ヲ敬ひ主君二事へ、師長ヲ重ス。
仁義礼智信悉く是れ観音ノ大悲ナリ。敢テ私ノ礼二非ず。
二に事ノ観音ノ用ヲ述ス。或ハ妙賞果満之世尊ト為リ、方城
ヲ示テ西方二住シ、国土ヲ浄テ宝座ヲ飾り、或ハ等賞不足之
地位二居テ、衆生二代テ重苦ヲ受ケ娑婆二出テ四摂替ハ虚空之巧匠二なずまず、湿水之方圓ヲ痛ま不ルカ如シ。衆生
ヲ擁護シテ少時モ離レズ。持者ヲ歓喜シテ刹那モ捨て不。平生護念之願ヲ憑レバ六根二病痛無シ。臨終授台之益二因テ三業二快楽有リ。衆聖之中二独り大悲ト号ス。名称は普ク十
方二聞フ。慈眼ヲ開テ愛敬ヲ示シ、本師ヲ戴テ妙果ヲ表ス。恭敬礼拝のともがらハ、永ク四苦ヲ離レ、一心称名の人ハ、必ス八難ヲ出ツ。造像圓形の庵ノ上ニハ、影光動テ室二入り、合掌胡跪の 窓ノ前ニハ、化仏未テ声ヲ挙ク。受持読誦の床ノ辺ニハ、大天臨テ聖財ヲ興へ、念住生の夢枕ニハ華台二授テ金蓮二坐シム。几ソ現世の安穏、後生の善
處、併て大悲の恩二非トイフコト無シ。
十者明らかに三聖に和合す
夫レ萬像二体相用ノ三ツ有リ。四大ノ体ハ是れ文殊、相ハ是れ普賢なり。用ハ是れ観音なり。或ハ理体ヲ指シテ名テ相用ト為ス。其ノ相用とは、理体ノ上事にして、萬像ノ相用ナリ。敢テ理体ヲ離テ相用有ルコト無シ。相用ヲ除テ外二更二理体無シ。
理事一法、無二無三。平等一性ナルヲ即ち毘盧卜名ク。相用ノ差別ヲ名テ普賢ト為ス。一即一切とは、体、相ヲ具スルカ故ニ、一切即一なり。事ヲ離テ理無シ。一乗三乗モ亦復是ノ如シ。一即三乗とは、一は三ヲ出スカ故二、三即、一乗とは、本トー乗ナルカ故二。
祖師ノ云く。諸教の中に一乗三乗ハたとえば白木ノ木ヲ捨テ白ヲ求ルカ如シ。但に相ヲ離テ木ヲ取テ白を見バ、白木一時二あにともに得不ンヤ。
問テ曰く、諸教之中二権実ノ学者或ハ経論ヲ読ムコト数百萬巻、或ハ論議ヲ学スルコト千問答二及フ。あに諸仏ノ本心ヲ覚知セ不ランヤ。云何シテカ八難の中二輪廻スル。
答テ曰く。教中二云ク須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収ムト、学者ノ云ク、是レ仏ノ神通方便ノ不思議ナリ。あに凡夫智カノ及フ所ナランヤト。是の如ク文ヲ学セハ設ヒ萬徳恒門ノ教文ヲ学フトモ、敢テ仏法ヲ悟ら不。唯是れ盲目ノ者ノ杖二信せて歩行シ、小児ノ他二負ハ披テ萬里ノ路ヲ見ルカ若シ。
問ひテ曰く。此ノ義然ラ不るや、諸仏ノ説教に十二部有リ。
論議経ハ是レ十二部ノ中ノ即ち其一なり。論議ヲ学慣スレハ、あに仏法二非スヤ。何そ況ヤ迦葉仏ノ教ノ七日中二滅スルコト、あに論議経ヲ説カ不ルニ依ルニ非スヤ。論議ハ是れ非ヲ以テ是ヲ顕カ為メナリ。若シ是ヲ顕スコト有レバ即ち妙慧ヲ発ス。
(十にはあきらかに三聖に和合す・・・)(問テ曰く、諸教之中二権実ノ学者或ハ経論ヲ読ムコト数百萬巻、或ハ論議ヲ学スルコト千問答二及フ。あに諸仏ノ本心ヲ覚知セ不ランヤ。云何シテカ八難の中二輪廻スル。
答テ曰く。教中二云ク須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収ムト、学者ノ云ク、是レ仏ノ神通方便ノ不思議ナリ。あに凡夫智カノ及フ所ナランヤト。是の如ク文ヲ学セハ設ヒ萬徳恒門ノ教文ヲ学フトモ、敢テ仏法ヲ悟ら不。唯是れ盲目ノ者ノ杖二信せて歩行シ、小児ノ他二負ハ披テ萬里ノ路ヲ見ルカ若シ。
問ひテ曰く。此ノ義然ラ不るや、諸仏ノ説教に十二部有リ。
論議経ハ是レ十二部ノ中ノ即ち其一なり。論議ヲ学慣スレハ、あに仏法二非スヤ。何そ況ヤ迦葉仏ノ教ノ七日中二滅スルコト、あに論議経ヲ説カ不ルニ依ルニ非スヤ。論議ハ是れ非ヲ以テ是ヲ顕カ為メナリ。若シ是ヲ顕スコト有レバ即ち妙慧ヲ発ス。)
若シ此ノ理二依ラハ論議ヲ学セ不。一向ニ憤ヲ学スルハあに科失二非スヤ。
答テ曰く。汝ノ所説ノ如ハ然ら不。十二部終ノ中ノ論議経とは心に慈悲ヲ帯テ即ち仏法ヲ興隆センカ為二他人二代テ互二問ヒ互二答テ、然シテ問答有テ必ス学ヲ励スコト有リ。是ノ故二云く。迦葉仏論議ヲ説か不ルカ故二其ノ教、即ち滅スト。然に今ノ学者ノ論議ハ其ノ論議ノ所詮ノ実義ヲ取ら不。但戯論ノ雑言ヲ取テ、是ヲ実義卜謂フ。或は名聞二著シ、戒ハ貪欲ヲ呑ミ、専ラ噴怒ヲ発シ、鎮二妄語ヲ吐ク。敢テ智者之類二非ス。皆是れ天魔ノ伴党ナリ。呑に問ひて曰く。今ノ所説ノ如くハ、一向二論議ヲ破す。若シ論議ヲ破スレハ将に十二部経ヲ破スルナリ。若し為二論議経ヲ破セハ、謗法ノ罪科頓二汝カ身二有ラン。此ノ義は云何ぞ。答ヘテ曰く。あに前に説か不ヤ。有智ノ人ノ論議ハ最モ敬重スル所ナリ。教中二須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収卜云ふカ如ハ、讐喩ヲ以テ之ヲ示スナリ。譬えば大虚空ノ辺際有ルコト無キカ故二虚空は万法二遍フシテ小塵ノ内ヲ隔れ不、太虚は塵ノ内にあつまるは、空ニシテ少シテ差別無キカ如シ。若シ差別ノ法有ラハ遍満ノ理有ルコト無シ。現二遍満ノ理有ルカ故二、差別有ルコト無シ。芥子毛端ノ喩モ亦虚空ノ性ノ如シ。虚空芥子二遍ク虚空毛端二満ツ。須弥、空ヲ出ルコト無シ。大海二虚空有リ。芥子は即ち虚空なり。毛端は空ヲ出で不。若し此ノ道理有ラハ云何シテカ須弥海はあに芥子に人ランヤ。何ソ毛端二収メ不ンヤ。此ノ道理ヲ以テ仏法ヲ験知スルニ諸法二遍満シテ小塵ヲ隔て不。芥子は即ち仏性なり。毛端は是レー乗ナリ。仏性は諸法ヲ包み、一乗は萬像ヲ含ム。須弥ヲ芥子二人レ大海ヲ毛端二納ム、是ノ故二不思議なり。経二小微塵ノ内二大経巻有リト云フハ、此ノ心ナリ。若し此ノ道理ヲ得ハ壹二望ム所二非スヤ。前ノ説ク所ノ如ク、仏ノ神カナルカ故ナリ。凡夫心ノ及フ能は不る所トいはば将に所説ノ経法ハ徒に設ルナラン。行者若し此ノ執ヲ作ば、あに無間二堕セ不ランヤ。是の如ク計スル者を名テ重罪卜為。
重罪二種有リ。
一には不浄修善罪。
二には不浄論説法罪。
三には五逆罪
四には謗法罪
五には無信罪なり。
設ひ無信の者も発心すれば而も成仏す。論法ノ者ハ成仏ス可から不。自ら仏法無シト知テ他ヲシテ仏法無シト知ラ令ルカ故二、設ヒ論法ノ者ハ改悟の期有リト雖フトモ、五逆ノ者ハ成仏ス可から不。現二重罪ヲ畏れ不ルカ故二。設ヒ五逆ノ者、発心之期有リト雖フトモ不浄説法ノ者ハ出難か期有る可から不。
不浄説法二五科有リ。
一には有所得ノ心ヲ以テ虚妄ノ言ヲ説テ他ヲシテ信ヲ発テ悪道二堕セ令ルカ故二。
二には仏法ヲ説か不シテ徒二世事ヲ説カ故ニ。
三には酒肉五辛ヲ食シ非嫡正嫡ヲ犯シテ即ち身二法衣ヲ著テ堂に入るに及テ三宝ヲ穢スカ故ニ。
四には他ノ有徳ヲ誹り自ノ無徳ヲ讃ルカ故二。
五には一乗一実ノ法ヲ悟ら不シテ権門有相ノ教二耽著スルカ故に。
不浄修善ノ者に三ノ失有り
一には愚裔不浄ノ僧者ヲ請シテ、妄法悪法ヲ説か令ルカ故に、
二には財物ヲ蔵内二積ミ乍ら重宝ヲおしみ、、軽物ヲ施スカ故に、
三には子孫夫妻ヲ重ンシテ父母師長ヲ軽スルカ故二。
この重五逆ノ中に不浄修善ト不浄説法トノニ逆、最モ重シトス。
設ヒ磐石ヲ匪。芥子ヲ尽ストモ此ノニ逆ヲ以テ成仏スルコト
有ルトナラハ、是ノことわり有ルコト無シ。若し一乗仏性ヲ悟ル
コトヲ得ルコト有ラハ、必ず重罪ヲ滅シテー念に成仏セン。
唯説ク者ハ所説無キコトヲ説く応シ。聴ク者ハ所聞無キコト
ヲ聞く可シ。若し説二所説有ル者ハ悪法ヲ説くナリ。仏法ヲ
説クニ非ず。若し聴くニ所聞有ル者ハ非法ヲ聴ク。仏法ヲ聞
クニ非ず。言語は皆仏性ナルカ故二別ノ言語無シ。故二言語
道断ト説ク。心行は悉ク真如なり。別ノ心行無シ。故二心行
所滅ト云フ。愚者ハ言語ヲ以テ説く可から不と謂ヘリ。故二
言語道断卜云フ。心行ヲ以って称可から不。故于心行所滅な
りと説ク。又法身無形無相と云ふ。虚空ヲ以テ喩卜為。見る
可から不。聞く可から不。知る可から不。思ふ可から不云云。
設ヒ無形トハ、十界ノ依正、皆法身ナルカ故二。別二何ノ形
卜説く可から不るヲ言フ。故二法身無形ト説ク。青黄赤自恣ク法身ナルカ故二。別二何ノ色ト説く可から不るヲ言フ。
故二無色ト説ク。虚空ヲ以テ喩ト為トハ無形の色ヲ言フニ非ず。虚空諸法に於ひて、障擬無ク、長短方圓、物二随テ増せ不、滅せ不ルヲ言フ。故に色即是空空即是色卜説ク。若し一切ノ色法、空二非卜言はば、色即是空ト説く可から不、若し十方ノ虚空、色法二非スト言ハバ、空即是色ト説く可から不。
色法に生滅有ラハ、虚空に生滅有る可シ。虚空常住ナラハ色法常住ナル可シ。色法に形色有ラハ空に形色有る可シ。虚空に形色有ラバ法身二形色有ル可シ。然シテ彼ノ法身ハ諸法ニ遍シテ差別無シ。故二形色無シト云フ。萬法二亘テ分別無シ、故に虚空に喩て言フ。仏行鬼念は皆是れ実相なり。天思畜欲は一乗二非卜云コト無シ。内道外道悉く是れ仏性なり。正法邪法三昧二非卜云コト無シ。
草木樹林ヲ即ち真如卜名ケ、山河大地是ヲ仏眼卜名ク。萬像普賢、故二仏界有リ、衆生界有リ。
萬法毘廬故二仏界無ク、衆生界無シ。法有る卜説ヲ聴テ歓喜ス可から不。法無シト説ヲ聞テ驚畏ス可から不。六根益ヲ獲ヲ名テ説法トス。見聞覚知、皆是聴法。縁二依テ発悟ス。
此ノ悟ヲ縁卜名ク。縁ヲ離レば本心、是ノ心ヲ性卜名ク。還テ諸縁ヲ見レハ諸縁は本心ナリ。百千ノ名号は一乗ノ別称ナリ。極楽界ノ如ハ、水鳥樹林、皆妙法ヲ説ク。故二往生ヲ得。人は皆羅漢なり。然ルニ彼ノ土ノ衆生は実相般若波羅蜜ヲ開悟ス。故二大乗ノ羅漢を声聞ト云フ。見色聞香して併二仏法ヲ悟ル。故二妙法ノ深義ヲ演説スト云ふ。全ク彼ノ達者ご口業ヲ念シテ説言シテ他ヲシテ聴聞セ令ルカ如クナルニ非ス。若し真理ヲ得レハ草木は成仏し樹林は説法す。全ク彼の八相成道ノ如二非ず。全クロ業二非ルヲ名テ説法卜為。常に知るべし。草本は本形ヲ変セ不。本来仏性なり。故二成仏ト云フ。
非情の口業は説法ノ義無シ。他ヲシテ長短黒白ヲ覚悟セ令ム。故二説法ト云フ。凡ソ説法とは道理ヲ得シメ。黒白ヲ知ら令ム。故二説法ト云フ。善悪諸法ノ差別ヲ知ら令ム。六親ヲ知り妻子ヲ知り境二依テ発悟ス。是ヲ聴法ト名ク。然二慧ハ則ち是れ文殊勢至なり。行願ハ普賢及ヒ虚空蔵なり。大慈大悲ハ観音地蔵なり。妙慧ハ是レ風、行願ハ池水、慈悲ハ火性、是ヲ万法ト名ク。
心法一性ナルヲ名テ妙慧ト為。亦心法ノ性ヲ名テ行願卜日フ。大慈大悲モ亦是れ心法ナリ。九界十界、壹二心外ノ法ナラン。(続)
・・・迷者ノ云ク。未夕金色ノ形ヲ得ず。未タ諸仏ノ法ヲ説かズ。来夕三世ノ事ヲ知らズ。云何シテ成仏卜名ケン。云何シテ説法ト為。若し成仏説法ノ義有リトナラハ是レ理ノ成仏、理ノ説法なり。是レ事ノ成仏二非ス。是レ事ノ説法二非スト云云。此レこう劫ノ無明、無始ノ煩悩ヲ執シテ起ス所ノ執也。理ヲ云二隠レ不。事ヲ云二顕レ不。水ハ是れ理なり。波ハ是れ事なり。水は隠レ不。波は顕レ不。唯是れ水ノ動相ヲ波浪ト名ク。波浪は即ち温水ナリ。地水、本来仏性ナルヲ本来成仏卜云フ。火風元是レ真如ナルヲ萬法説法ト
名ク。吾レ草本仏性ナルヲ悟ル。是レ草木ヲシテ益ヲ得セ令ルナリ。草木吾ヲシテ青黄黒白ヲ悟ラ令ル。是レ草木、吾ヲシテ益ヲ得せ令ルナリ。是ヲ草本成仏卜名ケ、是ヲ草木説法卜云フ。
十者六相四相三義三諦ヲ図ス、頌二曰く
唯、唯識ノ説二依テ即ち六相ノ義ヲ明サハ、屋舎ハ即ち理相なり。棟梁ヲ事相ト名ク 屋舎ハ即ち惣相なり。 棟梁ヲ別相卜名ク。造立ハ即ち生相なり。破壊ヲ滅相ト名ク。
ー乗ハ即ち理相なり三乗ヲ事相ト名ク。ー乗ハ即ち総相なり三乗は即ち別相なり。
随縁ハ即ち生相なり。帰一ヲ滅相ト名ク。普賢ハ即ち生相なり。法位二往スルハ住相なり久住スルハ即ち位相なり。終壊ヲ滅相卜名ク。
随縁ハ即ち生相なり萬法ヲ住相卜名ク。諸法ハ即ち位相なり。毘盧ヲ滅相卜名ク。真如ハ即ち体義なり萬法ヲ相義ト名ク。
互用ハ即ち用ノ義なり、是ヲ三種ノ義卜名ク。湿水ハ即ち体ノ義なり
波浪ヲ相ノ義ト名ク。清濁ハ即ち用ノ義なり。是ヲ体相の用ト名ク
若し中論ノ説二依テ即ち三諦ノ法ヲ明サハ木ハ即ち中道ノ義なり
箱桶ヲ仮諦卜名ク、形相ハ縁二随テ変スル、是ヲ空諦ノ法ト名ク
ー乗ハ即ち如来蔵なり真如実相ハ即ち本心なり。六相四相、三義
三諦。始完本覚、皆自心ノ性ナリ。(以上法身終わりぬ)
o報身品第十四
分此ノ門之中二即ち其ノニ有り。
一は無作自得ノ報身なり。
二には感果報身なり。
一に無作自得ノ報身とは周円無際にして方城ヲ離レ色相音声は無量無辺にして、方城を離れ、色相音声は無量無辺にして、妙智ノ体用は法界二遍し、三輪ノ作業は内二非ス、外二非ス。或時ハ意業二相好ヲ具足し、或時ハロ業に観想思維シ、或時ハ身業に色声説法ス。若し成道ヲ論セハ甚大久遠にして不思議劫ナリ。若し寿命ヲ論セハ無量無辺にして不可尽劫ナリ。
前無ク後無ク十方世昇二皆浄土ヲ立テ、説法有ルコト無シテ衆生ヲ利度スルハ唯報身等覚ノ菩薩有リ。常に其ノ声ヲ聞テ入る無ク出る無ク来る無ク去る無ク。大に非ス小に非ス空に非ず色に非ず理に非ず事に非ず性に非ず相に非ず正に非ず邪に非ず、常に非ず無常に非ず有情に非ず非情に非ず。即ち諸相ヲ離レタル。是ヲ諸仏ト名ク。
二に感果報身なり。有始ノ修行ハ即ち応化二同シ。若し自證二約シメば即ち報の名を立つ。若し修行二約シメハ亦応号ヲ立ツ。或は一縁のために方を指し相を立つ。実ニハ方處無シ。前ノ無作興等フシテ差別無シ。寿命無量。久遠不滅。仏身相好。世間に比無シ。光明は遍ク十方世界ヲ照テ、身土倶時、頓二成就ヲ得、諸ノ菩薩二純ニシ
テ、更二余衆無シ。或ハ大乗ノ阿羅漢衆有リ。或ハ仮名ノ人天聖衆有テ、書夜但二心地ノ法門ヲ説ク。聴聞ノ衆会一乗ヲ開悟ス。是の如キ等ノ無量ノ功徳有リ。即ち是ヲ名テ実報如来ト為。此れは是、実根如来二於テー往無作ト感果トヲ分別ス。然トモー智慧ニシテ少キ差別無シ。但見ノ不同ナリ。実ハ唯一仏のみ。(次は往身論第十五)
o応身品第十五
二身に応ヲ垂ルルヲ釈迦牟尼卜名ク。萬機二応同ス。故二応身ト称ス。変化シテ真二非ス。亦化ノ号ヲ立ツ。此ハ始終応同ノ化身二約ス。暫時転変ノ化身ヲ指スニ非ス。然シテ法報身ハ化益未夕尽きず。故二釈迦慈下ノ化身ヲ現シテ人天ヲ化度シテ常二涅槃二人ルペシ。此ハ忍土ノ釈迦牟尼二約ス。衆生ヲ度スガ為二人天二似同シテ八相成仏ス。是ヲ化身卜名ク。砕身全身ノ舎利ヲ流布シテ天上人間二見聞し、益ヲ獲て将二泥たん之道二悟入スルコトヲ得ントす。
巳上ノ三身、或八十身ヲ釈スル有リ。此ハ是れ常二諸仏惣ノ功徳二通スペシ。復次二別功徳とは、預シメ顕をまわし時二随ヒ事二順テ、或は四弘ヲ釈シ、或ハ別願ヲ述フ。了義ノ人有テ能ク思釈ス可シ。
ひそかにおもんミレハ仏眼ハ萬法ヲ備テ親無ク疎無シ。善神は法界ニ満テ怒有リ。悆(よ)有リ。鼹鼢(えんふん、もぐらのこと)日光ヲ妬、壚墟(ろきょ)ヲわかち、蠶蠶蠶繭(さんけん・・かいこのまゆ)、 シツエン を結テ、ワズカノ命二死ス。説法に能有レハ仏眼開ケテ善神歓喜ス。説法に非有レハ仏眼盲テ諸神怒ヲ作ス。あに慧日ノ光ヲ妬テ三途之壚墟(ろきょ)ヲ坫(てん・・わか)チ、愚鈍ノ暗に昵近シテ六道之胎獄二籠ランヤ。
説法センニハ須ク三事四徳ヲ兼ネ三聖四摂ヲ具シ、内外二典に亘り禅教両門ヲ慣クペシ。若し此の中の一事モ少テ説法スナラハ、是ノ處有ルコト無シ。
几ソ師檀共二須ク謂フベシ
ー日ノ師檀は百劫ノ結縁ナリ。一度赴請の師憎ハ其ノ檀那ヲ以テ子弟ヲ親ムカ如クセヨ。一度聴法の道俗ハ其ノ師ヲ以テ父母ヲ敬カ如クセョ。
一人ヲ教化スルノ功徳は六度ヲ行スルコト百劫スルニ勝レリ。一宇ヲ聴聞スルノ大恩は千仏ヲ供養スルコト百劫スルニ過タリ。一人楢然り況ヤ十人、百人ヲヤ。一宇猶重シ。況ヤ十字百宇ヲヤ。
富二知ルペシ。先世の授戒ノ師ハ今世ノ父母なり。先世の授戒ノ祖師ハ今世ノ祖父祖母
ナリ。過去ノ同学ハ現在ノ兄弟ナリ。過去ノ同聴ハ現在ノ姉妹なり。其ノー師二於テ別所二戒ヲ受ルハ今世ノ兄ノ子、弟ノ子、姉ノ子、妹ノ子ナリ。先世ノ師ト同学トハ又今ノ世ノ内外ノ叔父叔母ナリ。或ハ知識卜為リ。或ハ師弟ト為る。或ハ同行ト為る。或ハ伴侶ト為る。或ハ同姓ト為る。或ハ同学ト為る。或ハ同僚ト為る。或はー国二坐し。或ハー郡二住シ。戒ハー懸二處シ。或ハー村二處シ。一樹ノ下二宿シ。一河ノ流ヲ汲ミ、一衣ノ同宿、一日ノ夫妻、一所ノ聴聞、暫時ノ同道、半時ノ戯笑、一言ノ会釈、一坐ノ飲酒、同杯同酒、一時ノ同車、同畳ノ同坐、同詠ノー臥、軽重に異有リ。親疎に別有ルモ皆是れ先世ノ結縁ナリ。是ヲ以テ験知スルニ牛馬六畜モ今生二結縁セバ当来二親ムべシ。
何ソ況ヤ予昔シ霊山の説法之庭二列テ、大師二相承スルは、二伝の法ナリ。あに是れ
一宇一言之失錯に有ンヤ。請フ諸ノ有心の倫ハ、吾カ寺ヲ本時卜為テ寺ノ後二大天ヲ崇て、理ニハー乗の妙典ヲ講説シ、事ニハ西方ノ教文ヲ談述セヨ。爾ラハ吾レ来テ障擬ヲ除キ、吾は必ス守護ヲ加ヘシ。復次二此書ヲ書写シ、五色ノ袋二盛、自ら読ミ、他二読々令メヨ。若し之ヲ持セハ、先ツ仏道二廻向シ、次二神明二法楽セョ。僧尼ハ是ヲ亀鏡卜テ、自ら其ノ罪ヲ畏ヨ。在家ハ是ヲ自ノ守卜為、僧尼ノ賢愚ヲ辨セヨ。此ハ是、予カ最初ノ述作にして皆経論ノ明文ヲ集テ、仏、菩薩ノ本意ヲ記スルノミ。
(終わり)
優婆塞 童 圓通 述
・著衣品第一
柔和忍辱心ヲ著如来衣ト名ク。和忍ハ障幣ノ用ナリ。
譬エヘハ法服ヲ著ルガ如シ
・人道場品第二
如来ノ室二人ルトハ、大悲ヲ名けテ室卜為ス、能ク大悲心ヲ発スヲ如来ノ室ニ人ルト為ス。
・礼三宝晶第三
本妙心、報化ト住持仏、一切ノ法宝ノ蔵、聖几和合憎二帰命シ上ル。
・焼香品第四
至心二香木ヲ焼ケバ天魔及ヒ波旬、香ヲ聞テ失心シテ退クコ
ト楢シ死門二入ルガ如シ、讐ヘバ蜣蜋虫(リョウキョウチュウ)ノ天ノ甘露ノ美二酔ヒ、
蚪蟢(トウキ)苦辛ヲ好テ、其ノ昧最モ美ナリト為ルガ如ク、魔民モ亦是の如シ。香ヲ聞テハ臭悪ト嫌フ、若し悪臭ノ気ヲ聞テハ、カヲ増テ功徳ヲ防ク、若し入美香ヲ焼ケハ魔倫ハ他方二趣キ、仏神ハ歓喜シテ守り、修善は必ス成就ス。
・坐高座品第五
空慧ヲ高座ト名テ、有智高座二坐ス、若シ北ノ高座ヲ得レハ能ク仏法ヲ説クニ堪タリ。
・梵唄品第六
勝鬘至心二如来ノ微妙の色身ヲ讃嘆シ下フ、口業ノ讃嘆、是ヲ内事卜名ク、此ノ供養ヲ致セバ十号ノ世尊相好具足シ、語根悦慄シテ供養ノ因縁ヲ哀愁摂受シ下フ、夫人即ち大功徳ヲ成スルコトヲ得、是ノ故二至心二形像ヲ讃嘆スレハ、生身ヲ供養スルト等フシテ差別無シ、是の故二至誠二梵唄ヲ唱フ可シ。
・散華品第七
草清浄ノ妙色ヲ開ケハ妙香ハ語ノ仏刹二散ス、若シ草間クコト有レハ諸仏東り坐ス。是ノ故二下唇ノ中ニハ、草ヲ以テ浄土ト為ス。色ヲ見、香ヲ聞クニ諸鬼神等之ヲ嫌フコト猫シ糞穢ノ色香ノ如シ、讐ハ牛羊之眼ノ華色二驚キ犬玃ノ心ノ琴韻ヲ厭フカ如シ、若シ臭肉穢昧有ルノ之時ハ悪神便ヲ得テ修善ノ家二来テ其ノ善願ヲ防クコト讐ハ駿馬ノ平路二こつ鯆之湯水二先ツカ如シ。所以二華ヲ散シテ悪神之障擬ヲ宥メント欲セバ須ク仏ヲ請ジテ供養之志願ヲ成スペシ。
・梵音品第八
如来ノ梵音ハ響キ十方二聞フ、其ノ音ヲ聞ク者ノハ皆道果ヲ得ル。是ノ故二至誠二清浄ノ音ヲ以テ諸仏乃至法僧ヲ供養ス。
若シ此供養ヲ延レハ自然二八音功徳ヲ具足ス。
・錫杖品第九
宝塔ノ高妙、タトエバ須弥山王ノ如シ、今北ノ錫杖ハ即是宝塔ナリ。功徳ノ高顕モ亦須弥ノ如シ。此ノ錫杖ヲ見ルハココ二須弥法界塔婆ヲ見ルナリ。一見ノ人天ハ現世安楽後生浄刹、悉ク仏果ヲ成ス。語参地蔵ノ此ノ錫杖ヲ持スルコトハ将二一見ノ人天ノ功徳ヲ成センカ為メナリ。是ノ故二至心二徳ヲ唱テ三種ノ三宝ヲ供養ス。モシ此供養ヲ法界塔婆ニ致せば道場に来入し、大願を成ず。
・開眼品第十
若し佛菩薩ノ像乃至人天ノ絵像、木像ヲ讃嘆センニハ必ズスベカラク五種ノ開眼ヲモチフベシ。ソノ五種トハ、
一ニハ入理開眼なり。此ハ三乗ノ権教門二約ス。マサニ知ルベシ、彼ノ教ハ理体ニ約スルニアラズ、仏性ヲ見ルコトヲ得ズ、コノ故二諸ノ経論二在在所所二
真如ヲ明ラカニセント欲セバ如来ノ蔵ノ性は凝然トシテ常住ナリ。理事ハ格別ナリ。事の諸法ヲ破シテ理ノ佛性ニ入レバ無明煩悩一時に断破ス。此ノ道理ヲ以テ仏像ヲ供養スレバ、佛眼ハ即チ開ケヌ。猶蓮華ノ水ヲ出テ開キ、妙香ノ風ニ散ズルガ如シ。未ダ深理を得ズ、一向着相ノ愚人諸仏諸菩薩ノ絵像、木像ヲ讃嘆ス。功徳ヲ成熟シテ佛眼開クルコトヲ得ルコト、是ノ所ヨリ有ル事ナシ。唯是レ天魔外道ノ流類ナリ。佛菩薩ノ像モ即チ魔道ニ堕ス。
ニニハ平等開眼なり。此レハ仏性に約ス。妙体ハ常住ニシテ不生不滅ナリ。理事性相ハ法界ニ周辺ス。故に曰ク衆生ニ皆仏性アリト。若シ衆生ノ体仏性アリトイハバ十界ノ衆生皆二仏性アラン。此ノ開眼ノ時、始覚、本覚、平等ニシテ別ナシ。
問イテイワク、若シ衆生ニ仏性アルノ道理ニ依ラバ、泥像、木像ハ皆是非情ナリ。イカニシテカ名テ平等ノ仏性トセン。コノ故ニマサニ知ルベシ、意願満ザルコトヲ答エテ曰、衆生ノ寿命ハ風火所蔵地水ノ和合ヲ強テ名ズケテ體
トス、イズレノ生カアニ四大ヲ離レテ形アランヤ、四大和合スルヲ名ズケテ有情トナシ、四大離散スルヲ即チ非情トナス。此ヲ以テ検知スルニ泥像木像若シ仏性平等の道理ニ約シテ佛菩薩像ヲ供養シ、讃嘆スレバ猶生身ニ大功徳ヲ成スガゴトシ。シカモ迷ヘル人アリテ仏性ヲ知ラズ、タダ欲心著相ノミアリテ仏像ヲ供養セシメ聖霊ニ廻向セバ仏像塔堂ニ天魔入リ住セン。聖霊モ必ズ無間地獄ニ堕シ、七世ノ孝子モ七難ノ家ニ来ラン。コノ故ニ経ニイワク、文ノ如ク義存スルハ此ハ是三世ノ如来ノ怨ミナリト、乃至聴聞ノ諸道俗衆モ家ニ七難来タッテ仏神ニステラレ、マサニ悪道ニ堕シテ出期アルコトナシ。
開眼論
三二ハ絶想開眼ナリ。此レハ頓悟ニ約ス。南天ノ祖師ハ心ヲ以テ心ヲ伝フ。若シ念想ヲ断ズレバ更ニ煩悩ナシ。若シ本心ヲ見レバ純ラ是レ菩提ナリ。本無明無ク本煩悩ナシ。唯是一心ナリ。唯是菩提ナリ。心外ニ法無ク、法外ニ物ナシ。萬法ハ唯心ナリ。萬法ハ菩提ナリ。南天ノ相樹ハ本、仏性ナシ。煩悩ハ菩提ナリ。悉ク是レ相樹ナリ。若シ有智ノ人、此ノ開眼ヲ用レバ眼目ノ朗ラカナルコト日月ノ天ニ明ラカナルガ如シ。若シ人此ノ如キノ道理ヲ得ズシテ仏像ヲ供養スルコトハコノ処ニアルコトナシ。
四ニハ円通開眼ナリ。コレハ一乗ニ約ス。煩悩、菩提、一時ニ頓現シテ理事、惣別、同時ニ具足シ、成壊始終一時ニ円通ス。煩悩ヲ断ゼズシテ菩提ノ果ヲ得、生住異滅ハ皆是一乗ナリ。若シ一法ヲ得レバ随ッテ多法ヲ得。一法多法コトゴトク是佛眼ナリ。
五ニハ、種子開眼ナリ。此レハ秘蔵ニ約ス。身印・口誦・意三摩地。種子現形。互生互用。法界一体ハ如来ノ秘蔵ナリ。泥像木像、堂塔支援、人形馬形。皆如来像ナリ。四悪四州、六欲梵王、四禅無色、無想那含、世智弁聡、闡提、仏前仏後、五逆誹法、妄語破誓、不浄説法、貪瞋愚癡、皆是曼荼羅ナリ。此レハ五智四身ニ通ズ。若シ経律論等ヲ供養セバ必ズマサニ大意釈名科文有ルベシ。有相無相ナラビニ其ノ説相ニ依りテ釈ヲモチフベシ。乃至小乗俗書等此ノ作法ニ順ジテ、是ヲ讃嘆スベシ。若シ佛菩薩ノ像ヲ供養セバ開眼ヲ以ッテ始メトシ、若シ法宝ヲ讃嘆セバ神分ヲ以テ初メト為ス。
神分品第十一
此について五種の別あるべし。
一、勧請神分 必ず須く権実の諸神を勧請し奉るべきが故なり。
二、除障神分 守護神の念力によって天魔の障碍を除くべきが故なり。
三、顕本神分 修善の力によって本地を顕し威光を倍増するが故なり。
四、和合神分 本跡の和合に依って二世の悉地を満足すべきが故なり。
五、供養神分 以前の四種によって諸天竜神等をして喜ばしめて供養礼拝讃嘆するがゆえなり。
問うて曰く、五種の神分何が故にか般若心経をもちふるや。
答えて曰く、設ひ何の経をもちふとも別して一経を指さば、この難定んで来るべし。中について般若の妙理を用ふるにその深心あり。その深意とは、六天の魔王、三界の衆生の数を減ることを、歎じて種種の方便をめぐらせて衆生をして六道を輪廻せしめんと擬す。故に人にして善心を発し仏事を修するものは、必ず三界を出つべし。三界を出ては必ずその数減ずべし。是を以って仏事を修するのところにおいてその障碍を成ず。如来このことを悲しみて方便して無眼耳鼻舌身意と説き無色声香味触法と説きたまふ。魔民この説を聞きて深く禁忌をなして自ら念言す。仏すでに六根六識六境無しとときたまふ。仏は是三達の大聖、不妄語の真人なり。如来十八界無しと説きたまふ。吾何者か障碍せんと。この念をなすとき、魔王三業柔和にして本居の宮殿に退帰す。このとき善神、歓喜して法味を聴受し、三宝力を得て施主を守護したまふ。
問うていわく、般若心経のわずかに一紙に欠けるを猶もって功徳莫大にして、魔防を除く、なんぞいわんや諸部の般若を用いる功徳をや。
答えて曰く、諸部の般若をもちふることそのその理しかるべしといえども、読誦するにいとまあらず、いわんや又、此の経一紙の内に諸部の深義を含む。小巻のなかに萬蔵の奥義を含む。萬徳恒沙の功徳、一時に顕現し、三世の如来の本心、一字ににしてとり拉(ひしぐ)。このごときの功能此の経にしかず。
問うて曰く、心経をもって諸神に法楽することその理しかるべし。若ししからば不浄の身を以て、説法の人般若心経を法楽せば諸神必ず守護を加ふべきやいなや。
答えて曰く、この問最も至要なり。凡夫見前の不浄のごときは酒肉五辛を食して宿を歴ず妊欲を行じて浄水に浴せず。ここを以て不浄となす。これは是智者愚者通用の威儀なり。このごとくの不浄を以て法衣を着、佛室に入り説法することはこのことわりあることなし。聖知見の浄不浄はしからず、愚痴をもって不浄の中の大不浄となす。
是のゆえに愚痴に十種の不浄あり。
一者身不浄ナリ。上品清浄ノ仏性ノ律儀ヲ慣不。其ノ身生死ノ泥中二在リ。故二身不浄ナリ。
二者ロ不浄ナリ。上品ノ真如蔵性ノ誠言ヲ説カズシテ徒二煩悩戯論之雑言ヲ説ク。故二口不浄也。
三者意不浄なり。自性清浄ノ心体ヲ知ラズ。妄想不浄之諸念ヲ起ス。故二意不浄也。
四者行不浄なり。根本智ノ大地二遊行シ乍ラ六道輪廻之稿土二遊フト謂ヘリ。故二行不浄也。
五者住不浄なり。海印定之宝所二住シ乍ラ流転生死之闇宅二住スト謂ヘリ。故二住不浄也。
六者坐不浄なり。無障碍空之宝座二坐シ乍ラ、生死所泥之獄中二坐スト謂ヘリ。故二
坐不浄也。
七者臥不浄ナリ。法界大涅槃之宝誠二臥シ乍ラ無常受苦之旅宿二臥スト謂ヘリ。故二臥不浄也。
八者自行不浄なり。如来真伝之性戒ヲ行セ不シテ、徒二如来方便之浅戒ヲ持ス。故二自行不浄也。
九者化性不浄なり。機ヲシテ法性清浄之浄行ヲ行セシメズシテ、徒二小乗権門之善ヲ持セ
令ム。故二化性不浄也。
十者所期不浄なり。本浄清浄之仏果ヲ期セズシテ、徒二有漏不浄之疎果ヲ期ス。故二所期不浄也。随分持戒之愚者ニモ、此ノ如キノ広大ノ不浄有り。何ソ況ヤ破戒無戒ノ愚者ヲヤ。三世ノ諸仏、皆愚庭ヲ以テ名テ不浄卜為ス。然二一文ノ義理ヲ知ラ不。如来ノ本意ヲ覚セザル愚僧ワズカ二一食ヲ行ト為シ、酒肉五辛ヲ食セズ。婬欲ヲ犯セ不。是ヲ以テ足リト謂テ有智ノ人ノ仏性ノ大戒ヲ持スルヲ偏執シテ吾ハ年老成臘、彼二勝レリト謂テ、上高座ヲ望ム。更に如来ノ本意二背キ、衆聖ノ誓願ヲ壊スルナリ。唯是レ同倫ノ愚人二於テハ、此レ等ノ持戒ヲ以テモ最モ殊勝ト為ス。此の如ノ不浄ノ身ヲ以テ説法教化スル。其ノ科千劫ノ五逆二過タリ、全ク諸天善神ノ守護無ク更二仏法僧宝之念持無シ。戒ハ愚人
ノ死人ノ骸骼(かいかく)、堂舎ノ辺二置ケハ魔民、悪鬼の其ノ色ヲ見ルコトハ、天衆ノ華ヲ愛スルカ如ク。香ヲ聞テ悦フコトハ聖人ノ梅檀香ヲ薫スルカ如クト謂ヘリ。是ノ時、悪鬼使ヲ得テ、仏法ノ障碍ヲ作ス。茲二因テ七難諸国二起り、仏法タチドコロニ滅ス。此レ亦是は愚痴不浄ノ摂也。但し善人ノ骸骨を浄室二収テ之ヲ崇レハ必ス仏神ノ守護二在ルコト有リ。
几ソ愚癈不浄ノ失は、勝テ計フ可ラ不。重科ノ国賊、何物カ此二如カンヤ。
復次二智人二於テ十種ノ清浄有リ。已前ノ十種ノ不浄ヲ鍛シ
テ以テ知ル可シ。
は、身不浄なり。
・表白品第十二
三宝ノ境、同別住持ノ仏ヲ表白シ、先ツ修善ノ体ヲ讃シ、次二施主ノ意ヲ歎ス。聖霊は菩提ヲ成シ聴衆の願成就ス
法界ノ衆二廻向シ、諸天は威光ヲ増ス。
次二願文有り之ヲ読ム可シ。
・釈法身品第十三
此ノ品二付テ十文段有リ
ー者法ノ邪正ヲ辨ス
小乗外道ノ法ヲ倶二名テ邪法ト為。大乗了義ノ法、是ヲ名テ正法ト為。小乗外道ノ法ノ仏法二相似タルコト、讐ハ鑞鉛色ノ能ク銀屑二比シ、銅鐘形ノ少シク黄金二類スルカ如ク。亦猫姿ノ虎二似テ虎ノ威有ルコト無ク趾ノ空二翺(かけ)テ山雀ノ翠ヲモ備へ不ルカ如シ。
然ルニ吾レ入滅ノ後、七百余歳ノ時二戒ハ邪法ヲ以テ正法二混シ、或ハ邪義ヲ以テ正義ヲナブリ、或ハ三乗ノ事教ヲ以テ一乗ノ理法ヲ破リ、或ハ末代無戒之時二及フト称シテ、持戒之比丘比丘尼ヲ諦レリ、或ハ当世之作法卜号シテ先徳之法則ヲ猥リ、戒ハ私ノ新宗ヲ立テ、古賢之宗義ヲ壊リ、或ハ無智ノ男女有テ、法之和正ヲ判シ、或ハ世法二耽著シテ師匠之悪名ヲ高フシ、或ハ種種ノ妄語ヲ説テ、吾レ能ク法ヲ説ク之人ト謂テ、愚人ノ師ト成り、衣ハー法無シト計シテ虚無之見ニ堕シ、或ハ萬法常住ヲ求テ、刹那生滅之道理ヲ辨セ不。或ハ異形裸形之僧尼有テ、神社仏寺ヲ穢シ如来ノ正法ヲ滅セン。此ノ時二及テ王の法威軽ク、七難世二起ラン。南天ノ祖師、朕(聖徳太子)二示テ云く。速二生死ヲ出ント欲ハ煩ク根本一乗ヲ憤フベし。常ニ知ルベし。一乗ノ正義ハ仏心是ナリ。若し一乗ヲ学セ不
シテ生死ヲ出ル者ノ是ノ處り有ルコト無シ。然シテ朕ハ是レ法華ノ侍者ナリ。常二知ルベシ。法華ノ実義ハ正二華厳ニ有リ。
・二者時赦ノ不同ヲ鑒(かん)ス
根機は一順ナラ不。時教ハ各―不同ナリ。差別ハ輪廻ノ業、一に入レハ解脱ヲ得、今略シテ三、五ヲ示メシテ諸師ノ異解ヲ鑒(かん)ス。
一ニハ南天ノ祖師、仏法ヲ分テニト為ス。謂ク教内教外是ナリ。即ち如来ノ正法、口二望ルヲ教卜為シ、心二望ルヲ禅ト名ク。
二には南方ノ慧観師、一代聖教ヲ分ッテ五時となす。
三には光宅寺ノ雲法師、四教ヲ立テ聖教ヲ判ス。
四には斉朝ノ曇鸞法師、二教ヲ立テ仏教ヲ摂ス。
是の如ノ三師は本大聖文殊ノ門人、無相円宗ノ人、法華経ノ学者ナリ。然二赦ヲ判スルコト各々異ナリト雖モ、正に是二蔵赦、三法輪、此レ等ノ教相は大に好シ。
・三者法ノ縁起ヲ叙ス
萬法は本卜物無シ エ巧は形相ヲ造ス 縁二随ヒテ真俗二有り
還テ本一乗二帰ス 大海に本浪無シ 風動二依テ浪ヲ起ス
本、吹風ノ縁無レハ 劫ヲ歴テ水に浪無シ 五色ハ縁二随テ現ス
水に是の如ノ色無シ 萬像は縁二随テ起り諸像は縁二随テ滅ス
屋舎ハ匠二依テ立ス 巧匠無レハ舎無シ 一乗ハ巧縁ニ従ッテ真俗ノ諸法ヲ現ズ。
法二善悪ノ相無シ 縁二随テ善悪起り
今、智ノ匠縁二随テ ー乗ノ屋舎立ス
・四者三性ノ義ヲ談ス
一乗に三性ヲ分ツ 根二随ヒテ見不同ナリ
迷人八二性ヲ見、覚者ハ円成ヲ見ル
流転六道ノ苦は 即ち偏計ノ性二因ル
偏計に真実無シ 皆虚妄ノ見二依ル ーノ大海水二於テ
而モ浪ノ大小ヲ見テ 温水ノ体ヲ知らズ ー向に波浪ヲ見ル
ーノ仏性の理二於テ 而モ煩悩ノ事ヲ見テ自ら生死ノ苦ヲ受テ
皆偏計ノ縄二縛セラル ーノー乗ノ法二於テ縁二依テ生死ヲ見テ
生死は涅槃に及ヒ ニ見各々不同ナリ ーノ大海水二於テ
風二依テ起浪ヲ見テ ーノ湿性体二於テ 水波ノニ見ヲ成ス
生死ノ苦ヲ厭捨シテ 菩提ノ道ヲ得ンコトヲ求テ ー乗に二相ヲ見ル
皆是れ依他ノ性ナリ 清濁動静ノ相 悉く是れ一水ノ相ナリ
水二本是ノ相無シ 水二依テ諸相有り 此ノ相は水上二起り
是の相は水上二滅ス波生スレトモ水増セズ 波滅スレトモ水滅セズ
起滅は悉く是レ水なり 動寂は湿ヲ出でズ 生死は菩提ノ道なり
悉く是れ一乗ノ性ナリ 萬法二生滅ヲ見ル 皆是れ普賢門ナリ
諸法は本ヨリ寂滅にして 即ち是れ圓成ノ性ナリ
・五者無相ノ理ヲ義ス
相ハ即ち随縁ノ相なり 相ハ自性ノ相二非ス 是ノ故に理ハ無相ナリ
事二随ヒテ諸相ヲ成ス 有相は即ち無相なり 無相ノ外に相無し
波浪ヲ有相卜名ケ 水性ヲ無相卜為ス 煩悩は即ち菩提なり
菩提二煩悩無シ 性外二煩悩無シ 性上二煩悩ヲ起ス
心外に生死無シ 心上に生死ヲ見ル 仏界ハ衆生に及ヒ
大海は諸山に及ぶ 皆差別ノ法無シ 唯是レ相無ノ相ナリ
・六者無生ノ蔵ヲ疏ス
生前二即ち生ヲ成シ滅家二是れ滅ヲ唱フ 生ハ即ち無生ノ生なり
滅ハ是レ無滅ノ滅ナリ 水ヲ即ち無生卜名ケ 波浪ヲ亦生ト為ス
水は本浪ノ生スル無シ 風二依テ波浪生ス 法性ハ即ち無生なり
生二自性ノ生無シ 無生ノ外二生無シ 生ハ唯是れ無生なり
包含ヲ名テ蔵卜為す 水は波浪ヲ包含ス 仏性ハ生死ヲ包ヌ
是ノ故に性ヲ蔵卜為ス
・七者文殊ノ智ヲ註ス
理智は恒に周遍す 無性及び有性 妙智は縁に随ひテ起テ苦楽ノ事ヲ分別ス
有性は分に随ひテ悟ル悉く是れ文殊ノ智ナリ
智念ハ即ち風勢なり 風ハ是れ文殊ノ智ナリ
今将二文殊ノ妙体ヲ釈スルニ即ち其ノニ有リ。イチニハ惣、二
二八別、一惣ノ文殊参問テ曰く。 文殊ノ妙智は諸法二遍ク
シテ差別無シ。云何ソ有性ノ智は一順ナラ不や。或ハ塵妙
有リ。或ハ賢愚乃至四聖四生六道有ルヤ。
答へて曰く。此れハ是れ妙慧ノ差別有る二非ス。但是れ器二随ひテ差別有リ。
替ハ虚空ノ長短方圓之別有ルコト無レトモ或ハ竹筒ノ中、或ハ屋舎ノ内、或ハ鼻ロノ中、或八五蔵ノ内、各各不同テンテ皆差別有ルカ如ク、
亦風ノ諸器二従フ時、或ハ甲聾ヲ出シ、或ハ乙響ヲ出スカ如し。地獄ハ苦ヲ知り鬼ハ飲食ヲ念シ、畜生ハ水草ヲ念ス。乃至十界は麤(そ、あらいこと)ヲ知リ、妙ヲ知ル。皆是れ文殊なり。悉く是れ風性なり。
四大ノ体性は本是れ文殊なり。始覚、本覚元是れ風性なり。一切ノ覚知は是レ自寛二非ス。苦楽ノ諸念には私念有ルコト無シ。親ヲ知り子ヲ知ル。即ち是れ文殊なり。夫ヲ念ヒ妻ヲ想フ。文殊二非ト云コト無シ。故に仏、説テ三世ノ覚母ト為テ十方ヲ渡脱シ下フ。文殊ノ恩徳ナリ。
已上惣シテ文殊ノ妙慧ヲ釈シおわんヌ。
ニに別レテ文殊ノ徳ヲ釈スとは、或ハ浄瑠璃浄土二於テハ大菩薩ノ其ノート為テ、
行者を摂シテ極楽世界二送り、或ハ極楽世界二有テ衆智根本之智ヲ開発シ、或ハ霊山会上二於テ法華ノ瑞相ヲ告ケ、或ハ寂滅道場二有テ微塵説法ノ深義ヲ演へ、或ハー乗一実ノ妙義ヲ伝テ無相円宗ノ祖師ト成り、或ハ獅子上二乗テ妙智無畏之相ヲ顕シ、或ハ世尊ノ右辺二坐シテ無上ノ大智ヲ補助シ、或ハー行三昧ノ発起ト為テ、弥陀ノ願意ヲ顕シ、或は五台山二住シテ諸教ノ奥義ヲ説ク。已上別シテ文殊ノ徳ヲ釈シおわんヌ。
八者普賢ノ行ヲ記ス
器界に生滅有リ。有情能ク業ヲ作ス 理事諸行ヲ成ス、皆是
普賢ノ行なり。今将に普賢ノ行ヲ説ク。即ち其ノニ有リ。一には惣、ニには
別。一惣ノ普賢とは、一切ノ諸法に体相用有リ。体ハ即ち文
殊なり。相ハ是れ普賢なり。用ハ皆観音ナリ。経二云く、普
賢ノ身中に皆三世一切ノ境界ヲ見ル。四大ノ相現は是レ普賢
なり。萬像ノ差別は普賢二非ト云コト無シ。四聖ノ修行は、
自ノ作業二非ス。本は是れ普賢ノ行なり。十界ノ形相は亦、
私形二非ス、普賢ノ相ナリ。二二別シテ普賢ノ行ヲ記ストハ
或八十大願ヲ立テ、衆生ノ行ヲ成シ、或ハ極楽界二有テ、人
天之行願ヲ勧メ、極楽往生ニハ臨終之正念ヲ祈り、或ハ白象
二坐シテ、法身無色之止行ヲ明シ、或ハ大聖之左漫二侍シテ
世尊之大行ヲ成ス。
九者観音ノ慈悲ヲ述ス
観音大悲ノ用は、周遊シテ六道二満ツ。父母及び妻児互二慈
悲心ヲ生ス。私ノ慈心有ルコト無シ。皆是れ観音ノ悲ナリ。
鬼畜其ノ子ヲ念フ。観世音二非ト云コト無シ。
今将二観音慈悲之相ヲ述ス。即ち其ノニ有り。
一には理なり。二には事なり。
一に理ノ観音とは九界之衆生、他ヲ慈シ、自ヲ悲ス。皆是れ観音大悲之相ナリ。有情随分之慈悲は菩薩内薫之縁二非ずト云コト無シ。眼に其ノ色ヲ見、耳に其ノ音ヲ聞き、鼻に其ノ香ヲ聞キ、舌に其ノ昧ヲ賞メ、身に其ノ境二触レ、意に其ノ法二縁ス。六根各々慈ヲ生じ、六識互二悲ヲ起ス。
妻子ヲ親しミ、父母ヲ敬ひ主君二事へ、師長ヲ重ス。
仁義礼智信悉く是れ観音ノ大悲ナリ。敢テ私ノ礼二非ず。
二に事ノ観音ノ用ヲ述ス。或ハ妙賞果満之世尊ト為リ、方城
ヲ示テ西方二住シ、国土ヲ浄テ宝座ヲ飾り、或ハ等賞不足之
地位二居テ、衆生二代テ重苦ヲ受ケ娑婆二出テ四摂替ハ虚空之巧匠二なずまず、湿水之方圓ヲ痛ま不ルカ如シ。衆生
ヲ擁護シテ少時モ離レズ。持者ヲ歓喜シテ刹那モ捨て不。平生護念之願ヲ憑レバ六根二病痛無シ。臨終授台之益二因テ三業二快楽有リ。衆聖之中二独り大悲ト号ス。名称は普ク十
方二聞フ。慈眼ヲ開テ愛敬ヲ示シ、本師ヲ戴テ妙果ヲ表ス。恭敬礼拝のともがらハ、永ク四苦ヲ離レ、一心称名の人ハ、必ス八難ヲ出ツ。造像圓形の庵ノ上ニハ、影光動テ室二入り、合掌胡跪の 窓ノ前ニハ、化仏未テ声ヲ挙ク。受持読誦の床ノ辺ニハ、大天臨テ聖財ヲ興へ、念住生の夢枕ニハ華台二授テ金蓮二坐シム。几ソ現世の安穏、後生の善
處、併て大悲の恩二非トイフコト無シ。
十者明らかに三聖に和合す
夫レ萬像二体相用ノ三ツ有リ。四大ノ体ハ是れ文殊、相ハ是れ普賢なり。用ハ是れ観音なり。或ハ理体ヲ指シテ名テ相用ト為ス。其ノ相用とは、理体ノ上事にして、萬像ノ相用ナリ。敢テ理体ヲ離テ相用有ルコト無シ。相用ヲ除テ外二更二理体無シ。
理事一法、無二無三。平等一性ナルヲ即ち毘盧卜名ク。相用ノ差別ヲ名テ普賢ト為ス。一即一切とは、体、相ヲ具スルカ故ニ、一切即一なり。事ヲ離テ理無シ。一乗三乗モ亦復是ノ如シ。一即三乗とは、一は三ヲ出スカ故二、三即、一乗とは、本トー乗ナルカ故二。
祖師ノ云く。諸教の中に一乗三乗ハたとえば白木ノ木ヲ捨テ白ヲ求ルカ如シ。但に相ヲ離テ木ヲ取テ白を見バ、白木一時二あにともに得不ンヤ。
問テ曰く、諸教之中二権実ノ学者或ハ経論ヲ読ムコト数百萬巻、或ハ論議ヲ学スルコト千問答二及フ。あに諸仏ノ本心ヲ覚知セ不ランヤ。云何シテカ八難の中二輪廻スル。
答テ曰く。教中二云ク須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収ムト、学者ノ云ク、是レ仏ノ神通方便ノ不思議ナリ。あに凡夫智カノ及フ所ナランヤト。是の如ク文ヲ学セハ設ヒ萬徳恒門ノ教文ヲ学フトモ、敢テ仏法ヲ悟ら不。唯是れ盲目ノ者ノ杖二信せて歩行シ、小児ノ他二負ハ披テ萬里ノ路ヲ見ルカ若シ。
問ひテ曰く。此ノ義然ラ不るや、諸仏ノ説教に十二部有リ。
論議経ハ是レ十二部ノ中ノ即ち其一なり。論議ヲ学慣スレハ、あに仏法二非スヤ。何そ況ヤ迦葉仏ノ教ノ七日中二滅スルコト、あに論議経ヲ説カ不ルニ依ルニ非スヤ。論議ハ是れ非ヲ以テ是ヲ顕カ為メナリ。若シ是ヲ顕スコト有レバ即ち妙慧ヲ発ス。
(十にはあきらかに三聖に和合す・・・)(問テ曰く、諸教之中二権実ノ学者或ハ経論ヲ読ムコト数百萬巻、或ハ論議ヲ学スルコト千問答二及フ。あに諸仏ノ本心ヲ覚知セ不ランヤ。云何シテカ八難の中二輪廻スル。
答テ曰く。教中二云ク須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収ムト、学者ノ云ク、是レ仏ノ神通方便ノ不思議ナリ。あに凡夫智カノ及フ所ナランヤト。是の如ク文ヲ学セハ設ヒ萬徳恒門ノ教文ヲ学フトモ、敢テ仏法ヲ悟ら不。唯是れ盲目ノ者ノ杖二信せて歩行シ、小児ノ他二負ハ披テ萬里ノ路ヲ見ルカ若シ。
問ひテ曰く。此ノ義然ラ不るや、諸仏ノ説教に十二部有リ。
論議経ハ是レ十二部ノ中ノ即ち其一なり。論議ヲ学慣スレハ、あに仏法二非スヤ。何そ況ヤ迦葉仏ノ教ノ七日中二滅スルコト、あに論議経ヲ説カ不ルニ依ルニ非スヤ。論議ハ是れ非ヲ以テ是ヲ顕カ為メナリ。若シ是ヲ顕スコト有レバ即ち妙慧ヲ発ス。)
若シ此ノ理二依ラハ論議ヲ学セ不。一向ニ憤ヲ学スルハあに科失二非スヤ。
答テ曰く。汝ノ所説ノ如ハ然ら不。十二部終ノ中ノ論議経とは心に慈悲ヲ帯テ即ち仏法ヲ興隆センカ為二他人二代テ互二問ヒ互二答テ、然シテ問答有テ必ス学ヲ励スコト有リ。是ノ故二云く。迦葉仏論議ヲ説か不ルカ故二其ノ教、即ち滅スト。然に今ノ学者ノ論議ハ其ノ論議ノ所詮ノ実義ヲ取ら不。但戯論ノ雑言ヲ取テ、是ヲ実義卜謂フ。或は名聞二著シ、戒ハ貪欲ヲ呑ミ、専ラ噴怒ヲ発シ、鎮二妄語ヲ吐ク。敢テ智者之類二非ス。皆是れ天魔ノ伴党ナリ。呑に問ひて曰く。今ノ所説ノ如くハ、一向二論議ヲ破す。若シ論議ヲ破スレハ将に十二部経ヲ破スルナリ。若し為二論議経ヲ破セハ、謗法ノ罪科頓二汝カ身二有ラン。此ノ義は云何ぞ。答ヘテ曰く。あに前に説か不ヤ。有智ノ人ノ論議ハ最モ敬重スル所ナリ。教中二須弥ヲ芥子二容レ、大海ヲ毛端二収卜云ふカ如ハ、讐喩ヲ以テ之ヲ示スナリ。譬えば大虚空ノ辺際有ルコト無キカ故二虚空は万法二遍フシテ小塵ノ内ヲ隔れ不、太虚は塵ノ内にあつまるは、空ニシテ少シテ差別無キカ如シ。若シ差別ノ法有ラハ遍満ノ理有ルコト無シ。現二遍満ノ理有ルカ故二、差別有ルコト無シ。芥子毛端ノ喩モ亦虚空ノ性ノ如シ。虚空芥子二遍ク虚空毛端二満ツ。須弥、空ヲ出ルコト無シ。大海二虚空有リ。芥子は即ち虚空なり。毛端は空ヲ出で不。若し此ノ道理有ラハ云何シテカ須弥海はあに芥子に人ランヤ。何ソ毛端二収メ不ンヤ。此ノ道理ヲ以テ仏法ヲ験知スルニ諸法二遍満シテ小塵ヲ隔て不。芥子は即ち仏性なり。毛端は是レー乗ナリ。仏性は諸法ヲ包み、一乗は萬像ヲ含ム。須弥ヲ芥子二人レ大海ヲ毛端二納ム、是ノ故二不思議なり。経二小微塵ノ内二大経巻有リト云フハ、此ノ心ナリ。若し此ノ道理ヲ得ハ壹二望ム所二非スヤ。前ノ説ク所ノ如ク、仏ノ神カナルカ故ナリ。凡夫心ノ及フ能は不る所トいはば将に所説ノ経法ハ徒に設ルナラン。行者若し此ノ執ヲ作ば、あに無間二堕セ不ランヤ。是の如ク計スル者を名テ重罪卜為。
重罪二種有リ。
一には不浄修善罪。
二には不浄論説法罪。
三には五逆罪
四には謗法罪
五には無信罪なり。
設ひ無信の者も発心すれば而も成仏す。論法ノ者ハ成仏ス可から不。自ら仏法無シト知テ他ヲシテ仏法無シト知ラ令ルカ故二、設ヒ論法ノ者ハ改悟の期有リト雖フトモ、五逆ノ者ハ成仏ス可から不。現二重罪ヲ畏れ不ルカ故二。設ヒ五逆ノ者、発心之期有リト雖フトモ不浄説法ノ者ハ出難か期有る可から不。
不浄説法二五科有リ。
一には有所得ノ心ヲ以テ虚妄ノ言ヲ説テ他ヲシテ信ヲ発テ悪道二堕セ令ルカ故二。
二には仏法ヲ説か不シテ徒二世事ヲ説カ故ニ。
三には酒肉五辛ヲ食シ非嫡正嫡ヲ犯シテ即ち身二法衣ヲ著テ堂に入るに及テ三宝ヲ穢スカ故ニ。
四には他ノ有徳ヲ誹り自ノ無徳ヲ讃ルカ故二。
五には一乗一実ノ法ヲ悟ら不シテ権門有相ノ教二耽著スルカ故に。
不浄修善ノ者に三ノ失有り
一には愚裔不浄ノ僧者ヲ請シテ、妄法悪法ヲ説か令ルカ故に、
二には財物ヲ蔵内二積ミ乍ら重宝ヲおしみ、、軽物ヲ施スカ故に、
三には子孫夫妻ヲ重ンシテ父母師長ヲ軽スルカ故二。
この重五逆ノ中に不浄修善ト不浄説法トノニ逆、最モ重シトス。
設ヒ磐石ヲ匪。芥子ヲ尽ストモ此ノニ逆ヲ以テ成仏スルコト
有ルトナラハ、是ノことわり有ルコト無シ。若し一乗仏性ヲ悟ル
コトヲ得ルコト有ラハ、必ず重罪ヲ滅シテー念に成仏セン。
唯説ク者ハ所説無キコトヲ説く応シ。聴ク者ハ所聞無キコト
ヲ聞く可シ。若し説二所説有ル者ハ悪法ヲ説くナリ。仏法ヲ
説クニ非ず。若し聴くニ所聞有ル者ハ非法ヲ聴ク。仏法ヲ聞
クニ非ず。言語は皆仏性ナルカ故二別ノ言語無シ。故二言語
道断ト説ク。心行は悉ク真如なり。別ノ心行無シ。故二心行
所滅ト云フ。愚者ハ言語ヲ以テ説く可から不と謂ヘリ。故二
言語道断卜云フ。心行ヲ以って称可から不。故于心行所滅な
りと説ク。又法身無形無相と云ふ。虚空ヲ以テ喩卜為。見る
可から不。聞く可から不。知る可から不。思ふ可から不云云。
設ヒ無形トハ、十界ノ依正、皆法身ナルカ故二。別二何ノ形
卜説く可から不るヲ言フ。故二法身無形ト説ク。青黄赤自恣ク法身ナルカ故二。別二何ノ色ト説く可から不るヲ言フ。
故二無色ト説ク。虚空ヲ以テ喩ト為トハ無形の色ヲ言フニ非ず。虚空諸法に於ひて、障擬無ク、長短方圓、物二随テ増せ不、滅せ不ルヲ言フ。故に色即是空空即是色卜説ク。若し一切ノ色法、空二非卜言はば、色即是空ト説く可から不、若し十方ノ虚空、色法二非スト言ハバ、空即是色ト説く可から不。
色法に生滅有ラハ、虚空に生滅有る可シ。虚空常住ナラハ色法常住ナル可シ。色法に形色有ラハ空に形色有る可シ。虚空に形色有ラバ法身二形色有ル可シ。然シテ彼ノ法身ハ諸法ニ遍シテ差別無シ。故二形色無シト云フ。萬法二亘テ分別無シ、故に虚空に喩て言フ。仏行鬼念は皆是れ実相なり。天思畜欲は一乗二非卜云コト無シ。内道外道悉く是れ仏性なり。正法邪法三昧二非卜云コト無シ。
草木樹林ヲ即ち真如卜名ケ、山河大地是ヲ仏眼卜名ク。萬像普賢、故二仏界有リ、衆生界有リ。
萬法毘廬故二仏界無ク、衆生界無シ。法有る卜説ヲ聴テ歓喜ス可から不。法無シト説ヲ聞テ驚畏ス可から不。六根益ヲ獲ヲ名テ説法トス。見聞覚知、皆是聴法。縁二依テ発悟ス。
此ノ悟ヲ縁卜名ク。縁ヲ離レば本心、是ノ心ヲ性卜名ク。還テ諸縁ヲ見レハ諸縁は本心ナリ。百千ノ名号は一乗ノ別称ナリ。極楽界ノ如ハ、水鳥樹林、皆妙法ヲ説ク。故二往生ヲ得。人は皆羅漢なり。然ルニ彼ノ土ノ衆生は実相般若波羅蜜ヲ開悟ス。故二大乗ノ羅漢を声聞ト云フ。見色聞香して併二仏法ヲ悟ル。故二妙法ノ深義ヲ演説スト云ふ。全ク彼ノ達者ご口業ヲ念シテ説言シテ他ヲシテ聴聞セ令ルカ如クナルニ非ス。若し真理ヲ得レハ草木は成仏し樹林は説法す。全ク彼の八相成道ノ如二非ず。全クロ業二非ルヲ名テ説法卜為。常に知るべし。草本は本形ヲ変セ不。本来仏性なり。故二成仏ト云フ。
非情の口業は説法ノ義無シ。他ヲシテ長短黒白ヲ覚悟セ令ム。故二説法ト云フ。凡ソ説法とは道理ヲ得シメ。黒白ヲ知ら令ム。故二説法ト云フ。善悪諸法ノ差別ヲ知ら令ム。六親ヲ知り妻子ヲ知り境二依テ発悟ス。是ヲ聴法ト名ク。然二慧ハ則ち是れ文殊勢至なり。行願ハ普賢及ヒ虚空蔵なり。大慈大悲ハ観音地蔵なり。妙慧ハ是レ風、行願ハ池水、慈悲ハ火性、是ヲ万法ト名ク。
心法一性ナルヲ名テ妙慧ト為。亦心法ノ性ヲ名テ行願卜日フ。大慈大悲モ亦是れ心法ナリ。九界十界、壹二心外ノ法ナラン。(続)
・・・迷者ノ云ク。未夕金色ノ形ヲ得ず。未タ諸仏ノ法ヲ説かズ。来夕三世ノ事ヲ知らズ。云何シテ成仏卜名ケン。云何シテ説法ト為。若し成仏説法ノ義有リトナラハ是レ理ノ成仏、理ノ説法なり。是レ事ノ成仏二非ス。是レ事ノ説法二非スト云云。此レこう劫ノ無明、無始ノ煩悩ヲ執シテ起ス所ノ執也。理ヲ云二隠レ不。事ヲ云二顕レ不。水ハ是れ理なり。波ハ是れ事なり。水は隠レ不。波は顕レ不。唯是れ水ノ動相ヲ波浪ト名ク。波浪は即ち温水ナリ。地水、本来仏性ナルヲ本来成仏卜云フ。火風元是レ真如ナルヲ萬法説法ト
名ク。吾レ草本仏性ナルヲ悟ル。是レ草木ヲシテ益ヲ得セ令ルナリ。草木吾ヲシテ青黄黒白ヲ悟ラ令ル。是レ草木、吾ヲシテ益ヲ得せ令ルナリ。是ヲ草本成仏卜名ケ、是ヲ草木説法卜云フ。
十者六相四相三義三諦ヲ図ス、頌二曰く
唯、唯識ノ説二依テ即ち六相ノ義ヲ明サハ、屋舎ハ即ち理相なり。棟梁ヲ事相ト名ク 屋舎ハ即ち惣相なり。 棟梁ヲ別相卜名ク。造立ハ即ち生相なり。破壊ヲ滅相ト名ク。
ー乗ハ即ち理相なり三乗ヲ事相ト名ク。ー乗ハ即ち総相なり三乗は即ち別相なり。
随縁ハ即ち生相なり。帰一ヲ滅相ト名ク。普賢ハ即ち生相なり。法位二往スルハ住相なり久住スルハ即ち位相なり。終壊ヲ滅相卜名ク。
随縁ハ即ち生相なり萬法ヲ住相卜名ク。諸法ハ即ち位相なり。毘盧ヲ滅相卜名ク。真如ハ即ち体義なり萬法ヲ相義ト名ク。
互用ハ即ち用ノ義なり、是ヲ三種ノ義卜名ク。湿水ハ即ち体ノ義なり
波浪ヲ相ノ義ト名ク。清濁ハ即ち用ノ義なり。是ヲ体相の用ト名ク
若し中論ノ説二依テ即ち三諦ノ法ヲ明サハ木ハ即ち中道ノ義なり
箱桶ヲ仮諦卜名ク、形相ハ縁二随テ変スル、是ヲ空諦ノ法ト名ク
ー乗ハ即ち如来蔵なり真如実相ハ即ち本心なり。六相四相、三義
三諦。始完本覚、皆自心ノ性ナリ。(以上法身終わりぬ)
o報身品第十四
分此ノ門之中二即ち其ノニ有り。
一は無作自得ノ報身なり。
二には感果報身なり。
一に無作自得ノ報身とは周円無際にして方城ヲ離レ色相音声は無量無辺にして、方城を離れ、色相音声は無量無辺にして、妙智ノ体用は法界二遍し、三輪ノ作業は内二非ス、外二非ス。或時ハ意業二相好ヲ具足し、或時ハロ業に観想思維シ、或時ハ身業に色声説法ス。若し成道ヲ論セハ甚大久遠にして不思議劫ナリ。若し寿命ヲ論セハ無量無辺にして不可尽劫ナリ。
前無ク後無ク十方世昇二皆浄土ヲ立テ、説法有ルコト無シテ衆生ヲ利度スルハ唯報身等覚ノ菩薩有リ。常に其ノ声ヲ聞テ入る無ク出る無ク来る無ク去る無ク。大に非ス小に非ス空に非ず色に非ず理に非ず事に非ず性に非ず相に非ず正に非ず邪に非ず、常に非ず無常に非ず有情に非ず非情に非ず。即ち諸相ヲ離レタル。是ヲ諸仏ト名ク。
二に感果報身なり。有始ノ修行ハ即ち応化二同シ。若し自證二約シメば即ち報の名を立つ。若し修行二約シメハ亦応号ヲ立ツ。或は一縁のために方を指し相を立つ。実ニハ方處無シ。前ノ無作興等フシテ差別無シ。寿命無量。久遠不滅。仏身相好。世間に比無シ。光明は遍ク十方世界ヲ照テ、身土倶時、頓二成就ヲ得、諸ノ菩薩二純ニシ
テ、更二余衆無シ。或ハ大乗ノ阿羅漢衆有リ。或ハ仮名ノ人天聖衆有テ、書夜但二心地ノ法門ヲ説ク。聴聞ノ衆会一乗ヲ開悟ス。是の如キ等ノ無量ノ功徳有リ。即ち是ヲ名テ実報如来ト為。此れは是、実根如来二於テー往無作ト感果トヲ分別ス。然トモー智慧ニシテ少キ差別無シ。但見ノ不同ナリ。実ハ唯一仏のみ。(次は往身論第十五)
o応身品第十五
二身に応ヲ垂ルルヲ釈迦牟尼卜名ク。萬機二応同ス。故二応身ト称ス。変化シテ真二非ス。亦化ノ号ヲ立ツ。此ハ始終応同ノ化身二約ス。暫時転変ノ化身ヲ指スニ非ス。然シテ法報身ハ化益未夕尽きず。故二釈迦慈下ノ化身ヲ現シテ人天ヲ化度シテ常二涅槃二人ルペシ。此ハ忍土ノ釈迦牟尼二約ス。衆生ヲ度スガ為二人天二似同シテ八相成仏ス。是ヲ化身卜名ク。砕身全身ノ舎利ヲ流布シテ天上人間二見聞し、益ヲ獲て将二泥たん之道二悟入スルコトヲ得ントす。
巳上ノ三身、或八十身ヲ釈スル有リ。此ハ是れ常二諸仏惣ノ功徳二通スペシ。復次二別功徳とは、預シメ顕をまわし時二随ヒ事二順テ、或は四弘ヲ釈シ、或ハ別願ヲ述フ。了義ノ人有テ能ク思釈ス可シ。
ひそかにおもんミレハ仏眼ハ萬法ヲ備テ親無ク疎無シ。善神は法界ニ満テ怒有リ。悆(よ)有リ。鼹鼢(えんふん、もぐらのこと)日光ヲ妬、壚墟(ろきょ)ヲわかち、蠶蠶蠶繭(さんけん・・かいこのまゆ)、 シツエン を結テ、ワズカノ命二死ス。説法に能有レハ仏眼開ケテ善神歓喜ス。説法に非有レハ仏眼盲テ諸神怒ヲ作ス。あに慧日ノ光ヲ妬テ三途之壚墟(ろきょ)ヲ坫(てん・・わか)チ、愚鈍ノ暗に昵近シテ六道之胎獄二籠ランヤ。
説法センニハ須ク三事四徳ヲ兼ネ三聖四摂ヲ具シ、内外二典に亘り禅教両門ヲ慣クペシ。若し此の中の一事モ少テ説法スナラハ、是ノ處有ルコト無シ。
几ソ師檀共二須ク謂フベシ
ー日ノ師檀は百劫ノ結縁ナリ。一度赴請の師憎ハ其ノ檀那ヲ以テ子弟ヲ親ムカ如クセヨ。一度聴法の道俗ハ其ノ師ヲ以テ父母ヲ敬カ如クセョ。
一人ヲ教化スルノ功徳は六度ヲ行スルコト百劫スルニ勝レリ。一宇ヲ聴聞スルノ大恩は千仏ヲ供養スルコト百劫スルニ過タリ。一人楢然り況ヤ十人、百人ヲヤ。一宇猶重シ。況ヤ十字百宇ヲヤ。
富二知ルペシ。先世の授戒ノ師ハ今世ノ父母なり。先世の授戒ノ祖師ハ今世ノ祖父祖母
ナリ。過去ノ同学ハ現在ノ兄弟ナリ。過去ノ同聴ハ現在ノ姉妹なり。其ノー師二於テ別所二戒ヲ受ルハ今世ノ兄ノ子、弟ノ子、姉ノ子、妹ノ子ナリ。先世ノ師ト同学トハ又今ノ世ノ内外ノ叔父叔母ナリ。或ハ知識卜為リ。或ハ師弟ト為る。或ハ同行ト為る。或ハ伴侶ト為る。或ハ同姓ト為る。或ハ同学ト為る。或ハ同僚ト為る。或はー国二坐し。或ハー郡二住シ。戒ハー懸二處シ。或ハー村二處シ。一樹ノ下二宿シ。一河ノ流ヲ汲ミ、一衣ノ同宿、一日ノ夫妻、一所ノ聴聞、暫時ノ同道、半時ノ戯笑、一言ノ会釈、一坐ノ飲酒、同杯同酒、一時ノ同車、同畳ノ同坐、同詠ノー臥、軽重に異有リ。親疎に別有ルモ皆是れ先世ノ結縁ナリ。是ヲ以テ験知スルニ牛馬六畜モ今生二結縁セバ当来二親ムべシ。
何ソ況ヤ予昔シ霊山の説法之庭二列テ、大師二相承スルは、二伝の法ナリ。あに是れ
一宇一言之失錯に有ンヤ。請フ諸ノ有心の倫ハ、吾カ寺ヲ本時卜為テ寺ノ後二大天ヲ崇て、理ニハー乗の妙典ヲ講説シ、事ニハ西方ノ教文ヲ談述セヨ。爾ラハ吾レ来テ障擬ヲ除キ、吾は必ス守護ヲ加ヘシ。復次二此書ヲ書写シ、五色ノ袋二盛、自ら読ミ、他二読々令メヨ。若し之ヲ持セハ、先ツ仏道二廻向シ、次二神明二法楽セョ。僧尼ハ是ヲ亀鏡卜テ、自ら其ノ罪ヲ畏ヨ。在家ハ是ヲ自ノ守卜為、僧尼ノ賢愚ヲ辨セヨ。此ハ是、予カ最初ノ述作にして皆経論ノ明文ヲ集テ、仏、菩薩ノ本意ヲ記スルノミ。
(終わり)