金山穆韶師高野山管長猊下ご就任の挨拶(昭和28年2月22日78歳)
「今回老納、座主管長として推薦を辱うしましたけれども、なにぶん老境に入ったことでもあるし、本来ならば真別処に居て観佛三昧に住し余生を送りたいであります。
しかし幸いにして我が日本も独立国家となったけれど、経済力からいうも防衛力よりいうも外国の援助にたよらなければならぬ状態でありますし、その上、国民がキリスト教にでも皈向し、幾千年の間に養われきたった伝統の尊い精神までも失うようなことになりはせぬかを憂うるものであります。
聖徳太子が仏教に皈向せられ、法華経・勝鬘経・維摩経の三経の疏まで製せられました。このうちでも殊に法華経に重きを置かれたようであります。それは会三帰一、一切を一に皈向せしま、天壊無窮の国体をば、久遠実成の如来の精神に基礎つ゛けようとの叡慮によるものと深察せられるのであります。日蓮上人は法華経の諸法実相の理を以て国家を護ろうとして立正安国論を著された。弘法大師の入定留身は令法久住のためなるも、三世常位の法身・大日世来の金剛力をもって国家を護らんとの誓願の存すると、小野の成尊僧正は示されました。
伊勢神宮は日本民族を守らんとして鎮座ましまされ、日本精神を代表されておりますが、弘法大師の入定留身は令法久住のためなるも三世常位の法身大日如来の金剛力をもって国家を護らんとの誓願の存することを小野の成尊僧正は示されました。
伊勢大神は日本民族を守らんとして鎮座ましまされ、日本精神を代表されておりますが、弘法大師は日本精神に世界性を附与し、日本を護るとともに一切人類を等しく救い給いつつましまされるのであります。高祖大師によって開顕せられた仏法の最極究竟の法身如来の光明を闡楊し一切人類を包みつくし、大国民として他国民と共に真実平和の大道をあゆみたいと念願する者であります。
仏教は印度に滅び、共産化せる中国の仏教の将来また期するべからず、大乗仏教はただ我が国に存するのみの観があります。
この仏教をして永く世界を照らす精神界の太陽として伝んには、これを広く欧米に伝えるほかに道がないと思うのであります。しかし欧米人の内には早くより仏教を研究しているものがあるようなれど、仏教は空の教えなり、死の宗教なり、万有神教なり、万有神教は無神論なり等と観て、仏教を信じようとしないようであります。
斯かる人類に対しては一神教をも超え、万有神教をも超え、無我の中の真我たる法身大日如来と共に霊法大自力を一切世界に示現せられつつある弘法大師の真言密教が最も相応の教えだと確信するものであります。多年の研究と実修によりました、大師の教えの精神にいかされてはおりますが、更に世界的学者や宗教家や哲学者等と商量して、仏教をば世界精神界の王座に立たせ、絶対的宗教として永く光を放たしめたい希望の一分でも実現することが出来得ますればと思うて、不徳その任でないことを自ら知りつつも推挙下されるままに座主管長の職につくことを御請けしたわけであります。
三地両所の御冥護と広く道俗各位のご同情とご援護によりこの重責を全うさせていただきたいと念願する次第であります。」
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