地蔵菩薩三国霊験記 5/14巻の11/17
十一、 生身の盲目開く事
大和國に故摩の渡と云處に生れながらの盲目の女ありし。宿因の拙き事を悲しみ別して佛法を念じけるが或僧これをあはれみて、汝の如くの罪障有る者は地蔵菩薩の救ひ給ふぞ、若し重業のがれがたき者のためには其の罪にかはり玉ふなり、と教ければ真にありがたきことに思ひて、それよりは一向地蔵尊を信じ奉り毎日千遍つ゛つ寶号を唱へけり。されば地蔵の本尊にもいとめなく思ひあけくれ願奉り同じくは木像をと申しける程に或處にて童部(わらべ)共十人ばかり並び居て萬の事を申しける中に或童子の申しけるは若い御前の歌を面白く歌ひて聞かせ給へかし願の如くなん木像の地蔵をとらせ申さんと云ければ盲女うれしく思ひ、あらうれし歌は何程なりとも聞かせたてまつらん、あたへ給へ、と申す。さらばうたへとてさしも永春の日の暮れ方まで歌はせけれども本より地蔵はなかりけり。角して童子の内の小利者の古き器の切破れたるを取り聚めて紙に包み日比(ひごろ)年久しく持ち奉りたれどもあまり志の去り難くあればまいらするなり。人に見せ玉はば奪われ玉はんと能々申し含めけり。忝しと取て探りければ御頭と覚へて圓くありければ真に尊く思ひ喜び安置して人の物をあたへれば先ず初めに此の佛に供へして今生は是非なく侍る、未来のほど眼明かになさせ給ひ佛道に引入なさしめ給へとて念誦こまやかにして其の後肌を養ひけり。如是に秘蔵して年月を送りける處に人怪しく思ひて若御前の秘蔵しらるるは何なる物じと問ければ盲女答て云く、地蔵の尊像に御座と云ふ。さればこそ此の佛は衆生に縁深くましまして諸佛の利益よりも厚く重悪人をも助け給はんとの御誓なり。結縁のために人にも拝ましたまへと云ければ、安き事にこそと見せければ佛にはましまさずして古き器の頭の如くなるにありける。笑止と云もはかりなし餘の事に一同にどっと笑ひければ盲目なればとてあなどりとや、なんと云へば、否さにはあらず是の秘し玉ふは佛像にはあらず如是の物なりと云へば盲女驚てそれ此方へと見んと思ふ心の神に通じけん、忽然と両眼明らかになりけり。見聞の諸人驚敬の心を生じて共に信に入りけり。真実に念ぜばなどか感應なからんや。
引証。本願經の中に、十種の利益を得、中の五は求める者の意に遂(かなふ)等(地藏菩薩本願經地神護法品第十一「我觀未來及現在衆生。於所住處於南方清潔之地。以土石竹木作其龕室。是中能塑畫乃至金銀銅鐵。作地藏形像燒香供養瞻禮讃歎。是人居處即得十種利益。何等爲十。一者土地豐壤。二者家宅永安。三者先亡生天。四者現存益壽。五者所求遂意。六者無水火災。七者虚耗辟除。八者杜絶惡夢。九者出入神護。十者多遇聖因」)。
本願經に云、若し未来世に善男子善女人有りて、現在未来に百千万億等の願百千万億等の事を求めんと欲せば但當に地藏菩薩形像に歸依瞻禮供養讃歎すべし。如是の所願所求悉く皆な成就せん( 地藏菩薩本願經見聞利益品第十二「復次觀世音。若未來世有善男子善女人。欲求現在未來百千萬億等願。百千萬億等事。但當歸依瞻禮供養讃歎地藏菩薩形像。如是所願所求悉皆成就」)。