日々の恐怖 3月26日 インディアン人形
今から30年ぐらい前の話である。
当時は、およげ!たいやきくんと言う歌が流行っていた。
街を歩いていても、どこかからその音楽が流れていた。
ちょうどその頃、私は叔父の家に行ったことがある。
叔父はまだ三十代で、3歳か4歳の女の子が一人いた。
その時叔父の家で、私は気持ち悪いものを見せられた。
一体のインディアン人形である。
一見何の変哲もない、安っぽいプラスティック製の人形である。
叔父の家には同じような人形がたくさんあった。
すべてパチンコの景品で、叔父が子供のために持って帰ったものだった。
ところが、叔父に言わせると、その一体のインディアン人形だけは他と異なるという。
手渡された私は、その意味がすぐにわかった。
髪の毛が異常に長いのだ。
人形の全長(10cmぐらい)の1.5倍ぐらいある。
しかも髪の毛の長さは、全く不揃いでバラバラである。
その人形が叔父の家に来た時は、髪の毛は腰のあたりできれいに切りそろえられていたという。
人形の髪の毛は、どう見ても本物ではなくプラスティック製だ。
その髪の毛が叔父の家に来てから伸びたのだ。
その人形は、誰が見ても異様な姿と化していた。
叔父は、その人形が何か不吉なものをもたらすのではないかと考え、非常に気にしていた。
叔父によると、その人形が来てから体調が思わしくないという。
その人形を見せられてしばらく経ったとき、叔父は突然体調を崩してしまった。
胃の調子が悪くなり極端に食欲がなくなった。
叔父は、大病院で精密検査を受けろという町医者のアドバイスを無視して、気分転換に温泉療養に行くと言って出掛けた。
しかし、体調が良くなることはなくすぐに戻ってきた。
進行した胃癌だった。
すぐに国立病院に入院をした。
入院をした当初、やはり癌で入院をしていた年の離れた自分の兄のことをしきりに心配していたが、叔父は三十代で兄より若い分だけ癌の進行も非常に速かった。
殆どなすすべもなく、あっという間に亡くなってしまった。
遺体は、叔父の家に運ばれ告別式が執り行われた。
当時、叔父の子供は、毎日のようにおよげ!たいやきくんのレコードを聴いていた。
小さな子供が毎日、自分でレコードを操作して聞いていたので、レコードの針はレコード盤の上に乗ったままの状態だった。
告別式も無事終わり、一部の親族だけが叔父の家に泊まり寝ていたときである。
真夜中、線香が香る真っ暗闇の部屋で突然およげ!たいやきくんの歌が小さく流れ始めた。
音は調子はずれに、間隔を置いて鳴り出したり止まったりと、何度となく繰り返された。
当然その場にいた全員が異常に気付いていたが、レコードを触る気にはなれなかった。
そして、次の日、そのことについては誰も口に出さなかった。
今でも、およげ!たいやきくんの歌を聴くと、あの時の恐ろしさが込み上げてくる。
ところで、叔父の病気とインディアン人形の関連はもちろん不明だ。
この事を覚えているのも、おそらく私だけだろう。
インディアン人形が、その後どうなったのかも分からない。
しかし、数年前にテレビで、全国から供養のための人形が集まってくるという、お寺を特集した恐怖番組があった。
その寺でも特にいわくつきの人形は、地下の特別室に安置されているという。
そして、その特にいわくつきの人形たちがテレビに映し出されたとき、私は衝撃を受けた。
その中に叔父に見せられたインディアン人形と瓜二つのインディアン人形があったのだ。
それが叔父のところにあったものかどうかは分からない。
パチンコの景品だから、全国に山ほど同じものはあるだろう。
しかし、私はそれを見た瞬間、思わず背筋が寒くなった。
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