大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月25日 邂逅

2013-03-25 18:35:50 | B,日々の恐怖






      日々の恐怖 3月25日 邂逅







 Sさんは若くして結婚したが、夫との折り合いが悪くなり、娘のN子ちゃんが生まれてまもなく離婚した。
負けん気の強かったSさんは、母子家庭でも娘だけは立派に育てたいと強く願い懸命に働いたという。

 昼間、少しでもN子ちゃんと過ごせる時間が出来るようにと、夜の仕事についた。
やがてN子ちゃんが3歳になったとき、Sさんにお店のお客で、彼氏が出来た。
 これが気持ちに微妙な揺らぎが生んだのか。
同じくしてN子ちゃんへの虐待が始まったそうだ。
始めは些細なことだったという。
ご飯をこぼす、お漏らしをする、甘える、以前ならかわいくて仕方なかったはずのそれらすべてが、急にイライラさせる原因となった。

 最初は叱り付ける、放っておく、といった程度だったがやがて手を上げる回数が増え、どんどん目に見える形での虐待にかわっていった。
あれだけ愛くるしかったN子ちゃんの顔は次第にこわばり、おびえた目でSさんをみるようになっていったそうだ。
 N子ちゃんが4歳になるころ、Sさんは奇妙な夢を見るようになった。
その夢のなかでSさんはたいてい、小さな座敷のようなところに座っている。
自分の斜め右後ろには衝立てがあり、その向こうにダレかが座っているのだそうだ。
 衝立ての陰に隠れて、その姿をみたことはない。
ただ相手はその衝立ての向こうで、何かを書き付けているのだけは分かるのだという。
 そのまま二人して座敷に座り、朝が来て目が覚める。
N子ちゃんは叩かれても泣くことすらなくなり、じっと小さな体をすくませたまま、Sさんから離れることが多くなった。
彼女を責めたてた後、Sさんも激しく後悔するのだが、どうしても自分を抑えることができなかった。
このままだとエスカレートするのではないか、という不安と焦りでいっぱいだったという。

 あるとき、夢の中でSさんは衝立ての相手が何を書いているのか、ふと気になったという。
そんな風に思ったのは初めてである。
 不思議なもので、Sさんがそう思うと夢に変化があった。
その衝立ての向こうにいる相手は書く手を止めて、Sさんに書き付けてきたものを手渡してきたのだ。
 何が書かれていたか、はっきり思い出せない。
だが、その手紙には、“こんなはずじゃなかったのに・・・。”というようなことが書かれてあったことだけは覚えているという。
その手紙を読みながら、Sさんはなんとも言えない感情が広がったのを感じたそうだ。
 目が覚めると彼女は、その夢のことをN子ちゃんに話さなければならないように思っ たという。
母に呼ばれたN子ちゃんは、おどおどした目でいつものように身を固くして立ちすくんだまま、母の話を聞き終わった。
まだ幼稚園にもあがらない娘に、なぜそんなことを話そうと思ったのかは分からない。
自分の話が分かったのか、分からないのか、ぼんやりしたままのうつむくN子ちゃんを見つめるSさんだった。
 すると、N子ちゃんは急に、

「 う~っ・・・!」

と嗚咽を漏らしたそうだ。
 子供とは思えない搾り出されるような慟哭を聞いた瞬間、Sさんは自分が犯してしまった過ちをはっきり悟った。
彼女も小さな娘の体を抱きしめながら、堰を切ったように涙があふれ出たそうである。

 その後、ぷっつりと虐待はなくなった。
Sさんはあの夢の意味を知ろうとカウンセリングなどをかじってみたが、結局よく聞くそれらしい話しかわからなかった。
ただ衝立ての向こうにいた相手はそれでは語れない、なんだかとても懐かしい人のような気がしていたという。

















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