福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

秩父三十四所観音霊験圓通傳 秩父沙門圓宗編・・21/34

2023-10-21 | 先祖供養

 

第二十一番 矢の堂 要光山觀音寺。御堂三間四面南向。

本尊聖觀音 立像御長一尺五寸五分(46㎝) 行基菩薩御作

御堂を矢の堂と云。抑この要光山は元八幡宮の社地也。行基爰に到て、此地を開闢せるとぞ。其由縁い と貴し。行基諸國を廻り來て此山に登る。其日既に晩てければ、此の社のあたり成一樹の陰に息給ひ、 すでに丑みつばかりに成ぬ。斯て神歌の扉開音して、此あたり日の如くに光り、須曳有あ(ママ)頭に白鳩の冠を頂、身には錦の束帶して、金鋒の尖り矢、七寶の眞弓左右に携へ、面容輝くばかり成少人來り、行基を 再拜して曰、大徳何としてか爰に在、我は八幡の使也、大徳を延て内殿に請ずべしとの勅也、早くあな たに度り給ふべしと。行基時に謂らく、我偃息せる事茅屋茂林の下に不過、何ぞ内殿に上るに意あらん や、應對物憂と云てまた眠に付給へり。其時神殿奇音高硠して曰、あら面白や是眞聖にて坐せり、我何ぞ見まさゝらんと、現形鏡の如く山鳩色の御衣ひろく垂て、白御髪打傾、行基を拜し、我は應神天皇の神也、朕始より佛の教訓の妙成を知れり、然共諸人其善惡を不知、この故に三輪の神に託曰く、僧者は無為の客也、汚穢事無と(先代舊事本紀大成經帝皇本紀下卷下「此月,三輪大神託采女,而奏曰「吾有聞天皇,神代甚深事。早召文人來。 ... 今有僧者,神慶宛之。儒宗之禮太背齋元。 ... 僧尼無為客,更不著污穢」)、神慶んで黄泉祭を宛、此に於て神佛唯水波の如、是を常世に云ときは同一體也、 今大徳の息給ひたる一樹は代々是の神の木也、今あの片枝ををろし、觀世音を作り此山にまつりませよ。 遍く悪魔の心をなだめ、天の下の民こゝに安からん、我は是より帝と成て天帝の官に神留ん、大徳我ことはりに違べからず、又是より西南に武甲山と云嵩有、こゝに荒振神集鎮座、大徳今善事を成すによつ て邪神來て邪をすべし、時に我末社の神をして神掃にはらうべしと告終て社祠鳴動、神形光丸の如く、 天の八重雲をち別て飛去り給ひぬ。行基歓喜不淺、則一樹の枝をうって彫刻し、既に點眼の御法に及ければ、郡中の貴賤皆袖をつらぬ。頓て其日に成けるに、按の如く雨下り高津轟神き鳴て、空の気色たゞ 事ならず。電光を巻て東西にほどばしり、異類異形の邪の神飛散て火を降し鉾を落す。参詣の男女をど ろきさわぎ泣惑、火に焦れ刃に當り身断じければ、行基は唯黙然と座し給へり。時に孤雲にあかねさす方を見れば、鏑矢空に鳴渡て、惡鬼邪神は朝霧夕霞を科戸の風(しなとの風。いっさいの罪けがれを吹き払う風)の吹拂ふ如く、跡方なくうせて、天先霧 の幽成中に聲有て、神力佛力の妙成に引れて根の國の化心はなれぬ。今より秩父嶺の神と共に此土の蒼生を守らんと云聲谺に響き渡て雲静に風凪ぬ。行基信心倍盛にして點眼の御法障なくとげ給へば、参詣 の男女生の肌断、死の膚断忽瘉て夢の覺たる如く、皆掌を合て神佛の徳をあふぎぬ。件の神鏑の落たる處故、矢の堂とは名付けるとぞ。是より永く觀音の霊地と成、今に至て霊験他に異也。詠歌に曰、

「あつ゛さ弓 いる矢の堂に 詣で来て 願し法にあたる嬉さ」

按ずるに此縁起は八幡宮の護法に依て悪鬼邪神を神掃し給へる事を演ながら、其悪心の本原を悟と云處に人心の教を説たると見ゆ。誠に容易には不可知。聊考るに善悪もと一如にして、邪正もいずれの處にかあらん。然るに善神となり邪神と成も、元一元の神心より觸る處、八衢に分て其心穏ならざるときは浮世の人のあだし事に心の猿の狂いては、六根の綱手に呼、意の馬の奔走りては、六塵の鋜(さく)に嘶(いななく)、是いかにとかへり見れば、皆々世間の善悪に惑、愛欲煩悩にながさるるも唯一心の轉處と知るべし。亦行基菩薩に神勅有て神木にて観世音を作り、魔神の心をなだめませりと有も、神佛水波の影をうかべ(謡曲・誓願寺に「神といひ仏といひ、只是水波の隔て也」)、神能く人倫の治を教へ、佛よく生死の明を導て、俱に衆生を抜苦せんと也。凡神と云聖賢と雖も、其心留る所は人を教るに一字に出て、天下の勧善懲悪なれば也。しかるに人情を以て差別し、各々一家の僻に落て彼は是を見て敵の如し、是は彼を以て讎の如くす。是皆私の心ならぬかは、圭禅師の民に教へ給へる踊歌に後世を願ば、贔屓を願ふ、いとど我慢のそへかくると(盤珪・臼引歌「後世をねがふと ひいきを願ふ いとど我慢に そへかくる」)聞へたるは、誠に何の道にも、のがるまじきや。詠歌は梓弓の縁に射ると受て、願し法に中ると、矢の堂の響に取合たる也。ことには鏑矢の下りて立ると云事を讀るなるべし。

 

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