日々の恐怖 7月14日 自転車
友人Aの話です。
Aには愛用の自転車がありました。
それを飛ばして学校へと来ていましたが、ある日派手に転倒してぶっ壊れたそうです。
それからと言うもの、しばらくAは早起きして、歩きで登校していました。
この間、Aは相当愚痴っていました。
それからまた、幾日か経ったある日のことです。
自転車で登校してきたAと、校門で鉢合わせになりました。
Aは新しい自転車に乗っていました。
私は、
「 ついにあの自転車捨てたのか!」
と言い、茶化しました。
しかしAはちょっと嫌そうな顔で、
「 捨てたのは捨てたけど、お前が思ってるような理由じゃない。」
と言いました。
気になった私は、詳しく話を聞きました。
Aは、壊れた自転車を家まで持って帰っていました。
その自転車が壊れてしまってから数日後に、修理されている事に気付いたそうです。
それはかなり荒っぽい修理で、
『 機械には弱いけど、頑張って直したよ!』
というような仕上がりだったらしく、辺りには部品のような物も落ちていました。
無論、Aの知る人物でそれをした者はいません。
“ 一体誰が・・・?”
と思いました。
A曰く、
“ その時、もう、かなり嫌な感じがした。”
そうです。
それは、夜、自分の自転車置き場から妙な音が聞こえてきた事で、確信へと変わりました。
Aは彼の父親に説明し、2人で恐る恐る見に行ったそうです。
そこにいたのは、手が血だらけになった中年の女性でした。
女性は、こちらに気付く様子も無く、Aの自転車を一生懸命直しています。
手の怪我は、慣れない工具を扱ったためだろう、とAは推測していました。
とにかく訳が分からず、
“ はあ・・・?”
と思った2人が近付こうとすると、 女性はそれに気付いたようで、
「 えええええええエーーーーーーっ!?」
と、ものすごい驚いたような声を上げ、工具をほっぽり出して、小走りで走っていったそうです。
残されたのは、血が所々に付着した自分の自転車。
不気味すぎて追いかける気にもならなかったそうです。
その後、Aの父親が調べた所によると、Aの自宅から少し離れた所に、小さな自転車修理屋を経営している夫婦がいたそうです。
夫が亡くなってからは店を閉めたそうですが、その後の妻の行方がわからない。
実家に帰ったのだろうかは分かりません。
いずれにせよ、その2人はとても仲が良かったそうです。
もしかしたら彼女ではないか、という事でした。
新しい自転車に買い換えてからは、何も起きなくなったようです。
Aは言いました。
「 だから捨てたんだよ、俺の気持ちも分かるだろ?」
私は、妙に納得して頷きました。
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