大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 7月4日 RESERVED

2014-07-04 18:47:11 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 7月4日 RESERVED



 学生時代、叔父が経営する小さな小料理屋(居酒屋)で手伝いをした。
常連客で、70代のMさんという、真っ白な頭の爺様がいた。
ほぼ毎日、開店の16時くらいから24時くらいまでいる超顧客。
 現役時代は物書き系の仕事をしてためか、ちょっとクセがあり、他の常連客は一線を引いていた。(挨拶程度のみ)
3年くらい前に奥さん(子供はいない)が亡くなってから、ほぼ毎日通ってくれているんだそうで、叔父も大切にしていた。
 そんなMさんはいつも特等席のカウンター奥で、1人でチビチビ飲んでいた。
なんとなくちょっとかわいそうで、俺はわりと話しかけていた。
仲良くなると意外とおもしろく、古く興味深い話なんかも聞けるので、俺はいつのまにか自然と、Mさん担当みたいな役割になっていた。


 Mさんがある日を境に、急に来なくなった。
叔父は気にしながらも、

「 Mさん、携帯もってないし、自宅番号も知らんから連絡とれない。
そういえば、前にも急に来なくなったことあったなあ。
なんだか、『隣に座った客が気に入らない』とかが理由だったかな。
ちょっと変わった感じの人だから、ほとぼり冷めたらまた来るだろ。
病気とかっていう話は聞いてないから、だいじょうぶだと思う。」

叔父からしても、他の客がいない時間帯の話し相手なので、態度にはあまり出さないが、かなり気にかけていたようだった。

 ある日の開店直後、叔父に買い物を頼まれたので近所のスーパーへ行った。
戻ってきたときにチャリを置いてる最中、

“ お客さんいるかな・・・。”

という感じで、なにげに店内をチラっと見てみた。
カウンター奥にMさんの姿がいたので、ああ久々だなと。
 しかし、店内へ入ったら、叔父しかいなかった。

“ あれ・・・・?”

と思い、

「 叔父さん、Mさん来てないの?」

すると叔父は、

「 は?まだ誰も来てないよ、なんで?」

と真顔で答えた。
今、外から見えたということを話すと、叔父に、

「 誰か通り過ぎた爺さんでも、硝子に映って見えたんだろ~。」

と言われた。
俺は、

“ いや、たしかにMさんだった。”

とは思ったが放置した。


 それから約2週間後の午後のことだ。
叔父から、

「 すぐ店に来い。」

と突然の電話が掛かって来た。
 急いで行くと、開店準備中の店内には、叔父と60歳くらいの女性がいた。

“ 誰だこの人・・・?”

と思ったら、その女性は、Mさんの妹さんだそうな。
時々、1人で暮らすMさんを心配して家に行くそうで、1ヶ月ほど前に家を尋ねたときに、Mさんが倒れていたとか。
それでMさんは、そのまま入院して息を引き取ったと。
 その後、妹さんが遺品整理をしていたら日記が出てきて、それを読んでいたら、店で飲んでることばっか書いてたらしい。
それで妹さんが店を探して電話をかけて、挨拶に来たということだった。
 日記は少しだけ読ませていただいたが、叔父や俺や数少ない仲の良い客と、何を話して楽しかったとか。
俺のことはけっこう書いてあったので、読んでいて涙が出た。


 その日さすがに店は休んで、チビチビと2人で飲んでいた。
少し前に俺が見たMさんを、

「 死ぬ前に来てたのかな・・・・。」

などと話していた。
酔った叔父は、

「 Mさんの特等席は、半永久的に使うのやめるか!
3年間毎日通った皆勤賞だ!」

と言い出したので賛成した。
そして叔父は『予約席ーRESERVED』のプレートを買ってきて置き始めた。
事情を知っている常連客の人は、その席にリンゴを持ってきたりしていた。


 以後、叔父の店には、不思議なことがたまにある。
叔父が大好きな演歌歌手や、大好きな元プロ野球選手が突然訪れた。
急に雑誌で『飲み屋だが飯が激ウマ』と紹介されたこともあり、それが原因で客足が増え、昼間の営業を再開することとなった。(以前、昼営業をやった時期があったが、客入りが悪くてやめた。)


 最近、俺が客として久々顔を出したときのことだ。
新しい常連客らしい、若く子供連れのご夫婦がいた。
まだ4歳くらいの娘さんが、突然カウンターの奥を指さして、

「 そこにおじさんがいるよ!」

と言い出した。
 母親があわてて、

「 すいません。この子時々へんなこと言うんです。」

と苦笑いで謝っていたら、叔父が、

「 どんな人なの?」

と聞いた。
 小さい子は、

「 頭が白くてね、こっち見て笑ってるよ。」

と言った。
 叔父と俺は目を合わせた。俺は鳥肌がたったが怖くはなかった。
叔父は、

「 頭真っ白っていったら、Mさんしかいないよな!今そこか、へへへ。」

と。
 すると一瞬、店内の薄暗くしてある電気が、ブワーっと光が強く明るくなり、すぐにまた薄暗くなった。
叔父は嬉しいんだか、怖いのを隠しているのかわからんけど、ひたすら、

「 んへへ、へへっ・・・。」

とだけ笑っていた。
 それから叔父は店の片隅に、店内で撮ったMさんの写真をさりげなく置き、開店前には手を合わせて、

「 今日もよろしく。」

と言っています。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しづめばこ 7月4日 P316

2014-07-04 18:46:43 | C,しづめばこ
しづめばこ 7月4日 P316  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------