日々の恐怖 3月23日 棺桶
Sさんの祖父の体験談です。
Sさんの祖父は長崎県佐世保市近郊の出で、祖父の父は棺桶職人を生業としていました。
昔は土葬なので、亡くなった人は焼かれずに四肢を折り曲げた状態で棺桶に入れられ、地中に埋葬されていました。
ですから、棺桶は文字の意味どおり桶の棺なわけで、大きさも想像に難くないと思います。
祖父の父は棺桶を母屋に併設された作業所でせっせと作っていたそうで、作成した完成品は作業所の片隅に常時4・5個程保管されていました。
祖父たち家族は皆そろって、作業所の隣にある寝床で寝ていたそうです。
ここで、子供だった祖父は不思議な体験をしました。
祖父は深夜に、何故だか目が覚めてしまうことがあったといいます。
別段、そのこと自体、不思議にも思っていなかったそうですが、ある夜どうやら自分は音によって覚醒させられていることが分かりました。
そして、その音は、作業場の方から聞こえてくるらしいのです。
音は異常に乾いていて、パーン、と響き渡っていました。
祖父は、もともと棺桶が置いてある作業所を薄気味悪く思っていたので、その作業所から聞こえる音を大変怖く思い、寝ていた父を起こしました。
そして、
「 あの音は何なのか?」
と聞いたそうです。
すると、祖父の父は、
「 あれは、棺桶を組んでいる竹が弾けた音だ。
死人が、自分の入る棺桶を選びに来ていて、気に入った棺桶の竹をああやって弾いて合図しているんだ。」
と言ったそうです。
そして、大丈夫だから寝なさい、と祖父を寝かしつけました。
棺桶は形状を保ち、強度を高めるために周囲を竹の表皮を編んだ縄で組んであるのですが、それが弾けた音、つまり、切れた音だと教えてくれたのです。
しかも、祖父の父の話だと、死人がその竹縄を弾いていくのだというのです。
祖父の話では、竹縄が切れると翌日に不思議と棺桶の注文が入り、祖父の父は必ず注文に死人が選んだ棺桶で応えていたといいます。
もちろん、竹縄は新しいものと組み直してです。
そんな話を、亡くなった祖父に聞かせてもらいました。
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