観音經功徳鈔 天台沙門 慧心(源信)・・6/27
六、盲人眼を開く事
昔大唐に一人は盲人一人は足なへあり。この両人一處に談合する様は、我等の如我等此の如くなれば談義説法へ詣でる事も叶はず、所詮二人して一人作りたて談義に参んとて、足なへを盲目の肩に乗せてゆくなり。足なへは目が明かなるゆへに肩の上より道を教へ、さて盲目は足が達者なる故に道を教られて行くほどに談義説法の處へ参り着て二人ならび居て談義を聴聞するなり。俄かに黒雲引き覆ひて大神鳴が盲目と足なへと居たる中へ空より雷が落ちたり。二人共に肝會を消し逃げんとする其時盲目も俄かに目が開き逃る也。足なへも俄かに足が立って走る也。不思議に思て立ち返って見るに雷には非ず、観音經が一巻空より落ちて有る也。是則ち観音の二人の志を感じて雷と成って二人の者を助玉ふ也。聞法の功徳観音の慈悲ありがたきことなり。