四国霊験記 (繁田空山法眼著)には癩病になった和歌山の若者が一番の大師堂で通夜をしているとお大師様の夢をみて癩病が治った。そしてお礼に二十一回遍路をしたとでてきます。
「文政四年辛巳二月に紀州若山本町に定丸と申す米仲買の人あり、行年三十八才なり。然るにおよそ十ヶ年以前より癩病にて苦しむ事限りなし。いかなる名医も是を治する事あたわず、依って親兄弟のなげき大方ならず、終に致し方も是なく最早これ以上は真言の高祖大師様にこの業病を一度なりとも助ける事を願わんと自一心を定めける。元来この人は一向宗門なれども親兄弟一家一門に暇乞をいたし、それより木食の大願を発して日に光明真言一万辺ツヽ唱えて四国八十八ヶ所を一心に遍拝する事はや三度に当たる。
此第一番の御札所霊山寺へと参りける。其の夜は大師堂に通夜いたし一心不乱にさんげを願い三世の業罪みな消滅と光明真言陀羅尼を唱えてトロトロと居眠りける。然る所に不思議や尊き御声にて、「定丸、汝真の修行を致せしゆへに三世の業病救いえさす」と霊夢の仰せに目を覚しうも愚あたりを見れば誰も居ず、只名香のかほり斗り。夜はほのぼのと明けにける。定丸つくづく五体を見れば、面体手足総身まで血色変りて今迄の腐し身体元の如く忽ち難病平癒す。不思議といかなり。定丸あまりのうれしさに声もいださず伏し拝みこの霊験を当山の上人へつつ語り剃髪染衣を願いける。上人考えたまい終に御弟子となし給う。この六恩の報謝のために二十一度の大願立て、大道心を発しける。然る所定丸も自ら思案の相定め一度国に立ち帰り家内中にこの姿を一目見せたらビックリ仰天致すであろ。思えば昨年四国へ出る時親兄弟の詞(ことば)といヽ親類迄が我を見捨て、業病平癒せぬ時は再び国へ帰るなとの悪口はかれし我が身。然るに今又御大師様の御霊験の御かげにて今このように結構なる身体となりし事を皆々見せたうえ猶又我信心の通ぜし事と御霊夢の御奇瑞を親兄弟に談しなば、皆の悦び吾も大慶よろこばしやと。」
「文政四年辛巳二月に紀州若山本町に定丸と申す米仲買の人あり、行年三十八才なり。然るにおよそ十ヶ年以前より癩病にて苦しむ事限りなし。いかなる名医も是を治する事あたわず、依って親兄弟のなげき大方ならず、終に致し方も是なく最早これ以上は真言の高祖大師様にこの業病を一度なりとも助ける事を願わんと自一心を定めける。元来この人は一向宗門なれども親兄弟一家一門に暇乞をいたし、それより木食の大願を発して日に光明真言一万辺ツヽ唱えて四国八十八ヶ所を一心に遍拝する事はや三度に当たる。
此第一番の御札所霊山寺へと参りける。其の夜は大師堂に通夜いたし一心不乱にさんげを願い三世の業罪みな消滅と光明真言陀羅尼を唱えてトロトロと居眠りける。然る所に不思議や尊き御声にて、「定丸、汝真の修行を致せしゆへに三世の業病救いえさす」と霊夢の仰せに目を覚しうも愚あたりを見れば誰も居ず、只名香のかほり斗り。夜はほのぼのと明けにける。定丸つくづく五体を見れば、面体手足総身まで血色変りて今迄の腐し身体元の如く忽ち難病平癒す。不思議といかなり。定丸あまりのうれしさに声もいださず伏し拝みこの霊験を当山の上人へつつ語り剃髪染衣を願いける。上人考えたまい終に御弟子となし給う。この六恩の報謝のために二十一度の大願立て、大道心を発しける。然る所定丸も自ら思案の相定め一度国に立ち帰り家内中にこの姿を一目見せたらビックリ仰天致すであろ。思えば昨年四国へ出る時親兄弟の詞(ことば)といヽ親類迄が我を見捨て、業病平癒せぬ時は再び国へ帰るなとの悪口はかれし我が身。然るに今又御大師様の御霊験の御かげにて今このように結構なる身体となりし事を皆々見せたうえ猶又我信心の通ぜし事と御霊夢の御奇瑞を親兄弟に談しなば、皆の悦び吾も大慶よろこばしやと。」