秘密安心往生要集・・29/42
(廿八、人間天上に生ずる死相の事。)
問、守護経に三悪道に堕する死相を説き玉ふ。人間天上に生ずる相もありや。
答、有。経に曰く「人間に生ずる者は十相あり。一には善心を作す。所謂柔軟の心福徳の心なり。二には妙なる心歓喜の心愁なき心を起こし身の痛み苦しむこと無きなり。三には、少し物語するに父母の子を思ふに似たり。四には妻子に哀れみを作して常の如くにして愛する事もなし。又耳に兄弟親しき人の名を聞かんことを思ふ。五には善悪に於て心乱れず。六には心直くして曲がることなし。七には父母親類眷属の吾を守るを能く知る。八には吾事を営むを見て悦び誉る心を起こす。九には家幷に倉の財を分かち與へて是を恪まず。十には浄き信を起こして仏法僧を請じて尊み敬ふなり。天上に生ずるに十相あり。一には憐愍の心を起こす。二には善心を起こす。三には歓喜の心を起こす。四には正念先に顕る。五には種々の臭穢しきことなし。六には鼻ゆがみそばだつ事無し。七には心に腹立つことなし。八には家の財物妻子眷属を心にかけて愛せず。思恋せず。九には眼の清浄なり。十には顔仰げ笑を含んで天の来て吾を迎る事を見るなり。但し修羅道の相は経文に見ず。鬼畜の相に摂するなるべし。正法念経には「善を作しても而も合戦をなして死する者は修羅道の相なり」と。世人戦場にて討ち死にする者は修羅道に堕すと云ふは此の文に依るなり。然れども阿修羅は大福徳有りて頗る天に等し。広大の善根を作しても驕慢の心ある人、阿修羅道となるが故に。古来の戦場にて死せる人は大善根なく貪瞋盛んなれば総て地獄に堕せる人と知るべし。今時の人の臨終の相を見るに天上人間の十相の中には一相をも見ず。三悪道二十八相の中には現ぜざるは稀なり。世人死しては皆浄土に生まれ成仏するやうに思ふは大邪見なり。能々死相を検へ見て追善を作すべし。悲しいかな悲しいかな皆悪趣に流転することを。其の子其の弟子と生まれながら追福回向を粗略にする者は実に逆罪の人に同じ。心地観経に曰く「世人子のために諸罪を造り三途に堕在して長へに苦を受く。男女聖にあらざれば神通なし。輪廻を見ざれば報ずべきこと難し。哀れなるかな世人聖力無くして慈母を抜済すること能ず。此の因縁を以て汝當に知るべし。福利諸功徳を勤修せよ。其の男女追勝の福を以て大金光有りて地獄を照らして光の中に深妙の音を演説して父母を開悟して意を発せしむ。昔の所生に常に罪を造れるを憶して、一念悔心あれば悉く除滅す。口に南無三世佛と称すれば無暇苦難の身を脱することを得て人天に往生して長へに楽を受け見仏聞法し當に成仏す。或は十方淨土中に生じて 七寶蓮華を父母と為す。 華開ひて佛を見たてまつり無生を悟り 不退の菩薩を同學と為す。 六神通自在力を獲て 菩提微妙宮入ることを得るは 皆是菩薩、男女と為りて 大願力に乗じて人間を化するなり。
是を眞に父母の恩に報ずと名く。 汝等衆生共に修學すべし。(大乘本生心地觀經卷第三・報恩品第二之下「世人爲子造諸罪 墮在三塗長受苦男女非聖無神通 不見輪迴難可報哀哉世人無聖力 不能拔濟於慈母以是因縁汝當知 勤修福利諸功徳 以其男女追勝福 有大金光照地獄光中演説深妙音 開悟父母令發意憶昔所生常造罪 一念悔心悉除滅 口稱南無三世佛 得脱無暇苦難身 往生人天長受樂 見佛聞法當成佛 或生十方淨土中 七寶蓮華爲父母 華開見佛悟無生 不退菩薩爲同學 獲六神通自在力 得入菩提微妙宮 皆是菩薩爲男女 乘大願力化人間 是名眞報父母恩 汝等衆生共修學)」と。子隣法師、智泉法師、法蔵等の悲母の地獄の苦を済度し祈親和尚の二親をして兜率の内院に上生せしめ玉ふ芳躅、寔にありがたく羨ましき事なり。(子隣法師は母が法師を生むときに卵を食した罪で地獄に堕ちていたのを法華経を読誦し阿育王塔を礼拝することによって救った(佛門異記。)(元享釋書に智泉法師は亡母の堕獄の状を感じ、大師より地藏菩薩の秘法を授け給られ之を精修すること久しからすして、一夕母が既に天上に生ずることを得たりと告げた。)(密教大辞典に祈親上人として「母歿するや常に法華経を讀誦して二親に追薦す。故に祈親または持経の名を得たり。年六十、両親再生の地を知らんと欲し大和長谷寺観音の宝前に参籠して好相を得、その霊告を蒙りて高野山に登る」。)況や末世の出家は頭を剃りて欲を剃らず、衣を染めれども心を染めず、破戒無慚なるを以て千人が九百九十九人までは皆地獄の罪人なり。設ひ我は持律堅固なりと誇る人も佛在世の六群比丘(釈迦の弟子の中で、悪事や非法行為を働き、釈迦や弟子などを困らせたとされる六人。難陀、優波難陀は多欲、優陀夷、閲陀は多擬、馬宿、満宿は多瞋という。)に劣ること百倍なるべければ、すべて地獄の滓となるべし。追福回向は勤めても勤めても過ぐることあるべからず。悲しいかな悲しいかな自ら省み悲泣して策勵すべし。
(廿八、人間天上に生ずる死相の事。)
問、守護経に三悪道に堕する死相を説き玉ふ。人間天上に生ずる相もありや。
答、有。経に曰く「人間に生ずる者は十相あり。一には善心を作す。所謂柔軟の心福徳の心なり。二には妙なる心歓喜の心愁なき心を起こし身の痛み苦しむこと無きなり。三には、少し物語するに父母の子を思ふに似たり。四には妻子に哀れみを作して常の如くにして愛する事もなし。又耳に兄弟親しき人の名を聞かんことを思ふ。五には善悪に於て心乱れず。六には心直くして曲がることなし。七には父母親類眷属の吾を守るを能く知る。八には吾事を営むを見て悦び誉る心を起こす。九には家幷に倉の財を分かち與へて是を恪まず。十には浄き信を起こして仏法僧を請じて尊み敬ふなり。天上に生ずるに十相あり。一には憐愍の心を起こす。二には善心を起こす。三には歓喜の心を起こす。四には正念先に顕る。五には種々の臭穢しきことなし。六には鼻ゆがみそばだつ事無し。七には心に腹立つことなし。八には家の財物妻子眷属を心にかけて愛せず。思恋せず。九には眼の清浄なり。十には顔仰げ笑を含んで天の来て吾を迎る事を見るなり。但し修羅道の相は経文に見ず。鬼畜の相に摂するなるべし。正法念経には「善を作しても而も合戦をなして死する者は修羅道の相なり」と。世人戦場にて討ち死にする者は修羅道に堕すと云ふは此の文に依るなり。然れども阿修羅は大福徳有りて頗る天に等し。広大の善根を作しても驕慢の心ある人、阿修羅道となるが故に。古来の戦場にて死せる人は大善根なく貪瞋盛んなれば総て地獄に堕せる人と知るべし。今時の人の臨終の相を見るに天上人間の十相の中には一相をも見ず。三悪道二十八相の中には現ぜざるは稀なり。世人死しては皆浄土に生まれ成仏するやうに思ふは大邪見なり。能々死相を検へ見て追善を作すべし。悲しいかな悲しいかな皆悪趣に流転することを。其の子其の弟子と生まれながら追福回向を粗略にする者は実に逆罪の人に同じ。心地観経に曰く「世人子のために諸罪を造り三途に堕在して長へに苦を受く。男女聖にあらざれば神通なし。輪廻を見ざれば報ずべきこと難し。哀れなるかな世人聖力無くして慈母を抜済すること能ず。此の因縁を以て汝當に知るべし。福利諸功徳を勤修せよ。其の男女追勝の福を以て大金光有りて地獄を照らして光の中に深妙の音を演説して父母を開悟して意を発せしむ。昔の所生に常に罪を造れるを憶して、一念悔心あれば悉く除滅す。口に南無三世佛と称すれば無暇苦難の身を脱することを得て人天に往生して長へに楽を受け見仏聞法し當に成仏す。或は十方淨土中に生じて 七寶蓮華を父母と為す。 華開ひて佛を見たてまつり無生を悟り 不退の菩薩を同學と為す。 六神通自在力を獲て 菩提微妙宮入ることを得るは 皆是菩薩、男女と為りて 大願力に乗じて人間を化するなり。
是を眞に父母の恩に報ずと名く。 汝等衆生共に修學すべし。(大乘本生心地觀經卷第三・報恩品第二之下「世人爲子造諸罪 墮在三塗長受苦男女非聖無神通 不見輪迴難可報哀哉世人無聖力 不能拔濟於慈母以是因縁汝當知 勤修福利諸功徳 以其男女追勝福 有大金光照地獄光中演説深妙音 開悟父母令發意憶昔所生常造罪 一念悔心悉除滅 口稱南無三世佛 得脱無暇苦難身 往生人天長受樂 見佛聞法當成佛 或生十方淨土中 七寶蓮華爲父母 華開見佛悟無生 不退菩薩爲同學 獲六神通自在力 得入菩提微妙宮 皆是菩薩爲男女 乘大願力化人間 是名眞報父母恩 汝等衆生共修學)」と。子隣法師、智泉法師、法蔵等の悲母の地獄の苦を済度し祈親和尚の二親をして兜率の内院に上生せしめ玉ふ芳躅、寔にありがたく羨ましき事なり。(子隣法師は母が法師を生むときに卵を食した罪で地獄に堕ちていたのを法華経を読誦し阿育王塔を礼拝することによって救った(佛門異記。)(元享釋書に智泉法師は亡母の堕獄の状を感じ、大師より地藏菩薩の秘法を授け給られ之を精修すること久しからすして、一夕母が既に天上に生ずることを得たりと告げた。)(密教大辞典に祈親上人として「母歿するや常に法華経を讀誦して二親に追薦す。故に祈親または持経の名を得たり。年六十、両親再生の地を知らんと欲し大和長谷寺観音の宝前に参籠して好相を得、その霊告を蒙りて高野山に登る」。)況や末世の出家は頭を剃りて欲を剃らず、衣を染めれども心を染めず、破戒無慚なるを以て千人が九百九十九人までは皆地獄の罪人なり。設ひ我は持律堅固なりと誇る人も佛在世の六群比丘(釈迦の弟子の中で、悪事や非法行為を働き、釈迦や弟子などを困らせたとされる六人。難陀、優波難陀は多欲、優陀夷、閲陀は多擬、馬宿、満宿は多瞋という。)に劣ること百倍なるべければ、すべて地獄の滓となるべし。追福回向は勤めても勤めても過ぐることあるべからず。悲しいかな悲しいかな自ら省み悲泣して策勵すべし。