日々の恐怖 3月19日 インターフォン
朝方、夜行で帰り昼過ぎまでうとうとしていたが、目を覚ますと外はすっかり様変わりしていた。
今日は関東一円では珍しい大雪である。
旅先、仕事先、学校、いろんな出先があってそこから帰りつく。
家に入って玄関のドアを閉めた瞬間、それまで自分がいた外の世界はどうなっているのだろう。
果たして、変わらずにそこにあるのだろうか。
主婦のDさんは近所のスーパーまで車を出かけ、その帰りに塾へ通う娘を拾って帰宅した。
いつもご主人が帰ってくるまで時間はあるので、帰宅したあと娘と話しながら夕飯の準備をしていると、玄関のインターフォンが鳴った。
娘がキッチン横にあるモニターに応えると、
「 夜分失礼かと思ったのですが、表に停めてある車の室内灯が点けっぱなしで・・・。」
画面には親切そうな青年が恐縮しながら、表の門柱に設置してあるインターフォンのカメラに、頭を下げ下げ覗き込む姿が映し出された。
さっき車を停めたとき、そういえば娘が床に落とした携帯を探して点けたが、そのまま消し忘れたに違いない。
Dさんは改めてお礼を言うため、慌てて玄関を開け表に出た。
車庫に見える車の室内灯は確かに点けっぱなしだったが、それを教えてくれた親切な青年はどこにもいない。
よほどの恥ずかしがり屋なのだろうか。
モニター越しに教えてくれたときも散々迷った挙句、いかにも勇気を振り絞ってインターフォンを鳴らした様子でもあった。
そのまま玄関を閉め、Dさんが中に入ると台所から娘が走り寄ってきた。
そして小声で、
「 お母さん・・・・、さっきの人まだいた・・・?」
Dさんが自分が出たときにはもういなかったことを伝えると、娘は慌てて母親の手を引いてモニター前まで連れ戻した。
娘は母親が出て行ったあとも何気なくモニターを見ていたが、その間ずっと件の親切な青年は、赤外線で色が反転した画面の中で気弱そうな笑顔を浮かべて、カメラのレンズ越しにこちらを凝視したまま動かなくなったという。
その後ろを表に出ていった母親がまるで何も見えていないかのように、スタスタとガレージに向かって行ったので不思議に思ったそうだ。
二人が戻ってきたときには、モニターは自動的に切れていた。
薄気味悪くなりながらDさんはもう一度モニターを点灯してみたが、その画面には誰もいない玄関と暗がりが映し出されるばかりであった。
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