(大智度論釋初品中戒相義第二十二之一)
(不飮酒)
不飮酒とは、酒に三種あり。一は穀酒。二は果酒。三は藥草酒。果酒とは蒱桃ぶどう・阿梨咤樹果ありだじゅか。如是等の種種を名けて果酒となす。藥草酒とは種種の藥草を米麹甘蔗汁中に合和すれば能く變じて酒となる。蹄畜乳酒に同じ。一切の乳は熱すれば中は酒となるべし。略説すれば若しは乾、若しは濕、若しは清、若しは濁、如是等は能く人をして心動き
放逸ならしむ。是を名けて酒となす。一切應に飮むべからず。是を名けて不飮酒とす。
問曰「酒は能く冷を破り身を益し心を歡喜せしむ。何を以って不飮なるや」。答曰「益身は甚少にして所損は甚だ多し。是故に應に飮むべからず。譬は美飮の其中に毒のまじふるがごとし。是れ何等の毒なるか。佛の難提迦優婆塞(なんだいかうばそく)に語りたまふごごとくんば、酒に三十五失あり。何等を三十五となすや。一は現世財物虚竭す。何以故。人酒を飮み醉へば心無節限にして用費度無きをもっての故に。二は衆病の門なり。三は鬪諍の本なり。四は裸露にして無恥なり。五は醜名惡聲にして人の敬ざるところなり。六は智慧覆沒す。七は應に所得の物を得ず、已に所得の物は散失す。八は伏匿の事を盡く人にむかひて説く。九は種種の事業廢して不成辦なり。十は醉は愁の本となる。何以故。醉中に多失す。醒已って慚愧憂愁す。十一は身力轉た少なし。十二は身色壞る。十三は父を敬ふことを知らず。十四は母を敬ふことを知らず。十五は沙門を敬せず。十六は婆羅門を敬せず。十七は伯叔及尊長を敬せず。何以故。醉悶怳愡として別つところ無きが故なり。十八は仏を尊敬せず。十九は法を敬せず。二十は僧を敬せず。二十一は惡人と朋黨す。二十二は賢善を疏遠す。二十三は破戒人となる。二十四は無慚無愧。二十五は六情(眼耳鼻舌身意)を守らず。二十六は色を縱ひままにして放逸なり。二十七は人の憎惡するところにして之を喜を見ばず。二十八は
貴重親屬及諸知識の共に擯棄するところなり。二十九は不善法を行ず。三十は捨善法を棄つ。三十一は明人智士の不信用のところなり。何以故。酒は放逸なるをもっての故に。三十二は涅槃を遠離す。三十三は狂癡因縁を植ゆ。三十四は身壞命終して惡道泥梨中に堕す。三十五は若し人となるを得ても所生之處は常に當に狂騃(おうがい狂人・癡人)なり。如是等の種種の過失あり。是の故に不飮なり。偈に説くがごとし。
酒は覺知相を失ふ 身色濁りて惡しく
智心動じて亂る 慚愧已に劫され
念を失して瞋心を増し 歡を失して宗族(同族)を毀つ
如是を飮と名くといえども實に飮は死毒となす。
應に瞋るべからずして瞋り 應に笑ふべからずして笑ひ、
應に哭すべからずして哭し、 應に打つべからずして打ち、
應に語るべからずして語り 狂人と異るなし。
諸善功徳を奪ふ。 愧を知る者は不飮なり。
(不飮酒)
不飮酒とは、酒に三種あり。一は穀酒。二は果酒。三は藥草酒。果酒とは蒱桃ぶどう・阿梨咤樹果ありだじゅか。如是等の種種を名けて果酒となす。藥草酒とは種種の藥草を米麹甘蔗汁中に合和すれば能く變じて酒となる。蹄畜乳酒に同じ。一切の乳は熱すれば中は酒となるべし。略説すれば若しは乾、若しは濕、若しは清、若しは濁、如是等は能く人をして心動き
放逸ならしむ。是を名けて酒となす。一切應に飮むべからず。是を名けて不飮酒とす。
問曰「酒は能く冷を破り身を益し心を歡喜せしむ。何を以って不飮なるや」。答曰「益身は甚少にして所損は甚だ多し。是故に應に飮むべからず。譬は美飮の其中に毒のまじふるがごとし。是れ何等の毒なるか。佛の難提迦優婆塞(なんだいかうばそく)に語りたまふごごとくんば、酒に三十五失あり。何等を三十五となすや。一は現世財物虚竭す。何以故。人酒を飮み醉へば心無節限にして用費度無きをもっての故に。二は衆病の門なり。三は鬪諍の本なり。四は裸露にして無恥なり。五は醜名惡聲にして人の敬ざるところなり。六は智慧覆沒す。七は應に所得の物を得ず、已に所得の物は散失す。八は伏匿の事を盡く人にむかひて説く。九は種種の事業廢して不成辦なり。十は醉は愁の本となる。何以故。醉中に多失す。醒已って慚愧憂愁す。十一は身力轉た少なし。十二は身色壞る。十三は父を敬ふことを知らず。十四は母を敬ふことを知らず。十五は沙門を敬せず。十六は婆羅門を敬せず。十七は伯叔及尊長を敬せず。何以故。醉悶怳愡として別つところ無きが故なり。十八は仏を尊敬せず。十九は法を敬せず。二十は僧を敬せず。二十一は惡人と朋黨す。二十二は賢善を疏遠す。二十三は破戒人となる。二十四は無慚無愧。二十五は六情(眼耳鼻舌身意)を守らず。二十六は色を縱ひままにして放逸なり。二十七は人の憎惡するところにして之を喜を見ばず。二十八は
貴重親屬及諸知識の共に擯棄するところなり。二十九は不善法を行ず。三十は捨善法を棄つ。三十一は明人智士の不信用のところなり。何以故。酒は放逸なるをもっての故に。三十二は涅槃を遠離す。三十三は狂癡因縁を植ゆ。三十四は身壞命終して惡道泥梨中に堕す。三十五は若し人となるを得ても所生之處は常に當に狂騃(おうがい狂人・癡人)なり。如是等の種種の過失あり。是の故に不飮なり。偈に説くがごとし。
酒は覺知相を失ふ 身色濁りて惡しく
智心動じて亂る 慚愧已に劫され
念を失して瞋心を増し 歡を失して宗族(同族)を毀つ
如是を飮と名くといえども實に飮は死毒となす。
應に瞋るべからずして瞋り 應に笑ふべからずして笑ひ、
應に哭すべからずして哭し、 應に打つべからずして打ち、
應に語るべからずして語り 狂人と異るなし。
諸善功徳を奪ふ。 愧を知る者は不飮なり。