大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 7月2日 ノック

2014-07-02 19:27:45 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 7月2日 ノック



 まだ10代のころ、生まれて初めて一人暮らしをした。
住み始めて3~4ヶ月経った頃、夜中にトイレに行くと、玄関のドアを「トントン」叩く音がした。
ちゃんとインターホンもあったんだけど、気付かなかったのかな?と思い、玄関ドアの覗き穴を見ると誰もいない。
そのときは気のせいかなと思って、そのまま寝た。


 そんなことはすっかり忘れて数か月、私は深夜のバイトを始めた。
ある日、深夜に帰宅して玄関で靴を脱いでいると、また玄関のドアを「トントン」と叩く音がした。
 覗き穴を見てみると誰もいない。
ドアを開けてみても誰もいない。
少し不気味だったけど、時間も時間だったし、帰宅の音がうるさかったから、ご近所の人が消極的な抗議に出たのかなと思った。


 しかし、それからというもの、帰宅が深夜の時はほぼ毎日ドアをノックされた。
イタズラにしても気持ち悪かったので、管理人に連絡して、アパート全体にポスティングしてもらったり、いろいろしてもらったがノックは止まらず。
 そのうちこっちも慣れてきて、ノックされるのは深夜3時半~4時の間に集中していることがわかり、ある日、どうしても犯人を突き止めたくなった私は、3時10分頃からドアの前に張り付いて、覗き穴を見続けるというヒマな手段に出た。
 覗き初めて30分くらい経ったとき、「トントン」と音がした。
覗き穴には誰も映っていない。
というより、ドアから音がしない。
後ろから聞こえる。
 開け放ったワンルームのドアを通り越して、ベランダのドアを叩かれた。
私が覗き穴を覗いているのは、その時点で私しか知らない。
なのに覗き穴ではなく、ベランダのドアを叩かれた。
私はそのときまで、ノックは人為的なものであるとしか考えていなかった。
人外のものがノックしているなんて、考えたこともなかった。
 私はその時、初めて背中が薄ら寒くなった。
しかし、引っ越し費用なんて用意出来ない私は、その後もその部屋に住み続けた。
ノックは相変わらずされる。
たまに玄関に張って見るが、見透かすようにベランダをノックされた。
ノック以外のことは何もしなかったので、怖くもなくなっていた。


 住み始めて2年が経った頃、うちのベランダ側のガラス戸に、車が突っ込む事故があった。
うちは1階だったんだけど、前の駐車場に止めようとした車が、誤って突っ込んできたらしい。
 私の部屋のガラス戸はフレームごと大破。
しばらくベニヤ板が打ち付けられていた。
事故のとき私は家にいなかったんだけど、管理人と警察から事情を聞いて、ベニヤ板をはめるときは立ち会った。
 一通り終わって、部屋でビール飲みながらベニヤ板見てたら笑えてきて、ふと、トントンしてるヤツは玄関にいるのか駐車場にいるのかと思い、思わず「大丈夫だった~?」と呟いた。
そしたらベニヤを「トントン」と叩く音が聞こえた。
 時間はいつもの時間じゃない。
なんか嬉しくなってしまって、それからもまったくヤツのことを嫌いになることもなく、5年ほどその部屋にはお世話になった。
 一人暮らしだけど、なんとなくヤツを認識してからは、「いってきます」「ただいま」って言うようになった。
引っ越しする前日に「元気でっておかしいか。達者でな。」って言ったら、ちゃんと「トントン」て、いつもと同じで2回、いつもよりゆっくりノックが返ってきた。
ちょっと泣いた。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------