秘密安心往生要集・・39/42
(丗八、地蔵・不動尊種々利益の事。)
問、地蔵・不動の利益如何
答、地蔵・不動の利益甚だ多しといへども今且く一二を述べん。昔慧心僧都の姉に安養の尼と云ふあり。常に僧都に契約して尼が臨終には必ず来りて勧め策まし玉へと憑み玉ひけり。或時急病にて絶入し玉ひければ俄かに叡山に耑人を走らして告ぐ。僧都急ぎ来り玉へど早事切れたり。本意なく思し召して僧都は地蔵の寶号を唱へ修学院僧正勝算(有験の天台僧。一条天皇,中宮藤原彰子,藤原頼通らの病気を加持で治療。源信の妹安養尼の危篤を救ったという話も伝わる。臨終まぎわに智観の諡号。)は不動の火界呪(「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン」)を誦じて少時加持し玉へばやがて息吹き出して語り玉はく、不動尊火炎の前に尼を推し立て玉ひ地蔵尊は手を拏て来り玉ふと思へば夢の如くに蘇生れりと。又僧都給仕の弟子あり、頓死せり。此の時にも人をして不動の慈救呪(「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」)を念誦せしめ、僧都は地蔵の寶号を唱て祈念し玉ふに即ち蘇生して申しけるは、可畏げなる男共四五人来りて我を引立て何地ともなく往きしを若き僧の来り玉ひ我に免しくれよとの玉へども、猶にくげに追立行くを我にこそ悋むとも是非もいはず取り返さん者あらんずるをとの玉ふ程にびんずらゆひたる童子の二人、白杖持たるが来り鬼どもを追払ひ取返して若き僧に渡しつれば具して来り玉ふ、と思ひて蘇生せり、と云り。是の僧は地蔵菩薩なり。二童子は不動の矜羯羅・制吒迦の二童子なり。故に古より臨終の時は必ず二尊の加被を念ずるなり。不動は大日如来の忿怒の至極、降魔の三昧あり。地蔵は大日如来の慈悲の至極、摂取引接の三昧なれば、車の両輪、鳥の二翼の如にして相離れず。必ず頼み奉るべきなり。
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