福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

童子教

2018-04-17 | 諸経
童子教( 傳安然(平安前期の天台僧)作)
夫(そ)れ貴人の前に居ては顕露に立つことを得ざれ、道路に遇ふては跪(ひざまづ)いて過ぎよ。召す事有らば敬つて承れ 両手を胸に当てて向へ。慎みて左右を顧みざれ。問はずんば答へず 仰せ有らば謹しんで聞け。 三宝には三礼を尽し、 神明には再拝を致せ。 人間には一礼を成せ。 師君には頂戴すべし。 墓を過ぐる時は則ち慎め、 社を過ぐる時は則ち下りよ。堂塔の前に向かつて不浄を行ふべからず、 聖教の上に向かつて 無礼を致すべからず。人倫礼有れば 朝廷に必ず法在り。人として礼無きは、 衆中又過ち有り。 衆に交はりて雑言せざれ、事畢(おは)らば速に避けよ。事に触れて朋に違へず、言語離すことを得ざれ。語多き者は品少なし、老いたる狗の友を吠ゆる如し。懈怠は食を急ぐ、痩せたる猿の菓(このみ)を貪る如し、 勇む者は必ず危き有り、 夏の虫の火に入るが如し。鈍き者は又過ち無し、春の鳥の林に遊ぶが如し。人の耳は壁に付く、 密(かく)して讒言すること勿れ、人の眼は天に懸る、 隠して犯し用ゆること勿れ。 車は三寸の轄を以て 千里の路を遊行す
、人は三寸の舌を以つて五尺の身を破損す。 口は是れ禍の門、舌は是れ禍の根。口をして鼻の如くならしめば 身終るまで敢へて事無し。 過言を一たび出だす者は駟追(しつい)の舌を返さざれ。 白圭の珠は磨くべし、悪言の玉は磨き難し。禍福は門無し、 唯(ただ)人の招く所に在り。天の作る災は避くべし、自ら作る災は逃れ難し。 夫れ積善の家には 必ず余慶有り。 又好悪の処には 必ず余殃有り。人として陰徳有れば 必ず陽報有り。 人として陰行有れば 必ず照名有り。信力堅固の門には、災禍の雲起ること無し。 念力強盛の家には
福祐の月光を増す。 心の同じさらざるは面の如し、 譬へば水の器に随ふが如し。 他人の弓を挽(ひ)かざれ、 他人の馬に騎らざれ。前車の覆るを見ては 後車の誡となす。 前事の忘れざるは後事の師となす。 善立ちて名流れ、 寵極めつて禍多し。 人は死して名を留め 虎は死して皮を留む。 国土を治むる賢王は 鰥寡を侮ゆることなし。 君子の人を誉めざるは 則ち民怨と作ればなり。境に入つては禁を問へ、 国に入つては国を問へ、郷に入つては郷に随ひ、 俗に入つては俗に随へ。 門に入つては先づ諱(いみな)を問へ、 主人を敬ふ為なり。 君の所に私の諱無し。 尊号二つ無ければなり。 愚者は遠き慮(おもんぱかり)無し、 必ず近き憂ひ有るべし。 管(くだ)を用ひて天を窺ふが如し。針を用ひて地を指すに似たり。 神明は愚人を罰す 殺すにあらず懲らしめんが為なり。 師匠の弟子を打つは 悪むにあらず能からしめん為也。 生れながらにして貴き者無し、習ひ修して智徳とは成る。
貴(たつと)き者は必ずしも冨まず、 冨める者は未だ必ずしも貴からず。 冨めりと雖も心に欲多ければ、 是を名づけて貧人とす。 貧なりといえども心に足るを欲せば、 是を名づけて冨人とす。 師の弟子を訓へざるは、 是を名づけて破戒とす。 師の弟子を呵責するは、 是を名づけて持戒とす。悪しき弟子を畜へば 師弟地獄に堕ち、 善き弟子を養へば、 師弟仏果に到る。 教へに順はざる弟子は、 早く父母に返すべし。 不和なる者を冤(なだ)めんと擬すれば、 怨敵と成つて害を加ふ。悪人に順ひて避けざれば、緤(つな)げる犬の柱を廻るが如し。善人に馴れて離れざるは 大船の海に浮かべるが如し。 善き友に随順すれば 麻の中の蓬の直きが如し。悪しき友に親近すれば、藪の中の荊の曲るが如し。祖に離れ疎師に付く、 戒定恵の業を習ひ、根性は愚鈍と雖も、 好めば自ら学位に致る。 一日に一字を学べば、 三百六十字。一字千金に当る、 一点他生を助く。一日の師たりとも疎んぜざれ、 况や数年の師をや。師は三世の契り、 祖は一世の眤び、 弟子七尺を去つて、 師の影を踏むべからず。 観音は師孝の為に、 宝冠に弥陀を戴き、 勢至は親孝の為に、 頭に父母の骨を戴き、 宝瓶に白骨を納む。 朝早く起きて手を洗ひ、 意を摂して経巻を誦せよ、 夕には遅く寝て足を洒ひ、 性(せい)を静めて義理を案ぜよ。 習ひ読めども意に入れざるは、 酔ふて寐て閻を語るが如し。 千巻を読めども復さざれば、 財無くして町に臨むが如し。 薄衣の冬の夜も、 寒を忍んで通夜誦せよ。 食乏しきの夏の日も、 飢を除いて終日習へ。 酒に酔ふて心狂乱す。 食過ぐれば学文に倦む。 身温まれば睡眠を増す。 身安ければ懈怠起る。 匡衡は夜学の為に、 壁を鑿つて月光を招き、 孫敬(そんけい)は学文の為に、 戸を閉ぢて人を通さず、 蘇秦は学文の為に、 錐を股に刺して眠らず、 俊敬(しゆんけい)は学文の為に、 縄を頸に懸けて眠らず、 車胤(しやいん)は夜学を好んで、蛍を聚めて燈とす、 宣士(せんし)は夜学を好んで雪を積んで燈とす、 休穆(きうぼく)は文に意を入れて 冠(かんぶり)の落つるを知らず、 高鳳(こうほう)は文に意を入れて麦の流るゝを知らず、 劉完(りうくはん)は衣を織り乍ら 口に書を誦して息はず、 倪寛(げいくはん)は耕作し乍ら 腰に文を帯びて捨てず。 此等の人は皆 昼夜学文を好んで文操国家に満つ。
遂に碩学の位に致る。 縦へ塞を磨き筒を振るとも、口には恒に経論を誦し、又弓を削り矢を矧(は)ぐとも、 腰には常に文書を挿せ。 張儀は新古を誦して 枯木に菓(このみ)を結ぶ。 亀耄(きほう)は史記を誦して 古骨に膏(あぶら)を得たり。 伯英は九歳にして初めて 早く博士の位に至る。 宋吏(さうし)は七十にして初めて 学を好んで師伝に登る。
智者は下劣なりと雖も 高台の閣に登る。 愚者は高位なりと雖も奈利の底に堕つ。智者の作る罪は 大いなれども地獄に堕ちず、 愚者の作る罪は 小さけれども必ず地獄に堕つ。 愚者は常には憂を懐く。たとへば獄中の囚の如し。 智者は常に歓楽す。 猶(なを)光音天の如し。父の恩は山より高し。 須弥山尚(なを)下(ひく)し。 母の徳は海よりも深く
滄溟の海還(かへ)つて浅し。 白骨は父の淫、 赤肉は母の淫、 赤白の二諦和し 五体身分(しんぶん)と成る。 胎内に処すること十月、 身心恒に苦労す。 胎外に生れて数年、
父母の養育を蒙る。昼は父の膝に居て、 摩頭を蒙ること多年、 夜は母の懐に臥して、 乳味を費すこと数斛、朝には山野に交はつて 蹄を殺して妻子を養ひ、暮には江海に臨んで 鱗を漁つて身命を資け、 旦暮の命を資からん為に 日夜悪業を造り、 朝夕の味を嗜まん為に、多劫地獄に堕つ。 恩を戴ひて恩を知らざるは、 樹の鳥の枝を枯らすが如し。 徳を蒙つて徳を思はざるは、野の鹿の草を損ずるが如し。 酉夢(ゆうむ)其の父を打てば 天雷其の身を裂く。 班婦其の母を罵れば、 霊蛇其の命を吸ふ。 郭巨(くはくきよ)は母を養はん為に、 穴を掘りて金の釜を得たり。 姜詩(きやうし)は自婦を去りて、 水を汲めば庭に泉を得たり。 孟宗竹中(ちくちう)に哭すれば、 深雪の中に筍を抜く。 王祥歎きて氷を叩けば、 堅凍(けんたう)の上に魚踊る。 舜子盲父を養ひて、 涕泣すれば両眼を開く。
刑渠(けいこ)老母を養ひて食を噛めば齢(よはひ)若く成る。 董永(とうゑい)一身を売りて、 孝養の御器(ぎよき)に備ふ。 楊威は独りの母を念つて、虎の前に啼きしかば害を免る。顔烏(がんう)墓に土を負へば、 烏鳥(うちやう)来つて運び埋む。 許牧自ら墓を作れば、 松柏植へて墓と作る。此等の人は皆、 父母に孝養を致し、 仏神の憐愍を垂れ、所望悉く成就す。 生死の命は無常なり、早く涅槃を欣ふべし、煩悩の身は不浄なり、速に菩提を求むべし。 厭ひても厭ふべきは娑婆なり。 会者定離の苦しみ、 恐れても恐るべきは六道。生者必滅の悲しみ、寿命は蜉蝣(ふゆう)の如し。 朝に生れて夕に死す。 身体は芭蕉の如し、 風に随つて壊れ易し。 綾羅錦繍は 全く冥途の貯えに非ず。 黄金珠玉は、只一世の財宝。 栄花栄耀は 更に仏道の資けに非ず。官位寵職は、唯現世の名聞、 亀鶴の契りを致すも、 露命の消えざるが程は、 鴛鴦(ゑんわう)の衾(ふすま)を重ぬるも、 身体の壊(やぶ)れざる間、。刀利摩尼殿(とうりまにでん)も 遷化(せんげ)無常を歎く。
大梵高台の閣も、 火血刀の苦しみを悲しむ。 須達(しゆだつ)の十徳も、 無常を留むること無し。 阿育(あしゅく)の七宝も 寿命を買ふこと無し。 月支(ぐわつし)の月を還せし威も、 炎王の使ひに縛せらる。龍帝の龍を投げし力も、獄卒の杖に打たる。 人尤(もつと)も施しを行ふべし。 布施は菩提の粮なり。 人最(もつと)も財を惜しまざれ、 財宝は菩提の障なり。 若し人貧窮の身にて、 布施すべき財無く、 他の布施を見る時、 随喜の心を生ずべし。 心に悲しんで一人に施せば、功徳大海の如し。 己が為に諸人に施せば 報を得ること芥子の如し。砂(いさご)を聚めて人塔を為す、 早く黄金の膚(はだへ)を研(みが)く、 花を折つて仏に供する輩は、速かに蓮台の政(はなぶさ)を結ぶ。 一句信受の力も、 転輪王の位に超(いた)る。 半偈聞法の徳も、 三千界の宝にも勝れたり。上(かみ)は須く仏道を求む、 中は四恩を報ずべし、 下は編(あまねく)六道に及ぶ、 共に仏道成るべし。 幼童を誘引せんが為に 因果の道理を註す。 内典外典より出でたり。 見る者誹謗すること勿れ、 聞く者笑を生ぜざれ。
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